86-エイティシックス- どこに行き、どこに帰るのか   作:ぺこぽん

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5話 決めた生き方

 

 戦闘が終了した日、あるいはない日はスピアヘッド戦隊は暇である。

 今日はいつも通り、夕食後、自由な余暇の時間を、各々楽しんでいる。

 特に格納庫前の広場では、射的大会で大いに盛り上がっていた。

 

 カイエは標準的な点数を出し、ライデンが全弾命中させる。

 しかし、本当の天才はいるものだ。

 

「「「うお、すげえええっ!」」」

 

 クレナが神業な射撃を繰り広げ、歓声が上がる。

 ファイドも殊更、射撃の的となる缶を奇抜に積み上げている。

 

「次、誰だっけ?」

 

「じゃあ、私」

 

 ハルトが何の考えもなしに振ると、答える声があった。

 リアがハルトが持っていた拳銃を奪い取り、構える。

 

「バカ野郎、リアに持たせんじゃねえっ!!」

 

 ライデンの顔が引き攣った。

 リアの射撃の腕を知る者は、というか全員。

 蜘蛛の子を散らすように、逃げようとする。

 

「死にたくなきゃ、取り押さえろッ!」

 

「「了解!」」

 

 何故か、自分の方に飛んできそうな嫌な予感を覚えたライデンは、覚悟を決めた。

 その死地に、付き従う者が数名。

 

「んーっ……」

 

 周りなど意に返さず、集中しているリアである。

 しかし、腕や体に飛びつかれ、銃口を上に持ち上げられると、抗議の声を上げた。

 

「ちょっと、私だって練習したいんだけど!」

 

「なら、この先10キロほど進んだ先で一人でやれ!」

 

 ライデンが叫ぶも、リアはむう、と嫌そうに拘束を振りほどこうとする。

 

「うお、何この怪力!」

 

「あ、危ないって……!」

 

「うげっ」

 

 リアは、拳銃を抑えていたセオを気遣う。

 だが、軽く振ったつもりの銃床が顎にクリーンヒットしたセオは、膝から崩れ落ちた。

 

「セオおおおぉっ!!」

 

 そこに、カイエがやれやれとした顔で近づく。

 

「全く、何をみなしてやっているのか」

 

 カイエは、セオが抜けた穴を埋め、簡単にリアの腕を取ると、関節を決めてしまった。

 銃口を空に向ける様にして、肩をがっしと抑える。

 

「リアー、落ち着こうな。以前拳銃は持たないと約束したろー」

 

「か、カイエ、タップタップ!!」

 

 痛みを訴えるリアだが、カイエがその手を緩めることはない。

 

「どうだまいったか。極東に伝わりし我がじゅーじゅつの腕前は」

 

「わ、わかったから!」

 

 冷や汗が浮かんできたリアを見て、カイエも腕を緩めてやる事にした。

 

「流石、猛獣使いだぜ」

 

 余計な一言を言ったライデンには、リアの蹴りが命中する。

 

「あだっ」

 

 そこでライデンの声と同時に、銃声が響いた。

 見ると、的が全部綺麗サッパリ撃ち落とされている。

 シンが面倒くさそうな顔で、さっさと争いの火種を消したのだった。

 

『戦隊各員、今よろしいですか?』

 

 そこに突然、レイドデバイスが起動し、パラレイドの通信が入る。

 最近、交代したハンドラーの、毎夜続いている定時連絡だ。

 

「っ……!」

 

 文字通りリアの毛が逆だった。

 関節を決めたままのカイエを、そのまま上にかち上げ、つい指に力を入れてしまう。

 

 一発、明後日の空に向けて、発射されてしまった。

 

『っ、今、銃声が聞こえませんでしたか!?でも、レギオンの反応は……!?』

 

 エイティシックスは、銃器の所持を禁止されている。

 もし、ばれたら少し面倒な事になるのだ。

 どうやらハンドラーは、勘違いしてくれている様だが。

 

 そしてシンが冷静な口調で、嘘をついた。

 

『いえ、ブラックドックがフライパンを落としたんです』

 

『あ、すみません、お食事の最中でしたか』

 

『いえ、もう片付けの最中なので、お構いなく』

 

 ダイヤが、俺ぇという感じで自分を指さしているが、どうやらうまく誤魔化せた様だ。 

 

「……ごめん」

 

 リアは皆に頭を下げて、逃げるようにその場を後にした。

 

 

 カイエが、その後を追いかけてくる。

 リアは、いつもの花壇の傍で立ち尽くすように、立っていた。

 極東黒種のカイエよりもなお黒い、夜黒種のリアの姿は黒い影の中にいる。

 その髪も瞳も、目を凝らさないと見失ってしまいそうだ。

 

「どうして、皆は耐えられるの? あんな奴に……まるで、今まで何もなかったかの様に声を掛けてくる奴に」

 

 リアは唇を噛み締め、ぎゅっと拳を握っている。

 

「うん……別に耐えているわけではないのだよ、リア」

 

 カイエは、リアから視線を外し、夜空を見上げて言葉を続けた。

 

「私達は決めただろう? 彼らにされた様に、彼らと同じ様にはならないと」

 

 そうだ。

 この隊に来た時に一緒に話し合ったのだ。 

 どう生きるのか、と。

 そういう生き方もあるのだと、衝撃を受けた事を今でも忘れていない。

 

「だから、皆との大切な時間を削ってでも、あいつの相手をしてあげるって?」

 

 自分の生き方を、考え方を変えられる事はわかった。

 でもだからといって、懇切丁寧に相手に合わせてまでやる必要はないはずだ。

 

「そう、だな。何と表現したらいいか今は思いつかないが、そう。彼女はきっと悪い人ではないのだよ」

 

「……」

 

「私は興味が湧くのだよ。彼女が何を考え、私達にそんな風に振舞おうと考えたのか」

  

 特にハンドラーと会話する事が多いカイエは。そんな事を考えていたのか。

 でもきっと、他の多くの者は暇つぶしだと考えているはずだ。

 そう受け止められていたら楽だったろう。

 でも、リアにとっては耐え難い苦痛でしかなかった。

 

「私、まだカイエみたいに……皆みたいにはなれそうにもない……」

 

 唇を噛み締めたリアは、俯いた。

 これは、そうと決めた事に対する、皆への裏切りだ。

 死んでいった仲間が秘めていた想いを汚す行為だ。 

 

「リアはそれでいいと思う」

 

 だが、帰ってきたカイエの返答は優しい声だった。

 

「アルバの全員が悪人ばかりでなかったように、エイティシックスの全員が必ずしも善人ではなかったように」

 

 一番その事をよくわかっているカイエが、その事を語る。

 

「だから、私達スピアヘッド戦隊の中でも、彼らにされた事を決して許さない……いや戦う理由が違う者がいてもいいと、私は思う」

 

「……ありがとう」

 

 そしてカイエは苦笑して、一声付け加える。

 

「でも、彼女一人のせいという訳でも、アルバの中の全員が悪いわけではないと、リアもわかってはいるんだろう?」

 

「それは……でも、私が出会った人は全員クズだったわ…………私も含めて」

 

 復讐を誓った人は大勢いる。

 でも、本当はそいつらの顔も、声ももう覚えていない。

 記憶に残るのは銀髪銀瞳の人間。それから同じエイティシックスの大人達。

 覚えているのはそれだけだ。

 

 唯一、はっきりとわかるの自分の顔だけ。

 

 復讐する対象が、意味が本当はわからない。

 でも、それがリアにとって生きる意味となっていた。

 そうでなければ、生き残る事は出来なかったのだ。

 それさえも失ってしまったら、何が残る。

 

 あいつらに復讐出来るのなら、いっそレギオンに……

 

「リア……それだけは駄目だ」

 

 カイエはこちらの考えを察したように、否定してきた。

 そんなに長い付き合いでもないはずなのに、どうしてこの少女はこうも自分の気持ちが手に取る様にわかるのだろうか。

 

「リアが持っているものは、私はそれだけではないと、知っているよ」

 

 月明りがカイエを照らした。

 影の中に取り残されているのはリアだけ。

 

 そこにカイエがゆっくりと手を伸ばしてきた。

 リアは導かれるように、カイエに手を伸ばす。

 

 帰る場所を守りたい。

 

 一度だけ吐露した想いを、カイエは覚えてくれているのだろう。

 

「……もう、大丈夫。いつもありがと、カイエ」

 

「それは言わない約束だ」

 

 カイエは戯ける様に言い、リアの手を取った。

 

 彼女が、皆がいればまだ、私は戦える。

 ここにいよう。

 行き着く先まで、皆と一緒に行こう。

 

 私の生き方はそれからだ。

 

 リアはカイエに手を引かれ、月明かりの下に戻った。

 




うーん、いつになったら主人公は出てくるのでしょうか。

いやー書いてて、もう主人公の出る幕なさそうですね。
神無月の巫女みたいな。
EDしか見たことないですが。
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