86-エイティシックス- どこに行き、どこに帰るのか   作:ぺこぽん

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8話 ゲーム

 レーナは第一区の玩具屋に来ていた。

 幸せそうに歩く親子が、しばしレーナに怪訝な目線をやり、通り過ぎていく。

 

 今更ながら、軍服で来るべきではなかったと、後悔しているレーナであった。

 

 先日のキリシュブリーテの言葉もあり、休暇申請を受理されたレーナは街に出掛けてみたのだ。

 それでも軍服を脱がなかったのは、今なお戦場にいる彼らを置いてのんびりする気には、やはりなれなかったからだ。

 何かあったらすぐに、管制室に戻る心構えでいる。

 

 そして玩具屋に来たのは、ヴァンデュラム社の一応の調査の為だ。

 さすがにあの会社がある84区まで足を伸ばすには時間が足りない為、せめて製品だけでも売られてないかと考えたのだ。

 

 ふと、隣の棚を見ると、子供向けの機械がいくつも陳列されている。

 無人式自律戦闘機械 M1A4 ジャガーノート 1/48スケール 3割引きの文字が躍っていた。

 

 レーナは身を屈めて、じっと観察してみる事にした。

 よく出来てはいる。

 しかし、勿論細部は違うし、装備などデタラメだ。

 

 88mm滑腔砲や、別途取り付け可能なミサイルランチャーなど夢の話。

 そんなものがあれば、もっと戦況を楽に進められているはずだ。

 何より……そっと操縦席があるはずの場所に、レーナは手を伸ばす。

 

 しかし、当然だがそこは開く構造にはなっていなかった。

 誰も知らない、いや例え知っていても無いものとして扱っている。

 そこに、機械の部品としてエイティシックスと呼ばれる子供達が乗っている事を。

 

 金属の冷たい刺激が、レーナにある一言を思い出させる。

  

 "あなたは私達と違うのだから"

 

 それが、今レーナに棘の様に刺さってきていた。 

 

 ジャ、ジャーン!!

 

 突然、警戒な電子音が響き、レーナは現実に呼び戻される。 

 発生源は、玩具屋の隣に併設されたゲームセンターだった。

 

 ふと、足を向けてみる気になる。

 

 昔、父に遊園地に連れて行ってもらった記憶を思い出したのだ。

 その時、クレーンゲームでお菓子のメダルをねだった事も。

 もう、ずいぶんと昔の様に感じる。

 

 懐かしさを覚えながら、音がしたゲームに近づいてみた。

 わざとくすんだ銀色に塗装した、大きめの四角い箱の筐体だ。

 

 君は迫りくる脅威から、皆を守れるか!?

 

 などというキャッチコピーが書かれた仕切りに手を掛け、中を覗こうとする。

 すると、まだ人が入っていたらしく、レーナはぶつかりそうになった。

 

「し、失礼いたしましたっ!!少佐殿!」

 

 相手は眼鏡を掛けた少年で、慌ててこちらに向けて、敬礼をしてきている。 

 その後、逃げるように走り去ってしまった。

 

 あの年齢なら、たぶん士官学生だろう。

 昼間からこんな場所で遊んでいて、我が国の将来は大丈夫なのだろうか。

 などと自分の事は棚に上げて、レーナは筐体に入ってみる事にした。

 

 筐体の中の暗さは、少し馴染みの管制室に似ている。

 中央には操縦席、その左右に操縦桿があり、それぞれにトリガーがついてある。

 レーナは固い座席に行儀よく腰掛けると、正面のスクリーンに向いた。

 

 Rank1 D・Y 995点

 

 表示されているランキング一位は、もしかして先ほどの少年の点数だろうか。

 最高点が1000点だとしたら、かなりやり込んでいるに違いない。

 

 硬貨を入れると、ゲームが始まった。

 

 スクリーンに映像が流れ始める。

 長ったらしい説明文が流れ始めたので面倒になり、レーナは右のトリガーでスキップしなが

 ら流し見する事にした。

 

 時は共和歴1000年。

 宇宙から来訪した宇宙生命体ギアスと、戦争に直面した人類。

 君は新兵として、戦闘機械ジャガナンに乗り込み、敵と戦う事となったのだ。

 

「え、ええ!?」

 

 いきなりゲームスタートの文字が現れ、カウントダウンが開始される。

 

「まだ、操作方法も聞いてないのに……!」

 

 どうやら重要な説明も、スキップしてしまった様だ。

 だが、所詮はゲームで、操作は子供用だった。

 何も難しい事はない。

 

 なるほど、右の操縦桿で前後移動、方向転換は左。

 砲弾の発射は右のトリガー、左のトリガーで急速移動。

 

 場所は茶色い荒野。

 現れる白い蜘蛛に似た丸い宇宙生物が、正面に現れ始める。

 左下の地図には、敵性マークを示す輝点がいくつも輝いていた。

 

「これなら……!」

 

 一回だけやってみようと、レーナは決めたのだった。

 

 

"You Lose !!" 

 

 そして、一体何回この文字を見る事になってしまっただろうか。

 さらに軽くなってしまった財布に、硬貨はすでにない。

 

 何をやっているのだろう私は……。

 こんな遊戯をした所で、彼らの気持ちなどわかるはずもないのに。

 

「え……?」

 

 そこでようやく違和感を覚えた。

 ちょっと、待って欲しい。

 何かが引っ掛かる。

 

「……戦術教本」

 

 このゲームをクリアするコツがあるのは、すぐにレーナにはわかった。

 地図に表示された敵性勢力に対し、自動で動く友軍を適正な位置に導く事なのだ。

 そこでしばらく粘ると、ボーナスタイムとして、遠方からの援護砲撃が始まる。

 

 そうだ、これは立派な戦術教育システムではないか。

 

 まともなハンドラーならすぐに、気が付くはずだ。

 士官学校で習う戦術教本の内容が、今のゲームで展開されている事に。

 

 それどころか、ゲームの難易度が上がるほど、宇宙生物の動きは変化していく。

 戦術を変え、より強かにこちらをおびき寄せ、各個撃破を狙ってくるのだ

 それは、最新のレギオンの戦略形態と見事に一致している。

 

 何故、こんなものがゲームなどに……。

 

 軍の機密情報が漏洩している。

 それもただの市街地に、子供が遊ぶ場所にだ。

 

 宇宙生物だの、戦闘機械などと謳っているが、何を意味しているのか、わかる者にはすぐにわかるだろう。

 一体、情報統制監視局は、いつ働いているのだろうか。

 普段、手抜きの使いまわしの戦況発表しかしない癖に。

 

 誰が何の目的でこんなものを……。

 

「お姉ちゃん、変わってよー!」

 

「あ、ごめんなさい」

 

 深く思考に入り込んでいたレーナは謝る。

 どうやら一人で長時間ゲームを占拠してしまっていたようだ。

 子供達と入れ替わり、レーナは筐体を調べてみる事にした。

 

 何か手がかりがあるかもしれない。

 そして、半ば予想していたものを発見する事になった。

 

 ヴァンデュラム社。

 保守・点検技術者  ラグア・イリノス

 

 掻き消えそうな社名と、殴り書きされた名前があった。

 そして、その下には連絡先の電話番号も。

 

 

 番号をメモし、帰宅後、そこに電話を掛けてみる事にした。

 数回のコールの後、電子音声が響く。

 

「ヴァンデュラム社カスタマーサービスでございます。弊社製品の購入については一番を……」

 

 一番最後に告げられる相談窓口番号まで、待たされる事数秒。

 そして番号入力後しばらく待った後に、というよりだいぶ待たされてから、繋がった。

 

「はい、こちらヴァンデュラム社……ご要件をどうぞ」

 

 やる気のなさそうな女性が電話に出る。

 

「あの、そちらにラグア・イリノスという方はご在籍でしょうか?」

 

 レーナの質問にすぐに返答が返ってきた。

 

「あ~、今、イリノスは外出中ですね。何か御用でしたら、伝言を残しましょうか~?」

 

「あ、いえ……失礼しました」

 

 レーナはそのまま電話を切ってしまった。

 

 ちょっと気が急いてしまっていたようだ。

 まさか、お宅、軍の機密情報を勝手に使ってませんか、とは聞けるはずもない。

 もし、本当に管制システムの更新をしてもらっているなら、感謝したい所だが、その際に戦闘データを勝手に盗み出されているのだとしたら、レーナは目を瞑るわけにはいかない。

 

 しかし、どうしたものだろう。

 

「ううん……」

 

 そうだ、直接行って確かめればいいのではないか。

 

 ……いや、無理だ。 

 

 自分はハンドラーとしての職務があるし、ヴァンデュラム社まで、お邪魔するには時間が厳しい。

 その間にもレギオンの攻撃が迫ってくるかもしれないのだ。

 

「あ、でも。軍の管轄内なら……叔父様に頼むという手も」

 

 もし、軍の管轄内にヴァンデュラム社があるのだとしたら、誰か別の人に行って調べてもらう手もあるだろう。

 しかし、それではヴァンデュラム社の社員が逮捕される可能性もある。

 

「理由は何であれ、彼らの為になっていますから……」

 

 となると、軍を通さず、その近辺の有力者に確認してみるという手はどうだろうか。

 自分のおひざ元で、何か怪しげな事が行われているのなら気になるはずだ。

 

 その為なら、あの母にだって頭を下げようとも。

 

 幸いにもヴァンデュラム社の情報のコピーは、書庫管理部からもらってきている。

 それには、会社の詳細な情報が載ってあった。

 今もそこにあればの話だが、会社の所在地も記載してある。

 

 レーナはPCで住所を検索してみる事にした。

 しかし、表示された地図は戦争前、もしくは戦争発生時の古いものだった。

 

 85区は外周部に行くほど、当時の街並みを維持している事の方が少ない。 

 大抵は戦時中、急ピッチで建てられた兵器製造工場に置き換わっているからだ。

特に共和国工廠社が当然、エイティシックスが持っていた土地を、足りなければ低所得者の多くの土地を接収し、今なお工場は稼働を続けている。

 

 それでも、旧貴族であった人々の土地が接収される事は少なかったのだ。

 それは彼らが、あの戦時下でもお偉方に働き掛け、利己的に自分の財産を守ろうとした結果だ。

 

 後は、そのまま残っているとしたら戦略上必須であった為、残された場所。

 食料プラントや、生産プラント、それから病院だ。

 

「あった……」

 

 レーナは発見した。

 ヴァンデュラム社の所在地は、嘗て大きな病院があった場所だったのだ。

 

 すでに病院は経営されていないだろうし、取り壊されているかもしれない。

 そして、恐らく書類を確認する限り、ヴァンデュム社は土地を借りているだけの様だ。 

 ならば、土地の権利はそのまま残されているわけで。

 

 当時の情報によると、その土地の所有者はハウツマン・シュタット。

 

 数年前に、自殺したシュタット財閥の総帥の名だった。

 幼かったレーナでも、その事についてニュースが流れていたのを覚えている。

 

 当時の記事を検索してみる。

 新聞記事によると、ハウツマン氏は妻と二人で書斎にて、服毒自殺を図ったらしい。

 その第一発見者は、当時一緒に住んでいた孫

 事件性はなく、心因性の病が原因だったと診断されている。

 

 つまり、土地の現在の所有者はハウツマン氏の相続人に譲られている。 

 ハウツマン氏は、ご息女を戦争時に亡くされており、残された血縁は一人の孫のみ。

 

 その最近何かとよく見る事となった氏名を、レーナはじっと見つめた。

 

「これは……アネットに言った事、取り消さなくちゃ……」

 

 

 

 翌日、ブランネージュ宮殿の入口にて、レーナは足を止めた。

 正面からこちらに向かってくるのは、同じ階級章の少年。

 

「おはようございます。ヴラディレーナ・ミリーゼ少佐」

 

 本当は色々と心の準備をしてから、と思っていたのだ。

 

 レーナとは敵対すべき、到底相容れない存在。

 その人となりを、あの幾つもの報告書から簡単に読み取れる。

 そんな彼にお願い事をするなど、気が咎めていたのだ。

 

 だから、思わずレーナは唖然としてしまった。

 まさか、会おうと思ったその日に、本人の方から訪ねてくるとは。

 

「ちょっと、お話よろしいでしょうか」

 

 リードルフ・シュタット少佐がそこにいた。 

 




こまけぇこたぁいいんだよ!!の精神でお願いいたします。
とにかく、話を進ませたかったんです。
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