元暴走族総長にして元騎手。
かつての相棒はリーゼントが似合う暴れ馬、チョクセンバンチョー。
かつての愛妻は演歌歌手の反川あけ味。
乗るUMA全てに自分が公道から学んだ走りの神髄を叩き込んできた異端のジョッキーが、大往生したらまさかのウマ娘のトレーナーに!?
チームスピカのサブトレーナーになった反川キメジの歩む道には、果たして何が待っているのだろうか・・・?



という、エイプリルフールネタである


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間に合ったゼ・・・


第1話

 

ハーレーのエンジン音が、耳だけではなく体の内に響く

冬を超えて春が近づく街の中で陽気な日差しの中を駆ける鋼鉄の馬は、まるで太鼓の様な良い音を鳴らしながら道路を疾走していた

高速で走るバイクに跨り、まだ寒さが僅かに残る風を身に受けつつも俺が相棒を走らせ向かう先は東京競バ場、其処で現在行われているであろうバレンタインステークスの会場だ

先に行って待ってるからお前も来てくれと前置きも無く先輩に呼び出されたが、此方の予定も多少は考えて貰いたい

特に今日は忙しい用事も無かった為、身支度も程々に現在向かっている最中ではあるが

 

競バ場まで中程に来た辺りの交差点を通り過ぎ、調子良く飛ばしていると歩道の方から何かが俺に並走しているのをヘルメット越しに感じた

ちらり、と横目で見れば1人のウマ娘が何か楽しい事でもあるのか顔に笑みを浮かべながら俺と同じ方向に向けて並んで走っていた

こうしてウマ娘がバイクに並走してくる事は稀にある光景ではあるが、何度されても多少驚いちまう

例え人間以上の身体能力を持つと言われていても、見た目は馬の耳と尻尾以外ほぼ人間と変わりのない姿だかんなぁ

その後は気にせずにバイクを走らせていたが、どうにもこの少女とは向かう先が同じなのか信号で此方が捕まるまで向こうが右に曲がれば此方も右、此方が左に行けば向こうも左と奇妙な並走が暫く続いた

姿が豆粒ほどになるまで遠ざかるウマ娘の後ろ姿を眺めていたが、お出掛けにしてはリュックサックにサイドバックを同時に持っているから少し違和感がある

だがそれでいて荷物を持ったが故の重心のズレや走るフォームの方に目立ったブレは無く、そこそこ走り込んでいるのが見て取れた

トレセン学園で先程のウマ娘を見た記憶は全く無かったが・・・いや、俺が知らないだけで、最近になって何処からか編入してきた原石かもしれないがまぁ、縁があればまた会えるだろうと考えて、信号が青になるのをゆっくりと待つ事にした

 

 

 

縁があればまた会えるだろうと、そう思ってはいたものだが、余り好き好んで会いたくないタイミングで先程のウマ娘と出会った

あの後信号を通過し、東京競バ場の北門側から中へと入りパドックの辺りまでやって来たのだが、其処で少女らしき悲鳴が聞こえて来た

すわ何事かと思って駆け付けてみれば、知り合いの先輩トレーナーが何故か鼻から血を流しながら先程のウマ娘に詰め寄っている所であった

出身やら年齢やら挙句の果てには体重まで聞き出そうと詰め寄っていたので、流石に色々と道徳的にヤベェな、と思った俺は其処で二人の間に割って入る事にした

 

「おう、沖野さん其処でストップだ。スカウトにしちゃあちぃと度が過ぎんぞ?」

「おっと・・・何だ、キメジか」

「えっ、あの、この人の不審者さんとお知り合い、ですか?」

「ふし・・・あー、まぁ、恥ずかしながら俺の職場の先輩でな。悪ぃな嬢ちゃん、ウチの変人が無理に勧誘したりして」

「オイオイ、変人は言い過ぎだろ?」

「鼻血出しながら否定されても説得力がねぇぜ、大方何時もみたいにこのウマ娘の嬢ちゃんに同意を得ずにトモを触って蹴飛ばされたんだろ?アンタいい加減その悪い癖直したがいいぞ?」

 

ってな予想だが、合ってるかい?と何時の間にか俺の後ろに隠れ始めた嬢ちゃんに聞けば、案の定激しく頷かれた

公衆の面前でホントこの人は何をしでかしているのかと、俺はこめかみを抑えながら溜息をついた・・・その内お縄になっても不思議じゃねえんだよなぁ真剣(マジ)

 

「いや、ホントにすまねぇな・・・えぇと」

「あ、私スペシャルウィークっていいます」

「スペシャルウィークな、俺は反川キメジってモンだ。其処に居る沖野さんとこのチームでサブトレーナーをさせて貰ってる・・・あんな人だが、一応トレセン学園で自分のチームも持ってる正規のトレーナーだ」

「ええっ!?あんな人がですか!?」

「あ、あんな人ってオイ・・・」

「ちゃんとトレーナーの試験も受かって自分のチームも持ってるのは保証する・・・それで?スペシャルウィークは此処にレースを見に来たんじゃあねぇのか?」

「あ、はい!レースを生で見るのは初めてで楽しみにしてたんです!」

「そっか、それなら後学の為にもしっかり最前列でレース見ときな。一応言っとくと、立ち見の場所は其処を真っ直ぐ行ってT字路を左に行ったとこだかんな?まだ時間あっから慌てずに行けよ?」

「はい、ありがとうございますキメジさん!じゃあ私は此処で、失礼します!」

「気ぃ付けて行けよ~?」

 

「なぁキメジ、何でさっきのウマ娘をウチにスカウトしなかったんだ?」

「いや、まだスペシャルウィークがトレセン学園の生徒になるか分らんでしょうよ、偶々出会っただけかもしれねぇですし」

「いや、間違いない。あのトモの鍛え具合・・・かなりの肥ウマ娘だった。生半可な練習はしてないだろう、ウチのスカウト連中がもしレースしてる所を見てたら間違いなく食いつく程の素質があるなありゃ」

トモを触って(それで)判断出来るのが怖ぇんだが」

「キメジ、後を追い掛けておいてくれ。俺は少し別件の用事があるから後から行く。かなりの有望株だ、絶対に見失うなよ?」

「は?オイ、沖野さん!?」

「任せたぞー」

「ちょ、オイ・・・あーあ、行っちまいやがった・・・まぁ仕方ねぇ、追うか」

 

幸い、と言うべきか俺はレースのファンファーレが鳴る中でレースを見つめるスペシャルウィークの後ろ姿を発見した

レースに参加するウマ娘の姿を見ながら、その中に居る誰かを探してか目を輝かせて視界を右へ左へとせわしなく動かす彼女を微笑ましく思いながら、声を掛けた

 

「誰か気になるウマ娘でも居るのか?スペシャルウィーク」

「へっ?あっ、キメジさん!さっきはどうもありがとうございました!お蔭で迷わずに此処まで来れました」

「気にするな・・・で?さっきキョロキョロしてたが、誰か探してたのか?」

「はい!さっきの一番人気のウマ娘の人なんですけど、あの人何て名前でしたか?私、気になってて」

「サイレンススズカの事か?サイレンススズカはトレセン学園のチームリギルに所属しているウマ娘でな、今回は一枠一番の位置に居るぞ」

「あそこですね!はぁ~、サイレンススズカさんかぁ~。綺麗な人だったけど、どんなレースをするんだろう?」

「ああ、そういやぁスペシャルウィークは本物のレースを見るのは初めてだって言ってたな。何だ?レースデビューの夢を追い掛けて、遠路はるばるやって来たって所か?」

「そうなんです!私、日本一のウマ娘になるって故郷のお母ちゃんと約束してて・・・それで今日はトレセン学園に編入させて貰う事が決まったから学園に向かう途中だったんですけど、今日レースが開催されているって街中で聞いて、こうしてレースを見に来たんです!」

「日本一、か・・・いい夢じゃねえか。けど、日本一のウマ娘ってのが何なのか、ちゃんと考えた事はあるか?」

「えっ?それは、えっと」

「ああ、いや、答えてくれるのは後でいい。それよりもホラ、始まるぞ?」

「あっ、はい!」

 

スペシャルウィークと共に、ゲートから出走していく各ウマ娘達を眺める

まだレースの展開や位置取りに関してを知らないであろうスペシャルウィークは、サイレンススズカの速さに驚いているだけだが、彼女の事をある程度知っている俺の方は小首を傾げざるを得ない

サイレンススズカの所属チームであるチームリギル、其処でトレーナーをしている東条先輩はこれまで彼女のレース展開を差し策で挑ませる場合が多く、今回もその筈だと読んでいた

だが、実際にサイレンススズカの取った戦法は逃げ、それも後続をどんどんと引き離していく大逃げの様相だ・・・これは誰かが彼女に要らぬ入れ知恵をした可能性もある

そうなると俺の中で疑うのは沖野さんである、先程あの人が居なくなったタイミング、サイレンススズカの出ているレースを熱心にモニタリングしたり、過去のレース映像を見直したりと何だかコソコソ動いていたし

だが、そうした行動も今レースで伸び伸びと駆ける彼女のあの走りを見ていると、決して無意味ではないだろう・・・現に、今日の彼女の走りに魅了されたウマ娘が一人、俺の横に居るからな

 

「サイレンススズカさん、あんな人が居るんですね・・・!」

「憧れたか?」

「はい!凄く!初めて生で見たのが今日のレースで、本当に良かったです!」

「・・・それは結構。だが、あんな風に観客を湧かせて、誰かに夢を与えてくれるウマ娘は一握りだ。けどな、お前のこの脚があれば」

「ひっ!?いやあああああああああああ!!」

「ぐはぁっ!?」

「キメジさん!やっぱりこの人トレーナーなんかじゃありません!痴漢です、痴漢!」

「いや懲りろよ、沖野さんさぁ。ホント度々申し訳ねぇな、スペシャルウィーク」

「あ、いえ。別にキメジさんは悪く無いですよ、あの人が悪いので・・・それと、私の事は気軽にスぺ、って呼んでください!」

「スぺな、じゃあ今度からそう呼ばせて貰うわ」

 

再び背後から忍び寄り、前触れも無くスペシャルウィークのトモを触ったが為に再度蹴り飛ばされた先輩に呆れちまう・・・取り合えずまた鼻血が出ているだけの様子なので、心配は全くしていないし起き上がろうとしてからまぁ平気だろ、木綿豆腐みたいに頑丈だしな

 

「スぺ、この後はどうするんだ?この後にある催し物も、見ていくのか?」

「この後にある、催し物?って・・・?」

「勝ったウマ娘だけが立てる特別なステージの事さ、スペシャルウィーク」

「勝ったウマ娘だけ・・・あっ!ウイニングライブ!私レースも初めて生で見ましたけど、ウイニングライブも初めてです!」

 

はぁぁぁ、とこの後に準備が始まるウイニングライブに期待した様子で目を輝かせるスペ

しかし、旅支度をしたままでライブを見るみてぇだが、コイツ何処か行く途中じゃあねえのか?

・・・まさかな、とは思うが一応取り出したスマホでとあるウマ娘に確認のメールを送る

相手は栗東寮の寮長フジキセキと、美浦寮の寮長ヒシアマゾンだ

 

 

 

『中々寮に来ないと思っていたけれど、まさかスズカのレースとライブを見に行っていたとはね・・・』

「こっちもまさか今日から編入する生徒だとは思わなかったよ。悪ぃな、練習中にメールなんてしてよ」

『構わないよ。まぁ、此方としては出来れば寮の門限までに確保しておいて欲しかったけれど、ね?』

「一応生徒会から何か言われたら取り合えず俺が変に引き留めちまったのが悪いって事にしといてくれや」

『それは、いいのかい?』

「ライブを見ねぇのか?って引き留めたのは事実だからよ。ま、それに俺ァガキの頃からヤンチャしてんだ、今更誰かに叱られんのは慣れてっからな」

『・・・やれやれ、君がそれで構わないなら私は何も言わないよ。それじゃあ私はポニーちゃんの為に仮眠室を開けておくから、今度はちゃんと確保して連れて来るようにね?』

「おう、助かるぜ・・・じゃあな」

 

通話を切り、スマホをパーカーの内ポケットに仕舞った俺は北門の出入り口でスぺが来るのを待っていた

流石に練習の時間中だったらしく、フジ達に送ったメールへの反応は大分遅れ、日が完全に暮れてしまってから漸くして返信の電話が掛かってきたが、矢張り今日編入する事になっていた生徒だった

更に間の悪い事にメールを打ってる間にスぺは居なくなるわ沖野さんもどっか行っちまうわで俺は一人だけ置いてきぼりにされ、無闇に探すよりかはと仕方なしにトレセン学園方面に近い北門で待つ

こっちなら門限を思い出して慌てて走って出て来ても十分に引き留められるだろ、という予想だ・・・別の所から出てきたら流石にどうしようもないが、慌てているなら最短距離から出てくんだろ多分

電話を切り待つ事暫しすれば、ライブが始まったのか東京競バ場の内部から音楽の流れる音と歓声、そして・・・

 

「門限忘れてたああああああああ!!」

 

というスぺの悲鳴が聞こえて来て安心した、うし予想通り

 

「おーい、スぺー!」

「あああっ、キメジさんあのすいません今急いでてー!」

「オイ待てや!止まれや!寮長のフジキセキにゃあ先に連絡入れといたから取り合えず止まれやぁ!!」

「ええええ!?」

 

俺の怒号に対して驚愕の声と共に、何とか俺の前で止まる為にキキー!というブレーキ音が聞こえて来そうな急停止をするスぺの奴に苦笑いしつつ、足元に置いてあった”それ”を投げ渡す

慌てつつもスぺの奴は何とか”それ”を受け止めて手に抱え直す・・・彼女に渡したのは、『ウマ娘用のヘルメット』だ

 

「?・・・ヘルメット?」

「ほら、付いて来い、寮までバイクで送ってやる。フジの奴には俺も一緒に頭下げてやっからよ」

「ええっ!?でも、あの私走りますから」

「あのなぁ、そんな慌てたまま走ったら他の歩行者がアブねぇだろうがよ。つべこべ言わずに付いて来い、フジの奴大分待たせてっからな」

「ううう、はいぃ」

 

左右の耳をバラバラに動かし、沈んだ表情のままトボトボと俺の後ろを付いて来るスぺの奴に、また賑やかなウマ娘がトレセン学園に来たもんだなぁ、と思わざるを得なかった

―――――――――

 

反川キメジ

 

チョクセンバンチョーの騎手にしてバンチョーの独特な走法の考案者

『馬を操んのは手綱じゃねぇんだよ。ハートなんだよ』を地で行ったが為に、後のバンチョー産駒のUMA全てに鞍上を許され任されたレジェンド(という設定)

94歳と6ヵ月4日というご長寿を経てJWCの世界で大往生した筈が、何故か暴走族時代の姿で三女神の噴水の前でぶっ倒れているのを見つかり学園に保護される

その後トレーナー試験で何度か不合格になりながらも最終的に合格、経歴を面白がったゴルシに拉致られてスピカのサブトレーナーを強制的に任されて今に至る

この世界での現在の相棒はハーレーダビッドソンの『ファットボーイ』だが、何処かに居るかもしれない生涯の相棒(チョクセンバンチョー)こそが自分の真の相棒だと想い続けている

 

 

 

沖野トレーナー

 

ご存知チームスピカのトレーナー

ゴルシの奴が勝手に加入させたキメジに最初はどう接すればいいのかと思ったが、今ではチームスピカとしての活動の一部を任せている位には信用している

裏でこっそり彼女に逃げ策で行く様にと助言を行うアニメ1話通りの暗躍をしていた(サイドストーリーネタ)

 

 

 

スペシャルウィーク

 

ご存知アニメ1期主人公、キメジに色々と助けられる事になった子

レース場で色々面倒を見てくれたり門限を破ったのを咎めるフジキセキに対して一緒に頭を下げてくれたキメジに恩を感じている為かなりフレンドリー

お母ちゃん、キメジさんって凄くいい人です!(尚相手は元暴走族総長である)




チョクセンバンチョーの方は今週はお休みします、ご了承下さい

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