10話
夕暮れの町並みを、冒険者風の男女四人が歩いていた。何やら心身ともに疲労しており、四人の内三人までが何か全身ヌメヌメして無事なのは胸の大きい御下げの少女だけだった。
何よりその団体からは、異様な臭気が漂ってきていた。
「ふ~。やっぱり、あの爆裂魔法はオーバーキル過ぎるだろう。よっぽどでなければ封印だな。これからは、別の魔法で頑張ってくれ、めぐみん。」
うんざりした表情で小柄な少年が言えば、背負われている少女が言葉を返す。
「使えません………。」
「え、何が?」
「私は、爆裂魔法以外の魔法は使えないんです。
覚える気もありません。」
「え、何言ってるのよ?爆裂魔法を使えるくらいの魔力量があれば、他の魔法も大概使えるはずだし、
難易度的にも爆発魔法と炸裂魔法の複合の爆裂魔法
を発動できるんだから、それより下位の魔法習得なんて、選り取りみどりじゃないの?」
「そうなのか、アクア?」
「ええ、そうよ。」
青髪の少女アクアが胸を張って答えると、茶髪の少年、カズマはなんとも言えない顔をした。
「私は、爆発系の魔法が好きなんじゃありません。
爆裂魔法が好きなんです。
確かに他の魔法を覚えれば、冒険は楽になるでしょう。でもこれは私のポリシーなんです。」
「めぐみん、言いたくないけどそれじゃパーティーには入れてもらえないよ?」
「ゆんゆん、貴女が抜ければいいではないですか。」
「いや、正直に言ってむりだな。なにしろ、一通りの上級魔法が使えるゆんゆんが、パーティー加入を希望してくれてるんだ。
癖の強い魔法使いは、俺では扱いきれないよ。」
大声を出すでもなく、筋道たてて説明されてみれば、一行に注目していた見物人も非難の声をあげることはなかった。
「まあ、帰ってから報酬は公平に分けるからな、ごくろうさん。」
「あんたらがめぐみんをいらないなら、俺が連れていくさ。」
涙を必死にこらえていためぐみんが声のした方を振り返ると、ずっと会いたかった少年が以前より精悍な表情で近づいてきた。
「久しぶりだなめぐみん 、ちょっと待ってろよ
“スペシャルクリーン”」
背の高い少年が指輪を付けた左手を向けて詠唱すると、粘液まみれですごい臭いが綺麗さっぱりなくなって、カズマ・めぐみん・アクアは入浴したように清潔になっていた。
「ユウヤ、いつアクセルに来たのよ。
私達がこっちに来てから受付に聞いても、とっくに出ていったって言われちゃったし、もう。」
「ゆんゆんも久しぶりだな。俺もテレポートの魔法を覚えたから紅魔の里に戻ってきたんだ。
めぐみんとゆんゆんに手紙を預かった。
今日、ギルドで探したんだがクエストに出た後だったみたいだからな、俺も一撃グマを倒して来た。」
「知り合いみたいだな、ちょっと俺にも紹介してくれよ。」
そう言ってサトウカズマは、目の前の少年を観察した。165㎝の自分より10㎝以上高いだろう。
灰色に見える革鎧に青いマントをつけている。
腰には真っ黒の長い剣を差して、左手にはマナタイトと言う魔硝石を嵌め込んだ銀の指輪をつけている。そしてなにより、目を引くのはその銀髪と赤目だった。
「まずは、自己紹介かな。
俺の名はユウヤ、紅魔族族長の甥でゆんゆんとは従兄弟になる。そして、めぐみんは将来の俺の嫁だ。」
「何故それを言うんですか?」
「最初にはっきり言っておかないとな。」
「あいかわらずね~。もちろん、結婚するときには私もお嫁さんにしてもらうわよ。」
「じゃあ、私からいくわよ。
我が名はアクア、皆が崇めるアクシズ教のご神体そのもの、水の女神アクアとは私のことよ!」
「え……。」
「あぁ、そう思ってるかわいそうな娘なんだ。
そっとしてやってくれ。」
「なんでよ~」
アクアの名乗りとカズマのフォローでユウヤは微妙な顔をした。
「それで、俺はサトウカズマだ。」
「とりあえず、汚れも綺麗になったし、このままギルドに直行しましょう。」
ゆんゆんの発言に全員異議なく、泣きそうだっためぐみんも元気になってユウヤにおぶってもらっていた。その隣をゆんゆんが当然のように歩き、アクアが楽しそうにおしゃべりしていた。
カズマは複雑な表情で最後尾を歩いていた。
「はい、今回のクエスト一撃グマの討伐と買い取り分を合わせて500万エリスです。」
「ああ、どうも。」
「これでレベル38ですか?おめでとうございます。」
男性の受付で報酬を受け取ったユウヤは、めぐみん達が座っているテーブルに向かった。
隣の受付では金髪で胸の大きい美女から報酬を受け取っていたカズマもやって来た。
「ほら、めぐみん今回の報酬だ。端数はめぐみんに入れといたぞ。」
「有り難うございます。」
受け取っためぐみんが、ユウヤに寄り添ってとなりに座る。
「それにしても、レベル38とはね……。」
「紅魔の里を出るときにレベルは20後半だったからな。こんなもんだろ。
それに里にはもっとレベルの高い奴はごろごろいるぞ。このアクセルにも原因はわからないが高レベルの冒険者がちらほらいるようだしな。」
「ユウヤはアクセルにはいつかなかったんでしょう?どこにいたの?」
「歩いて南の国境の街にいたんだ。」
「あそこは、治安が悪いと聞きましたが王都には行かなかったんですか?」
「よせやい。貴族の使い走りや、王家の飼い犬になる気はないぜ。」
「そんなもんかな………。」
「カズマなんかは好きそうじゃないか?
バッタバッタと敵をなぎ倒して注目されて、王女なんかと密会とかしたいくちなんじゃないか?」
言われてカズマは黙り込んだ。
周りにいる冒険者もこのテーブルの会話に聞き耳をたてていた。ユウヤの風貌と高レベルの冒険者と言うことで注目を集めていたのだ。
「それで、ゆんゆんはパーティー加入OKでいいのか?」
「ああ、ゆんゆんには、これからも頼むよ。」
「じゃあ、食事の間に手早く手紙の返事を書いちまってくれ。テレポートで今日中に届けるからな。」
言われて、定食を食べていたゆんゆんは何やら書き込み始めた。
「ねえ、ユウヤはしばらくアクセルに留まるのよね。私たちのパーティーに入る気はない?」
「いや、その気はないな。俺は冒険者と言うより傭兵のつもりだし、せっかく会えたんだからめぐみんと一緒にいたいしな。
まあ、そっちには、ゆんゆんが加入したんだ。
こいつは、大抵のことはそつなくこなすし、接近戦もできるから、重宝するはずだぜ。
大事にしてやってくれ。」
「ああ、わかった。」
やがて、ゆんゆんから手紙の返事を受け取った少年が立ち上がる。
それを見て、口一杯にほうばっていた食べ物を急いで飲み込んだめぐみんがつづく。
「俺達二人の勘定はここにおくぞ。」
「ユウヤ、おんぶしてください。」
「もう歩けるだろ?」
「私がおんぶしてほしいんです。」
見つめあった後、しゃがんだ少年の背中に少女がうれしそうにしがみつき、二人は外に出ていった。
「それじゃあ、カズマさんこれからよろしくお願いします。」
「ゆんゆんはさ……。」
「はい、何でしょう?」
「追いかけて一緒に行かなくて良かったのか?」
「私はこれが初めてのパーティー加入です。
ここでパーティーでの戦いかたを学んでいきます。」
「何よカズマさん、自分で断ったのに、めぐみんのことが惜しくなったの?」
「そうじゃねえよ。」
「主役になるには、才能の他にも不断の努力も加えて運も必要なのよ。」
俺は運だけかよ………。
サトウカズマは、自分の冒険者カードを見てため息をついた。
カズマパーティーにゆんゆんがいるから、原作よりスムーズかも?それでもアクアがいるから……。
めぐみんは、とんがり帽子の魔法使いスタイルは終了です。実際、爆裂魔法だけでは生き残れませんので。