「すごいよ!!半日くらいかかる距離を一時間位で到着しちゃうなんて!」
「荷物をそれなりに背負って走ったのに、全然疲れていませんね………。」
ユウヤ達はギルドでクエスト受注をしてからすぐに出発した。
事前準備を主張したクリスに言われ、最低限の装備で、城門前から全力疾走を始めた。
普通なら着かない距離を、ユウヤの魔法、聖なる唄《ホーリーソング》の効果で目的地まで短時間で到着してしまった。
超級魔法を取得したユウヤが思い付いたのは支援魔法の良いとこ取りで対象の攻撃・防御は元より、スピードや気力も底上げする優れものだ。
「超級魔法と言うのは便利なものですね。
それだけに、ユウヤが回復魔法を習得できないのは意外でした。」
「まあ、そのためにもねりまきに期待したいんだが?」
「うん。まだ踏ん切りつかないから、今日は手持ちの回復アイテムでね。」
「“ねりまき”だったっけ?せっかくアークウィザードなんだから、他のパーティーに行けば、大事にしてもらえるのに。」
「クリスさん、私たち二人は、ユウヤと一緒じゃなければ、冒険者として紅魔の里から出る必要性を感じないね。」
「あるえの言う通りかな。めぐみんだけユウヤと一緒なのはムカつくし。」
「何ですか、それは?ケンカを売ってるんなら買いますよ。
紅魔族は売られたケンカは買う種族なんですよ!」
「どうやら、騒がしくしてたから、向こうから来てくれたようだな。」
「待って、敵感知に反応の数が多いよ!
大物が三体に……、なんでオーガが十体もいるの!?」
「ちょうどいい。迎え撃つぞ。」
「なに言ってんの?討伐対象の他にオーガも十体も来てるんだよ?」
クリスが喚いてる間にオーガに囲まれてしまった。
少女三人が顔を青くしてもユウヤは涼しい顔をして指輪をはめた左手を顔の横まで挙げて魔法を唱える。
「ホーリーテリトリー」
次の瞬間、少年から白銀のオーラが広がり眼前まで迫っていたモンスターを後退させた。
「敵は内部には入ってこれないはずだ。
それは安心しろ。
こっちからは攻撃できるからな。
クリスのバインドを使えばいけるだろう。
あるえとねりまきも一緒にオーガを攻撃しろ、三人で十体だ。」
「ユウヤ、私はどうしたら?」
「マンティコアが相手だ。
槍で牽制しながら、爆裂魔法の詠唱開始だ。
相手が魔法を撃ってきても、攻撃は通らない。
教わった魔法制御を頭に入れて、爆裂魔法をぶっぱなしてみろ!」
それぞれに指示をすると、ユウヤは飛行の魔法で上昇していった。
グリフォンは鷲の翼と上半身、獅子の下半身を持つとされる合成獣だ。
「それが、一体じゃなく二体もいるとはな……。
だけど、こっちの反応速度も上がってるんだ。
この飛行魔法だってなあ!」
挟み撃ちにしようとしてきた一方に突撃し、すれ違い様にその首を切断する。
ユウヤが手にしている黒い長剣は、直前に唱えた魔法により白光を放っていた。
背後に迫ってきたもう一体を認識しながら、急上昇。真っ直ぐ飛行するグリフォンの背中に飛びのり、猛烈に暴れる敵の首筋に逆手に持った長剣を渾身の力で突き刺した。
「くたばれえー!」
墜落するモンスターに馬乗りのまま、荒れた地面に衝突した。どうやら、運良く死体がクッションの
役割を果たしたようで、目立った傷は無かった。
「ふん。
二体共に近場に落ちたから、手間が省けたな。」
「さて、私たちも任された役割を果たさないとね。
うわっと!?」
オーガの群れに向き直ったクリスに向けられたのは巨大な棍棒の歓待だった。
思わず飛び退いてしまったが間に存在する白銀の障壁が敵の攻撃を弾き返した。
「防御を気にしなくていいんなら、楽なもんだよね、バインド!
さあ二人ともどんどんいってみようか♪」
「“カースドライトニング”!
おかしいね、ねりまき。私にとって初めてのクエストで高レベルのモンスターが相手なのに、気持ちに余裕があるんだよ。」
「それはね!私たちの身に危険がないようにユウヤがお膳立てしてくれたからよ!
ようし、“ライトオブセイバー”」
「わっ!君たち、そんな大魔法バンバン撃って魔力は大丈夫なの?」
「ご心配なく。紅魔族は伊達じゃないよ。
まだまだ全然イケるよ♪」
「そう言うことさ。
同世代の魔法のエリート集団だからね私たちは。
それを夢中にさせるんだから、やっぱりユウヤは特別だよ。」
三人娘がおしゃべりしながら、軽やかにダガーを振るい、続けざまに魔法を放っていたら、気づいたら、彼女たちを攻撃していたオーガの群れは全て地に伏せていた。
マンティコアは頭部が老人の顔で獅子の胴体を持ち、さそりに似たその尻尾には、毒針を備えていると言われる。
他のチームが順調に戦っている中、めぐみんは苦戦していた。
障壁ごしとはいえ、槍を振りながら長い呪文を唱えるのは、集中力を費やす行為だった。
「ションベン臭え娘っこにぶっといのをブスッといくぜ?」
突進して来たモンスターの前足の一本を槍で縫い付ける。
通常なら不可能だが、ユウヤの支援魔法で身体能力が上がった彼女には出来た。
素早く下がり詠唱を完成させる。
「させませんよ。我が名はめぐみん、紅魔族随一の天才にして爆裂魔法をあやつりし者!
喰らうがいい。
これが、人類最強の究極魔法、“エクスプロージョン”!!」
爆風が晴れたそこには、焼け焦げたかつてマンティコアだった小さな残骸と崖崩れのようになった洞窟の入り口だった。
「うわぁ、派手にやったねえ、めぐみん。」
「物を壊しちゃ駄目じゃないか、また守衛さんに叱られるんじゃないかい?」
「アクセルの街から離れてるんだから大丈夫です。
それにどうしてその話を知ってるんですか?
クリスですか?」
「私は知らないよ。めぐみんが毎回守衛さんにペコペコ頭を下げてるなんて知らないよ♪」
「やっぱり、あなたじゃないですか。それなら、私にも考えがありますよ!」
額に青筋を浮かべためぐみんが、クリスに詰め寄ろうとしたところで、ユウヤがこちらに近づいてきた。
「そういきり立つなよ、めぐみん。
魔力消費を節約できて、倒れないで済んでるんだから、ウォルバク先生の指導に感謝だな。」
「そうですね。でなければ、私は今ごろまた倒れて指先一本、動かせていないでしょう。
まあ魔力はすっからかんですが、体が動くだけ前よりましです。」
「もうそろそれ暗くなるよ。
可能ならば、すぐに帰還しよう。」
「グリフォンの頭と翼、マンティコアの頭と尻尾くらいは持ち帰ろう。」
各自で可能な範囲でモンスターの部位を持ち帰ることにした。冒険者カードを見せれば、討伐は証明されるが、動かぬ証拠を見せれば説得力があるし、なにより、紅魔の里の鍛冶屋に持っていけば、装備品に加工する原料にならないかと考えた結果だった。
やがて準備が済んだ全員がユウヤの側に立つ。
各々が返り血で汚れていたがその表情は晴れやかだった。
「よし、じゃあ行くか。テレポート」
こうして、めぐみんの再出発のクエストは成功に終わった。
情報通のクリスだから、めぐみんがアクセルの外で破壊を繰り返していたのも知っていました。