アクシズ教徒はろくなことしない。
早朝の紅魔の里の外れ に立ったユウヤが後ろを振り替える。
めぐみん・あるえ・ねりまきがそれぞれ装備をつけて佇んでいた。
「朝食の前にモンスター狩りをして食料と資金源を得ようと思ったんだが?」
「今日からは、可能な限り私たちも参加するよ。」
「あ~、それなら戦闘前にスキルの振り分けをしておこう。」
ユウヤがめぐみんとあるえに冒険者カードを出させていると、遅れてクリスが眠い目をこすりながら、こちらにやって来た。
興味津々でクリスがのぞきこむなか、話が進む。
「まず、めぐみんだが、攻撃魔法は、爆裂魔法一本だから、呪文詠唱省略と消費魔力の軽減に絞るべきだろう。魔法制御を磨いていけば、爆裂魔法の威力も今よりもっと上がるはずだ。」
「魔法の威力上昇にポイントを振り分けるのはその後ですか?」
「将来的な話だが、高威力の爆裂魔法を二発以上打てて、尚且つテレポートで移動できるようになれば、ウォルバク先生にも胸を張れるんじゃないか?」
そう言ってやれば、めぐみんはうれしそうにする。
聞いていたクリスが驚いたように声をあげる。
「ちょっと待って、ウォルバクってあの“怠惰と暴虐の邪神ウォルバク”なの?」
「クリス………どういう意図で言ったのか知らないが、ここは紅魔の里だ。
女神ウォルバクは、エリスやアクアより旧い女神で
信者も少数派だが、封印して邪神認定したのは、アクシズ教徒だよ。
まったくあの連中は、ろくなことしないな。」
「でもウォルバクには、上位の悪魔が付き従っているって聞いてるよ。」
混乱しているクリスが、後ろからの足音に振り替えると赤毛の短髪で猫の目のように瞳を細くした妙齢の女性がやって来た。
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「初めましてかな?私はウォルバクよ。
中の女神共々よろしくね、お嬢さん♪」
ウォルバクに指摘されて、思わずクリスの体から女神エリスが分離する。
「ずいぶん警戒してるようだけど、今の私はこの里の魔法学校の教師なのよ。」
緊張した空気を頭から無視してめぐみんが発言する。
「二人ともウォルバク先生が名乗ったんだから、あなたたちも自己紹介しなさい。」
「先生が紅魔族流の名乗りをしなかったらとまどってるんじゃないかな?」
ねりまきが、そう言うと、ウォルバクが、ニヤリとして片手を斜めに突き上げた。
「我が名はウォルバク、怠惰と暴虐の女神にして魔王城に愛想を尽かしたもの!
魔法学校の教師にして、下僕の悪魔を酒場のウェイトレスと子守りに従事させている者!」
聞いている紅魔族一同が平然としているなか、エリスは口を開けてポカーンとしてしまったが、クリスが顔を紅くして口上を始めた。
「我が名はクリス。盗賊を生業とした冒険者で女神と意思の繋がりしもの!
貧しき人々を救わんと義賊を志す者!」
その後クリスがじっと見てくるので、銀髪の女神は、恥ずかしそうに口を開く。
「幸運の女神のエリスです。ユウヤさんの手助けがしたいです。」
そう言った彼女はそのままクリスの中に戻ってしまった。
「彼女はどうしちゃったのかしら?」
「うん、それがさ、名前を言った後の一言がかなり恥ずかしかったみたいなんだ。」
答えているクリスも真っ赤になっている。
「先生が来てくれたからスキル配分について話を戻そう。」
そこで、めぐみんに対してのスキル配分はウォルバクも賛成した。
「並列呪文‥……別な行動をしながら呪文詠唱をするなら、高速詠唱は必修になっちゃうから、取れるんだったら詠唱省略はお得よ。
そして生徒の娘達にお薦めなのはユウヤのウェポンマスタースキルかな。」
あるえは、オーソドックススタイルとし、テレポートスキル取得を優先とした。
「クリスは盗賊から、アサシンにクラスチェンジをお薦めするわ。レベル高いんでしょう?」
「先生、ねりまきはクラスチェンジは必要ないですか?
俺は、パーティーに回復役が欲しいんだけど。」
問われたウォルバクは、ねりまきを上から下まで全身眺めた後微笑んだ。
「この娘、酒場の看板娘よね?よっぽど器用みたい。」
「どういうことだい?」
「神聖魔法が必要ないなら、クラスチェンジは必要ないわ。
単に回復魔法だけなら、
ウォルバクが帰った跡、モンスター狩りを始めた。
結局めぐみんは、貯めていたポイントを使い、魔法呪文詠唱省略にスキルポイントを注ぎ込んだ。
「めぐみんが、ずっと槍を使うなら、槍スキルでもいいんじゃないかな?」
「そこはまだ後回しです。
それにしても、爆裂魔法を使用してないのに、私が、一撃グマを倒せるとは思いませんでした。」
「だよねぇ。さっきなんか、熊の爪がまともに入ったかと思ったのに、魔法障壁はびくともしなかったもんねー。」
そうなのだ。ユウヤの
「思うに、素早さの底上げが大きいんじゃないかな。鈍重に見えてあの熊は、かなり素早いんだ。
まともにやったら、単発の魔法もなかなか当たらないはずだよ。
さすがは、紅魔族って感じかな。」
「じゃあ、一旦帰ろう。あるえは人手を頼んで獲物を回収してくれ。
昼からは、またアクセルに行くから、家に集まってくれ。」
そう言うと、巨大な熊を一頭だけ引きずって少年は歩いていった。
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持ち帰った一撃熊を半分はこめっこのところに届け、めぐみん特製の朝食を堪能したユウヤは、ソファでくつろいでいた。
洗い物を終えた黒髪の少女が隣に座る。
「初めて食べたけど、おいしかったよ。
めぐみんは料理上手なんだね。」
向かいでソファに寝そべっているクリスが感心したように言う。
「当然です。紅魔族の女子たる者、料理に手を抜いたりしませんからね。」
そう言って胸を張るめぐみんだったが、自分をユウヤが見つめているのに気がついた。
「どうしましたか、私に見とれているんですか?」
「去年、初めて会った頃より背が伸びたな。」
「髪もこうして伸ばしましたよ。胸はそれほどないですが………」
「気にするな。俺はめぐみんがいいんだよ。」
「‥………あの、私も居るんだけど‥………」
気まずそうに声をかけたクリスにめぐみんが顔を紅くしてうつむいた。
くつろいでいて、思い出したようにユウヤが腕輪を取り出した。
「クリス、これはテレポートが使える魔道具だ。
と言ってもこの家一ヶ所しか登録できなかったからな、内実は帰還の魔法と同じだが。
お前は、パーティーを離れて活動することがあるだろうから、 必要だろう。」
眺めてみても、装飾もない、地味な銀の腕輪だった。
「これをどう使うの?」
「呪文の詠唱は、必要ない。テレポートと頭の中で思い浮かべるだけで戻ってこれる。
ただし、使用できるのはクリス一人だけだ。」
受け取った腕輪を装着すると、緩かった金属が収縮してフィットした。
そうこうしてるうちに、あるえとねりまきが戻ってきた。
ねりまきはバスケットを提げている。
「これ、家で作ってきたんだ。昼は食べてから行きましょう。」
「そうですね。倹約できるところはしましょう。」
あるえは貨幣が入った革袋五つの内の三つを差し出す。
「ユウヤが切り殺したデカイ奴が特殊個体だったみたいで実入りが良かったんだ。」
めぐみんは受け取った自分の分の袋を中も見ずに丸ごと金庫に入れた。
早めの昼食の後に五人は手を繋ぎ、ユウヤはテレポートを発動させた。
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「さてじゃあ、クリスに案内してもらおう。」
「まかせて、エリス教会はこっちだよ。」
クリスを先頭にぞろぞろ中に入っていくと、奥に進むに連れて言い争っている声が聞こえてきた。
エリスは恥ずかしくてクリスの中に隠れちゃうの図