30話
遥かに見えるブライドルの王城からは黒煙が上がっている。
村の青年、どこから見ても平凡な農夫に見える彼は、無気力にその黒い煙を見ていた。
「ばかなことは、考えるんじゃないぞ。
どうやら、魔王軍は首都以外は、どうでもいいようだからな。おとなしくしてれば、わしらの前を通りすぎるじゃろう。」
「村長……」
「王家も貴族どもも、皆、滅んでしまえばいいんじゃ!ワシラが丹精込めて作った物を取り上げることしかしない。そのくせ、他から攻められたときに、守ってくれないんじゃ、なんのためにいるのかわからん。あ奴等は、害虫じゃ、魔王軍と変わらん!」
集まって来た男達も、意見は同じようで、暗い眼差しをして佇んでいた。
瓦礫と化した王城の跡地で人型の魔族に囲まれた少女が報告を聞きながら、指示を伝えていた。
「…一先ず、首都の制圧は完了でよかったかしら…
リオノール姫の行方は、まだ掴めないの?」
「……もう、死んでるんじゃないかって?
それはどうかしら?
まあ、この後は、地方に散らばっている諸侯軍をまとめて叩いて、しまいましょう。
大丈夫よ。この国も例外なく民を虐げていたみたいだから、私達は、貴族と騎士だけを相手にすればいいだけだもの、楽なものよ。」
……アイツがこの国に来るかもですって?
アイツは気楽な冒険者よ?自分の里がチョッカイ出されなければ向かってこないはずよ。」
彼女の周りにいる側近は、主の語る“アイツ”をひどく恐れているようだ。必死に抗弁している。
「……分かってるわよ。アイツが出てきたら、作戦を放棄。直ちに撤収するわ…。」
そうして、少女、魔王の娘に率いられた軍団は、瓦礫の廃墟で夜営の準備を始めるのだった。
王城から離れた森の中を一人の娘がさ迷い歩いていた。しばらく前に一緒にいた女性とはぐれ、アチコチ千切れてボロボロになった衣服をまとい、裸足でノロノロ歩いている。
突然襲来した魔王軍によって首都は焼け野原になった。城もあっけなく陥落し、彼女の両親も目の前で殺された。侍女に手を引かれ夢中で逃げ出すも、道行くものも民も彼女達を助けてはくれなかった。
「普段、贅沢して威張ってんなら、こういう時に役に立てよ!」
「あたしらを守ってくれないんなら、王様なんていらないんだよ!」
「早く、犠牲になって俺たちを救ってくれよ?」
「死ぬ前に、俺達を楽しませてくれよ~」
それまで自分を無視して逃げていた者と違い、一団の男達は、欲望の目を向けて迫ってきた。
執拗に追ってくる集団に金品をばらまき必死に逃げる途中、一緒にいた侍女ともはぐれてしまった。
「もう歩けない……お父様もお母様も死んでしまったわ……私もこれいじょうは…。あの人にもう一度会いたかったな……」
倒れて意識を失った王家の最後の一人を上空を偵察していたモンスターの集団が発見して舞い降りてきた。
魔王軍の奇襲により、陥落した王都の奪還のため各地方の貴族は諸侯軍を結成。
募兵をしたが、日頃の圧政が祟り、兵の集まりははかはばかしくなかった。
それどころか、むりやり食料を徴発して進軍した領地は、反って反乱を招いていた。
「恨み重なるくそ領主が帰ってこれねえように何もかも奪っちまえ!」
どの領地も同様な具合だった。各貴族の拠点たる城は、主力が出払った隙におとされ、その家族は留守の部隊共々皆殺しにされた。
荒れ狂う反乱の影には、扇動していた魔族の姿があった。
ブライドル全土が戦火に包まれているとき、国境を越えて一団がやって来た。
銀髪をなびかせた少年を先頭にした、深紅の瞳の集団が後ろにてんでに雑多な装備に包まれた傭兵を引き連れて、兵乱の地を訪れた。
今回は説明不足かな?