空を覆うほどの大量のモンスターがいる。
全て翼を背中につけた飛行型の魔物だ。
明らかに異常事態だ。
「まずいな………。ひとまず、めぐみんの家に行ってこめっこの無事を確かめるのが先決か……。」
「私もそれがいいと思うよ。ひょいざぶろうさんとゆいゆいさんは、今は里にいないんだよね?」
「ええ、できた製品を売りに行っててまだしばらくは戻ってこないはずです。」
………そうなのだ。今、家にはこめっこが一人で留守番してるはず……。こめっこ……。
たどり着いた我が家にはカギは掛かっておらず、中には誰もいなかった。
「こめっこ………こめっこはどこですか?こめっこ?」
血相を変えて飛び出そうとした私の手を左右から伸びてきた腕がつかんできた。
「ゆんゆん、ユウヤ、二人とも離してください。
こうしてる間にもこめっこが!」
「まあ、待てよ。ゆんゆんは、何か手軽に食べられるものを台所から持ってこい。
めぐみんは、こめっこが行きそうな場所に心当たりはないか?」
「こめっこは、あれからたいていホーストと一緒にいることが多いです。魔神の丘か、でなければ猫耳神社にいるはずです。」
「………分かった。めぐみん、走ることになるから靴を取り替えろ。ゆんゆん、食料と水を用意したか?」
「うん、袋からすぐ取り出せるようにしたから。」
ゆんゆんは、私達にそれぞれ袋に入ったものを渡してきた。中身はおにぎりと唐揚げにした肉だった。
おのれ、我が家の貴重な食料を……。
無言でブーツに履き替える。
「手分けして探すのがいいんだろうが……。
魔法を取得してない魔法使いは戦力にならない。
ここは、三人でまとまって探すしかないか。」
「一緒に行ってくれるのですか?」
「何を当たり前の事言ってるんだよ?
いつもの里周辺のモンスターだって中級魔法じゃ無理だろうが。用意できたら、行くぞ。」
私達が走ってる途中でも、里の外周部から内へ向けて色鮮やかな魔力の奔流が生じていた。
里の大人達が現れたモンスターを封じ込めにかかっているようだ。
「どうやら、撃退ではなくて殲滅をねらっているようだが………、これは急がないと不味いな。」
ユウヤが走る速度をあげる。私とゆんゆんも必死についていくと、猫耳神社に近付いたところで一面の炎に包まれた場所があった。
「ええい、うっとおしいヤツラめ。
インフェルノ!!」
およそ百体ほどもいたモンスターが上級魔法の一撃で火だるまになり地上に墜落した。
そこに仁王立ちしていたのは、ホーストだった。
「ホースト!」
「おぉ、おめえらか。ウォルバク様とこめっこを知らねえか?」
「え~、一緒じゃないの?どうしよう。どうしよう。」
「落ち着け、ゆんゆん。ホースト、ウォルバク先生とこめっこは一緒にいたのか?」
「あぁ、今日はあのクロネコも抱えて魔神の丘に向かったはずなんだ。俺も後から行くはずがこいつらに邪魔されてよ。」
ユウヤが私とゆんゆんの二人をじっと見る。
「私達はついていきますよ。置いていこうとしたら、あなたの恥ずかしい話を広めてやります。」
「………。悪いがホーストは二人を背中に乗せて運んでくれ。今すぐ出発だ。」
そう言うと、いきなり彼は走り出した。
やはり、今までは私達にスピードを合わせてくれていたようだ。
「ほら、俺の背中に乗りな小娘ども。」
おずおずと背中に乗ると、浮かび上がったホーストは翼をはためかせ、猛烈な勢いで飛ぶ。
あっという間に着いたそこでは、ウォルバクのもう一人の部下アーネスが奮闘しており、それをクロを抱えたこめっことウォルバクがじっと見ていた。
「ウォルバク様、ご無事ですか?」
「ありがとうホースト、いいタイミングだったわ。
アーネスが頑張ってくれていたんだけど、彼女も疲れてきたみたい。」
「それじゃあ、俺とホーストがしばらくもたせるから、アーネスは休憩してこめっことこの二人をみておいてくれ。ウォルバク先生は、爆裂魔法の詠唱の準備を。準備ができたら、声をかけてください。」
いつのまにか追い付いていたユウヤが黒い刀身を抜き放った。
「あんた大丈夫なのかい?今のうちに魔法習得した方がいいんじゃないかい?」
「問題ない。隣にはホーストがいるからな。」
無数のモンスターの群れに突撃する二人。
上級悪魔である実力者ホーストにユウヤは全くひけを取っていない。
上空を滞空している敵を空からホーストが叩き落とし、地上に降りて来たモンスターをユウヤがあっという間に切り伏せる。目にも止まらぬ速さとはこの事だ。
二体の敵を切断した彼の死角から音もなくもう一体が迫る。
「ユウヤ~!!」
私は、唖然としてしまった。彼は、迫ってきた敵に対して振り向きざまに斬擊を放って周囲を巻き込んで消滅させてしまったのだ。
「凄まじいねえ。とうに一流のソードマスターの域に達してるじゃないか。」
アーネスが息を整えながら呟く。
二人が戦っている場所を敵は包囲しようとしており、少しずつこちらに下がってきた。
「準備完了よ。二人とも下がりなさい!」
ホーストが飛んでくる。ユウヤが矢のように駆けてくる。そして、ウォルバク先生の掲げる杖からまばゆい光がほとばしる
「エクスプロージョン!!」
一直線に伸びた猛烈な爆炎は前方の辺り一面をなぎ払い、巨大なクレーターを造り出していた。
空を覆っていた無数のモンスターも見当たらない。
「もう、モンスターは居なくなったのかな?」
「さすがにきつかったわね。先生、疲れちゃったわ。」
「先生は、今日はもう、爆裂魔法はキツいでしょう。猫耳神社に帰って休んでください。
できれば、ホーストとアーネスと一緒にこめっこ達を守ってほしいんです。」
「あなたは、………ユウヤ、あなたはどうするつもりですか?」
私は気がついてしまった。里のモンスターは一掃されつつある。侵入した敵の全滅はすぐだ。
しかし、新たに大量の敵が外から迫っている。
魔王城のある方角から押し寄せてきている。
「ここにいる皆は疲れている。しかし、俺は戦える。
そして、ここが魔法を習得するタイミングだと思う。」
彼が懐から冒険者カードを取りだし一覧に指を這わせる。習得した魔法が濃く浮かび上がる。
「超級魔法!何ですかこれは?必要取得ポイントが80ポイント!!何ですかこれは!」
問い詰めようとした彼は、空中に浮いていた。
驚く皆を尻目に飛ぼうとしていたユウヤに向かって私は思いきりジャンプして彼にしがみついた。
面食らった彼だが、しっかりと私を抱き締めてくれた。
「ユウヤ、私も行きます。連れていってください。」
私の目を見つめた彼は背中にしがみつかせて高度をあげた。
「行ってくる。終わったら合流するから。」
大空を飛んでいる。ユウヤと二人で。何だか嬉しい。今だけはユウヤと二人きりだ……。
「ぼんやりしているところ悪いがな、そろそろだぞ。」
「下に降りるのですか?」
「まさかな。地上部隊もいるようだが空中にもそれなりに敵がいる。こっちが上空にいる間に勝負を決める。」
彼は自分の黒剣を掲げて短く呟く。
「この世の全てをなぎ倒す。敵を滅ぼせ。
隕石落とし《メテオストライク》」
瞬間、紅蓮の炎に包まれた大量の巨大岩石が魔王軍に降り注いだ。空にいた者も、地上にいた敵も等しく跡形もなくなった。ただ一人生き残ったのは、急いで障壁を貼った敵の指揮官だけだ。
信じられないものを見た目をしたその少女は、満身創痍ながら飛行して退いた。強い意思を秘めたその視線は真っ直ぐユウヤを射ぬいていた。
「あっけなかったですね。追わなくてよかったんですか?」
「俺のレベルを考えてくれよ。今、魔王城に行っても、なぶり殺しにされるのが落ちさ。
それよりもまだ少しは魔力がある。猫耳神社まで空中散歩しよう。」
「何故横抱きに態勢を変えるのですか?」
「このほうが景色を見やすいだろう?」
いわゆる、お姫様だっこをされている状態だ。
私は、恥ずかしさで彼の首にしがみつく。
景色など見ている余裕などない。
「ユウヤは私のことをどう思っているのですか?」
「前に言った通りだ。俺はめぐみんが好きだし、必ずお前を嫁にする。」
何も言えなくなってしまった私は、黙って彼にしがみついていた。静寂は決して不快ではなかった。
あれから一週間、魔法学園レッドプリズンを卒業したユウヤは今日が旅立ちの日だ。
卒業した彼だが、毎日の魔物狩りの他に時折攻めてくる魔王軍の撃退にもブッコロリーらのニート集団と共に参加していた。
あの女指揮官も攻めてきたがユウヤを見かけると急いで撤退した。なぜか、強い者に対する憧れがその目に宿っていると感じたのは気のせいか。
食料を我が家に届け、魔王軍から奪った装備を里の鍛冶屋に持ち込んで自分用の鎧などを製作してもらっていた。
里の入り口で戻ってきた我が父ひょいざぶろうが私の隣で立っている。そばには、母ゆいゆい、こめっこもいる。
「一年以内にテレポートの呪文を覚えて一度戻ってきます。その時は……。」
「どうしても、めぐみんがいいのかね?
君は従兄弟なのだからゆんゆんの方が良いのじゃないかね?あちらも望んでいるようだしね。」
少し離れたところから、ゆんゆんとあるえに、ねりまきもこちらをうかがっている。おのれ……。
「俺は、めぐみんが好きです。確かに一夫多妻の制度はありますが、俺のお姫様はめぐみんです。
めぐみん、卒業したらアクセルに来い。その頃になったら、俺も駆け出しの町に行く。」
「あなたは、他の街を廻るのですか?」
「俺のレベルが微妙だからな。
アクセルでは仕事がないかもしれない。
各地を廻ってみるさ。王都は面倒だが……。」
「分かりました。私も卒業したら、必ずアクセルに行きます。そこで再会しましょう。」
「私もアクセルに行くよ!絶対にユウヤとまた会うからね?」
「もちろん、私も諦めないよ。」
「私もお父さんに言って冒険者になるんだから!」
このぼっちにビッチにアバズレが!
「ユウヤは今、私と話しているのです。邪魔しないでもらおうか!」
「なに言ってるのよ?めぐみんは、ユウヤに好きだって告白してないでしょう?自分の意思を伝えてないのに束縛するのはおかしいわよ!」
……こいつらは敵だ!私は全身真っ赤になるのを意識してユウヤに向き直る。
「ユウヤ、あなたは私の男です。必ず私の夫になりなさい。」
一瞬驚いた彼だが、笑みを浮かべると私にキスをして来た。ぼうぜんとしている内に背を向けて歩き出してしまった。
「我が名はユウヤ!紅魔族随一の究極戦士にしてやがて英雄と呼ばれる者。めぐみんを必ず嫁にするもの!」
背を向けた彼から大声で宣言が聞こえ、私はその日一日中冷やかされた。
雰囲気に流されてめぐみんが告白しました。
めぐみんは独占欲が強いようです。
今回はいつもより長くなりました。