世界の変化に追いつけない   作:ありくい

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第百一話

 

無謀だと私は思った。

正義君が一人で明子ちゃんと対峙する。これ自体は正直何とも言えない。ただ、一つ言えるのはそれじゃ絶対に犠牲は抑えられないということ。明子ちゃんからしたら戦う数は多ければ多い方がよくて、それなら当然、全天をなんとかしようとするだろう。そして、明子ちゃんはあの、圧縮した魔法で簡単に全天を破れる。

正義君だってそれを分かっているから、たぶん戦いの中で弾こうと考えているんだろう。だけどそれには限度がある。明子ちゃんは複数の魔法を一度に使えるのだ。もし、全方位にでも撃たれたらそれだけで破綻する。

 

「止めないと」

武器を構え出した二人に向けて何かを言おうとしたその瞬間だった。

「っ!」

「チッ」

一斉に二人が飛びのく。そして、物の影から闇が飛び出した。どうやら、いろいろと作戦とかを考えていたのは徒労となってしまったようだ。ただ、これは正義君にとっては好都合のはずだ。なんせ、洗脳されてしまった人のいない場所が勝手に作られたのだから。

「≪全天≫≪聖域≫」

ともかく、私は自分の役割を果たすことにする。全天を皆の前に設置した。

「こ~んに~ちわ~」

ぴょこっと闇の中から犬が飛び出してきた。

「悪魔め…!」

ヒカさんの反応から見るに、これがベルなんだろう。ベルに続いて、明子ちゃんも闇から出てきて、その闇はベルに吸い込まれていった。

「いやはや、妨害工作、作戦会議。お疲れ様!でも、別れるのはまずかったね?」

そういわれて、理解する。明子ちゃんは純君を探してここに来た訳ではないということ。つまり、私達を潰しに来たのだ。

そして、赤い光が一瞬視界に映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「見捨てた」

真っ暗な空間に憎悪に満ちた声が響く。顔をあげて声の主を探そうとする。

「これまで何度も助けてあげたのに」

それは、よく見知った人たちの声で、今は安否の分からない人たち。

「そんな悪い子を生んだ覚えはないわ!」

それは、かつて大好きだった人の声で、もう会うことの叶わない人。

「どうして!皆よくしてくれていたのに!」

それは、誰よりも多く聞いた声で、だいっきらいな私。

覚悟の上で起こした行動。責められることを、嫌われることを分かっていて、でも、彼のために起こした行動。誰よりも彼を優先した故に起こした行動。

ずっと、ずっと、ずっとずっとずっと。憎悪が私を包み込んでいく。後悔という名の地面は私を縛って動けなくする。

私はもう、ずっと下を向くことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

香菜の体から赤い光が飛び出した。それは、いつの間にか香菜の後ろにあった闇を経由して香菜の体を貫き、こちらへ向かってくる。

「香菜!」

「≪聖域≫!」

すぐさま、香菜のお父さんの聖域によって、血が出ることなくその傷は塞がった。僅かに上下する体を見て、明子へと視線を戻し、香菜を背中に構える。

こちらへ魔法を撃とうとするその時、刀が明子へと振り下ろされた。それは、目で追うのもやっとな速度で誰もが殺ったと確信出来るほどの距離まで刃が振られている。

カァンとよく聞く音がした。心当たりなんて一つしかない。飛んできた魔法を捌いて一度香菜から離れた。

ゆっくりと立ち上がった香菜の表情はなく、目の光は失われていた。

 

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