世界の変化に追いつけない   作:ありくい

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百三十三話

 

「正義!大丈夫?」

「ごほっ。ま、あ、立てるくらいには」

そうは言ってもふらついていたので肩を貸して、ゆっくりと魔王の元へと近づく。魔王はどう見ても満身創痍だ。少し聖剣で小突けばもう死ぬはずだ…!

「血、飲む?」

私の血には死すら巻き戻す力がある。この傷の原因は分かってはいないが、大抵の怪我ならこの血でなんとかなる。

「う、うん。ケホッ」

「ムタダゾ!キサマハワタシトトモニシンデイクノダ!」

なんか言っているが無視して血を飲ませる。正義の顔色はみるみるうちに良くなっていき、そして、

「がはっ」

また、血を吐き出した。

なんで?この血の力は絶対なのに。たとえ神であっても覆せない絶対のはずなのに。

「魔王を殺すしかない?」

それで正義が治るかも分かっていないが今思いつくのはそれくらいだ。再び、魔王の元へと確実に近づいていく。そして、巨大な体によじ登り、胸の辺りまでやってきた。

「できる?」

「うん」

正義はゆっくりと聖剣に光を集めていく。魔王は諦めたのか抵抗の素振りを見せていない。

そして、聖剣が魔王の体に少しだけ入り込んだ瞬間、正義は、心臓部を押さえてうずくまった。

「正義!?どうしたの!?」

「なんか、胸が貫かれそうな気がして…」

それを聞いて、正義の手をゆっくりと剥がして胸の辺りを確認する。しかし、傷口のようなものは全く見つからなかった。

だとすれば…

「正義。ちょっと待ってて」

魔王の足まで行き、左指の一本を切り飛ばした。

「があっ!」

正義の叫び声が響く。どうやら、予想は当たっていそうだ。

「正義。今、どこが痛かった?」

「ひだ、りゆび」

そういいながらずっと指を押さえている。でも、取れている訳ではないみたいだ。

今、正義は魔王と感覚が共有されているのだろう。多分、喰らった感覚を正義に送るという形で、だから血を飲ませた時も一度治ったがすぐに血を吐き出したのだろう。

これは、大丈夫なのか?私がアシストして、正義が聖剣を深く胸に突き刺せたとしよう。その時、正義は生きているのか?

 

とにかく、正義と話してみよう。

 

「…という状態だと思う。その上で、正義はどうする?」

「……、レイはどう思う?」

自分の生死がかかっているのに人の意見を聞くのはあまり良くないと思うが、気になるなら教えてやろう。

「私としては、やってほしい。それが、一番確実に魔王を倒せるからね」

この魔王が、多分今いる人類を滅ぼせる最後の手段だ。だから、確実にここで倒したい。

「そっか…。ねえレイ。ここでこの魔王を倒さないと、まずいかな?」

「そうだね。せっかく倒した化け物達は数を戻すだろうし、なにより、この魔王がさらに強くなっていくだろうね。人類の中で勇者しか倒せないんだからレベル上げ放題だよ」

この世界にこの魔王とやり合える存在はどれだけいるのだろうか。いるとしたら、別の勇者くらいだろう。ま、それだと他の魔王もいる可能性が上がるので勘弁してもらいたいけど。

「じゃあさ。もし僕が死んだら香菜と母さんを守ってくれる?」

…へー。

「そのくらいは約束するけど、それでいいの?」

「だってその方が良いんでしょ?」

どこか諦めの混じった目をこちらへ向けて来る。自己犠牲の精神は素晴らしいけど、ほんとにいいのかな。

「そうだね。その方が私としては助かる。人類全体で見てもそういえる。でも、香菜は?正義のお母さんはいいの?」

正義が拳をギュッと握った。

「香菜のこと、好きなんでしょ?両思いみたいだし勿体ないよね。それに、お母さんと約束したんじゃないの?お母さん、香菜に起こされてから、ずっと心配してたよ?」

正義が拳を私に伸ばしてきた。まあ、避ける意味もないので、正直にもらう。

「じゃあなに?どうすればいいの!?これで僕が何もしなかったら皆死んじゃうんでしょ?じゃあ魔王倒すしかないじゃん!」

「あー。そうじゃなくてだね」

「は?」

「いや、魔王を倒すことを辞めてほしい訳じゃないんだけど、その、生きるのを諦めるの、辞めない?」

何と言うか、死ぬのを前提として欲しくない。

「…なにか、生き残る方法でもあるの?」

「いや、ないけど」

言いながら、無責任だなと思ってしまう。

「最悪を想定して動くことのなにがおかしいの?魔王を倒して僕が道連れになるかはまだ分からないけど、死ぬ可能性があるならそっちを考えるのは普通でしょ?」

「そう言ってるけど、死なないように少しでもなにかしようとは思わないの?」

「え?」

「さっきから、死んだ後のことは考えても、死なないようにすることは考えてないでしょ?」

「そんなの、考えたって分からないよ!」

「考えてもないのにそんなことが良く言えるね。誰かが言ってたけど、奇跡は諦めた人には起こらないんだよ」

「…」

「多分ちょっとは時間があるからじっくりと考えなよ。後、コメント見てみたら?助かる方法書いてあるかもね?」

そう言い残して、私は一度正義の元を離れた。

「じゃ、時間稼ぎと行きますか」

ダンジョンの入口から出てきた化け物をぶっとばした。

 

 

 

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