世界の変化に追いつけない   作:ありくい

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第四十八話

 

「風花ちゃん!こっち来て!」

溢れ出た闇は隙間という隙間へ入り込み、空の光を遮断する。目に涙を浮かべた風花ちゃんを抱えた俺は姉さんとの合流を一度諦め、一気に後ろへ飛んでから周囲を警戒する。

「風花ちゃん。大丈夫だから泣いちゃダメだよ」

できる限り小さく、かつ、優しい声をかける。物音を立てず、見つからないように、警戒し続ける。

警戒を続けていると、闇の中に光がともった。それはとても小さな赤い光でまるで目のようにこちらを見つめていた。

「≪火魔法≫」

すぐさまそこへ炎を投げつける。が、強烈な光を伴うこの炎は闇に塗り潰されてしまった。

「あ゛あ゛?なにすんだテメェ!」

一気に赤い光が、違う、人が襲いかかってきた。応戦したいが片手は風花ちゃんで埋まってしまっている。何とか代償強化で腕を強化して受け止める。

「おっも…!」

反撃に出たいが、両手が塞がってしまっているため難しい。逃げたいが周囲は闇で出口がどこかすら分からない。

「ア?お前、前の女じゃねぇか!この前は顔を焼きやがって!殺す!」

闇がさらに深くなり、男の力も上がっていく。もはや男の赤い目すら闇へと埋もれていて、男の腕しか見ることが出来ない。それゆえに飛んできた左腕への反応が遅れた。

「死ねヤァ!」

ゴキッと骨が軋む音がするほど強く殴り込まれる。歯は飛ぶどころか砕け散り、血が飛び散る。

「まだまだァ!」

二発、三発と顔に向かって拳が飛ぶ。俺はいっそそれを受け入れて、殴られた勢いのままバックステップして距離をとる。

「ゴメンね。風花ちゃん!」

風花ちゃんをその場へと降ろして男に迎え撃つ。両手が開いたからやっと反撃に出れる。飛んできた拳に対して、横から叩いて軌道をずらす。流れるように足で蹴りを入れた。

「っっっあ゛あ゛!いってえなこの野郎!」

またもや切れがさらに良くなった拳が飛んで来る。顔を傾けてすれすれで避けた俺は右手で殴りつける。皮膚が切れたが気にしないように、追撃をしかける。

「チッ!」

男は舌打ちの後、すぐに引いた。明らかに怒っているような言葉使いではあるが冷静ではあるようだ。引いたことにより、目の前の闇は消えさって見通しが良くなる。それにより、姉さんを見つけることが出来た。

「姉さん!」

「純!危ない!」

「分かってる!」

再度襲い掛かってきた男に勢いが存分に乗った拳をお見舞いする。腹へと埋まるように入っていた拳によって男は弾き飛ばされ、そのまま追撃の火魔法をぶち込む。

「姉さん!風花ちゃんをお願い!」

「分かっているわ。正義君も何とか呼ぶから!」

それはありがたい。正義がいればかなり楽になるはずだ。

「来た!」

メラメラと燃え上がる炎の中から、男がはい出てきた。

「糞があああああああ!死ねぇぇぇぇえ!」

その時ブワッと闇が膨れ上がり、バッカデカい大剣を形作った。

「はっ?」

大剣の重さを感じさせない速度でそれは振り下ろされて、俺の体は両断された。

 

 

 

 

「チッ!やっと死にやがったか!手間取らせやがって!」

男はこちらを見ることなく、イライラとした表情のまま風花ちゃんと姉さんの方へ向いた。

「お?いい女がいるじゃねえか!いいねぇ」

パッと明るくなった瞬間、辺りの闇が薄くなった。意識を取り戻した俺は倒れたまま隙を伺い続けていた。

ゆっくりと、姉さんと風花ちゃんの恐怖を煽るように一歩一歩歩みを進める。俺はその男の足に向かって銃弾を撃ち込んだ。パァァァンと音が鳴り響き、血飛沫が舞う。すぐさま立ち上がって押さえ付けようとすると、男の傷口から闇が溢れて傷を塞いだ。

あの闇は武器にもなって目くらましにもなる癖に、回復機能まであるのか?だとしたらどうすればいい?殺すしかないのか?いや、そんなこと考えてる場合じゃない!

せっかく薄くなった闇は再度濃くなっていき、その勢いは止まるところを知らずに、気付けば自分の体すら見えなくなっていた。

「俺の邪魔ばっかりしやがってぇ…!」

瞬間、代償強化の材料として左腕を全て使いそなえたが、先ほどまでのパンチより数倍重いパンチをくらう。頭への衝撃が強すぎて視界が二重にも三重にもぶれている。

「ガッ…!」

「ふざけんじゃねぇ!」

辺りを埋め尽くしていた闇が一カ所へと集まり、数えきれない程の針を作り上げていく。それは、避けることが不可能なくらい広範囲に及ぶ、巨大な針の雨のようだった。

俺は死ぬことがないが、姉さんと風花ちゃんは違う。何とかなることを期待して、降り注ぐまでの僅かな時間で代償強化を繰り返して、二人の壁となる。そんな努力も虚しく、俺の皮膚がぷつっと貫通したのを感じた。

死んでしまう。姉さんが、風花ちゃんが。絶望が心を満たしかけたその時、風花ちゃんが呟いた。

「≪ダンジョン作成≫!」

 

 

俺達は、いや、俺と姉さんは薄暗い洞窟の中にいた。そこに風花ちゃんは見当たらなかった。

 

 

 

 

 

 

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