ただの、地獄であった。
心臓を貫くだけならまだいい。即死できるから一瞬の激痛ですむのだ。夜の方は五秒くらい継続して続く分、夜と比べればましではあるのだ。流石に繰り返されるのはあれだが。
それは喋れるくらいに知性があるからか、それとも怨みがあるからか。
『飽きてきましたわ』
目の前のボスは途中から効率を度外視して様々な殺し方をやってみせた。
大きなりんごで顔からゆっくりとすり潰したり、
首を絞めたり、
胴体を大きく反らして背骨を折ったり、
臓物を一つ一つ摘出したり、
小さな傷口をえぐり続けて広げたり、
手足には危害を加える事なく、右手が拘束されているため代償強化すら使えない。
頭のてっぺんからブチブチと潰されても、じっくりと枝がしなるように首に巻き付いても、骨が軋み折れる音が鳴り響いても、心臓と肝臓と腎臓と肺と胃と膵臓を血管で繋がれたまま引きずり出されても、回復するためなかなか死ねない穴を空けられても、どれだけ助けてと叫ぼうとも、どれだけ痛いと嘆こうとも、
結局は見ていることしかできない。
完全に詰みといえる状況であった。本当ならもう諦めている所だろう。死という平穏を望みはじめる所だろう。彼女に任せる所だろう。でも、
「丸投げはダメだろ…!」
こんな状況を作ってしまった癖に、それを一人の少女に丸投げしたとしてこれからどう彼女と接すればいいのだろうか?せめて、この状況だけは抜け出さないといけない。
「≪火魔法≫」
右腕から炎を作り出すものの強化の入っていない魔法ではたいした効果はない。そして頭を潰される。いたい。
ならばと力を入れて巻き付く枝をちぎろうとするも、
『その程度ですか?』
ちぎれる様子は全くなく、むしろ指すら動かないように枝に包まれてしまった。そして体を布のように平たく畳まれる。いたい。
せめて、代償強化が使えたら…。りんごが頭を押し潰す。いたい。いたい。いたい。
「純!ごめんね!」
姉さんの声がすぐ耳元で響く。ねえさんだ。ねえさんならたすけて━━━
俺の右の腕が根本から切断された。
「え?」
突然のことに頭が真っ白になる。ぷらぷらと肩から先をなくした腕が揺れ、不死の効果で切断面が塞がれ、新たな腕が生えはじめる。
どうして?うらぎり?でも、ねえさんはそうしてもはえることをしっているはず。きられたってすぐにはえる………。
「……!そういうことか!」
パッと明るくなった視界でまだ生えきっていない右腕で自身の左腕、両足を強化の材料とする。右腕以外の手足は消えて拘束から逃れた俺はボトッと落ちて姉さんに回収される。吹き出る赤で姉さんが染められる。
『逃がしませんわ!』
飛び出てくる根っこと枝。先は鋭く尖っている。
「…ねえざん!ぢょッどいだいげどごめんなざい」
消え去った部位の痛みに喘ぎ苦しみながら、されど力を振り絞り、姉さんの肩を掴んで襲い掛かってきた根っこと枝を盾として受け止める。代償強化は基本重複する。そして、三つの手足を使うことで上がるステータスは1500!
「ま"だま"だぁ!」
「純!?」
『ハァ?貫けないですの!?』
すべての攻撃をいなしきって、炭の木の裏へと回りすべての手足が生えそろうと緊張が途切れ、意識を失った。
「別によかったんだけどなぁ。いや、その行動はカッコイイけどさ」
目を覚ました少女は立ち上がり、大木を見上げる。
「ここまでやってくれたんだし、ちょっとくらいサービスしますか」
少女は構えをとり、息を大きく吸って、笑った。
「さぁ、倍返しだってね」
赤い光を纏った少女は大木に向かって拳をはなち、
手の形をした穴を空けた。