世界の変化に追いつけない   作:ありくい

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第六十二話

 

「あ…いや…」

怖い。背筋が凍って、冷や汗が背中を伝う。

「なん、で」

怖い。声が掠れて、まともに発声できているか分からない。

「なんでこっちみるんだよ……っ!」

こわい。こわい。こわ━━━━

 

「純♪」

パッと視界が遮られた。そして、世界に音が戻る。何事もなかったかのように人々は活動を再開する。

「久しぶり♪会いたかった」

安心から崩れ落ちそうになった体を黄色い服を来た少女に支えられる。

「…明子?」

「そうだよ。純♪」

これ以上のないほどの眩しい笑顔を浮かべた明子が目の前にいた。明子は俺の頬に手を当てて、じっとこちらを見つめている。

「大好き」

「!」

そして、唇を重ねてきた。

咄嗟の事で、すぐさま逃れようとする。でも、ものすごい力で固定されている俺は何にもできない。そして、そのまま押し倒された。

「っぷは、はぁむっ!」

足はからめとられて、身動きができない。そして、何度も何度も唇を重ねられる内に頭がボーッとしてくる。ぼんやりと景色が悪くなってきて、明子しかはっきりと目に映らない。

なんできすされてるの?なんでめいこはこすぷれしてるの?つうこうにんはどうしたの?ねえさんは?

様々な疑問が浮かび上がって来たはずが、端からどんどん薄くなっていく。

あれ?なにかんがえてたんだっけ。

「んんぅ。はぁっ」

えっと、えっと

「はぁむっ!」

きもちいしあったかいし、どうでもいっか。

 

 

 

 

 

「純!戻ってこおおおい!」

口元の感覚が消え去った。

「純!純!」

さびしい。こわい。

「クッソが!≪光魔法≫!」

ふわっと体が光に包まれた。そして、やけにぼんやりとしていた意識が浮き上がって来た。

「あれ?正義?」

目の前では正義が何故か、俺を守るように背中を向けて立っていた。その奥には明子が無表情で正義を見つめている。

「どうして邪魔するの?」

ゾッとした。心の底から軽蔑の意が込められているようなその物言いに寒気がした。

「いや、邪魔って訳じゃないよ。ただその前に世界を戻して貰えないかな?と思ってね」

さっきまでの焦りはなくなり、少し余裕があるかのように話す正義。ってかさっきからなにを話しているのだろうか?

「なぁ。何の話してるんだ?」

「純は気にしなくていいよ♪」

「後で話すから」

仲間外れだぁ。ひどいぃ。

そこでふと、姉さんの事を思い出した。今思えばさっきまでの状態はかなり異常であったと言える。姉さんが何も言わないのはおかしい。

「ねぇ、姉さん?」

「………」

横に突っ立ってる姉さんはボーッと虚空を見つめている。

「姉さん?」

「…………」

え?何が起こっているのだろうか?ここでやっと俺は危機感を覚えはじめた。

「流石に純も気づいたようだぞ?」

「そう。じゃあ、連れていかないとね?」

明子がそういった途端、通行人がまたもや立ち止まった。そして、俺の方に駆け寄ってきた。

「逃げろ!純!あとから避難場所教えるから!」

「え?え?わ、分かった!」

すぐさま足に力を入れて飛び上がる━━つもりが姉さんに腕を捕まれて飛び出せない。

「ちょ、何すん━━━」

姉さんは無表情で俺の腕を掴んでいた。無理矢理剥がすか?悩んでいる間にも、通行人達は俺の方へ近づいて来る。

「うぅ。ごめん!」

無理矢理引っぺがして路地裏の瓦礫伝いに高所へと逃げる。姉さんの肩とかに影響がないか不安ではあるが、なんとか屋根まで行けた。ここなら追ってこれる一般人はいないだろうと思っていると、ブウウンと音がしていた。

上を見ると迷彩柄の飛行機が俺の頭上を旋回している。おそらく自衛隊のものであろうそれが頭上にいる。それが助けだと頭をよぎったがその希望はすぐに打ち砕かれた。

ものすごい悪い予感に従って、通ってきた道を振り返る。すると、複数人の自衛隊がこちらへとよって来ていた。

「嘘でしょ…」

そして、これから行く方向にある民家からも何人もの人が家から出て自身の家の屋根に登りはじめる。

 

何処に行けばいいのか分からない、そして殆どの人間が敵である地獄のような逃亡生活が始まった。

 

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