迫り来る父さんの左右に真っ赤な柱が建ち並ぶ。明らかに逃げ道をなくすためのものだった。頭が怒りに狂いそうになるものの、落ち着いて何とかする方法を思案する。
父さんはそれほどステータスが高くないのか遅い。取り押さえるのも容易なはずだ。しかし、周囲の炎の柱に当たらないようにしなければならない。
父さんのステータス程度ならナイフでもそこまで傷はつかないはずだ。なら、わざと受けるのもありだろう。
そこまで考えたときには、父さんは一メートル程の距離まで近づいていた。憎悪の表情を浮かべて近づいてくる。
「っ!」
突然の加速。見れば何かに押されたように父さんはナイフをこちらに構えたまま、吹き飛んでいる。
「風魔法か!」
咄嗟の判断で急所は避けたものの、ナイフが体に深く刺さってしまった。
「痛っ!」
感じることがあまりなかった痛みに思考が乱される。とりあえず目の前の父さんを軽く締めて気絶させたところ、父さんの背後が大きく光った。
「え?」
真っ赤な炎に父さん諸共飲み込まれた。
服は焼け焦げ、穴の空いた服から見える肌は真っ赤に腫れ上がってもなお、烈火正義は生きていた。おそらく、彼の最も身近にいた生物であろうものの灰が彼の前面には降りかかっている。
彼の目にはとどめを刺すために火、風、水の三色の魔法を準備する元友達が映っていた。こんなボロボロな体によくもまあそんなに念入りにとどめを刺そうとするものだと笑いが込み上げてきた。もう、怒りも憎悪も抱く余裕などない。
「なあ、なんで此処までするんだ?」
冥途の土産にでもするためにそんなことを聞いてみる。おそらく、時間稼ぎにもならないであろうその質問は当然のように無視された。雹と炎を纏う竜巻という何ともいえない幻想的な風景に正義は幼なじみである二人の親友と一人の自衛隊となった友達の無事を祈って目を閉じた。
「させない!≪全天≫≪聖域≫!」
耳に馴染んだ声に反応して目を見開く。すると、温かな光が体を包んだ。痛みを訴えていた肌や傷口が焼かれ塞がっていた腹部でさえも優しく直っていった。そして、幻想的とも言える竜巻は空まで伸びる虹色の壁によって阻まれた。
「正義君!大丈夫!?」
「か…な…?」
純ではない、もう一人の親友がそこにいた。
「はぁ、はぁ…。終わった?」
竜巻が消え去って疲れ果てた様子の彼女はその場にへたり込んだ。すぐに聖剣を取り出して明子の追撃を警戒するが、徒労に終わった。
「逃げたのか?」
周りの家は瓦礫すら残らず破壊され平地となったそこには原因となる彼女はもういなかった。香菜のおかげで傷はすべて塞がって、万全の調子となっていたが、逃げられたらしい。
「香菜。ありがとう」
一応警戒は続けながらも深々と彼女に頭を下げた。
「いやいやいや!そんなのいいよ!」
焦ったように手をブンブンふる彼女は頭を上げるとふんわりと微笑んでから安堵したように
「正義君が無事でよかったよ」
と言った。
その微笑みに目を奪われじっと見つめてしまった。すると向こうもじっと見つめ返してきた。じっと目を反らせず、静寂が辺りを支配して、先に目を逸らしたのは僕だった。
「私の勝ちぃ~」
「勝ちって…。そんなことより香菜は無事なの?」
「あ、うん。私も家族も誰も洗脳されてないよ。信者さんは何人かされちゃったけど」
よかった。香菜が同じような目に会う可能性がなさそうで安心する。
「正義君はどうなの?」
聞き返された。
「いや、わからないよ」
父さんが亡くなってしまったがいちいち言って彼女に責任を感じさせるわけにはいかないと少しだけ嘘をついた。それを聞いた香菜は、
「そっか。ごめんね。でもそれならさ、家来ない?」
そんな事を言ってきた。