世界の変化に追いつけない   作:ありくい

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第六十八話

 

「あれ?皆どうしたんだい?」

香菜に連れられて家に行くとかなりの人がいた。同じような服を着ているところからして、香菜の家の宗教の信者さんだろうと推測できるが、そのどれもが絶望したような顔をしていた。

「あ、これはね…」

「お!正義君じゃないか。久しぶりだね」

「香菜のお父さん。お久しぶりです」

人混みの中から香菜のお父さんが出てきた。明るい声ではあるのだが、やせ我慢のような感じがした。

「ああ、ごめんね。まあこの雰囲気は許してくれ。彼らの心の支えがなくなってしまったんだ」

 

 

二日前、聖女の役職を持つ香菜の成長に熱心になっていた彼らはついに神の声を聞ける称号を得ることに成功した。これは香菜だけでなく、レベル上げに参加したすべての人に配られたようで、はやる気持ちを抑えながら教会に集合して一斉に声を聞くことになった。

いざ、称号を手にした信者と香菜。そして得られなかったもの達も集まり、ついに使用することになった。神の声に感動して涙を流すもの、抱き合うもの、少なくともほとんどの人が喜びに溢れていた時に、唯一連日のレベル上げに疲れ果てていた香菜が質問をした。

なぜ、こんなことになったの、と。

その透き通るような高い声はその場にいた人の耳に入り、同時に同じような疑問が広まった。

そして、

 

 

その質問は“面白そうだから“の一言で返された。

 

 

神が私達を見守ってくれている。信じていれば助けてもらえる。そう信じ、心の支えとしてきたもの達はその一言で崩れ落ちた。家族を失っても、恋人がいなくなっても、仕事を失っても、神を信じて、心の拠り所として生きてきたもの達は絶望にのまれてしまったのだ。

もちろん。それを認めぬ者もいた。声を荒げ、邪神だと叫び、暴れ回った後、足元から全身にかけて光の粒となり消えていった。何よりも信じがたいのはその男は体が光の粒に変わりはじめると信じられないくらいに穏やかな顔をして消えて行ったことだった。

それは人々を畏怖させ、神であることに疑いを向けるものはなくなった。同時に、絶望から逃れるすべもなくなったのだ。

 

後に香菜のお父さんは信者達が自殺するのを防ぐため≪聖域≫を展開した。聖域は傷を癒すだけでなく、精神を癒す力もあるためだ。なんとか生きるように説得したものの傷は深く、気力がないまま生きているらしい。

「それは辛いですね…。でも、洗脳についていつ気づいたんですか?」

「それはね…今日のこと何だけど」

他よりも一層絶望していた三人の信者が突然元気になった。余りの豹変ぶりに不信に思った香菜のお父さんは念のため香菜にも聖域を展開させて効果をより一層強くした。すると、その信者達はは勢いを失い、地面に膝をついた。なんとか起こして話を聞くと見たこともない少女が頭から離れなくなって、何をしていたかの記憶が殆どなくなったらしい。頭に何かされたのだろうとあたりをつけ、わざと一人だけ聖域からだし、すぐに信者の一人の診察でしらべると、洗脳と出た。それで気づいたと言った。

 

「ねえ正義君。一緒に住まない?ここなら安心だから純も連れてこれるよ」

お父さんが信者さんに呼ばれて行くと、香菜にそういわれた。確かにここなら明子の洗脳に巻き込まれることはないだろう。風花ちゃんの安全も保障できる。だから、

「いいよ。これからよろしくね」

「うん!」

 

 

その後、風花ちゃんと神の使徒とその協力者、優さんを連れていき、そこに住まわせて貰うことになった。

 

優さんを見たときだけ香菜の顔が強張った気がした。

 

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