父さんが死んで、遺体も残らなくて、悲しくて、悔しくて、泣いた。ずっと泣きつづけて、涙が枯れた頃、やっと気持ちの整理がついた。
父さんの死を受け入れて、悲しみは涙に流して消して、自身がどうしたいかを必死に考えた。
守りたい。
僕の大切を、大切な人を失いたくない。
これ以上、父さんのような人を作りたくない。
そこまで考えて、僕は前を向いた。目に映る景色はより明瞭に見えて、心はやけにすっきりとしていた。
「あぁ」
窓の奥には光輝く月が浮かんでいた。
「香菜」
「グスッ。ごめんなさい」
「何で泣いてるの?」
うずくまっていた香菜に声をかけると、鼻声で謝られた。
「いや、何でもないよ」
香菜はふるふると力無く首を振って、腫れた目を細めて、笑顔を作った。その笑顔はとても優しげで、悲しげで、そして安堵しているようだった。
「心配かけてごめん。でも、もう、大丈夫だ」
一度、言葉を整理するため間を開ける。
「僕は皆を守りたい。もう何も失いたくない」
それは、勇者としてどれだけ情けないのだろう。
「だけど、僕一人じゃ絶対に取りこぼしてしまう。そしてそれは後から拾える物でもない」
皆を守ると豪語しているのに、どれだけ情けないのだろう。
「だから」
男として、どれだけ情けないのだろう。
「支えてほしい。助けてほしい。一人じゃ何もできない僕と一緒に皆を守ってほしい」
でも、父さんのような犠牲を出さない為にはこうするしかないんだ。
「お願いします」
頭を下げた。
「仲間のいない勇者なんてありえないよ」
香菜は僕の手を握り、微笑んだ。
僕の世界を救う活動は、今、始まったのだ。
翌朝。昨日あんなことを決めたはいいが、聖剣のレベルが上がらないと、どうしようもない。だから、今日もレベル上げに勤しんでいた。
「今日は鼬みたいだ」
「わっ。速いね~」
しゅびしゅび動き回る鼬。でも、
『フゥゥゥゥゥウ!』
聖剣の前では無意味だった。鼬は何度も何度も辺りを回った後、攻撃をしかけて来る。そして、飛び込んだ先の聖剣に斬られていた。
「これなら心配いらなそうだね」
「うん」
実際、どんな敵も聖剣が確実に倒してくれていたからほんとに僕等いる?と思ってしまう。
そんな時間が4時間ほど続いて、聖剣が声を上げた。
『終了しました。全ての機能が使用可能です』
「やったああ!」
「よっしゃ!」
長い長いレベル上げが終わって二人で喜び合う。必要な事とはいえ、暇だったのだから仕方ない。そして、近くにあった家の影から闇が溢れ出てきた。
「うわっ。ヒカさんが言っていた通りになったね。≪全天≫≪聖域≫」
「何回来るんだ…」
三度目の明子の襲撃であった。
闇が晴れ、目の前にはもう見慣れた魔法少女の服装を纏う明子がそこにいた。もう、無力化とかは考えない。全力で叩き潰さないとこっちがやられてしまう。
「≪聖剣≫」
召喚し、分裂させる。そうして準備を整えた僕達だったが結果から言えば、それは必要なかった。
「あれ?」
明子は何もしない。ただそこに立つ。動いているのは闇を放っている男だった。
その男の攻撃は≪全天≫を貫通しない。だから、一応香菜の近くにいながらも明子のみを警戒していた。
「待って正義君!周りが!」
そういわれて辺りを見渡すと、既に闇に包まれていた。
慎重に相手の出方を伺う。でも、結局何も来なくて、闇も晴れてきて、
「え?」
「あれ?」
僕達は、
「ここどこ…?」
どこかも分からない都市へと飛ばされていた。