世界の変化に追いつけない   作:ありくい

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第八十七話

 

「ちょっ!正義君!純君出ちゃった!」

暇つぶしに純の配信を見ていた香菜がそう言った。まだ、僕たちの町へはたどり着いていない。ただ見たことのある建物が並んでいるだけだ。

「マジか!流石に純が洗脳されたら終わる…!」

一応、ヘリコプターより僕が走る方が速い。といっても山とか建物とかを含めるとヘリコプターの方が速いから使っているわけだが。

「高度下げますか?」

「いや、いいです」

悩んでいる暇はない。幸い近くにはビルがあるからステータス含めて大丈夫なはずだ。

「香菜。光魔法お願い」

「うぇ?この高さでいくの?」

心配そうに首を傾げる。

「うん。とりあえず純だけは逃がすね。もし洗脳されたらお願い」

言いながら無責任だなーとは思う。とはいえ、ここで純が敵に回れば勝てない。聖剣がどれだけ強いといってもやはり勇者の強みはステータスのごり押しだ。純相手だとそれが出来ないし洗脳されてしまえばまさに無敵の兵隊となってしまう。だから、最悪僕が犠牲になってもそれは止めないといけない。香菜の光魔法という声が聞こえてから、一息吸って、飛び降りた。

 

 

 

「あっ!」

くっそ!ミスった!

思いっきり足を捻ってしまった。ビルへの着地の成功で完全に油断してしまった。だけど、早くしないと!

「聖剣!限界突破!」

『了解しました』

瞬間、足の痛みが消えた。後からこの分の痛みが襲いかかるだろうが、それは必要経費という奴だ。

時折、足を繰り返し捻って体制を崩しながら走った。最短距離で、速度を落とさずに、全力で。

すると、人混みが見えた。そこはダンジョンが出来た路地裏の入口だったはずだ。と、いうことは。

人混みを避けて、純を視認した。しかし、純は明子に覆いかぶさられていて、口元から怪しい音がする。どう見ても手遅れ。それでも、奇跡を信じて。

「純!戻ってこおおおい!」

 

 

 

 

 

なんか間に合った。

というか、薄々思っていたのだが、もしかすると明子は純に対して洗脳をしないのかも知れない。これまで、純や僕には洗脳するチャンスがいくらでもあったはずだ。僕は殺すつもりだったとかステータスの関係上無理とか考えられるが、純のは常にステータスをあげていたわけでもないからできないとは考えられない。

ま、考えるのは後かな。

 

目の前には明子がいる。当然、その目には明確な殺意がこもっている。それにしても、今日の明子はやけに良くしゃべる。これまで無言だったのに。

「なぁ。なんで僕には洗脳もかけず、そんな殺意しか向けて来ないんだ?」

純が逃げる時間稼ぎにでもと、会話をしてみる。ま、無言で魔法の準備されてるんだけどね。

「おおっと!ちょっと待った!」

何かが明子の背中から出て来た。あの鬼か?いやしかし、見た目が違う。首が三つある犬だ。

「僕の名前はベル!復活した魔法少女のパートナーさ!」

ベル。名前は初めて聞いたが、おそらくヒカの言っていた明子をこんなのにした悪魔のことだろう。

「いやはや、明子は純が近くにいないと理性が働かないからね。あっ!理性が働いた結果久しぶりの純の声に、匂いに反応してチューしたんだよ!」

最後の発言はどうでもいいが、理性がないというのは気になる。

「理性がないって何?」

「ハッハッハー。そんなかっかしないしない!教えてあげてもいいけど~、どうしよっかなぁ~?」

うし。殺すか。

聖剣を悪魔に向かって投擲する。当然、避けられるのは想定済みで戻って来る聖剣ともう一本の聖剣で悪魔を挟み込む。

「おお~。危ない危ない」

だが、戻ってきた聖剣は明子によって地面にたたき落とされ、僕の握っていた聖剣は地面から生えた針に防がれた。

「チッ!」

すぐにたたき落とされた聖剣を戻す。そして取り出して構える。

「む~。せっかちなのは好かないなぁ。まあいっか。ネタバレタ~イム」

ベルがくるくると回りだし、ベルの体から闇が溢れる。それはテーブルと椅子を作り出し、その上にベルと明子が座る。

「座らないかい?」

「座るわけないだろ」

多分、あの闇はあの男のものと同じだろう。あの鬼が使うことが出来たのだからあれが使えてもおかしくない。

「おっと。勘違いしてるとこ悪いけど、あの闇はあの鬼の権能だよ。全員にあるとは思わないことだね」

なら、何故使えるのか?

「いやね~。明子があの鬼すら洗脳してあの権能を元に僕を復活させてくれたんだよ。いやはや、いい子すぎて困っちゃう!」

「あの鬼は死んだのか?」

「いやいや~。立派な駒として働いてるよ。まさか、明子の力が悪魔にも及ぶとはね~」

こいつの物言いはかなりむかつく。情報をはかせるべきだとは分かっているが、手が出そうになる。

「おっと。そろそろ限界だね。じゃあ教えてあげよう。明子の今の状態をね」

やっと本題に入れた。

「明子はね。スキルに呑まれてるんだよ。明子がもともと持つスキルに≪望みのために≫というものがあるんだ。それはね、想いを叶えられる力が与えられるだけじゃなく、そのための道が示されるんだ。想いが強ければ与えられる力は大きくなるし、そのための道も容赦ないものへと洗練されていく」

明子のスキルについて明かされる。それを当の明子は何の反応もせず、ベルは意気揚々と話している。

「そこで僕が死んだときへ遡ろう。僕はね、死ぬときにとある権能を使ったんだ。≪増幅≫という権能さ。≪望みのために≫と明子の純への想いを増幅したんだ。そうしたら、なんか暴走しちゃった★」

キラッと黒色の星がベルのウインクした目から飛び出た。

「まさかね~。≪望みのために≫が力を与えるついでにその想いすらさらに増加させてたとは思いもしなかったよ。それも、増幅された後の想いを倍にさせるとはね。おかげで明子の想いはもともとの分に≪増幅≫と≪望みのために≫が足されて、理性をぶち壊しちゃったんだよね。おかげで明子は望みのためにが導く通りに行動する機械みたいになっちゃったんだよね」

明子がこうなったのは、父さんを容赦なく殺し、世界を洗脳したのはこのスキルが原因であるらしい。

「じゃあどうして純が近いと理性が保たれるんだ?」

純への想いが理性をぶち壊したのなら、むしろ暴走しそうなもんだが。

「明子の望みはね。純と二人きりになりたい。なんだよ」

「え?」

「だから、明子は純が目の前にいるとスキルの力が少し弱まるんだ」

「でもそんなものいくらでも…」 

純の家に居候していたのだ。いくらでも二人きりになれるはず。

「いんや、本当の意味で二人っきりにはなれないよね?」

そう言われて、思い浮かぶ者があった。

「そう。明子はね。純の中にいるレイを殺すために動いているんだ。君も知っているだろう?彼女が死なないことくらい」

当然だ。それに、レイという存在は純から離れられないんじゃなかったか?

「≪望みのために≫がどうやってレイを殺すのか。とっても面白そうだろう?」

ニッコリとベルは笑った。そして、テーブルや椅子が闇へと戻る。

「ああそうだ。この情報はもって帰ってもらった方が面白そうだから今日は退散かな?」

「…!待て!」

闇に包まれた彼女らはその場から消え去った。

 

 

 

 

 

 

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