辺りに静寂に満ちる。向こうもこちらが警戒しているのが伝わったのか声を和らげてきた。
「君達の名前は?どうしてこんな所に来たんだい?」
小さな子供へ問いかけるかのように明るい声でそう尋ねてくる。やっぱり聞き覚えがあるのだが、目の前の人間とあったことがあるかと言われると首を傾げざるを得ない。
「レイといいます」
とりあえず、俺なら素性がばれてももう一つの姿や変装があるからなんとでもなる。だから、俺だけ答えた。
「うん?後もう一人か二人いるよね?自己紹介してもらえるかな?」
この様子だと姿が見えているわけではないらしい。ならなんだ?どうしてこちらを認識出来たんだ?
「あの、そちらのお名前を先に教えてもらっていいですか?」
さっきから聞き覚えがある声だったので先にそれを解消しようと問いかける。
「ああ!そうだね。僕の名前は桐谷渚って言うんだ。最近自衛隊に入ったばっかりなんだよ」
え、嘘でしょ?
確かに渚が自衛隊に入るってのは知っていたけどこんなにも変わるの?もっとチャラチャラしてたのに。え?
ちょっと下がって作戦会議だ。
「ちょっと待って、渚君いつの間にあんなんになっちゃったの!?」
「いやそれはわかんないけど、どうする?」
「ん~。渚一人だし最悪洗脳されててもいいように代償強化しとくからさ、正体明かそうか」
ひそひそとそう話し合い、再度渚の方を向いた。
「久しぶりだね。僕の名前は正義。烈火正義だよ」
「えっと。香菜だよ。天童香菜!久しぶり!」
「あ~レイじゃなくて純だ。深井純。ちょっと嘘ついた。ごめん」
それを聞いて、渚は固まった。
「ん?聞き覚えがあると思ったらそういうことか!久しぶりだな。純、香菜、正義」
明るめの声を出しているのだが、なぜか向こうは警戒しているかのようにじりじりと距離を取っている。ただ、すぐに襲い掛かって来ないところをみるに洗脳はされていない…?
「どうしたんだ?渚?」
正義がそう問いかけながら一歩踏み出した瞬間だった。
「止まれ!」
空港内でその声は反響し、拒絶の意思が明確に伝わってきた。
「質問に答えろ。明子はどこにいる!んでなんでここに来た!」
その質問には恐怖だけじゃなく、憎悪の感情が載っていた。まぁ、洗脳されていないんならそうなってもおかしくないはずだ。
「明子の場所は分からないけど、仲間というわけではないよ?正義は殺されかけてるし、俺も襲われてるし」
「じゃあなんでここに来た?お前らの家からは相当離れているはずだろ?」
「あー、それは……」
言葉を濁してしまう。どこのどいつがこの状況で飛行機を壊しに来たと言えるのだ。いやまあ、言うしかないんだけど。
「飛行機を壊しに来ました」
「は?」
はい。デスヨネー。
なんとか渚の警戒を解いた用で、落ち着いて互いの状況を話すことが出来た。渚は自衛隊で活動をしていて、今日もここにいろと言われたからここにいると言っていた。
渚は自衛隊に新しく入っていた中ではかなり強かったらしく、すぐに偉い人のお気に入りとなり、各地を転々とさせてもらっていたらしい。そして━━━
「ちょっと前に親に会いに一回戻ってきたんだよ。んで、夜にパトロールしてたら変な格好の人を見つけてな。明子に似てるな~って思いながら家に帰るよう促したんだよ。そしたらなんか戦闘になって目を潰されるわ、腹殴られるわ。散々だった」
そういって大きくため息をついた。
「そっか。目は大丈夫なのか?」
「あ、全然大丈夫じゃないぞ。実際まだ失明してる」
「ん?ちょっともっかい言って?」
「いやだから、失明してる」
え、隠密を見破ってしかも今だってこっち向いてるのに失明してる?確かに目の焦点があってないような気がしたけど…。
「え、じゃあなんで渚君私たちの事分かったの?」
「勘。明子に目潰された後も勘だけで戦ってたしな」
ええ……こっわ。多分スキルかなんかなんだろうな。というか、だから洗脳されてないのかな?動画見れないだろうし。
「まあともかくだ。俺はここを守っているから、上司の許可がないと流石に飛行機を壊すのをみすみす見逃せというのは無理だ」
渚にそう宣言されてしまう。
「そもそも、明子という脅威を日本に閉じ込めるというのがあんまり納得できん。確かに出来たら俺の手で目の仇を取りたいが、それよりも一般市民の安全優先だ。だから、日本から出てくれた方が個人的にはうれしい」
「だとしても、それは問題を先送りにしてるだけだし、もうほとんどの人が洗脳されてるんだよ?少しでも被害を抑えたいんだよ」
「いや、それでも……」
渚が悩むそぶりを見せたとき、ガタッと物音がした。そこに視線が集まる。
「先輩ですか?」
渚がそう尋ねた。確か他の自衛隊は近くのパトロールを交代でしているんだっけ。って事は渚との交代に来たのかな?
実際、立ち上がったその人は自衛隊の服を身に纏っている。そして、銃を構えた。
「≪全天≫!」
香菜が立ち上げた透明な壁に何発もの銃弾が跳ねる。咄嗟に、俺と正義は臨戦体制をとり、辺りを警戒する。
「どういうことですか!」
一拍遅れて渚も手元に斧を取りだし、叫んだ。そして、
突如あらわれた数十人もの自衛隊員が俺達を取り囲み、銃の引き金を引いた。