世界の変化に追いつけない   作:ありくい

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第九十四話

 

「─────」

「いや聞こえねぇ!」

銃声、そして銃弾が弾かれる音が空港の中で響き続けている。敵の攻撃はほとんど香菜で防げるのだが、リロードのタイミングを一人一人ずらしているため全天から出られない。

それに音も封じられているから作戦会議も出来ない。

なら、個人の判断で行動するしかない訳で、この中だと俺が一番適任だ。

「レイ。お願い。≪武器召喚≫≪命中≫」

すぐさま結構な激痛が体を走る。が、レイの調整は完璧で倒れるとこまではいかない。そして、全天から跳び出して銃を撃ち込んだ。

一人の人間の足が、頭が、胴体が吹き飛ぶ。当然、その人間はそのまま崩れ落ち、痛みに悶える。あるいは物言わぬ肉になる。そのまま、一発、二発と撃ち込んで次々と人が倒れ伏していく。

見れば、正義も聖剣を投げて似たようなことをしている。あれが自立して動く聖剣か。切れ味も良さそうだし、めちゃくちゃ小回りが利いた動きをしている。たまに銃弾が全天を突き抜けるのだが、正義は切り裂き、俺は当たるも傷は浅く一瞬で治り、渚はなぜかわかっていたように体を捻り回避していた。そうして、順調に数を減らして行った。

 

 

戦いが始まって数分、空港には血と火薬の匂いが充満し、真っ赤な地面の上には所々人の部位が落ちている。

まああれだ。一言で言うとグロい。

「うっ……ぇ……ぇおっ……ぇ」

一人、渚だけがこの匂いと音に吐き気を催し、苦しんでいる。そんな中、やっと最後の一人が倒れた。

「純。やり過ぎじゃないかい?」

「ん?大丈夫。ちょっと待ってろ」

この中で唯一死んだ人間に対し、血を一滴垂らす。その体の傷はみるみる塞がり胸が上下に動き出す。

「は………ぁ?」

「残りの負傷者は香菜に頼むよ」

「……分かった。純君、後で話をしようね。≪聖域≫」

静かに呟かれたその言葉を皮切りに負傷者達の体が白い光に包まれて、傷口を塞いでいった。そうして、真っ赤な水溜まりは、これ以上広がることはなくなった。

 

 

目が覚めた自衛隊員に事情を話し、渚が落ち着くまで慰めたりなんなりした後、彼らは本部に戻るといい、渚はそれについていくようだった。俺達はその場ではこっちも帰るといったものの隙をみて、飛行機等を破壊するつもりだ。彼らは普通に走って帰るらしいので間違えて自衛隊の飛行機を壊す心配がなくて何よりである。

今度は警戒されないように隠密は使わず、何なら5キロくらいは距離を取ってそこにあった公園に座った。

辺りはもう暗くなっていて、今日中に帰ることは無理そうだ。まあ、俺は配信のときのスパチャ食料があるし、正義も持ってきているということで、食事は心配しなくていいだろう。

「んー。何時間くらいここにいる?」

やることも特にないからそう尋ねた。

「いや、その前に一つ話さないか?」

「うん。私もそう思ってた」

そういった二人の顔は決して明るい物ではなく、空の月は雲に隠れようとしていた。

 

 

 

 

 

 


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