世界の変化に追いつけない   作:ありくい

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第九十六話

 

「いらっしゃ~い」

「まあ、うん」

目を開けるとレイが笑顔でこちらを見ていた。散らばってるお菓子のゴミと手元に握られているリモコンに毒気を抜かれてしまう。

「さて、本日はどのようなご用件かな?」

分かっている癖に、おちゃらけたようにそう問いかけてくる。たっぷりと間を開けてから聞いた。

「この思考の変化は俺とレイのが混ざったのが原因か?」

「まあ、そうである、とも言えるかな?」

随分とはっきりしない言い方だ。時期から見ても、それが原因だとしか思えないのだが。

「理解不能って顔をしてるね。でも本当にそうなんだよ。そもそも僕等は神の使徒。人類が変化する世界に追いつけるように派遣されたってのは知ってるよね」

「あーうーん。知ってる。うん。知ってる」

ジトッとした目を向けられるが気にしない。

「はぁ。まあ私は他とはちょっと違うけどさ、そういう存在なんだから人類への愛着はあるんだよ?」

「ほほほんほほん」

「ふざけるなら話やめるよ?」

「ごめんなさい」

普段のちょっとした意趣返しの積もりだったが思ったよりキレられた。怖い。レイはコホンと咳を一つついて言った。

「ただ、純がもともとそういう思考だった訳でもない。それは保障してあげる」

「じゃあなんでこんなことになったんだ?」

俺も違う、レイも違う。じゃあなんでなんだ?

「もともとって言ったでしょ。純は明子の軍勢に追いかけられつづけた時どう思ってた?」

どう思ってた……?頭の中で感情を整理する。

 

追いかけ回される。これはただただうざかった。

最後はレイに丸投げしてたとはいえ、5~6日くらいは頑張っていた訳だしご褒美も無しにこれかとかなり苛立ってたように思う。

街が化け物であふれる。これにも苛立ちと多少の不満があった。

それは自衛隊に対して。彼等は人々を守ることを引き換えにゴブリン等くそ雑魚というような化け物でさえ、独占しているのだ。だというのに、職務を真っ当出来ていないとはどういうことだ、と。

そして、畏れられたこと。 これには怒りと不安があった。

全員を助けてやったのに感謝がないことへの不満、そして、人とは見られなくなったのかと不安だった。

 

思い返すといろいろな不満があったように思う。これが、原因なのか?

「レイは俺が心の奥底で自衛隊に恨みを持ってたからこうなったと言いたいのか?」

「まあそんなとこだよ。で━「違う!」

「その時そう思ったとしても!俺はそこまで落ちぶれてない!少なくとも殺したいなんて思わない!」

ありえない。たとえどれだけ不満があったとしても、そんなことしたっていいことなんてない。むしろ悪いことでしかない。

感情が高ぶって腹の奥底が暴れ出しそうになる。が、それもすぐに冷やされた。

「むぐっ!」

「人の話は最後まで聞きなさい」

押し倒されて、右手で口を塞がれる。

「今言ったのはあくまで原因の一つだよ。全てじゃない。始めに言ったように私と純が混ざったのも原因の一つと言えるよ」

赤い目が射抜くように俺を見つめる。

「私だって、いや、私の方が人への恨みはあるんだよ。愛着があるとはいえ、国総出で殺されたり、裏切られるなんてされたら、好きで居続けろってのも無理な話だ」

話ながら、レイの目には様々な感情が浮かんでは消えていった。

「■■■■■■。これ、意味わかる?」

レイが話したのは日本語ではない。だが、スキルで意味は理解できる。そうして、浮かんできた単語は見たことも聞いたこともない。だけど、それが何なのか、どういうものなのかというのが自然と分かってしまった。風景まで頭に浮かぶ。

「く…に…?」

「そう。私が一度行った国。この世界じゃなくて別の世界でね。こんな感じで君は僕の過去を知っている。だけど、意識しないと思い出すことは出来ない。頭がパンクしてしまうから、少しずつ、純の意識しないところから私の記憶は君に馴染んでいく」

「純は今、とっても不安定な状態なんだ。昔の私の価値観と今の純の価値観が喧嘩して、混ざって、訳がわからなくなっているんだ」

「じゃあ、どうすれば」

それは、どうしようもない気がする。どれだけ前の俺を意識したとしてもふと気がついた時には今に戻ってしまうと、そう勘が告げてくる。

「私も戦うよ」

力強い一言だった。

「ずっとずっと、純にまかせっきりだった。これまでのことを言い訳にしてずっと戦いから目を背けてきた。いざって時は助けに入ったけどそれも相手が弱かったから。明子みたいな化け物には怖くて、あの時も助けに行けなかったんだ」

あの時とは、ダンジョンから出てすぐのことだろう。

「こんな事になったのは私のせい。だから、私も手伝う。そんなんじゃなくて、ずっとずっと、君と居たいから。ずっとずっと、君の隣に居続けたいから」

それは一種の告白で

「純がおかしくなったら無理矢理にでも止めるし、辛くなったらいつでも相談に乗るし、なんだってする!だって私と純は━━」 

息を大きく吸って叫ぶ。

「一心同体だから!」

決意の表れであった。

 

 

 

 

 




要するにレイちゃんはニート辞めます宣言です。
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