旭奇譚~和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件~ 作:愛川蓮
少女は夢を見ていた。懐かしく、そして後悔に彩られた夢を。
「ん? 兄貴、どうしたのこんな時間に外に出る準備をして」
「ああ、花か。まあ、ちょっと出掛けなきゃいけねえ用事が出来てな……お袋には内緒な?」
「ふーん……ま、良いけど。すぐに帰ってきてよね。ジェイさんや猫さんも手伝ってくれるとはいえ、子供達は育ち盛りなんだからさ」
少女……花は自身の実の兄である夜が夜中であるにもかかわらず笠を纏い、外に出る準備をしている事を疑問に思いながら問いかけると、夜は苦笑いをしながらそう言いその言葉に花もそれ以上の追求をせずにすぐに戻ってくるように兄に言う。
「わーてるよ……なあ、花」
「ん? なに?」
「……俺がいなくなっても、ガキどもやお袋の事を頼むぜ」
「なーに言ってんのよ、兄貴はこの孤児院の大黒柱の一人なんだからそんな弱気でどうすんの!」
花が珍しく弱気な兄の背中を叩くと、夜はふっと笑って……
「そーだな……んじゃ、行ってくる」
「ん、行ってらっしゃい」
花は孤児院から出ていく兄の背中を見送り……そして、兄が帰ってくる事はなかった。
「……朝、かぁ」
花は最悪な夢から目を覚まし、ゆるゆると起き上がると外から響き渡る烏や鶏の鳴き声が次第に寝ぼけから目覚めた耳元に届いて来た。そのまま朝仕度のために起き上がろうとして彼女はそれに気付く。
「あちゃあ……先生、何時も通りです」
「ん? ……やれやれ、寝相が悪い奴らだな。ほら、服を離しなさい」
「そーよ、あたし達は朝の準備をしないといけないんだから」
花は頭を掻きながら自身の近くで起きていた自身の陰陽術の師であり、養母でもある吾妻雲雀にそう言うと、吾妻雲雀も苦笑いをしながら、優しく布団に潜り込んで彼女達の服を掴んでいる子供達をあやす。年は皆十歳にはなっていないだろう。決して大きくない部屋の空間を有効活用するために横にも上にも下にも布団を敷いていたのだが……こんなに皆で集まっても狭苦しいだろうに。ましてや今は夏だ。
「汗をかいてもいいのか? ほら、皆それぞれの布団で寝なさい」
「汗をかいたら喉も渇くし、滅多にないけど風邪をひくわよ?」
そう言って彼女達は『角』が生えていたり、『羽』が生えていたり、あるいは『獣耳』があったりする寝惚けた幼い子供達を窘めて、それぞれの場所へと寝かし直させる。
「いや……おかあさんと花ねえもいっしょ……ねんねしよ?」
「……んー」
特に駄々を捏ねる幼い子達が嫌々と眠たそうにしながら彼女達の衣服を掴み、すがり付くように抱き着く。吾妻雲雀はそんな子供に慈愛の笑みを浮かべつつも困ったように言い含める。
「よしよし、可愛い子だな。けど私達はこれからご飯を作らないといけないんだ。だからな? 今日の夜寝る時は添い寝してやるから今は一人で寝られるだろう?」
「そうそう。さっきも言ったけど、あたし達はこれから朝ご飯を作らないといけないのよ。ご飯が手抜きだったり、朝ご飯抜きは嫌でしょ?」
頭を撫でてあやして、どうにか言いくるめると彼女達は漸く朝仕度に入る事が出来る。まず最初に行うのは神棚の水を差し替えて祈りを捧げる事だ。この神棚はこの建物を守るちょっとした結界の要であり、邪気や不幸に対しても多少の効果はある。特に子供の病気を祓うのにはうってつけだ。妖気を浄化し、退ける効果もある。
次いで庭先の畑や家畜小屋の確認、水撒きに餌やりをし、その後自分達の身支度をしてから吾妻雲雀は頭に生えた『狸耳』とふくよかで丸みのある『尻尾』を幻術で消し去ると、二人の人間が門を開けて入ってきた。
「ただいま~……たく、ぶつくさと陰口叩いて……」
「Mam、Sister……水汲み、終わったヨ」
そう言って大柄な体格の黒人の男性と何やら不機嫌そうな表情の大陸人の女性が水の入った桶を二人に差し出した。
「ジェイさん、猫さん……すいません」
「良いノ、良いノ。力仕事ハ俺の仕事ダロ?」
「あたしは鍛練からの帰り道で水汲みに行くこいつと会ってね、ついでにあたしも水汲みをしたんだよ」
黒人の男性の『ジェイ』と大陸人の女性の『猫』にそう謝る花にジェイは陽気にそう言い、猫はそう言って花に謝る必要はないと言った。
「にしても……『体がデカくて邪魔になるから』って、自分で庭の隅に掘っ立て小屋を作って寝てるジェイさんは兎も角……猫さんはどうやってこの子達が服を掴んでる状況から抜け出したんですか?」
「……これでも手品師の弟子だったからね。抜け出すための工夫は学んでるんだよ」
猫は花の質問に「昔とった杵柄だよ」と言って瓶に水を注ぎ込むと、四人は漸く朝食の用意にはいる。
「確か米は……これは今日中に米屋にいかんとならんな」
「あっちゃ~……ほとんど空ですね……」
炊事場で米櫃の中身を見ながら嘆息する吾妻と花。米櫃の中にあるのは雑穀米である。流石に食べ盛りの子供を十人以上育てているとなると食費も馬鹿にならず白い米を食べさせてやる事も滅多に出来なかった。
「はは、職場にいた頃は毎日食べていたのだがな……」
「吾妻先生、今日は食べれますよ。ジェイ、持ってきな」
「オウ」
子供達に白い米も食べさせてやれない事実に嘆く吾妻に猫がそう言い、ジェイが少しばかり離れると……米俵を担いだジェイが現れ、米俵の中には一食分の白米が入っていた。
「これは……何処から持ってきたんだ?」
「へっへーん! 私たち、旭衆の都組に入ったの知ってますよね? そのお給金の中から三人で出しあって今日の晩御飯分の白米を確保したんです。……まあ、殆どブッ飛びましたけど」
「たまには贅沢をさせてあげないとね。あの子達も食べ盛りなんだし」
「あの子達ハ俺達全員にとってのsisterとbrotherヨ。俺達ガ頑張って美味しいものを食べさせないトネ」
「……三人とも、ありがとう」
驚く吾妻に花達は誇らしそうにそう言い、吾妻はそんな三人に微笑んだ後頭を下げた。三人は照れた様子で頭を掻くと、四人は気を取り直して朝食の準備を再開するも
「ジェイ、あんまり強く研ぐなよ」
「OK。力加減ハいい加減わかったからネ」
雑穀を研いで、釜に入れれば竈に火をつけて蒸していく。同時に葱と細切れにした油揚げの味噌汁を作り、朝収穫した卵を溶いて中に追加する。
「良いのが収穫できて良かったですね」
「あの子達の頑張りだろうね」
夏は茄子と胡瓜の収穫の季節である。前者は少し前に収穫し終えて漬物に、後者は瑞々しく肥えたものが朝収穫出来たので子供でも食べやすく切ってから味噌をつけて食べる事になる。
「こら、起きろ!」
「起きなっての!」
「ほら、お前達、起きなさい」
「WakeUP! 朝ダよ!」
「「「「「やー!」」」」」
凡そ二時間余り、食事の用意が出来てから彼女達は子供達を布団から引き摺り出す。少し前まで自分達と離れたくないといやいや言っていた子供達はしかし今は布団から出るのを拒絶し、彼女達を悪の手先のように罵る。その調子の良さに彼女達は辟易しつつも彼ら彼女らの朝仕度を手伝い、漸く辰の五つ時(午前八時)を過ぎた頃合いに全員を卓袱台の前に座らせる事に成功する。
「では頂くとしようか? さぁ、手を合わせよう」
「「頂きます」」
「イタダキマス」
「「「「「頂きまーす!」」」」」
吾妻がにこりと微笑みながら頂きますの合図をすれば花と猫、ジェイが続き子供達も彼女達に続いて拙い口調で同じく宣言する。そしてその後は堰を切ったようにがつがつと必死に目の前の朝食を食べていく。吾妻もまたそんな彼ら彼女らの姿を一瞥して小さく、慈愛に満ちた笑みを浮かべると茶碗を手にしてゆっくりと味わうように飯を口に運んでいった。
食事を終えて、年長組は後片付けの手伝いをして、年少組は部屋や庭先で遊ぶ中、吾妻は寺子屋へ、花達は旭衆都組新街支部へと出勤するための仕度を始める。神社仏閣の多い門の内側の旧街とは違い、新街は人口こそ旧街に引けは取らないが元は大乱で生じた難民が勝手に居着いて出来た街だ。朝廷は最終的にその存在を認めたものの、無秩序かつ場当たり的に作られた街は各種のインフラが不足しており、その生活水準は旧街に比べれば劣り日雇いや肉体労働者が多く、危険地帯とは言わずとも治安は宜しいとは言えない。
だからこそ治安を担当する者達が必要だと考えた旭衆都組の者達は一部のメンバーを新街に留め、何でも屋兼自警団を営む新街支部を設立したのである。
花達は吾妻が働いている寺子屋の仕事を気に入っているのも知っているし、何より自分達の稼いでいる金額は彼女が蓄えている財産で補える金額であるのも知っている。
だが、今の家族達が大人になって羽ばたいた後の吾妻の余生の分まで残るかは怪しいため、恩人たる彼女のために花達は働いているのだ。
「おかーさま、花ねえたちも……いっちゃうの?」
そう舌足らずの口調で尋ねるのは先程まで庭先で仲間と追いかけっこしていた幼女だった。尤も、ただの幼女に蜥蜴の尻尾は生えていないだろうが。
「いつも通り夕方には帰ってくるさ。それまで皆と一緒にお留守番をしてくれるな? お腹が空いたら皆で飯櫃の飯でも食べるといい。ただ食べ過ぎるなよ? 今日は帰りに団子でも買ってくるから楽しみにしてくれ」
「あたし達も仕事が長引かなければそのくらいには帰るから、ね? それから、今夜は白米だから」
若干泣きそうな幼女をそう慰め、年長組の子供達に任せると共に家の鍵をかける事や知らない人達についていかない事等を念入りに注意しておく。一応留守の守りに式神を何体か体現させておくので問題はない筈だが……
吾妻が幻術で耳と尻尾を隠した後、そうして子供達に見送られながら吾妻達は孤児院を兼ねる自宅から外出した。そしてそのまま舗装もされていない道新街の雑然とした道を、吾妻は新街の外れにある寺へ、花達は元々はクロイツ家が本拠にしていた別の寺へと別れて向かう。
「おはようございます、支部長!」
「Boss、goodmorning!」
「おはようございます」
「む。花にジェイに猫か……おはよう、早速で悪いが仕事だ」
花達が元気に挨拶をすると、都組新街支部の支部長である『王
「なにかあったんですか?」
「ああ、何でも都に攻めいろうとした狐がいたらしくてな……」
「What!? 大丈夫なのカヨ!?」
「それについては都の退魔士とかに撃退されたらしい。が、散り散りになった残党がいてな。それで新街に入り込んだのがいるらしいので退治してくれるように屋台の店主達や茶屋の店主達に頼まれた」
花の質問に飛龍がそう言うと、ジェイが慌てるも飛龍はそれを制して依頼の概要を言う。
「……衛兵達は?」
「……一応新街の警備の増員を要請してみたが……旧街を警備するので手一杯だから、無理だそうだ」
「ち、新街や近隣の村は見捨てるってことかい……朝廷の腐敗も進んでるって事だね」
「猫、聴かれたらヤバイって!」
猫の発言に飛龍が溜め息を吐きながら言った言葉に朝廷の思惑を知った猫はそのやり方を吐き捨てると、花は慌てて猫の口を塞いだ。
「とは言え、日頃の仕事もあるんだ……妖達が活性化する夜までは潜伏して動かんだろう。しばらくの間は昼の仕事は減らして、夜の警備に専念をしてくれ。霊力の無い人間をその分昼の仕事に回しておく」
「了解」
「Allright」
「はい!」
飛龍の言葉に三人は頷くと、飛龍が差し出した三人の分の昼の仕事を終えるために走り出した。
「それじゃあ、お疲れさま!」
「また夜に来ます」
「マタ、明日」
仕事を終えた彼らが報告をし、その分の給金を貰うと彼らはその足で帰路に着く。
昼過ぎを過ぎて空が夕焼けに赤く染まり始め、地上は暗くなり始める頃……
「あ、師匠。師匠も帰りですか?」
「ん? ああ。お前達も今帰りか?」
「はい」
「アア」
彼らは同じく帰路についていた吾妻を見つけ、近付くとぼんやりとしていた吾妻は彼らに向き直りながらそう言った。
「……どうしました? なんか、ぼんやりとしてましたけど?」
「ん? ああ、ちょっと考え事をな……」
「……何かありました?」
「いや、良いんだ。それよりも団子でも買ってやる約束をしてたからな……米も無かったし、買わねばなるまい」
「ア~確か二」
四人はそう言いながら米屋に向かい、米屋で雑穀米を枡で袋に注いでもらうと、そのまま売店が並ぶ表通りに足を踏み入れる。
新街の表通りは城壁で囲まれた旧街に比べて遥かに雑然としてはいるがその人の多さと賑やかさでは負けていない。いや、ある意味では中流層以上ばかりが住む旧街に比べて活気に溢れていた。
居酒屋に煮売り屋、うどん屋に鰌汁屋、天麩羅屋台、茶漬け屋台に塩焼き売り、田楽売りに水果売り、氷売り等が大声を上げて通行人に宣伝する。様々な食べ物の食欲をそそる匂いが彼方此方で漂う。都から出稼ぎに来たばかりの田舎者であれば縁日か何かでもあるのかと思うかも知れない。実際は都ではこれくらいの賑わいはいつもの事だ。
「相変わらず騒がしいねぇ……」
「デモ、俺ハ好きダゼ? こう、活気に溢れている感じハヨ」
「あたしもそう思う」
三人はそう言いながら吾妻の後を追って居酒屋と茶漬け屋台に挟まれた団子屋の屋台にやって来た。中年の禿げ頭の男が団扇で暑さを堪えつつ網で団子に程好い焼き目が出来れば砂糖醤油等に浸して味をつけていく。
「売れ行きはどうかな、店主?」
「おお、先生方ですか? ぼちぼちです……と言いたい所ですがねぇ」
吾妻が声を掛ければ店主は陽性の笑みを浮かべて恭しく挨拶する。彼の息子も三日に一度程の割合で吾妻が働いている寺子屋で勉強をしていた。
「何かあったのか?」
「いえね? 話だと昨日くらいに妖が都に攻めてきたそうなんですよ。それは御上が撃退したらしいんですがね、その生き残りが何体か街に紛れているとかで……明日や明後日には噂も広がるでしょうからそうなると客も減りそうでしてねぇ」
「そこについては、あたし達も色んな屋台とかお店の人達に要請を受けたから明日から対処する予定だよ」
「お、そりゃ助かる!」
花の言葉に少しばかり思い悩んだ顔から明るい表情になる団子屋の店主。新街に暮らす多くの人々と同様に団子屋の店主も然程裕福な方ではない。客が減ればそれだけで生活が困窮しかねない。日銭で暮らすという訳ではないが新街の住民達にとっては何日も収入が減るなり無くなるなりすれば大問題だった。
「では、私は店主に売り上げで協力してやろうか。団子をくれ。そうだな……二六本、砂糖醤油に餡を十三本ずつで頼む」
「へい、先生。今すぐ用意しますよ!」
(……ん? 先生の分は?)
人好きのする笑みを浮かべながらみたらしと餡の串団子を笹の葉で包んでいく店主。
「ん? 店主、数え間違いかな。二本多い」
「先生の所の餓鬼は十人にそちらの三人でしょう? 一人二本なら先生の分がねぇ。おまけですよ」
(やっぱり自分の分はいれてなかったか)
(師匠って本当にそういうところがあるよね……)
「しかし……」
「構いやしませんよ。……気分を悪くするかも知れませんがね。あの餓鬼共は余り好きじゃありませんが、先生本人にはこの街の奴らも世話になりっぱなしですからね」
(……わかってる事とは言エ、腹タダシイ話ダゼ)
流石に陰陽寮の頭である事は知られていないにしろ、数年前にこの街に来た吾妻という女性が所謂呪いの類に明るい役所勤めの人間である事くらいは知っている者は少なくなかった。教師が不足する寺子屋で教師をして、簡単な御守りや薬の類いを隣人に教え、ましてや忌々しい半妖の化物共を引き取ってくれるのだから彼女に対して悪意のある人間はいない。
……だからこそ、彼女の弟子たる三人はそんな彼らの半妖に対する偏見に腹を据えかねているし吾妻が愛情をもって接している家族を貶されると、苛つくのだ。
「そうか。……では有り難く頂こう」
団子二六本分の代金を払い、吾妻は笑みを浮かべて謝意を伝える。そこには明確な感謝の気持ちがあったのは間違いない。……同時に複雑な感情が渦巻いていたのも事実ではあるが。
(私もあの子達の同類だと知っても、彼らは同じように接してくれるのだろうかな……?)
(……師匠)
吾妻が思い浮かべた事はわからないでも、彼女の弟子たる花達は内心では複雑な思いをしているであろう彼女を気遣うのであった。
「……今のは、悲鳴?」
「ソレジャ、俺が跳んで確かめてミルヨ。方角ハ?」
すっかり夜になった帰り道、吾妻がそう言うと……ジェイは彼女の指差した方角を見ながら、身体強化をして空を跳び……すぐに深刻そうな顔で降りてきた。
「多分、孤児院のbrother達ト同じ子が武器を向けられてたヨ! 俺ハ助けに行く!」
「だあ、もう! 勝手に突っ込むんじゃないよ!」
「猫さん、ジェイさん! ああ、もう!」
「お前達、落ち着け!」
そう言ってジェイが空を跳んで行くと慌てて猫がそれを追って屋根に跳び移って走り出し、それを追って花と吾妻は走り出す。
「猫、ジェイ! 無事か!」
「猫さん、ジェイさん!」
「おふく……ババアに花かよ……」
「……夜か!?」
「うそ、兄貴!?」
そして、彼女達が悲鳴の聞こえた場所に入ると、そこには認識阻害の外套を羽織った二人の男女と対峙するジェイ、猫……行方不明になっていた花の兄の夜がいた。
(兄貴……生きてた! 生きてて良かった!)
彼女は兄が生きていた事に喜ぶ。だが……
(此方の気も知らないで……! 何処で何をしてたこいつ……!)
兄がいなくなってから兄の部屋を探った際に、兄は養母が陰陽寮から追い出される原因になった男に復讐をしに行ったことを知った彼女にとっては少しばかり腹が立っていた。
「あ、待ちやが……「この……馬鹿兄貴! 今まで何処ほっつき歩いてた!」ぐええ!?」
その怒りを込めて、花は容赦なく逃げ出した男女を追おうとする兄に跳び蹴りを決めた。
それから、兄と殴りあいの喧嘩を終え、今度こそ師匠達と帰路についた花はこう思った。
(何時か、また兄貴と暮らせたら良いな)
……と。
「……ヤバい。介入するタイミングに失敗した」
「どうしましょう、これから」
闇夜の中、誰にも聞こえない場所で、二人の転生したモブ戦闘員と側仕えは事態がややこしくなった事に絶望の声を上げていた。
次回もお楽しみに!