旭奇譚~和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件~   作:愛川蓮

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第十二話

 少女は夢を見ていた。

 少女は暗い暗い、一寸の先も見えない闇の中でただ一人歩んでいた。

 

 少女の目の前に、血塗れの死体が現れる。それは、必死に何かを庇ったかのような傷で倒れている男女だった。

 

「おとうさん、おかあさん……」

 それは少女の実の両親で……

 

「はぁー……はぁー……」

 少女……橘商会商会長の(義理の)長女である『橘沙世』はそこで目が覚めた。

 

「……嫌な夢。実の両親が、私を庇って妖に食われた夢を見るなんてね」

 沙世は未だに己を縛り付ける悪夢に呻きながらそう言い、心を落ち着けようと宿屋での己の部屋の座敷へ出る。

 

「まだ、夜かぁ……夜明けまで、もうちょいかな?」

 沙世は座敷に座って沈み始めている月を見て、夜が明け始めた時刻だと感じた。

 

「たはは……今更ながら、時計がないって辛いなぁ……お腹とか、太陽や月の動きで時刻を把握しなきゃいけないんだもん」

 沙世はそう言ってこの世界ではまだ一部の人間しか所持できていない文明の機器を思い、如何に前世の自分が恵まれていたかを知る。

 

「……あいつの、唯の話だと明日に起こるんだよね……『例の騒動』」

 彼女は三年前に出会った同じ転生者仲間の少女によって知らされていた。

 妖によって実の両親を失い、更に両親の店を心無い親戚達に奪われ危うくその親戚達に弄ばれそうになっていた自身と養子縁組をして救ってくれた実の両親と親友であった義理の両親が死に、その娘で義理である筈の自身を実の姉のように慕ってくれる義妹が不幸のどん底に陥れらる事件が明日起こるのだという事を。

 

「にしても……佳世みたいな幼い子をそんな不幸などん底に陥れるって、闇夜の蛍(元ゲー)は成人指定のゲームかっつーの」

 沙世は唯によって知らされたそのゲームの前日譚の内容を思い出しながら、その凄惨さや展開からどう考えても『成人指定(R-18)』かもと思って、ぶつくさと文句を言い……気配を感じた。

 

「……誰!?」

「……俺だよ」

 沙世は咄嗟に護身用に持っていた小太刀を構えるも、そこにいた女性を見てほっと一息を吐く。

 

「『入鹿(いるか)』さんでしたか……って、事は近くに『神威(かむい)』さんも?」

「ああ、いるぜ」

 女性……入鹿は彼女が目下の所、義母や義妹を邪な目で見ていて、不幸のどん底に陥れる人物の筆頭であると考えている義父の叔父をちょこまかと嗅ぎ回っていた沙世を始末するために先程名を言われた神威や彼女の師である『龍飛(りゅうひ)』と共に現れたのだが……色々とあった末に出された彼女の提案を考慮すべく、見逃してくれたのだ。

 

「っで、返事は?」

「……受けるんだそうだ。報酬は橘商会の保守派の一部が懐に納めている不正な金だろ?」

「ええ、それもほぼ全部です。でも、最大の目標のは持ってちゃダメですよ? あれは保守派とのいざこざで朝廷に追求された時の為の保険金の一部にしますから」

「わかった。……何時決行するんだ?」

「入鹿さん達が不正の証拠を全部探し終えた時……と、言いたいところなんですが何時何が起きるかわかりません。何時でも行動できるように証拠探しと持ち出しは平行して行ってください」

「ああ、龍飛にもそう伝えておくよ」

 そう言って入鹿が闇夜の中に消えると、沙世は「ふう」と息を吐いた。

 

「よし。これで、万が一の事が起きたときの備えは出来た。……佳世の後見人になってくれる人もいるしね」

 沙世の脳裏には自身の事を「沙世姉」と言って慕ってくれる義妹の友人の事を思い出しながら微笑む。

 

「戦力は唯の言う『原作の前日譚』よりも増してる……けど、万が一って事もあるから……」

 沙世は普段から肌身離さずに持っている首飾りをきゅっと握る。

 

「いざという時は、私が犠牲になってでも助ける」

 沙世は首飾りを買ったときに言われた使い方を思い出しながら、悲壮な顔で決意を呟いた。

 

 ──────────────────

 

「おかしい」

 そう呟いたのは、橘商会の隊列の護衛についてるクロイツ家の長女の『アリス・クロイツ』である。

 

「なんだ、この微量な妖気は……何処から漂ってくる?」

 アリスは馬を隊列から離れないようにしながら走らせ……彼女の妹であり、魔術師兼陰陽師でもある『リリシア・クロイツ』が結界を張った彼女達や王家から派遣された二人が眉を潜めた荷物の前に行き……妖気の出所がその荷物からである事を確認した。

 

「な……こ、これは……!? リリシア!」

「姉さん、どうしたの? 今読書中……え? 嘘、なにこれ……結界が張り替えられてる!? どうして……」

「言ってる場合か! 私は『景季(かげすえ)』殿と『敏隆(はるたか)』殿に事の次第を伝えてくる! お前は『黒龍(へいろん)』と『白龍(ばいろん)』に何時でも応戦出来るように伝えるんだ!」

「わ、わかったわ!」

 アリスの言葉で読書中だったリリシアに声をかけると、リリシアは不満気に振り向き……己が学んだ魔術と扶桑国で学んだ陰陽術を混ぜ合わせて作り上げた結界が杜撰な物に張り替えられている事に気が付き『警戒していたのに何故……!?』と戸惑うも、アリスの言葉で慌てて他の荷物の護衛に勤めていた二人に緊急事態を伝えに行き、アリスも伝えに行こうとして……

 

「!? そこにいるのは誰だ!?」

『けけけけ! 伝えられて警戒されるわけにはいかないんでなぁ! おらよ!』

 アリスが気配に振り向くと、そこには目に式札が貼られた烏天狗がおり……烏天狗が手に持った導火線のついた筒の様な物を投げると、そこから青い光が空中に咲き乱れ……そこかしこから妖気が溢れだした。

 

 ──────────────────

 

「急ぐっすよ、飛鷹! 沙世姉と佳世ちゃんとアリスさんと……」

「ストップ、ストップ! 旭、ストップデス! 紫と唯がお腹の物をリバースしそうデス!」

「後、アリシアが振り落とされそうです……!」

「え……?」

 あたいは式神やカサンドラさんの予知から得られた情報、そして橘商会の人達から聞き出した取引の場所から都までの道筋の中で最も妖が襲い掛かれそうな場所に向かって飛鷹を飛ばしているんすけど、アリシアと鳥谷さんの声に飛鷹の速度を緩めてから振り向くと……そこには青ざめた顔で口を押さえている唯ちゃんと紫姉こと『赤穂(むらさき)』、飛鷹を全速力で急がせていた為かバランスを崩した際に落ちそうになったのを鳥谷さんが掴んでいたことで辛うじて落下を免れていて、やっとこさ上に上がれたアリシアがいたっす。

 

「……ごめんなさいっす」

「う、うっぷ……よ、よいのです。旭は友達想いですから、佳世を救うために全速力で移動をしていたんですよね……?」

「それ、でも……限度が、あり…うっぷ、ます。一人だけ…うう、なら兎も角……今回は人が数名乗っているんですから…おえっぷ、もっと注意してください」

「唯の言うとおりね。あなたの友達が心配なのはわかるけど……だからと言って戦力を減らすのはダメよ?」

 あたいが謝ると、紫姉は青ざめた顔で許してくれたけど、唯ちゃんは口から出かかっている物を飲み込みながらあたいの間違いを指摘して、巨大な鷲の霊獣『安土(あづち)』に乗って追い付いてきた葵姉がそれに頷きながらそう言ったっす。

 

「以後気を付けるっす」

「ええ、気を付けなさい」

 あたいが頷きながらそう言うと、葵姉は扇で口元を隠しながらそう言い……あ、見えてきた。

 

「あれっすね、橘商会の隊列は」

 あたいは都から数里程離れた街道を進む荷馬車(正確には馬だけでなく牛もいるっすね)の列を見つめるっす。数は……馬車だけでも三十はあるっすね。小荷駄も含めれば三倍になるかも知れないっす。行者や人夫が数十名、それに護衛が同じく数十名はいるっす。中には退魔士や呪術師、武士とかの霊力を持っている人もいるっす。

 

「とは言え、旭の仲間を除けば質は其ほどでもないわねぇ」

「そうなんすよねぇ……」

 葵姉とこの場にはいない雛姉みたいな一流の退魔士からしたらショボいとしか言いようがないんすよね。

 まあ、多くの場合で不良退魔士やモグリの呪術師は力が弱くて居にくいから実家から家出した人やトラブルを起こした人、農民とかが密かに霊力に目覚めた場合が殆んどなんすよ。地力が元々弱くて、しかもノウハウも不足してるから実力は低くても仕方無いんすよね。

 ……最近だと、クロイツ家や王家の退魔士、呪術師達と元山賊武士団が鍛えてるんで橘商会の護衛達は中妖十匹程度ならなんとか撃退できるっぽいんすけどね。

 

「それにあの荷物……あらあら、あんな物を運べばそりゃあ狐も来るわよねぇ。一応封印の結界はしているようだけど、やはり素人ね。少し妖力が漏れてるわ」

「え……あ、あり得ないデス! あの隊列にはリリシア姉様がいるデス! 魔術と陰陽術を学んだリリシア姉様があんな雑な結界を……」

 アリシアが葵姉に反論しようとして……青い光が空中に咲き乱れたかと思うと、妖の団体が『三つ(・・)』ほど現れたっす。

 右からは牛の頭の筋骨粒々の男の大妖に率いられた同じく牛頭の妖の群れ、左からは同じく大妖の鬼に率いられた雑多な妖の群れ、そして後方からはカサンドラさんの予言通り、狐の大妖に率いられた化け狐の群れだったっす。

 

「な……!?」

「女狐の群れだけじゃない……!? どうなってるの!?」

 ん~……でも、連携が取れてないっすね。狐達は武士や退魔士達を無力化しようとしてるぽいっすけど、それを他の二つが何も考えずに暴れているせいで意図せずに邪魔してるんすよね。

 あ、今商隊を包囲しようと動いてた狐達が無造作に振るわれた牛頭の妖の拳や腕にぶっ飛ばされたっす。

 

「貴方達の言った通りになったわね。新街でやんちゃしてる狐ってあれの事?」

「……は、ははっ! 旭様のお許しを得て動いておりました所、此度の襲撃について把握が出来ました。しかも相手はあの橘商会、恩を売るに越した事はないかと」

「あたいはカサンドラさんの予言で狐についてはわかってたんで、それを元にして今回の襲撃場所を把握したんすけど……二つほど妖の群れが増えてるのは予想外っすよ」

 葵姉に話題を振られた安土に乗っている伴部さん(傍には伴部さんにくっつく様に白虎がいるっす。……葵姉の視線が時折人を呪い殺せそうなくらいに怖いっす)が動揺しながらも報告し、あたいは下の戦況を見ながらそう言うっす。

 もしかして、カサンドラさんの言ってた黒い靄に包まれた烏と白鷺ってあいつらを連れてきた妖なんすかね……? 

 

「……そろそろ降りないと、死人が出る」

「ゆかちゃんの言うとおりっすね……行くっすよ!」

「死人が増えた後の方が恩を着せやすいと思うのだけれど……まぁ、良いわ」

「旭、紫! 従姉様(おねえさま)に恥ずかしくないような戦いをしなさい!」

 安土に乗っているゆかちゃんの言葉にあたいは思考を中断して、蔵丸から愛用の薙刀を取り出すっす。

 因みに、ゆかちゃんが紫姉と同じ名前なのは本家に対して対抗心を燃やしている分家が勝てるかもしれない人間の名前を付けて「同じ名前なのに分家に負けるとは情けない(意訳)」ってな感じで自分達の自尊心を満たすための名付けなんすよね(最終的に最悪の場合には命を落とす禁忌の妖刀を使わせていたことにキレた紫姉の家族達が分家を叩きのめしてゆかちゃんの親権をぶん取った事でゆかちゃんは家の使命から解放されたっす)。

 

 あたい達はそれぞれの霊獣から一歩踏み出し……おっと、忘れてたっす。

 

「伴部、夜……白虎。分かってるでしょうけど、貴方達は安土が着陸してから降りなさい」

「アリシアと唯ちゃんと鳥谷さんもっすよ。あたいや葵姉の霊力による保護が出来るのはあたい達以外には一人くらいっすからね」

 あたいは伴部さん達にそう言ってから落下して……

 

 地面に足をしっかりと踏みしめるっす……あ、足が痛い……! でも、怯んでる場合じゃないっすよ! 

 

『な、なんで此処にゴリラ姫や死亡フラグが……!?』

「隙あり!」

『ちぃ、くそが!』

「援軍……しかも、正規の退魔士!」

「一気に押し返す!」

「大技の準備を……!」

『く……させません! (何故、何故何故何故!? 何故気紛れなゴリラ姫が橘商会の援軍に来る!?)』

「なんと……お前達、援軍が来たぞ! もう一息だ……押し返せ!」

 殆どの人や妖がいきなり現れたあたい達に唖然とした表情を浮かべていたのに対して、アリスさんはあたい達が来たのを見た瞬間には自身を釘付けにしていた烏天狗(多分、調伏された式神っすね)に攻勢を仕掛け、白龍と黒龍の姉妹が好機とばかりに霊力を多く消費する技の使用を開始し、リリシアさんが妨害していた白鷺(此方も式神っす……って、なんで式神が妨害してんすか!?)を他の退魔士や呪術師に任せて大技を使うための詠唱を開始し、鳥谷さんの父親である『鳥谷敏隆』さんが武士団を奮い立たせたっす。

 

「さぁ、暇潰しくらいには楽しませなさいな」

「もう、お前らの好き勝手にはさせないっすよ!」

「さあ、妖ども覚悟しなさい!」

「……斬る」

 伴部さん達や唯ちゃん達を乗せた安土と飛鷹が着陸した振動と共に、あたい達は口々にそう言ったっす。

 

 ──────────────────

 

 襲撃してきた妖の総数は優に百を越えていた。そのうち半数近くが中妖クラスの化物である。唯人の兵士であれば完全武装しても最低十人いなければ対抗すら出来ない化物だ。それが多数現れた時点で一部を除いた商会の護衛達の処理能力を越えていた。

 更に言えば、化け狐以外の戦力を連れてきた二人の介入者(イレギュラー)によってそれを凪ぎ払える可能性のある戦力が釘付けにされていたのも痛手であった。

 

「馬鹿な!? 何故都のすぐ近くでこんな……!?」

「景季殿! 急ぎ指示を……長くはもちませぬ……!」

 荷馬車の一つに乗り込んでいた橘商会の商会長である橘景季は護衛の武士団の団長である鳥谷敏隆が護衛として彼が乗っている荷馬車に襲い掛かる化け物達を必死に捌く傍らで隊列に指示を飛ばしていく。可能な限り車と奉公人を逃がそうと唾を飛ばしながら必死に叫ぶ。

 

「く……アリス殿はどうした!」

「烏天狗に抑え込まれてます! 此方には来れません!」

「龍姉妹は!」

「右側の鬼の率いる群れと交戦中です! 援軍は無理です!」

「リリシア殿は!」

「大規模魔術を使おうとしたところ、白鷺の式神に妨害されています!」

 敏隆は矢継ぎ早にこの状況を打破できるであろう仲間達の事を尋ねるが、返ってきたのは抑え込まれているという絶望的な答えだけだった。

 

「く……なんとしてももちこたえろ! 都の近くだ、必ずや援軍が来る! (だが、アリス殿の受け取った書状に書かれていた退魔士や陰陽師、武士が内裏と内京を集中して守っているという言葉……下手をすれば援軍は来ぬか……)」

 敏隆の考えは的を射ていた。都の目と鼻の先で朝廷から命じられた荷物も運んでいる大商会の隊列が襲われるに任せるなぞ本来ならば有り得ない事だから。そう、本来ならば。

 

 朝廷が内裏と内京の警備を強めたという事は相対的にそれ以外の場所の警備が緩んでいる事を意味する。ましてや橘商会はそこらの商会よりも余程護衛が充実していた。していたが故に自衛可能と思われて逆にそちらへの意識が緩んでいた。

 

 故に、敏隆は恩人たる旭の名誉の為にまた雇い主である景季の命や彼の家族の安全の為に命を賭けてでも突破する決意を固め……

 

 地震のような衝撃と共に少し遠くから妖の悲鳴が上がる。

 

「な、何だ……!? 何が起きた!!?」

「え、援軍です! た、退魔士達が化け狐共を次々と屠っています……!!」

「なんと……お前達、援軍が来たぞ! もう一息だ……押し返せ!」

 景季の質問に人足が答える。その応答の意味を理解すると同時に敏隆は決死の覚悟で応戦している部下達を奮い立たせる。

 

「お父様……?」

「おじさん……」

「佳世に沙世か!? 馬車の中でお母さんと隠れていろ。安心しなさい、助けが来たからな!!」

 背後から聞こえる不安そうな声に景季は振り向きつつ安心させるようにそう呼び掛ける。母親に抱かれ、怯えた表情をした金髪の少女と悲壮な表情をした黒髪の少女は父の言葉に頷いて答える。

 

 しかし楽観するのはまだ早かった。次の瞬間、彼らの乗っていた馬車の馬の首が飛んだ。馬車を引いていたのは二頭いたがそのどちらも首が宙を飛ぶ……

 

「な……く、化け狐か!」

「邪魔じゃ!」

「ぐあ……!?」

 何時の間にか接近していた化け狐に鳥谷は驚愕するも景季達を守ろうと斬りかかるが……降り下ろした刀は四本ある尾の内の一つの一振りで半ばからへし折られ、もう一つの一撃で近くの荷馬車に叩き込まれた。

 

「鳥谷さん!」

「お姉様、お父様とお母様が!」

「どうしたの……ああ!?」

 護衛の大将である敏隆が吹き飛ばされた事を心配する沙世に佳世の焦る声と共に振り向き……義理の両親の絶望的な状況に愕然とする。

 

 義母は右足が着物の上からでも分かる程痛々しい怪我をしており、義父は馬車から飛び出した荷物によって両足が下敷きとなっていた。どちらも適切な治療をすれば治らない事は無かろうが……どの道今はそんな余裕はない。

 

「うぐっ……くっ、沙世に佳世、お前達は無事か!? 怪我はないのか!?」

 苦し気に尋ねる父親の声に首を縦に振って肯定する沙世と佳世。そしてそのまま少女達は父親を助けようと重い荷物を小さな手で必死に持ち上げようとする。無論、荷物は寸とも動かぬが。

 

「二人とも、馬車の中に、荷物の中に隠れなさい! 助けが来るまでその中にいるのよ……!」

「……やっぱり、これしかないよね」

 義母の悲壮な顔に沙世は義母を、義父を、そして最愛の義妹を見て首飾りをぎゅっと握りしめて、化け狐の元に走る。

 

「ほお……? 自ら餌になりに来るとは猿にしては殊勝な奴よ……苦しまずに死なせてくれるわ!」

 沙世は首飾り……人妖大乱時に作られ、霊力のある人間が妖に食べられた際に内部に溜め込まれた所有者の霊力を爆発させるという簡易的な人間爆弾生成装置を握り締め、こう思った。

 

「(お義父さん、お義母さん……佳世。今までありがとう。私は、幸せでした)」

「お姉さま────────!」

 狐が大口を開けて自身を喰らいに来るのを見ながら、沙世は瞳を閉じて微笑み……何時までも来ない衝撃にゆっくりと目を開ける。

 

「糞こら、こいつ、一発で柄が捻じ曲がってるじゃねぇかよ。これ本当に下っぱの時の物よりも上等な代物なんだよな……?」

「一応はね! てか、なにやってんですか沙世様!」

 彼女の目の前には怪物に立ち塞がるように立つ、化け狐の牙の一撃でいびつに捻曲がった槍の柄を仮面越しに一瞥して、心底げんなりとした声を上げる人影達がいた。




次回もお楽しみに!

蛇足:『闇夜の蛍』に旭がいた場合の台詞集4『佳世編』

※旭がいる場合の佳世は旭が景季の生前に橘商会の支店を旭衆の里に作らせていた事で景季の死後支店長として佳世を里に来させて匿った設定です。

挨拶
「いらっしゃいませ、橘商会旭衆支店へようこそ! 私は支店長の橘佳世です!」

決意
「今は小さな支店の支店長だけど、何時かは本店を……お母様とお父様のお店を取り返す……!」

佳世ルート時のクエスト『橘商会奪還作戦』時の台詞
「お店を取り戻すまで後少し……環さん、旭ちゃん……お願いします」

佳世エンド時
「今までありがとうございました! ……これからは、夫婦としてよろしくお願いいたします、ね?」
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