旭奇譚~和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件~ 作:愛川蓮
「あらあら、これはまた随分と古典的で陳腐な手な事」
上洛に際して逢見一族から借り受けた屋敷の一室で幼さと妖艶さを兼ね備えた桃色の少女は……鬼月葵は鏡台を通して見た小賢しい狐が結界を越えるために使った手法をそう評する。
人の道徳心や善意につけ入る方法も、人体の一部を利用して結界を誤魔化す方法も、それをするのには相応の知性が必要なものの、特段変わった手段ではない。
実の所、似たような手法は人妖大乱中には数多く報告されている。特に大乱中の妖側の大将軍の一人であり未だに討伐されていなずクロイツ家が血眼になって探している『妖母』なぞ、大乱の末期には食った人間を『素材』にして人間に擬態させた化物を大量に『産卵』した。お陰様で朝廷側は長年対妖用に特化せしめ研究・発展した結界術式を全て放棄して新体系で結界を構築しなければならなくなった程だ。それに比べればまだ可愛いくらいだ。
恐らく同じくこの光景を式神越しに見ている鬼も似たような感想を抱く事であろう。あの鬼もかつて都で暴れていた際には今回の狐よりも遥かに悪質に人の心に付け入るやり方で内裏の結界を越えようとあの手この手を弄していたとされている。尤も、それを逆用した右大臣の卑劣な策に嵌められて半殺しになって逃げ出したのだが。
「……意地悪な子。私には何も言ってくれないなんて……まあ、私に『あまり借りを作るな』って夕陽が言ったんでしょうけど」
葵は孤児院の周囲の建物から出てきて狐達を血祭りにあげる旭衆都組新街支部の面々と孤児院に入り込んだ化け狐達に襲い掛かる面々を見て苦笑いをうかべるが、すぐに義妹の同居人とも言うべき少女が助言をしたのだろうと推測を立てる。
事実、この推測は正解である。橘商会の救援の際には旭が葵に参戦してくれる様に頼み込んだのだが……その際、「何か面白いものをお土産として頂戴ね?」と葵に頼まれてしまったためにこれ以上借りを作ると何をさせられるかわからないと思った夕陽が旭に「葵姫は誘うな」と言ったのである。
(問題は彼が結界を越える手段とこれだけの手勢を周囲に仕込む手段だったけれど……そういう事ね)
伴部があの札付きの手配犯に接触した際には警戒もしたが……成る程、確かにあの妄執的な老人ならば半妖ばかりをかき集めた孤児院に何もしないなぞ有り得ない。いざという時の保険くらいは用意しているか。
「何処から情報を得たのか知らないけれど……確かに良い目の付け所よ」
式神を通した情景が映りこむ鏡台を見ながら鬼月葵は自身の最愛の者の一人の判断にそう評価を下した。確かにあの老人は劇薬ではあるが有用だ。流石に彼女でも彼や旭に教えられる事には限度がある。鬼月葵は意欲さえあれば何でもそつなくこなせる才人ではあるがその本質はその一族の中でも群を抜いて強大な霊力を使った力押しである。いや、鬼月家自体が退魔の一族の中では霊力の高さで知られる家系であり、当然その技能も霊術の体系もそれを前提としたものが多い。霊力が葵程もある旭は兎も角、霊力の絶対量が不足する彼に適任とは言い難い。
そう考えれば松重一族のあの老人は不本意ながら相性という面で最適であるのは事実だ。あの一族はそれなりに古いが……退魔士一族の中でという前提条件があるが……特段霊力が高い一族という訳ではない。肉弾戦も(比較的)得意ではない。
その代わりに術式に対する理解が広く深い一族だ。基礎的で単純な術式でもそれらを応用して、あるいは組み合わせる事で、凶悪な使い方をする事でも知られている。ましてや陰陽寮の第二位の地位にいて禁術の研究にも手を染めていたあの翁である。鬼月家でも知らぬ技術を持っていても可笑しくない。
「最悪、関係が発覚しそうになれば私が動けば良い事ね。折角の機会、ここは好きにさせてあげるべきでしょうね」
そう余裕綽々な態度で嘯いて彼女は鏡に視線を戻し……それに気付いた。
「あら」
式神の視点を移動させて、彼女はそれらを見つける。そして、心底楽しげな笑みを浮かべた。
「良い瞳、使えそうね。それに二人とも手元にあれば面白そうだわ」
そう言ってから、手元に置かれた菓子置きを引き寄せて、その上に置かれた羊羹の一つを爪楊枝で一刺し。そのまま当然のように、平然と高価なそれを口の中へと入れて濃厚で舌触りの良い甘さと風味を味わうと……直ぐ様、不愉快そうな表情になる。
「本当に無粋なこと……旭や伴部を殺しそうになったら、この手で消してあげるわ」
彼女は最愛の義妹や青年と対峙する複数の特異な天狗や複数の鳥の式神を従えた山伏風の青年に向けて静かにそう宣言した。
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伴部さんに食事を邪魔され、あたいに顔を蹴られた化け狐は無茶苦茶怒っていたっす。
「貴様ら、何者……いや、この臭いは嗅いだ覚えがあるぞ? ……あの時の雑魚と雌か!!」
化け狐は鼻でひくひくと臭いを嗅ぐと、あたい達の正体を悟ったっす。まあ、誤魔化すつもりなんて微塵もなかったんすけどね。
「ぐ、事前に調査をしていたのに……! どうやって結界を越えたの!? それに外で戦っている退魔士や建物の中からの人間達もどうやって!? 合図も何もなかったのに……!」
女の子の鬼が金棒でトンファーを持って殴りかかる白虎と刀で斬りかかってくる有吾さんを捌きながら歯噛みをするっす。
襲撃をかける以上当然ではあるんすけど、ある程度孤児院の内部や構成員については調査済みみたいっすね。だからこそ、周囲の建物に旭衆都組新街支部の退魔士達がいたことや夜達が建物から出てきたり、あたい達が建物の正門からやって来たことに困惑していたし、葵姉の存在も警戒をしてるっすね。
因みに種明かしっすけど……新街支部や夜達は『
因みに周囲の住民の皆様にはお金を渡して潜伏するための家を使うことを了承して貰ったっす。
問題は吾妻さん達を説得する方法だったんすけど……鬼が退屈しのぎで新街支部の退魔士達と戦っていたお陰で妖が潜伏していることがわかって、それで夜が不安から新街支部やあたい達に孤児院の警護をしてもらうことを吾妻さんにお願いしてそれが了承された事で手間が省けたんすよね。
後は伴部さんと唯ちゃんが入る方法だったんすけど……
「あんの外道……本に細工をしてたなんて……」
(元々、松重家は術式に関しては他の追随を許さんからな……流石に禁術混じりの言霊術とは思わなかったが)
あの外道は吾妻さんに把握をされないように禁術で本の内容に言霊術を仕込んで、それを読んで聞き重ねる事で少しずつ時間を掛けて催眠を施していたんすよね。
まあ、その隠匿性のために命じる事の出来る命令は事前に拵えた単純なものばかりなんすけど……だから必要な霊力は最小限で禁術なんで吾妻さんが知らなければ対応をできないんすよね。
因みに大乱中ではこれを強化した術があって、朝廷側が負けた際に知性を持った妖がわざと残した資料を読んだら催眠にかかって同士討ちもしくは自爆させる為の術だったらしいっす。……だから、大元のこの術も禁術指定をくらったんすかね?
外道曰く、孤児院を焼き払う事になった際の保険の術であたい達を『招き入れ』てくれた茜ちゃんは術がきれると、涙目であたい達に仲間を助けてくれる様に懇願をしてきたんすよ。今は危ないからって事で隠れてもらっているっす。
「花さん! ジェイさんや猫さんと一緒に白ちゃんや他の子達を連れて建物内に避難してほしいっす! アリシアとローランは遊撃として妖達を牽制、紫姉とゆかちゃんは主攻として攻撃を! 白虎と有吾さん、伴部さんと唯ちゃんはその援護を! 夜は花さん達の護衛を頼むっす! 呪印、玉鋼!」
あたいは指示を出すと呪印と玉鋼を展開して、全員の武器や術を強化するっす。
「わかったわ! 白、此方よ!」
「は、はい!」
「Brother、Sister、此方だヨ!」
「つぅ……ほら、あんたも来な!」
「す、すまない……」
「任せろ! ガキども、此方だ!」
花さん達は夜と一緒に子供達を建物内に避難させ……
「ぶへぇ!?」
ようとして、何かに激突したっす。
「な、なんだぁ……こいつは……!?」
「結界!? 師匠のじゃない……師匠なら、こんな雑な結界は敷かないだろうし……」
「……雑だけど、戦いの余波が来るところじゃ解除も出来ないだろうね」
「誰ガこんな事ヲ……!?」
夜達はペタペタと結界を触りながらなんとか入ろうとして……!?
「危ないっす!」
「ぬぉ!?」
「おらぁ!」
「ぐあ!?」
あたいが花さんに飛びかかった槍を持った天狗を弾き飛ばし、夜がガリガリに痩せて肋が浮き出て背中に翼を生やした細身の天狗を裏拳で殴り倒したっす。
「こいつらは……!?」
「てめえら……! 人が見逃してやれば好き勝手に動きやがって……! 物語を無茶苦茶にするんなら、お前ら全員を此処で狐璃白綺の餌にしてやらぁ!」
声の方向に目を向けると、そこには八ツ手を持った天狗と錫杖を持った天狗と複数の鳥の式神を従えた山伏風の男の人がそこにいたっす。
「あんたは誰っすか!? と言うか、物語って……?」
「ああ? ……俺の名は『
「「「「くたばれ!」」」」
「うおお!?」
烏野があたい達に対して説明をしていたところを怒り心頭の夜達が総出で攻撃を仕掛けたけど……全部、八ツ手を持った天狗の起こした風に吹き飛ばされちゃったっす。
……まあ、この男の言葉に怒ってるのは夜達だけじゃないっすけどね!
「あんた……なに考えてんすか! この子達や吾妻さんが食われて化け狐が力を取り戻す……そんな、終わりかたをする物語なんて此方からごめんすよ! あんたも化け狐ももろともに倒してやるっすから、覚悟するっすよ!」
「やってみせろや、モブキャラ! やれ、『
「妾を無視するでないわ、猿どもがぁ! 黒角童子、『
「あいよ、姐さん! おら、行くぜぇぇぇぇぇ!」
「はぁ……ぐだぐだ」
あたい達は襲い掛かってくる四体の天狗や式神達、鬼や化け狐達との戦いを始めたっす。
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「ちぃ! こんな事になるとはな!」
「楽勝だと思ったのに、なんでこんな事になるのよ!」
俺は葛葉唯と共に化け狐に対峙しながら舌打ちをする。なんせ、旭衆都組新街支部が孤児院の外で鬼月旭も含む退魔士達が孤児院の中で化け狐達を殲滅する作戦は途中までは上手く行ったにも関わらず、原作尊守の転生者の介入のせいで完全な乱戦になったからだ。
「て、言うか。あの天狗達の元ネタって……」
「『鬼滅の刃』の『半天狗』だろうよ! 容姿や装備も似てるしな!」
俺達は原作尊守の転生者の連れて来た天狗の元ネタを察知しながら化け狐から横凪ぎに振るわれた太く、長く、半ば音を置き去りにした尾の一撃を身体を伏せて寸前で回避した。やべぇ、今の直撃したら二人揃って上半身と下半身が泣き別れしてた……!!
「やべ……!」
「うひゃあ!?」
攻撃は終わらない。俺達が身体を伏せた所目掛けて放たれるのは音の形を取った暴力だった。先日ゴリラ様に向けたのと同様の、あるいはそれよりも強力な咆哮。目にも見えない破壊の嵐を、俺達は放たれる直前に身体を回転させて左右に分かれて距離を取る。同時に先程俺のいた場所の地面が爆音と同時に吹き飛んだ。多量の砂と土が宙を舞う。角度的に孤児達を守っている夜達の方向に向かわなかったのは幸運だな。
「ゴホ……!?」
粉塵の中から投擲された槍が喉に直撃し、化け狐がたたらを踏む。それでも意に介さずに尾と前足を振るって周囲を牽制すると同時に周辺を嗅いで警戒をする。
なにせ、前回では隙を突かれて己の尻尾を全て切り落とされたのだ、警戒をするのは当然である。別の武器を投擲してくるか? それとも粉塵に紛れて接近してくるか? 式神で陽動でもしてくるか? 別方向に分かれた女と共に攻撃してくるか……?
「そこか……!?」
粉塵に紛れて漂ってくる臭いから逆算して狐はそちらを攻撃する。鞭のように振るわれる尾が前後からうっすらと現れた影をその直後に貫いた。だが……
「これは……ちぃ、また式神か!」
貫かれた人形はしかし外套を着こんだ人間達ではなく、不恰好な歩く案山子に過ぎなかった。『ポンッ!』と白煙と共にただの紙に戻る式神。
「何度も何度も小賢しい真似を……「んじゃ、さらに小賢しい真似をしてあげるわ!」ぐおっ……!!?」
狐は罵倒を吐いたと同時に投擲された物体が破裂し白煙を発生させる。その瞬間、狐は鼻腔と目元に激痛を感じてのたうち回った。涙を流し、咳き込む。それは式神から発生した白煙と投擲された物体が原因だった。
白煙の正体は気化した催涙剤と刺激剤だった。薬草を磨り潰して、あるいは発酵させて、混ぜ合わせたそれは、特殊加工した火薬と共に陶製の鋳物の中に詰め込まれている。そして微量の霊力を注がれると火薬は発熱し始め、薬品を気体に蒸散させる……という仕組みだ。しかも今回のものは鬼月家の抱える薬師衆の新作、その試作品だ。幾ら数百年生きる妖狐でも受けた事がないだろう部類の刺激の筈だった。
しかも、葛葉唯はそれを更に圧縮した煙玉を投擲したからな……暫くは鼻も目も役にはたたないだろう。
「ぐおおおぉぉぉ……こんな小細工でぇ……!! ふざけるなよ小僧と小娘がぁ!!」
「姐さん!」
「行かせないっすよぉ!」
「伴部と唯の邪魔はさせない!」
相手の接近を許さないように涙を流しながら尾を乱雑に振るい接近を警戒する狐。鼻が利かず、粉塵と涙で視界も不明瞭、しかも結界に閉じ込められて動ける範囲が限定されている以上、それが彼女に出来る最善の策だった。
男の鬼が此方に来ようとしていたが、鬼月旭と白虎の二人が食い止めているため此方には来れそうもないな。
「だからこそ……行け、貴様ら」
「行って」
荷物を背負った式神の鼠が数頭、地面を這うように駆け、荷物を持った同じく式神の雀が数羽、地面すれすれに飛ぶ。相手が人間相手に尾を振るっているために地を這う矮小な鼠や地面すれすれに飛んでいる矮小な雀の存在に気付かなかった。
そして、鼠と雀共が狐の足元まで寄った時、漸くその気配に狐は気付いた。
「何? 鼠と雀だっ……」
そこまで口にした瞬間、鼠と雀は爆発した。正確には式神達が背負っていた爆薬が、だ。刺激剤のお陰で火薬の臭いに気づけなかったのだろう。薬師衆の知り合いから個人的に受け取っていた低品質の火薬(葛葉唯は自身の家が呪具の作成の傍ら作っていたそれなりの品質のだが)、それだけならば爆発の威力もたかが知れている。故に竹筒に尖らせた小石や葛葉唯が持ってきていた刃物系の呪具の作成の際に失敗した呪具の破片を詰めて手榴弾のように運用した。狙いは臓器等が密集して警戒の薄い腹部。そして……漸く俺達も動く。
隠行で密かに背後に回っていた俺達は、再び左右に分かれて霊力で脚力を強化して一気に距離を詰めに行く。途中で腹から血を流した化け狐は俺達の存在に気付いて振り向きながら狐火を放つが、それは式神をぶつけて幾つかは無力化、残りは直撃寸前で正面に盾役の人形の式神を発現させて受け止めさせる。粉塵と白煙の中で燃え盛る人形の姿に一瞬とは言え化け狐は俺達を仕止めたと勘違いした。その刹那の油断を突くように俺達は攻める。
「……いや、まだかっ!!」
その気配に気付いた狐は今度は正面を向いて尾を振るう。振るわれた尾は当然のように粉塵のように正面から突っ込んできた数頭の烏の式神を切り刻んだ。しかし、それが陽動なのは明らかだった。
「っ!? やはり此方が……」
「本命だよ……!!」
「終わらせてもらうわ……!」
咄嗟に振るわれた狐尾が真横を通りすぎた。空を切る音と共に俺の身体の左側の外套が削れて生地が風に乗って吹き飛ぶ。いや、身体自体も少し削れたか、鈍い痛みが左腕や左足から感じた。だが、ここまで懐に入り込めば……!!
『いい加減にしろ、クソモブがぁ! 下人風情が目立つんじゃない!』
「な!?」
俺は横合いから突撃してきた白鷺の一撃で態勢を崩される。だが、まだ……!
「伴部! この……! 終われぇぇぇぇぇ!」
葛葉唯の渾身の刺突が化け狐に……
「『
「え……きゃあぁぁぁぁぁ!?」
直撃する前に槍を持った天狗から放たれた三又の槍状の衝撃波を受けて吹き飛ばされた。
待て、確かあの天狗は分け身を守っていた夜が戦っていた奴だぞ……!?
俺が嫌な予感を感じて振り向くと、そこには血塗れで倒れている夜とほんのりと焼けた臭いのする花が倒れ伏しており、その前では錫杖を持った天狗がぐったりとした分け身を小脇に抱えて此方に向けて歩いていた。
「嘘だろ……!?」
「現実じゃ……!」
その声に俺は振り向いた。そこにいたのは此方を憎悪の表情で睨み付ける血の滲んだ白服を着込む女……銀色の長い髪に宝石のように輝く青い瞳をしたそれは間違いなくゲーム内において主人公を何度も襲ったあの狐璃白綺その者であった。
(不味い……!!)
俺が地面を蹴りあげその場を退避しようとしたのと衝撃が襲ったのはほぼ同時だった。
「がはっ……!?」
叩きつけられた裏拳を、以前のように直撃する寸前に跳躍と衣服の下に仕込んだ籠手で威力を削るが、前回よりも遥かに強力な一撃の衝撃を殺しきれる訳もない。そのまま葛葉唯の近くの地面に叩きつけられる。あ、今骨から変な音聴こえた。
「おえっ……!? げほっ……!!?」
「伴、部……ごめ、ん……」
俺は諸に攻撃を受けて傷を負って苦しげな葛葉唯の声を聞きながら、地面に血と胃液と内容物の混合物を吐き出した。
(ヤバい。前回の時は多少の打撲で誤魔化せたが……今の一撃を受け止めた左腕、間違いなく折れた……!!)
立ち上がった俺はぶらんぶらんと揺れる左腕を見て苦笑いを浮かべる。糞、油断した。相手は腐っても元凶妖だっていうのにな……!!
俺は痛み止め……と言えば聞こえが良いがある種の麻薬類を丸薬にした物を飲み込む。これで多少痛みは誤魔化せる……といいなぁ。
人の姿に成り済ます妖狐の姿を見て、俺は観察する。腹部の衣服は赤く染まっている。相手の息も荒く、よく見れば汗も流れている。やはり下手に肉弾戦するよりも火薬を使った方が効率的か。
「とは言え完全な不意討ちですら戦闘向きでない大妖を仕止め切れないか……!!」
「情け、ないわね……」
俺は短刀を構えて葛葉唯を庇いながら苦虫を噛む。一応この時に備えて色々シミュレーションはしてきた。相手に先手先手を打つ事で選択肢を狭めさせて戦いの主導権を握る。下手に化物に自由な動きをさせたくなかった故の行動はしかし最後の最後で破綻した。
「フゥー、フゥー……よもや、下人と半人前の退魔士如きにここまで手玉にとられるとはな……!!」
腹部から流れる血を手で押さえつけながら、獣のような唸り声を上げる化物。その表情には明確な焦りが垣間見えた。たかが路傍の石程度の価値しかない俺相手にここまで追い詰められるのは想定外だったらしい。無論、旭衆の作戦や俺達が入った後で結界を張った退魔士等、何処かに隙を見せたと同時に自分を襲撃してくる存在がいないか警戒していたのも一因だろう。俺達に対して意識を集中させ、全力で挑めなかったのは化物が此方が仕掛けた罠の数々に見事に嵌まった要因だ。
しかし、それもどうやらここまでのようだ。恐らくここまで俺達が追い込まれても、幾度となく致命的な隙があっても何らの介入もなかった事から彼方もそろそろ此方の策の品切れに気付いていると考えるべきだ。
「地を這う虫は虫らしくしておけば良いものを……!! 私に! この強大な力を持つ私に立ちはだかりこのような屈辱を……!! 許さんぞ猿どもがぁ!!」
重傷を負っているとは思えぬ程の禍々しい妖力を身に纏い、此方を睨み付ける化け狐。
「猿猿五月蝿いぞ、狐が。来いよ、毛皮を剥いで敷物にしてやる」
「弱、い……奴ほど、良く、吠え…るってね……!」
「言わせておけば……!!」
俺達の挑発に目を見開き怒り狂う化物。そうだ、お前さんは短気で感情の起伏が激しいからな。こんな安い挑発でも乗ってくれると思ってたよ……!!
「ふん、腹ただしいほど的確な罵倒じゃな……しかし、無意味じゃ」
「弱いというのは本当に哀しいのぅ。そうするしか、策はないんじゃからな」
そう言って、化け狐の前に分け身を小脇に抱えてた錫杖を持った天狗と槍を持った天狗が立ち塞がる。
(……マジかよ)
俺は苦虫を噛み潰したかの様な気分でその様子を見る。
「狐璃白綺、とっととそいつを食っちまえよ。そんで、そいつらを殲滅しちまえ」
「……ふん、同族を裏切る猿に言われんでもないわ」
原作尊守の転生者にそう言われて、己の前に放り出された分け身を化け狐は食い殺そうと……
「……『
「……『
「がはぁ!?」
した瞬間……化け狐の土手っ腹に純白の籠手を装備した夜の拳が炸裂し、花から放たれた炎で吹き飛ばされた。
「ば、馬鹿な……その、術に……籠手は……!?」
「俺の先祖やお前の親父さんに誓ったんだ……此処でお前を止めるぜ、狐璃白綺! いいや、■■よぉ!」
「あんたを止めて、この子と幸せに過ごさせる……それが、あたしの役目だ!」
何故か愕然とする化け狐に純白の籠手を装備した夜と人になった化け狐を模した霊力で出来た衣を纏った花がそう宣言した……
次回もお楽しみに!