旭奇譚~和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件~   作:愛川蓮

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第二十一話

「うう……まだ痛い……」

「あ、旭様……大丈夫ですか?」

「白ちゃん……まあ、大丈夫っすよ。こんなの幼い頃に洒落にならない事をしておばあちゃんに拳骨食らったときに比べれば屁でもないっす」

 あたいが朝御飯を食べながら気絶する原因になった頭のたんこぶを擦っていると、白ちゃんが心配そうに話しかけてきたから何でもない風に話すっす。

 

 実際、あたいがお父さんとお母さんを蘇らせたいって思って、おばあちゃんが持っていた資料に記されていた禁じられている呪具の中でも最悪の呪具の反魂香(はんごんこう)を調べていた時に鬼気迫る顔であたいの頭に降り下ろされたおばあちゃんの拳骨に比べたら痛くないんすよね……

 

「それにしても、旭様達の子孫が来るなんて……」

「そうっすよねぇ……あたいとしては、旭衆が未来でもあることにほっとしたっすね」

 あたいは(葵姉によって強制的にあたいや葵姉、雛姉と一緒に朝御飯を食べさせられている)伴部さんの隣で綺麗な正座をして食べてる紫音さんと雛子さん……雛姉と葵姉の手で柱に縛られてその様子を後ろから見せられている白夜さんと九恩さんを見ながら苦笑いをするっす(因みに四人が此処にいるのは、より詳細な話を聞くためなんすよね)。

 

 あたいが起きてから聞いたんすけど、紫音さんは葵姉の雛子さんは雛姉の、九恩さんは紫姉で白夜さんはあたいの子孫らしいっす。

 でも……雛姉や葵姉が伴部さんを諦めて別の男の人の子供を産みそうにないから、あたいはどっちかに決めずに伴部さんを譲ったんすかね……? 

 

(私としては、最下位ギリギリのあの二人の子孫があんなにまともそうなのが驚きだぞ)

(ちょっと、夕陽!?)

 あたいがいきなりヤバい事を言い出した夕陽にツッコムっす。

 

 因みに、夕陽は綾姉とか一部を除いた鬼月家の人達は軒並み「どいつもこいつも……特に女達は伴部を幸せに出来そうにない」って事で低い順位にしてるんすよね……あたいとしては、ずっと伴部さんを思い続けた雛姉や伴部さんの為に一念発起して努力を続けている葵姉の気持ちを叶えたいんすけどねぇ……

 

「あ、白ちゃん。白夜さんと九恩さんにこれを持っていってほしいっす」

「え、あ……はい!」

 あたいは豪華すぎる朝御飯の内の一部を漆塗りのお椀に分けると、白ちゃんに柱に縛り付けられてる二人に持っていかせるっす。

 

 ……二人とも、ご飯を食べてる紫音さんと雛子さんを羨ましそうな目で見てるんで哀れに思ったんすよ。

 

「あ、あの……旭様に言われて、ご飯をお持ちしました」

「あ……すんません、白先生」

「やっぱり、白先生の子供時代だよなぁ……この子。表情とか、そういうのだけでもそう思うぜ」

「ふえ!?」

 紫音さんや雛子さんによると、白ちゃんは紫音さん達がいた時代では紫音さん達のいる教え処で先生をしているみたいなんすよ(容姿は狐白さんのキツい目を柔らかくしたような感じらしいっす)。

 

(それから……伴部さん、唯ちゃん。お願いするっす)

 あたいがこっそりと目配せをすると、二人ともそれに気付いてくれて白ちゃんに話しかけてくれたっす。

 

「白、あたしと伴部の朝御飯を分けてあげる」

「ひゃっ……!? で、ですが……あ」

 唯ちゃんの提案を断ろうとした(八つ当たり気味な)葵姉の命令で朝御飯を抜きにされた白ちゃんのお腹から小さく空腹を知らせる音が鳴って、白ちゃんは顔を真っ赤にしたっす。

 

 でも……伴部さんを独占できる時間が取れなくなったからって幾らなんでも八つ当たりが過ぎるっすよ、葵姉(と言うか、白ちゃんはあたいの側仕えだし……断れないあたいも情けないけど)。

 因みに雛姉は葵姉を睨んだ後で、葵姉に対して『ざまぁみろ』と言いたげな顔で笑ってたんすよね……

 

「小さな女の子のお腹を鳴らしてるのに食べてたら、食べてる私達も罪悪感が強いのよ。伴部、あなたの汁物と私のご飯の半分を白ちゃんに食べさせるわよ」

「分かった」

「えっと……けど……」

「遠慮するな。吾妻殿との約束もある。……俺は殺されたくない」

 白ちゃんは唯ちゃんが自分のご飯の半分と伴部さんの汁物を膳に載せて渡そうとするのを遠慮するけど、伴部さんはそう言って後押しをしたっす。

 

 実際問題、白ちゃんを空腹のままにしたと知られたら結構過保護な吾妻さんにあたい達は三人揃って呪い殺されそうなんすよね……そもそも白ちゃんが八つ当たり気味に朝御飯抜きを言い渡された時も花さんや夜がキレてたし。

 

「うぅ……」

「食べても良いっすよ」

(元々、そのつもりで向こうに行かせたのだしな)

 白ちゃんがちらりとあたいの方を見てあたいの判断を尋ねて来たから、あたいはそう言って唯ちゃんが差し出した物を食べることを許可したっす。

 

「旭様の許可もでた事ですし、食べなさい」

「焦る事はないがさっさと食べて仕事に戻れ」

 唯ちゃんと伴部さんの方を向き直り不安げに上目遣いする白ちゃんに唯ちゃんが膳を差し出し、伴部さんがそう命じると白ちゃんはコクコクと首を振って味噌汁を啜り出し、ご飯を食べ始めるっす。ああやって美味しそうに食べてる姿って、あたいも楽しくなっちゃうっすね。

 

「ふぅ……おいしい」

 意外と早く味噌汁を飲みきり、ご飯を食べ終えると満足そうに小さく溜め息を吐いた白ちゃんはそう言うと、ぺろりと小さい赤い舌が唇を舐めたっす。

 

 ……うん、こういうちょっとした所作が矢鱈と可愛らしくて年不相応に色っぽい所を見ちゃうと妖艶さで有名な妖狐の血が混じってるって実感しちゃうっすね。

 

「じゃあ、戻ってきてほしいっすよ」

「あ、は……はい!」

 あたいがそう言うと、白ちゃんは足早にあたいの側に戻って来たっす。

 

(でも……白ちゃんが受け入れられて良かったっす)

(懸念されていた妬みなどによる苛めも無かったしな。……まあ、継承権が低い旭の側仕えだからってのもあるだろうが)

(それは言わない約束っすよ……)

 実際、白ちゃんがあたいの側仕えとしてやって来た最初の日々はあたい達三人や花さん、夜は白ちゃんが半妖だって言う理由で苛められないか、酷いことを言われないかって警戒をしてたんだけど……白ちゃんの生来の愛らしさから女中達からの評判は良くてそれが巡り巡って雑用人達からも可愛がられてるんすよね。

 まあ、あたいが雛姉や葵姉に比べて次期当主の座から遠いのもあると思うけど……

 

「……そういえば、旭姫様。僭越ながらお尋ねしても宜しいでしょうか?」

 あたいがそう思っていると伴部さんがあたいの方を向いてそう言ってきたっす。

 

「どうしたんすか?」

「早朝のお呼び出し、御求めに応じる事が出来ず申し訳御座いません。して、此度は一体如何なる案件だったのでしょうか?」

 あ~……そう言えば伴部さんにはどんな用件かを説明してなかったっすね(屋敷から出た後で葵姉が話す算段だったんすよ)。

 

「ああ、それは……」

「旭、私が話すから良いわ。本当ならとっとと身支度して裏口から牛車で出ようかと思ってたのよ。何時も話を聞くのは面倒くさいし、かといってぞんざいに扱うと旭が哀しみそうだしね。あ~あ、夜から聞いたけど貴方が旭の側仕えや白虎と厭らしいお遊びをしてなかったら朝一に入り違って誤魔化せたでしょうに……まあ、あの子の目を反らす為の『囮』がいて助かったわ」

「? それはどういう………」

「葵姉、囮って……?」

(こいつは……!)

「葵、お前まさか……」

 あたいと伴部さんが同時に聞こうとして、遠くから響いてくる足音に気付いた。

 それは、焦りと心配がいり混じったような駆け足で途切れ途切れに聞こえる会話はあたいの心配をしてて……あ、もしかして囮って……

 

「旭、大丈夫ですか!? なにやら襲撃があったと!」

「大丈夫?」

 襖が開けられると、そこには心配そうな表情の紫姉とゆかちゃんの姿があったっす。

 ……葵姉、囮ってあたいや白夜さん達の事っすね……ん? 他に三つほど足音が……って、この声は……! 

 

「伴部さん、危ない!」

「……くたばれ!」

「天誅!」

「白龍、何処で学んだのそんな言葉……!?」

「うお……!?」

 あたいが蔵丸から薙刀を取り出して振るうと、必死に止めようとした白虎を振り切った白龍と黒龍が伴部さんに向かって投げつけられた鏢の大半を叩き落とし、伴部さんも残りの鏢の中でも急所に当たりそうな物を膳を盾にして防いだっす。

 

「……はあ」

「お前たちな……!」

「「ふぎゃ!?」」

 そして、呆れた表情の葵姉と怒った雛姉が投擲した扇と箸が白龍と黒龍の眉間に当たり二人は揃ってひっくり返ったっす。

 

 ──────────

 

「信じられません」

「そりゃそうだ」

 ぐだぐだな朝御飯を終えて膳が片付けられるとあたいは紫姉とゆかちゃんに白夜さん達が未来から来たあたい達の子孫だって事とかを言うと、紫姉は白夜さん達を胡散臭そうな物を見る顔で否定して白夜さんもそれに同意したっす。

 

 因みに、葵姉と雛姉に吹っ飛ばされた白龍と黒龍は白虎から拳骨を食らった後で地面に正座をしてあたい達の話を聞いているっす。

 

「……まあ、証拠はあるんだけどね。九恩、『あれ』を見せてあげて」

「あ、そっか。これは世界に一本しかないもんな」

 雛子さんがこの後起こる紫姉の混乱を想像した様な渋い顔で九恩さんにそう言うと、九恩さんは縛られた状態から器用に腰に携えていた刀を取り出して紫姉に差し出したっす。

 

「? これが何だ、と……は? こ、これは……」

「……嘘」

 紫姉がそれを受け取ると、刀の感じから何かを察したのか刀を鞘から抜いて……紫姉もゆかちゃんも凍り付いたっす。……あたいが九恩さんの携えている刀が『紫姉の刀に似ている』ってのは、間違ってなかったみたいっすね。

 

「あら」

「なるほどな……」

 雛姉と葵姉もそれで完全に理解したのか、紫音さん達を何処か嬉しそうな顔で見てたっす。

 

「マジで……」

「本当に子孫なのか……」

 伴部さんと唯ちゃんは何故か頭を抱えていたっす。

 

 だって……九恩さんが差し出したのは紫姉の刀である『根切り首削ぎ丸(・・・・・・・)』だったんすから……

 

「……成る程、精巧な偽物でもありませんね。まあ、信じてあげましょう」

「すんません、俺達もこんなに動揺する手段は使いたくなかったんですけど……」

「構いません。これでも使わなければ信じなかったでしょうから」

 そう言って紫姉は動揺をどうにか抑えながら九恩さんに刀を返すと、九恩さんが紫姉に頭を下げながら謝罪をすると紫姉は気にするなと言ったっす。

 

「そういや、気になった事があったんすけど……紫音さん、雛子さんの御先祖……つまり、葵姉と雛姉なんすけど、二人のお婿さんって誰なんすか?」

(今聞くことか、それは!?)

 あたいの質問に夕陽が愕然としていると、紫音さんと雛子さん、白夜さんは質問に苦笑いをしながらこう言ったっす。

 

「あ~……悪い、答えられない」

「それも未来が変わるのが恐いから……とかじゃなくて、私達にもわからないからなの」

「何せ、この時代で起こる大事件が終わった後の時代を経て鬼月家も含む退魔士達は徐々に権利とかを削られていってな……それで資料等も紛失してしまい、見つからないんだ」

「雛子と紫音はまだ良いよ。『ひょっとしたらこいつじゃないか?』って候補が一人しかいないんだから。俺なんてあんたの夫の候補に二人いるんだぜ?」

「え、そうなんすか?」

 あたいの夫になる人の候補が二人……つまり、二人の男の人を好きになるって事なのか、それとも……

 

「「……」」

(……候補の一人は伴部だとして、後の一人は誰だ?)

 雛姉と葵姉が意味深な視線をあたいに向けていて、夕陽は何故か訳のわからない事を考えてるっす。あたいにとって、伴部さんは頼りになる兄貴分みたいなものなんすけどねぇ……

 

「まあ、九恩の先祖の赤穂紫や小百合の先祖の橘佳世、小百合の親戚の『柚子(ゆず)』の先祖の橘紗世に『道虎(たおふー)』の先祖の白虎、『椿(つばき)』の先祖の松重牡丹……どういう訳か今あげた人達の夫って、今でも判明してないんだよなぁ……」

「資料を紛失したのもあるけど……数少ない現存している資料にもあんまり多く記述されてないのよね。特徴的な活躍が無かったのか、それとも出身が卑しいから多くの事を各退魔家が書き記さなかったのか……」

 ふーん……あ。

 

「葵姉、雛姉。お茶が冷めてるんで、あたいが皆のお茶を淹れて来るっすよ」

「あら、殊勝な態度じゃない。でも、それはしなくて良いわ」

「お前がそうやって茶の淹れ方を教えたんだろうが……!」

 あたいの発言に葵姉はニコニコと笑いながらそう言うと、雛姉はそんな葵姉を睨みながら頭を抱えていたっす。

 葵姉は将棋とかの遊びが終わったりした時にお茶が冷めてたりすると、あたいに淹れさせてたんすけど(遊びを受けてあげた礼にって事らしいっす)……不味いから始まってどうしてそうなったかを丁寧に教えてくれたお陰であたいはお茶の淹れ方がわかるようになったんすよね(雛姉にそう言ったら凄く渋い顔になったっんよね……)。

 

「伴部、新しいものを淹れて来て頂戴」

「女中をお呼びすれば良いのでしょうか?」

「いいえ? 貴方が淹れてくるの。あぁ、序でに旭のもお願いね?」

 そう言って葵姉はごく自然な感じで伴部さんに全員分の湯飲みを渡したっす。

 ……伴部さんが淹れたお茶を飲みたいのもあるみたいだけど、伴部さんに対する嫌がらせも混じってるっすね、この命令。

 

 使い捨て上等で何処の馬の骨とも知れぬ出自の下人は賎しい存在っす。公家の屋敷で働く女中達からすればそんな小汚ない奴が自分達の仕事場に顔を出すなぞ嫌がるんだろうなぁ……まあ、だからといって断れないのが下人の悲しいところなんすけどね……

 

「……承知、致しました」

 伴部さんが湯飲みを盆に載せると隠行の技術も応用して立ち上がり、歩き、障子を開けて、退出する。その間、殆ど無音だったっす。

 

(下人としての技術を無駄に活用してるな……)

「なんつーか……あれを見てると第二次人妖大乱後に下人の制度が朝廷によって廃止された理由がわかるな……」

「まあ、そのせいで退魔士の損耗がはね上がって没落する退魔士家もあったんだから大変だよな……」

 夕陽の言葉に苦笑いをしてると、出ていった伴部さんを見て白夜さん達がひそひそと言った事にあたいはひっそりとほくそ笑んだっす。

 

(そっか……下人の制度は廃止されるんすね)

(まあ、それで退魔士の損失も増えたらしいが……無駄に妖怪に殺される奴がいない分、悲劇も減るだろうな)

 あたいと夕陽がそう思っていると、唐突にある気配を感じたっす。あたいは気配を感じた肩の辺りを見ると、そこには一匹の蜂鳥が止まっていて……

 

「ごめんなさい、ちょっと厠に行ってくるっす」

「早めに戻ってこい」

「はい」

 あたいはそう言って部屋から出て、周囲に人がいない場所まで行くと蜂鳥の形をした式神を手に乗せてそれに声をかける。

 

「牡丹ちゃん、どうしたんすか?」

『……相変わらず無警戒に話しかけますね。私が式神に言霊術を仕込んでいたらどうするつもりだったんですか?』

「そんなことをしないって信じてるんで」

 あたいがそう言うと、蜂鳥の式神はほんの少しの間黙りになるっす。

 牡丹ちゃんこと松重牡丹とは三年前の王家とクロイツ家の抗争未遂事件を探っていた際に出会って、色々と手を貸して貰ったんすけど……先日の狐白の騒動の際に(いやいやだけど……)クソ爺の弟子になったんだから、多少の贈り物くらいはしといた方が良いと思ったんでそれを持って古書店に行ったらばったりと店先であったんすよね。で、それで名字も知ったんすよ。

 

(そもそも、リリシアが牡丹の名を言った時点で気付け)

(それは言わないでほしいっすよ……)

 あたいは夕陽の呆れ混じりの言葉にそんなことを思いながら苦笑いをするっす。

 因みに、牡丹ちゃんがあたいに手を貸してくれたのはクソ爺が不穏な気配を感じて色々と探ろうと式神や牡丹ちゃんを使っていたら真相に迫ろうとしているあたいがいたから手を貸せとクソ爺から指示が来たからだそうっす(クソ爺はクソ爺で終盤にあたい達がルード・クロイツやルード・クロイツに半ば洗脳染みた教育をされていて敵対していたアリシアと戦っていた頃に抗争を激化させようとしたモグリを叩きのめして撤退させたそうっす)。

 

『え、もしかして牡丹様の親友として伝えられている旭様と話してるんでございますか? だったら私も話したいです!』

「へ? 牡丹ちゃん、どうしたんすか?」

『椿、勝手に私の式神の操作を奪わないでください』

 いきなり幼そうな声が式神から聞こえたかと思うと、すぐに牡丹ちゃんの声に戻ったっす。

 ……ところで、さっき聞いた名前が聞こえたんすけど。

 

「あの、さっき聴こえた声の子に聞くんすけど……君って知り合いに鬼月家の人がいないっすか?」

『旭様、そちらに白夜様がいるんですか!? 良かったぁ……婚約者の白夜様と離ればなれになって心細かったんです……』

『だから勝手に式神の操作を奪わないでください! 旭、それから話を脱線させないでください。話が進みません!』

 あたいが椿ちゃんに向かって声をかけると、式神から安堵したような声と若干のイラつきが入った牡丹ちゃんの声が聴こえたっす。

 ……てか、白夜さんと椿ちゃんって婚約者なんすね。聴こえた声から白夜さんよりも二、三周りくらい幼いっぽいすけど……まあ、宇右衛門様と小鼓(こつづ)ね……小鼓様の例があるっすから頑張るっすよ。

 

『いい加減、うるさい』

『きゃいん!?』

 式神の向こうから拳骨の音が響いたかと思うと、椿ちゃんの小さな悲鳴が聞こえてきたっす。

 

「……牡丹ちゃん、椿ちゃんは大丈夫っすか?」

『……ええ、まあ。ついさっき、勝手に居候している鬼に殴られて目を回しながら気絶して静かになりましたが。いきなり現れて色々と騒ぐから大変でした』

 そう言う牡丹ちゃんの声には疲労と、何処か嬉しそうな気持ちが混じっていたっす。

 

「っで、真面目な話っすけど……なんの用事っすか?」

『……あの狐達は何か怪しい動きをしていませんか?』

「ああ……やっぱりその話っすか。今の所は怪しい動きはないっすよ」

 牡丹ちゃんの質問にあたいは頷きながら答えるっす。

 狐達っていうのは狐白さんと白ちゃんの事で、二人が共謀して鬼月家を嵌めようとしてるんじゃないかとクソ爺は考えているっぽいすね。

 

 ……まあ、妖怪は善悪の区別なく全部殺すなんて考えているクソ爺の思考回路からすれば都を攻めようとした妖の狐白さんやその根源である半妖の白ちゃんを警戒して探るのは当然すね。

 

『……妖は卑怯で卑劣ですから。私は、旭や佳代があの狐達によって傷付く位ならその悪い根を断ちます』

「心配をしてくれるのは嬉しいけど、白ちゃんの態度は演技じゃなさそうだし……狐白さんの穏やかな感じも嘘じゃなさそうっすよ」

 あたいは心配そうな口調でそう言う牡丹ちゃんに苦笑いをしながら力強く答えるっす。だって、狐白さんや白ちゃんの夜や花さんとの間にある絆やあたいに対する態度は信頼出来そうな感じっすからね。

 

『……だから、心配なんですよ。旭は他人を信頼するのが早すぎるんです。王家とクロイツ家の騒動でそれで痛い目をみそうになったのを忘れましたか?』

「う……それでも、信じなきゃ何にもならないっすよ」

 あたいは牡丹ちゃんと協力して両家の抗争を止めようとした際に質の悪い情報屋を信頼して、危うく人買いに売られそうになって夜と牡丹ちゃんに助けられた事を言われて目を逸らしながらそう言う。

 実際、退魔士は人を疑わないとやっていけないっていうのはわかってるんすけどねぇ……それでも他人を信頼したいって言うのは、身勝手すかね? 

 

『それはある意味間違ってないんじゃないかなぁ? 『あいつ』の一族も何度も無条件に人を信じては痛い目にあっていても、それでも突き進んで結果を残すんだからね』

 唐突に蜂鳥から粘っこい、女の人の声が聴こえたっす。

 

「赤髪碧童子さん、もしかして中継用の式神を奪い取ったんすか?」

『おや、伴部は疑う事から入ったのに旭はあっさりと受け入れるんだね』

「そりゃ、最近ばったりと会ったっすからねぇ……」

 牡丹ちゃんと一緒に古書店に入ったら店の奥から出てきて「やぁ」と手をあげながら挨拶をした時には心底驚いたっすよ。

 

「で、何の用っすか? あたいはそろそろ雛姉達の所に戻らないと……」

『ん? ああ、暇な時で良いから古書店に来てよ。良いものをあげるからさ。あ、罠の心配はしなくていいよ? 前回の御祝いみたいなものさ』

「ん~……色々と気にはなるんすけど、安易に受けて赤髪碧童子さんの判定に引っ掛かるのも怖いんすよねぇ……」

『ははは、そういうのを心配している時点で合格さ。じゃあ、待ってるから』

『あ!? 勝手に式神を処分しないで……』

 あたいが赤髪碧童子さんの声と共に避けると、蜂鳥の式神は小さな火の塊になって燃えかすとなって散っていったっす。

 

「赤髪碧童子さんの贈り物って、なんなんすかねぇ……?」

(知らん。が、警戒はしておけよ? あの鬼は何を仕掛けるかわかったもんじゃない)

(わかってるっすよ)

 あたいは赤髪碧童子さんが送ろうとしている物の正体を考えながら部屋に戻ったっす。

 

 ……部屋に戻ると何故か白龍や黒龍と白夜さんと伴部さんが組んで模擬戦をすることになっていて、大混乱をするはめになったっす。




次回もお楽しみに!

蛇足:『闇夜の蛍』に旭がいた場合の台詞集7『雛編』

旭に対する思い
雛「旭は大切な妹だな。この家で寂しくしていた私に明るく照らしてくれた太陽だ」
旭「ひ、雛姉!? ち、ちょっと照れるっすよ~……」

旭、主人公との共闘
雛「旭、環……背中は任せたぞ!」
旭「了解っすよ! 雛姉も後ろは心配しないでほしいっす!」→背中合わせで戦う雛と旭のCGが映る。

雛&旭エンド(旭メイン時)
雛「さあ、二人とも……行こうか」
旭「了解っす! 雛姉や環君となら、火の中だろうが水の中だろうが怖いものなしっす!」→扶桑国外行きの船の甲板上で水平線を共に見る雛と旭のCGが映る。

雛&旭エンド(雛メイン時)
雛「旭、環……これからも一緒に私を支えてくれ」
旭「勿論すよ! 当主になった雛姉を支えるってあたい達は誓ったんっすよ! 勿論、葵姉もっすよ?」→当主となった雛の微笑みにウィンクをする旭のCGが映る。
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