旭奇譚~和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件~   作:愛川蓮

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遅れて申し訳ありません!


第二十二話

 何故、伴部が白夜と組んで白龍及び黒龍の姉妹と模擬戦をすることになったのか。それは旭が牡丹と話をしていた時間まで遡らないといけない。

 

「……白龍、黒龍。何であんな事をしたの?」

 白虎は自身の制止を振り切って旭や義姉達の居る目の前で伴部に向かって攻撃を仕掛けた自身の従姉妹を咎める様に話を聞く。

 

「……あいつは、あの時白虎姉のトンファーが砕けてなければ頭をかち割られていた程度の実力なのに、それなのに運で勝って白虎姉の婚約者になったから……私が殺す事で目を覚まさせてあげようと思って」

「「………………」」

 雛と葵の視線が黒龍の伴部を貶す様な言葉の数々に絶対零度の冷たい視線になりつつあるのを知らずに、黒龍は最後に「あんな弱い奴を側近として置いてる旭の気が知れない」と言った事で二人の殺意は最高潮になろうとしていた。

 

「白龍は?」

「……私は、黒龍と違って白虎姉様が伴部に負けてその婚約者になった事に対しては理解はしている」

「白龍!?」

「ほう……」

「……へえ」

 まさかの言葉に黒龍が愕然とし、雛と葵はその発言に少し驚く。

 

「黒龍。あの時、白虎姉様や黒虎兄様と一緒に旭や夜、伴部と戦っていたのは覚えているな?」

「え……う、うん」

 黒龍は姉の言葉に疑問符を浮かべながら頷く。

 

「その時、旭達は入れ替わり立ち代わり戦っていたんだが……旭達は入れ替わる時に私達の武器それぞれに武器破壊の技をかけていたんだ」

「え……そ、そうだったの?」

「ああ。旭と夜は位置の関係で実力的には三人の中で一番弱い伴部と向かい合う白虎姉様のトンファーへは特に念入りに武器破壊を撃ち込まれていたんだ。つまり……」

「白虎姉のトンファーが砕けたのは偶然じゃない……」

「ああ……あの二人の技とそれが起こるのを信じて必死に白虎姉様の攻撃を凌いでいた伴部の作戦勝ちだよ」

 白龍の説明に黒龍は不満そうにムスッとした顔でそっぽを向いた。

 

 ……そんな白龍に白虎は首を傾げながら疑問を口にする。

 

「確かにそうだったんだけど……その話、誰から聞いたの? それに伴部を認めているなら、どうして攻撃したの?」

「あ、話は旭から聞いたんです。白虎姉様が何故下人の伴部に負けたのかを知りたかったので」

 最初の質問に答えた白龍は息を整えると、二番目の質問にかなりの苛立ちを込めながらこう言った。

 

「私が伴部に苛立つのは、必死に想いを伝えている白虎姉様に手を出さない……白虎姉様と子作りをしないことです」

 その言葉を言った瞬間……雛と葵は光を失った目で白虎を睨み付け、紫は子作りの部分で顔が真っ赤になる。

 

 それに気付かず、白龍は更に語気を強める。

 

「そりゃ、旭に佳世や紗世、紫様みたいに可愛らしい人や葵様みたいに美しい人、雛様や(ゆかり)みたいに凛々しい人がいるのなら目移りをするのはわかります。ええ、私が伴部の立場でも思わず目移りをしてしまうでしょう。しかし! 白虎姉様もそれに負けないくらい美人だし、何より伴部の心を射止めるために色々と試行錯誤をしています! まあ、基本的には倒して婚約を結ぼうとしていたようですが……此処に来てからはそれとない気遣いや訓練が終わった後に軽食を届けたり、狐に手傷を負わされて動けなかった時は介護までしていたし、果ては夜這いまでしたにも関わらず……何故、あの男は白虎姉様に手を出さないのですか!」

「何で、それを全部知ってるの……!?」

「ああ、逢見家の女中に白虎姉様を応援している人がいまして。その人に全部聞きました」

「あわわわ……!」

「「…………」」

 顔を真っ赤にしながら手で覆う白虎を雛と葵は泥沼の様な暗い瞳かつ無表情で見ているが、葵が手に持っている扇がみしみしと音をたてており、雛は側に置いてある刀に手をかけておりそれを抜き放つ寸前であった。

 因みに紫は可愛らしいと言われた事に頬を赤くし、(ゆかり)はそんな義姉に呆れていた。

 

「おい、これヤバくないか……?」

「いざという時は、俺達で止めるぞ……!」

「私達で止められるかしら……?」

「でも、なんとか止めないと道虎の存在が消えちまうぞ……」

 そんな様子の雛と葵に白夜達はひそひそと話し合いながらいざという時は止めようとしていたが……

 

「姫様、お客様方、御申し付け通り茶を淹れて参りました」

「……御苦労様、入りなさいな」

 その声と共に伴部が隠行術を応用して静かに障子を開き……

 

「消えろ、雑魚下人風情がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「天……誅ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

「危ねえ……蔵丸!」

 白龍と黒龍は伴部が来るや否や巻物から青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)方天画戟(ほうてんがげき)を取り出して斬りかかるとそれを白夜が蔵丸から直接装備したメカニカルな小手で柄の部分を弾く事で軌道を反らした。

 

「……邪魔をするな! その下人は絶対に消すんだ!」

「その鈍感の性根を叩き直すのを邪魔するなら容赦はしない!」

「なんでそうなる……!?」

 二人の凶行に雛と葵は殺意をさらに強めるが、二人はそれを無視しつつ二人の攻撃を止めた白夜に武器を向けながら止めた理由を聞く。

 

「いや、まあ……キレる理由もわからんわけでも無いんだけどよ……だからって、二人がかりで一人に襲い掛かるのはフェアじゃねえだろ」

「待て、姫様達の前で襲い掛かるのも不味いだろ」

 白夜が止めた理由に伴部は呻きながらツッコミをきめる。

 

「まあ、要するに……だ。俺と伴部さんが組んでこの屋敷の庭であんたらと戦うならイーブンだ」

「此処は逢見家の屋敷で暴れるのは……」

「それなら問題ないわ。何が起きても私とお姉様が上手く取り繕って上げるから。あるいは貴方が大人しく斬られるなら庭も荒れずに済むわよ?」

「葵、何を考えている!?」

 葵の言葉に愕然とした雛の言葉をBGMにしつつ、伴部は内心で「冗談じゃねぇよ」と毒づきながら白から受け取って九恩が投げた班長用長槍(三代目)を空中でキャッチする。

 

「……手加減無用で殺す」

「流血沙汰は止めろ。白虎姉様や旭の名誉に関わる」

「ち、だったら再起不能にして鬼月家に処理させる」

「待て、戦うならルールが必要だろ」

「ストップだ」

 そう言って白龍と黒龍は各々の武器を構えると同時に伴部達に襲い……掛かろうとして紫音と雛子に止められた。

 

 ──────────

 

「と、いう訳なのです」

「なにをどうしたらそうなるんすか……」

 あたいは紫姉の説明と今すぐ伴部さんと白夜さんに襲い掛からんばかりに戦意をたぎらせている白龍と黒龍を見て頭を抱えるっす。

 

 いやまあ、ずっと伴部さんを思ってる雛姉や葵姉の気持ちも甲斐甲斐しく世話をする白虎の想いを受け止めない伴部さんもどうかとは思うんすけど……だからって、襲い掛かる白龍も白龍だし、一族の家訓を無視して伴部さんを殺しに来る黒龍も黒龍っすよ。

 後、葵姉はなんでそんな二人と伴部さんと白夜さんの模擬戦の許可を……もしかして、二人を伴部さんの成長の為の当て馬にするつもりっすか? 

 

「まあ、白夜さんの実力をみたいなと思ってたし渡りに船っすね」

 あたいは白龍や黒龍と向かい合っている白夜さんを見ると、準備運動をし終えると腕に着けてある変な小手をいじっていたっす。

 

「紫音さん。あれって、何すか?」

「ん? ああ、あれは白夜の親友で葛葉唯の子孫の葛葉(れん)が作った『機巧霊具(きこうれいぐ)』だ。能力は……まあ、見ていればわかる」

 そう言って、紫音さんは伴部さん達の方に向き直ったっす。

 

(唯の子孫……か)

(期待はできそうっすね)

 あたいと夕陽はそんな事を思いながら同じく向き直るっす。

 

「双方、準備は出来たな? ルールを再度言うが殺しは無し、周りの植物を傷付けるのもダメ、建物に損傷を与えるのはご法度だ」

 雛子さんの言葉に伴部さん達は頷くとそれぞれの武器を構えるっす。

 ……でも、これって白龍と黒龍にとってはかなり不利な様な気がするっす。何せ二人とも得物は長柄だし、王家の人達が良く使う投擲系の武器もかなり制限されるんすよね。

 

「それでは、始め!」

「先ずは、お前からだ! 方天画戟・『斬式』!」

 雛子さんの言葉と同時に白龍は方天画戟を巨大な大剣に変形させて白夜さんに斬りかかったっす。

 ……白龍の方天画戟は霊力を流し込む事で切ることに特化した大剣、突く事を主眼においた矛、叩き潰す事を目的とした槌、近づくものを薙ぎ払う為の斧、身軽であるがゆえに敵の攻撃を払って防げる棒の五つの形態に変換出来る王家秘蔵の武具なんすよね。

 

「『吠えろ、風よ』!」

「うわぁ!?」

 白夜さんは小手を横薙ぎに振るうと、そこから風の衝撃波が発生して白龍を吹き飛ばしたっす。

 

「あれが白夜さんの武器の能力っすか?」

「いや、あれだけではない。あれには……」

「それがお前の武器か……ならば、こうだ!」

 白龍はそう言うと、大剣を横薙ぎに振るって……その一撃は白夜さんを吹き飛ばすどころか、白夜さんが両断されたっす。

 

「な、何故両断されて……「おらあ!」がふ!?」

 白夜さんが両断されたのを見て慌てていた白龍を地面の下から現れた白夜さんに殴り飛ばされたっす。

 そして、両断された方は……水になって地面に染み込んでいったっす。

 

「あれが蓮が白夜専用に作った武具の1つ『五行丸(ごぎょうまる)』の力だ。五行丸は陰陽五行の力を付与していてな、ああして様々な事が出来る」

「ほえ~……ところで紫音さん。白夜さんって、もしかして……」

「……気付いたか。あいつは霊力はあるんだが適正があるのが身体強化の術だけでな、それを補うために蓮が色々と作ってるんだ」

 ふーん……あたいと唯ちゃんの血筋は未来でも仲が良いんすね! 

 

「『刃を赤熱せよ』、青龍!」

「うおお!?」

 おっと、黒龍と伴部さんの方も始まってるっすね。

 黒龍が刃が赤くなっている青龍偃月刀を伴部さんに向けて振るい伴部さんが横っ飛びに避けると……切っ先が触れた地面が蒸発したっす。

 

「……殺しは無しだと言ってたと思うが?」

「安心して、殺すつもりはない。あなたの腕と足をくっ付けられないくらいにバラバラの再起不能にして鬼月家にあなたを処理させるつもりだから!」

「俺は死にたくないんでな!」

 そう言って、伴部さんは青龍偃月刀を持っている腕に向かって槍の突きを放って……

 

「『我に風を纏わせよ』、青龍!」

「く!?」

 その瞬間、風を纏った黒龍によって弾かれてその反動を利用して横に転がると……さっきまで伴部さんがいた所を横薙ぎに青龍偃月刀が通過したっす。

 

 ……黒龍の持っている青龍偃月刀は昔の王家の当主が大陸で暴れていた龍の凶妖を叩きのめしてそれを封じ込めた、白龍の方天画戟同様に王家秘蔵の武具なんすよね。

 因みに、封じ込められた凶妖は王家の伝承によると『口よりは業火と激流を吐き、咆哮で万物を自在に操り、飛べば大嵐を呼び、ほんの少し身動ぎしただけで大地震が起こる』っていう凄い化け物で、卓越した人はその力を自在に扱えるんすよね……黒龍はまだ刃や自分に力を付与できるだけなんすけどね。

 

「やっぱり、大したことない。お前なんかが、白虎姉に勝った事自体が間違い……わ!?」

 そう言って、黒龍は伴部さんを追撃しようとして……何かに足を取られてひっくり返ったっす。あれは……小さな硝子玉? 

 

「小細工を……あぐ!?」

 黒龍は慌てて立ち上がろうとするけど、そのたんびに硝子玉に足を取られてゴロゴロと転がるっす。

 

「あいつにいきなり『ビー玉』を渡された時はどうしようかと思ったが……案外使えるもんだな」

 伴部さんが驚いた様な顔でそう言ったっす。……あれって、白夜さんが渡した物なんすね。

 

「くう……仕切り直し! 『我を浮かせよ』、青龍!」

 黒龍がそう言うと、青龍偃月刀から発生した風が黒龍を浮かし、さらに硝子玉を黒龍の周りから弾き飛ばしたっす。

 

「これで小細工も効かない! 『鎌鼬を吹かせよ』、青龍!」

 黒龍がそう言うと、青龍偃月刀から風の刃が発生して伴部さんに殺到したっす。

 

「ぐう!」

「な!?」

 それに対し、伴部さんは致命傷になるものを槍で弾きながら突進したっす。

 

「この……」

「は!」

「小細工は効かないと言った!」

 伴部さんを迎撃しようとした黒龍に向かって伴部さんが小袋を投げると、黒龍はそれを赤熱させた青龍偃月刀で切り裂いて……あれ? 

 

「な……こ、金平糖!?」

 黒龍の言うとおり小袋の中に入っていたのはただの金平糖で、それに気をとられていた黒龍は伴部さんへの迎撃が致命的に遅れて……

 

「黒龍!」

「おわあ!?」

「うお!?」

 そこに方天画戟を巻物にしまって白夜さんと格闘戦をしていた白龍が白夜さんを投げ飛ばして伴部さんを黒龍から引き離したっす。

 

「白龍、ごめん助かった」

「気にするな。妹を助けるのは姉の役目だ」

 そう言って白龍と黒龍は武器と拳を構えて……あ。

 

「さあ、続きを……」

「その前に……橘商会で説教だ。白龍に黒龍」

 その言葉を聞いた二人は硬直し、続いて『ぎぎぎ……』と音が付きそうな感じで振り向くと……そこには物凄く怒っている壮年の男の人がいたっす。

 

「お、叔父さん……ふぎゃ!?」

「叔父様……むぎゅ!?」

「父さん……」

「一月振りだな、白虎。伴部殿、鬼月家の姫君方……此度は私の姪達が迷惑をかけました。以降はこのような事が無いように確りと言い聞かせます」

 二人をあっという間に気絶させてあたい達に頭を下げたのは、王家の現当主で白虎と黒虎の父親の『紅虎(ほんふー)』さん。この人は伴部さんを認めていて、二人の仲を見守ってるんすよね。

 

「……はあ、白ける結果になったわね」

「それは申し訳ありませんな。しかし、勝手に白虎の思い人である伴部殿を襲いに行った姪達を止めなければ我が家の責任にもなるので」

 葵姉の残念そうな……そして、目的が成功しなかった事に対する苛立ちをのせて紅虎さんを睨み付けたけど……紅虎さんはそれを笑って流したっす。

 

「それでは私達はこれで」

 そう言って紅虎さんは二人を担いで橘商会の方に帰って行ったっす。

 

「……だー! 不完全燃焼だぁー!」

 白夜さんは地面に大の字になりながらそう言ったっす……

 

 ──────────

 

「この前は災難だったわね」

「ああ……」

 俺は苦笑いをしながらそう言ってきた葛葉唯に溜め息を吐きながらそう答えた。

 

 俺達は都の一角、都を十字に貫く主要通りの一つである朱雀通りに面したその屋敷が橘商会の本店であり、そして橘家の屋敷の前で橘家の当主に招かれたゴリラ姫やデブ衛門を牛車の側で待っていた。

 

 ……なぜか鬼月旭は別の用事があった様で、鬼月白夜達を連れて何処かに行ってしまったが。

 

「でも、白虎の気持ちに中々応えないあんたも悪いのよ? 断るなり、思いに応えるなりすれば白龍達も納得してただろうしね」

「う……」

 俺はその言葉に呻きながらジト目で俺を見る葛葉唯から目をそらした。

 

 ……白虎が本気で俺に恋心を向けているのは、ここ1ヶ月で理解はしていた。していたのだが……やっぱりこの世界(闇夜の蛍)だと何時、何どき何処で死亡フラグが立つかわかったもんじゃない。

 

 だから……

「多分だが……思いに答えるとしたら原作後だろうな」

「何年待たせる気よ……下手をすると白虎が病むわよ? てか、その前に黒虎や白龍達に八つ裂きにされるかも……(若しくはゴリラ姫か姉御様に監禁される、ね)」

「嫌な事ばかり言わないでくれ……」

「事実でしょ」

 俺は冷淡に反応した葛葉唯に溜め息を吐きながら何時ものように瞑想を開始する。術式、特に隠行の研鑽において瞑想は有効な修行方法だった。平常心を無理矢理保ち、思考をクリアにし、物事を客観化して、気配を限りなく希薄にするこの行為はこのような待ち時間では十分に効果のある修行方法であった。

 

 尤も………どうやら今回もこの修行は途中で打ち切りになりそうだったが。

 

「……御嬢様方、大変失礼ながら何をしておいででしょうか?」

「はい。伴部さんがいつ反応してくれるのか待ってました!!」

「か、佳世……ダメだよ、お仕事の邪魔をしたら……」

「あはは……」

 牛車の傍らで佇んでいた俺は遂に反応して仕方無しに声をかける。すれば文字通り目の前で彼女は義姉の控えめな制止を無視しながら、パッと花が咲くような笑顔を見せてくれた。

 

 その出で立ちは大正時代を思わせるような和洋折衷な袴姿、顔の造形は南蛮の血の影響からか印象的だった。幼げな、金髪碧眼の御人形を思わせる美少女で、何処か太陽や向日葵を連想させる。

 もう一人の出で立ちは前者と同じく大正時代を思わせるような和洋折衷な袴姿。しかし顔は扶桑系の顔らしく、儚げで日本人形を思わせる美少女で、先程とは逆に月や百合を連想させる。

 

 ……その屈託のない笑みと大和撫子な佇まいは下人の荒んだ心には毒だな。どうぞ何処か別の場所に行ってその愛嬌やある元気な笑顔や気配りの出来る優しさを皆に振りまいて欲しいものだ。というか行けやこら。

 

「まぁ、連れない人ですね。そんな事仰らないで下さい。私、悲しくて泣いちゃいます!」

「御嬢様は向日葵のようにとても逞しくありますので、私程度の者の言葉でお泣きになられる事はないかと」

「ごめん、佳世。私もそう思う」

「御姉様まで!? もう! 私、本当に泣いちゃいそうです!」

 俺の淡々とした返答と義姉からのまさかの肯定に子供らしく口を尖らせて、頬を膨らませて心外だとばかりに拗ねる少女。けど君、実際身体使ってでも乗っ取られたお店を取り戻そうとするくらいには肝据わってるよね? 

 

「あら、そんなに御見つめになられて何かありましたか? ……私に惚れちゃいました?」

「か、佳世~迷惑にならない様に離れようよ……」

 俺がジト目なのに気付いているのかいないのか、橘商会会長橘景季の一人娘である佳世……橘佳世は相変わらず何が楽しいのか分からない頬を少し赤く染めてニコリとした笑みを浮かべながら此方を見上げ、義姉で転生者仲間の橘紗世の必死な訴えも黙殺しながら見つめていた。

 

「で、伴部になんの用? 遊び相手なら仕事があるから無理だし、旭ならいないわよ?」

「あ、そちらなら牡丹ちゃんから話を聞いたので大丈夫です」

 葛葉唯の言葉に佳世ちゃんはニコニコと微笑みながらそう言う。

 

 ……そう言えば、三年前のクロイツ家過激派との決戦でアリシアが寝返る切っ掛けになったのはあいつが佳世ちゃんを連れてきたからだったな。アリシアはどうにも肉体的にも精神的にも危険な術を使おうとしたようだが、紆余曲折を経て友達になった旭や佳世ちゃん、松重牡丹の説得で思いとどまって、最終的には過激派を打ち砕くのに協力してくれたんだよな。

 

「今日は伴部さんに提案をしに来ました」

「提案……で、ございますか?」

「はい、それは……」

 俺が怪訝な顔でそう聞くと、佳世ちゃんは笑いながらこう言った。

 

「伴部さん、下人衆から旭衆に移って都組に来ませんか?」

「は? そ、それはどういう……?」

「えっと……つまりですね、佳世が伴部さんの鬼月家における立場を旭ちゃんに下人衆から旭衆に移してくれる様に頼み込むつもりなんです。で、それから都組に入って橘商会に来ないかって言ってるんです」

「今なら私と御姉様が伴部さんのお嫁になりますよ?」

「私まで巻き込まないで!?」

 俺は顔を真っ赤にしてわたわたと慌てて佳世ちゃんを追い掛け回す橘紗世をみながら顎に手を当てて考える。

 

 実は『下人衆を抜けて旭衆に入らないか?』というのは鬼月旭から常に打診されている事だ。理由は鬼月旭曰く「それなりに戦闘経験があって、それなり以上に能力のある人って貴重なんすよ」と言っていたが……まあ、毎回危険な目に合う俺を哀れんでのことだろう。あいつ、下人衆に対して同情をしているようだし(同情できない理由で下人にされた連中にはその限りではないが……)。

 

 ただ、そのその試みは今のところ成功していない。下人衆頭の鬼月思水に俺を「旭衆に移籍させてほしい」と打診しては断られているらしい。……まあ、当然の事だけどな。俺がやらかした事は鬼月家にとっては腹が立つことだし、厄介な下人を野放しにしないためや変な前例を作らない為にも俺を抜けさせない様に長老衆が根回しもしているだろうしな……

 

「長老衆なら、心配はありません。根回しの為のお金なら……」

「折角の申し出だけど、断らせてもらうわ」

「うひゃあ!?」

 何時の間にかいたゴリラ姫が佳世ちゃんの言葉を遮りながらそう言った。

 

「……私は伴部さんに聞いてたんですけど?」

「ええ、知ってるわ。伴部は旭のお付きではあるけど、同時に鬼月家の財産だもの。私が断っても良いでしょう?」

「む~……!」

「佳世、失礼だよ」

 ゴリラ姫の傍若無人な態度と言葉に佳世ちゃんは頬を膨らませて睨み付けるが、それを橘紗世はさりげなく佳世ちゃんを庇う様に前に出てそれを嗜めた。

 

「……姫様、随分早い御戻りで御座いますが、何事か御座いましたか?」

「えぇ、少し面白い申し出があったから一言教えて上げようと思ってね」

 俺の質問にゴリラ姫はころころと笑いながらそう言う。

 

「申し出、とありましたか? 一体どのような案件でありましょう?」

「大した内容ではない雑用よ。ただ……丁度受け入れるだけの理由があったからね」

 そう言って加虐的な笑みを浮かべるゴリラ様。その言い様に俺はこの前の白龍、黒龍姉妹との手合わせが中止された時の様子を思い出す。あ、大体予想がついて来たわ。

 

「流石に手合わせで怪我は宜しくないらしいのよ。だから、ね? 今回相手にするのはいつも通りよ。……そういう事で、旭衆の都組と一緒に軽く溝掃除でもしてきなさいな」

「え゛……」

 その言葉に葛葉唯は凍り付き、俺も表情が強ばっていくのを感じる。

 

 ゴリラ姫が悠然と宣う言葉はその通りの意味であった。それはつまりは妖退治の仕事………原作ゲームの都ルートでも初期クエストとして解放されていた都の地下に広がる下水道に巣くう雑魚妖共の駆除任務である。そして……

 

「……はは、マジかよ」

「伴部、多分だけど100パー旭も行くと思うから……生き延びるために全力で共闘しましょう」

 俺は葛葉唯の真剣な表情と言葉に小さく頷きながら、面の下で顔をて絶望に満ちた声で呟いた。一見すれば確かにそれは都地下の雑魚狩りクエストであった。しかし、その実それが多くのプレイヤーを嵌めた初見殺しの罠クエストであると知っていたのだから………




次回もお楽しみに!
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