旭奇譚~和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件~   作:愛川蓮

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投稿時間を早めたい……後、そろそろタグも増やした方が良いか?


第二十六話

 あたいがゆっくりと目を開けると目の前には泣きそうな茶髪の女の子の顔と天井。そこはやっと見慣れてきた鬼月家が用意してくれたあたいの部屋だったっす。

 

「旭……良かった。起きてくれたんだ」

「……夕陽、あたいは何れくらい寝てたっすか?」

(3日だな)

 ……そんなに寝てたんすか。雛姉や葵姉、座敷わらしちゃんや胡蝶様達に凄い心配をかけたかもしれないっすね。

 

「まあ、それよりも気になる人がいるんすけどね……いでで!?」

(何をする気だ、お前は!?)

「旭、動いちゃダメ!」

 あたいは痛みに呻きながらも起き上がって薬師衆におけるあたいの師からもらった薬作りの道具を手に取ると、ふらつく足取りで薬草入れに向かう。

 

「いや……あたい達よりも大怪我してる人がいるんすよ? だったら、助けてもらった分は助けないと」

「彼を助けようとしてるの?」

(あの下人……伴部だったか。あいつに対する薬を作るのか?)

「そうっす。まあ、飲み薬はまだ難しいんで軟膏になるんすけどね……」

 あたいは切り傷や打ち身、骨折に効く薬草を選んで薬をすりおろす為の道具に……

 

「……何をしてるのかしら?」

「……ああ、彼と旭の部屋を覗いてたんだね。この卑しい若作りは」

 あたいが声に振り向くと、そこには安堵と呆れを混ぜたような表情の胡蝶様が立っていたっす。

 

「いやあ、あたい以上に大怪我をしている伴部さんの為に軟膏を作ろうと思って……」

「はぁ……貴女も怪我人なのよ? 本当は動いてはダメなのに、そんな無茶をして……」

 そう言って胡蝶様はあたいに小さな包み紙を差し出してきたっす。

 

「これは……?」

「私が作った薬。本来なら旭に飲ませようと持ってきたのよ」

 あたいは包み紙を受け取ると、そこには丸薬が二個入っていたっす。

 

「胡蝶様、ありがとうござい……あいだだだ!?」

「あれ? そう言えば旭って彼が何処にいるか知ってるっけ?」

 あたいがそれを持って伴部さんの所へ行こうとしたら、胡蝶様はそんなあたいの肩を優しく叩いて止めたっす。

 

「な、何をするんすか……」

「あの子が何処にいるかもわからないのに、どうやって行く気なのかしら?」

「あ……」

「やっぱり何処にいるのか考えてなかったんだ……」

 呆れたような声であたいにそう言った胡蝶様はお札を出すと、そのお札は案山子みたいな簡易式になったっす。

 

「それにあなたは傷だらけだもの……そんな体じゃあの子の所に行くまでに倒れちゃうわ。これに背負われていきなさい」

「胡蝶様……ありがとうございます。でも、どうしてこんなに親切にしてくれるんすか?」

「彼が初恋の人に似てて、旭に自分勝手な母性を抱いているからだよ」

 あたいの質問に胡蝶様は微笑むと、こう言ったっす。

 

「あの子が雛の世話係だった頃から可愛がっていたし……貴方は大切な弟子だもの。お世話をするのは当然でしょう?」

「そ、そうなんすか……」

「嘘ばっかり」

 あたいは同性でも引き寄せられそうな妖艶な笑顔に頬が熱くなるのを感じながら、簡易式の背中に乗るっす。

 

「それじゃあ、行ってくるっす」

「ええ、行ってらっしゃい」

「私も彼の所に行こうっと」

 あたいが胡蝶様にそう言うと、簡易式はゆっくりと歩き始めたっす。

 そして……あたいは、雛姉と葵姉の歪みを知ることになるっす。

 

 ──────────

 

『この辺りは索敵する限りは周囲に妖共の気配はない。一先ずは安心する事だな』

『……旭も近くにいます。一休みをする前に合流をするべきでしょうね』

 耳元で囁かれるその言葉に俺は脱力して深く呼吸をした。

 

 退路を断たれ、先行した鬼月旭を追って俺達は時折襲ってくる妖を迎撃しながら下水道を進んでいたんだが……漸く一息つけそうだな。

 

「の、喉乾いて来やがった……白夜、水筒出してくれ」

「あいよ、蔵丸。……全員分あるから貰ってくれ」

「……私の分はありますので」

「……ありがたく受け取っておきます」

 赤穂九恩の求めに応じた鬼月白夜が蔵丸から俺達全員分の竹筒を取り出して渡してきた。

 

「ふう……白夜、水や食料はどんくらい持ってきたんだ?」

「念のために、3日3晩は彷徨わされても大丈夫な量を蔵丸に放り込んである」

「ず、随分と用意が良いのですね……私は直ぐに終わると考えて碌に準備もしていませんでした」

 水を飲んだ赤穂九恩の確認に答えた鬼月白夜事に若干の驚きを含んだ口調で赤穂紫は呟く。これは俺も驚いていた。

 

 この地下水道で遭難する可能性は原作ゲームからの情報の時点で十分有り得る展開だった。というか糸蚯蚓共の濁流を切り抜けたら大体ゲームでも案内役がいなくなったりして迷子になる展開が多かった(そういう意味では夜や鬼月雛子の活躍によって案内人が残ったのは運が良かった)。

 

 その上でゲームならば飢え死にする事はなくとも実際に広大な地下で迷子になると考えれば……何日も地下水道を飲まず食わずでさ迷い歩く訳にはいかないし、また実力的に考えると最低でも今回の案件から生き残るには赤穂紫や鬼月旭達の生存と協力が必要なのは言うまでもない。そのために彼女達の分の水や食料も事前に用意するのは俺や鬼月旭の側仕えである葛葉唯の立場からすれば当然だった。備えあれば憂い無しとは良く言ったものである。

 

 だが、これは俺や葛葉唯が原作を知っている転生者だからこそ可能な芸当だ。いくら未来から来たとはいえ、何の知識もない鬼月白夜達が出来るのはなんでだ……? 

 

「……まあ、俺らの時代にも伝わっている旭衆の日誌があるからなんだよ。それで、この日に大変な事があるのはわかってたからな。出来る限りの準備はしてたんだ」

(成る程な)

 俺は鬼月白夜の言葉に合点がいった。鬼月旭は旭衆の日誌にはかなりの情報を書き込むからな……それらを読み込めば準備も可能か……

 

「と言うことは、この騒動の元凶も……?」

「ところがだ……時間がたって旭衆が一度解散した際に日誌もバラバラに散らばっちまってな。集まってる部分はとばしとばしなもんでこの依頼も受けた経緯と終わった後で旭が大変な事になったっていう話だけなんだよな……」

 赤穂紫の疑問にたいして肩を竦めながら鬼月白夜が言ったことに俺は思わず脱力してしまう……それだとわからないのと一緒だろ……

 

「おわぁ!?」

 そう言って俺達が差し掛かった曲がり角から孫六が転がり出てくる。

 

「だりゃあ!」

 その直後、狐火を受けて吹き飛んできた中妖なりかけの蜥蜴の小妖を鬼月旭が曲がり角から飛び出しながら小太刀で切り捨てた。

 

「も~……アリシア達を見失って気が立ってるのに……!」

『その前に、妖が大量にいるのに勝手に先行している旭も大概です!』

「いだだだだ!?」

 イラつきを抑えていない鬼月旭に松重牡丹の式神である蜂鳥がくちばしでどつき回し、鬼月旭は頭を押さえて逃げ回った。

 

「……では、これからどうしますか?」

 制裁を終えて、多少は気が済んだのか鬼月旭の肩に止まった松重牡丹の式神を見ながら俺は鬼月旭にこれからどうするかを聞く。

 

「ん~……アリシア達は探したいけど、この状況も放ってはおけないし……だけど、準備不足のまま進むのは危険だからアリシア達と合流は出来たらで良いんで……一旦地上に戻って報告をするっすよ」

 鬼月旭の答えに俺は内心でホッと一息を吐く。こいつの性格からアリシア達を探し続けるなんて言いかねなかったからな。

 

「孫六さん、此処から一番近い出口は何処っすか?」

「ああ、それなら此方だ。着いてきてくれ」

 孫六はそう言って俺達の先頭に立って歩き始める。俺達は孫六の前に何時でも立てるように準備をしながらその後を追い始めた。

 

「にしても……小妖とはいえ、なんで都に妖があんなにいるんすかね……?」

『そこはわしも疑問に思ったことじゃ。元より地下水道は穢れが強く妖共が集まりやすいのは自明。故に霊脈を誘導して地下水道に霊力が流れぬようにしておる筈。小妖ばかりとは言え、あれだけの化物共が群れを作るなぞあり得ん事じゃ』

『確かに。霊脈が近くを流れている関係上発生するのを完全に抑えられないとはいえ、あれ程増えたのには理由があるはず……』

 鬼月旭と松重牡丹、老退魔士は疑問を吐露する。特大の霊脈の真上であり、穢れが溜まる地下水道……妖共にとっては絶好の立地である。故に人間側も工夫を凝らす。

 

 霊脈から流れる膨大な力を誘導して地下水道に流れぬようにしていた。また主だった水道への出入口には探知用の結界を張り巡らせてあるために強力な、あるいは多数の妖が侵入すれば直ぐに察知可能だ。取り零した多少の霊力こそ地下水道に流れこんでいるだろうがあれだけの妖共が群れを作る事なぞ普通は不可能である。

 

(そう、妖母さえいなければな……!)

 俺は知っている。それもこれもあの理不尽な超再生お化けのせいだ。

 

 妖母の能力は大きく分けて二つ、反則なレベルの再生能力、そして『産み直し』だ。

 

 一つ目については言うまでもないだろう。そも、妖母が大乱後も討伐されず、陰陽寮に気付かれずに地下水道で潜伏する事が出来たのはその再生能力のお陰だ。幾人もの退魔士のチート攻撃でも殺しきれず、更には自身を一時的に小妖レベルまで弱体化させる事で探知結界をすり抜けて地下水道に入り込み、一度地下の奥深くまで潜れば少ない地脈の霊力で最盛期には遥かに劣るものの急速に自身の力を回復して見せた。

 

 今一つの能力、単に『産み直し』と称されるそれが地下水道で妖の大群を作り出せた理由だ。

 

『妖母』は人間を含むあらゆる生物を摂食し、そして妖として『誕生』させる事が出来る。

 

 その力は凶悪の一言しかない。短期間の内に妖の軍勢を作り出せるその能力は大乱時代は元より、原作ゲームにおいても虫や鼠しかおらず、霊力も不足する地下水道内で大量の妖を産み出し得た。しかも素材が優秀であれば優秀な程より強力な妖を産み出す事が出来るとあって大乱中空亡の参謀役であり同じく大軍を産み出す能力を有していた「貘」と並んで朝廷の最優先討伐対象とされていた。

 

「旭様、疑念は分かりますがこのまま調査はご免ですよ? 流石に何があるか分からない中で準備もなしに調査はご免です」

「わかってるっすよ。次に来るのは朝廷所属の退魔士と一緒にっすよ」

 俺は老退魔士に対する含みももたせながら言うと、鬼月旭は肩を竦めながらそう言った。実際は俺と葛葉唯には原因が分かっているが……どの道俺達の実力と人脈ではどうにもならない問題だった。どうしてたかが数ヶ月都に滞在しているだけの下人と側仕えが数百年行方の知らない妖母の居場所知っているんだよ。

 

『その程度の事は承知しておる。だが……儂がいた頃ならばこのような異常があれば直ぐに察知していただろうに、最近の陰陽寮は随分と仕事が雑になったものだのう』

「原因の一端はあんたっすよね……!?」

 嘆息したように式神の向こう側で溜め息を吐く翁。彼の気持ちは分かるがそこはある意味筋違いであろう。寧ろ陰陽寮の形としては今の情報共有をせず、互いに猜疑心を持ち足の引っ張りあいをしているような状況の方が普通なのだ。

 

 玉楼帝が他にも純粋な実力者は幾人もいた中で態態陰陽寮頭に吾妻雲雀を任命したのはその顔の広さと性格、潤滑剤としての役割からだ。そして翁が陰陽寮に所属したのは吾妻が既に陰陽寮頭に就任した後の事だ。その所属期間の全期を通じて彼女がトップとして組織を運用していた頃を思えば今の陰陽寮が仕事が遅く感じてしまうのはある意味仕方無い事であった。

 ……まあ、同時に吾妻雲雀が陰陽寮を叩き出される切っ掛けになった翁に鬼月旭が小声でキレるのもわかるのだが。吾妻雲雀がいたら、もう少し戦力がいただろうしな。

 

「あの、旭様。気になることがあったのですが」

 出口に向かって歩いていると、葛葉唯が意を決した様に鬼月旭に話し掛けた。

 

「唯ちゃん、どうしたんすか?」

「いえ、先程の妖の群れに追い込まれた時にアリシア様の使った術式が他のクロイツ家の術式とは違うような気がして……それについて聞きたかったんです」

 葛葉唯の言葉に鬼月旭ら「う~ん」と唸ると頬を掻きながらこう言った。

 

「あれは『精霊の樹』って名前の術式なんすけど……それを成立させる為の過程がアリシアから聞いたあたいもちょっと信じられないものだったんすよね」

 アリシアから話を聞いた鬼月旭がそう言いながら経緯を言う。

 

「アリシアの祖父のルード・クロイツが若い頃、時間を遡る事で人妖大乱での妖側の敗北をなかったことにしようと時空を渡る魔術を研究していた魔女がいたみたいなんすよ」

「でも、そうなってないって事は未然に防げたって事か?」

 鬼月白夜の合いの手に鬼月旭は頷きながら話を続ける。

 

「まあ、その企てはすんでの所で気付いたクロイツ家の討伐隊によって防がれたみたいなんすけど……ルード・クロイツは魔女が悪足掻きで発動した魔術に巻き込まれて一週間行方不明になってたみたいなんすよ。それで、一週間後に見つかって何処に行ってたのかって話になったんすけど……信じられない話だったんすよね」

 鬼月旭は一息吐いて、その先を紡いだ。

 

「なんでも、『天宮市』っていう場所で『鉄の車』だとか、『鉄の馬』だとか『天をつく建物』を見たとか言い出した上になんか錯乱してたみたいで打ち切られたみたいなんすよね」

「鉄の車と鉄の馬って……自動車とバイクか?」

「天をつく建物はビルだな。……ってことは、未来に跳んだのか? いや、でも扶桑国に天宮市なんて街はない筈だし……」

「まじかぁ……いや、アリシアの使った武器から予想はしたけど『デアラ』の世界にとんだのかぁ……下手したら他にも他作品からの人間もいたりするんじゃ……」

 葛葉唯は鬼月旭が発した街の名前に心当たりがあるらしく、頭を抱えていた。

 

 俺達はかなり後で知ることになるのだが……件の魔女は目的としていた時間にはついたみたいだが、戦闘の衝撃で魔術にバグが生じていたらしく同じく跳ばされていた『別の世界の住人』に倒されて結局目標は叶わなかったらしい。

 

「そんで、ルード・クロイツはその街で出会った人達の形見とも言える物を使って精霊の樹を作ったみたいなんすけ、ど……紫姉、白夜さん……二人の隣に立ってる人達は誰っすか?」

 俺達が鬼月旭の質問に疑問を抱いて赤穂紫や鬼月白夜のいる場所を見ると……そこには、赤穂紫の髪を弄くりながらその顔をじっくりと見る貴族の衣装を着ていてもなお隠せぬチャラついた雰囲気を持つ男と鬼月白夜の顔をじっくりと見るゴリラ姫に勝るとも劣らない豊満な肉体を惜しげもなく晒すように衣装を着崩している女がいた。

 

「おっと、バレたか」

「あらぁ、見つかっちゃったわねぇ……」

「な、ななな……何者ですか、貴方は!」

「うおぉぉ!?」

 咄嗟に二人は各々の武器を使って二人を振り払うが、二人はコウモリに分裂してそれを回避すると、俺達の前にコウモリを再結集させて人の形を再び取った。

 

「あの避け方は……! 白夜、やべえぞ……吸血鬼だ!」

「げぇ……銀の弾丸や陽光を溜め込んだ武器とかないんだぜ……!」

(なんで吸血鬼なんて西方でのポピュラーな妖怪が此処にいるのよ……!? 可笑しいでしょ!)

(冗談じゃねえぞ……!?)

 俺達が各々の武器を構えてみるが……赤穂九恩が呻きながら言ったことに俺と葛葉唯は臍を噛む。

 

 吸血鬼と言えばヨーロッパ圏における代表的な妖であり、それは闇夜の蛍の世界観でも健在だ。

 

 しかも、基本的には小妖的な立ち位置のレッサーでさえ半端な中妖を上回る戦闘力を持ち、それを従える爵位級に至っては(ピンキリではあるが)凶妖という西方方面では人狼に次ぐ最強の妖だ。なんだってこんな所にいるんだ……!? 

 

「おいおい……そう睨むなよ、俺はただ単に新しい嫁にしようと思ってる女が俺に相応しいかどうかを確認に来ただけだぜ? まあ、合格だけどな。血は旨そうだし、器量も良さそうだしな」

「~~~~~!」

「おっと……はは、照れ隠しも可愛いな」

「私も新しい夫を見極めに来ただけよぉ? ま、兄さん同様に合格だけどね」

『白夜様は私の夫です!』

 そう言って何時の間にか俺達の側にいた男の吸血鬼が赤穂紫の手の甲にキスをしながら言いつつも顔を真っ赤にした赤穂紫の斬撃を軽く回避し、鬼月白夜の側に寄っていた女の吸血鬼は鬼月白夜の側を飛び回っている翡翠の式神に目の付近をつつかれそうになったために不満そうな顔で下がっていった。

 

「此処であったのも何かの縁だ。名前を教えてくれよ」

『何も答えさせるな』

『言霊術です』

 俺と鬼月旭は翁と松重牡丹の言葉と同時に反射的に吸血鬼に対して罵倒の言葉を紡ごうとした赤穂紫と鬼月白夜の口を塞ぐ。

 二人はちょっと驚いた様な顔をしたが……すぐに言霊術に思い至ったのか感謝の顔で頭を下げてきた。

 

「……ち、引っ掛からなかったか」

「う~ん……久々に良さそうな子達だったから無傷で手に入れたかったんだけど……仕方ないわねぇ」

 吸血鬼達がそう言った直後二人の背後から様々な妖の声が響き渡った。

 

「……っ、数が多い……みんな、逃げるっすよ! 孫六さん、上手く撒ける道を!」

「わかった。此方だ!」

「またな~! 今度はベッドの中で互いに愛し合おうぜ~!」

「逃げきって見せて、ね?」

 そう言って手を振る吸血鬼達を尻目に俺達は決死の逃亡劇を開始した……

 

 ──────────

 

「あのバカ兄貴達は……! 本当に理性を下半身に吸われてるんだから!」

「『メイナ』、どうしたのじゃ?」

 地面に手をついている吸血鬼『メイナ・ローゼンクロイツ』が口汚く罵ったのをみてアリアは彼女に近寄る。

 

「母さん……別に、ラールとリーナがまたやらかしたのよ」

「またか……」

「問題児なのですか?」

 メイナの言葉に頭を抱えたアリアに妖母は首を傾げながら質問をする。

 

「妾の子供では古参で強いには強いんじゃが……興味を持った異性には手加減をしてしまう悪癖があってな、そのせいで何度も足元を掬われたのに未だに治らんのじゃ。……まあ、妾の憎しみに影響されたせいで殺戮バカになってしまった『ヴラド』や拷問で流された血で満たした風呂に浸かるのが趣味になってしまった『カーミラ』よりは家族思いで優しいんじゃがな」

 妖母の質問に答えながら寂しさと後悔が綯交ぜになった顔になったアリアを見て妖母は彼女を抱き締める。

 

「母上……」

「アリア、自分を責めてはいけませんよ? 誰だって失敗はするものなのです。それを次にいかしなさい」

「……はい」

 己の頭を撫でながらの妖母の言葉にアリアはふっと微笑むと母の腕の中から逃れる。

 

「母上、先程は申し訳ありませぬ。少しばかり取り乱しておりました」

「いえいえ、母は何時でも頼ってくれるのを待ってますよ」

 そう言った妖母に苦笑いをしつつも、アリアは下水道に眷属を張り巡らしている子供達に声をかけた。

 

「『クレア』、『アルバ』。何か動きはないか」

「……一部がおばあちゃんを追ってきたと思わしき退魔士の一族に蹴散らされている以外は順調に討伐隊を狩ってる」

「ラール兄さんとリーナ姉さんが目を付けた連中は全力で逃げ回ってるね」

 彼女の子供達の中でも新参ではあるがいきなりトップクラスの爵位である公爵になった『クレア・ローゼンクロイツ』と『アルバ・ローゼンクロイツ』の言葉にアリアは少し考え事をすると、二人に向き直ってこう言った。

 

「では、ラールとリーナが目をつけた連中は妾が捕まえて来るとするか。久々に体を動かしたいしな」

「……あの国に潜入してた時に魂を憑依させてた人形をぶっ壊されたせいで精神にダメージを負ってたもんね」

「うむ。そのリハビリでもある」

 メイナの言葉にケラケラと笑いながらアリアはすぐに獰猛な笑みを浮かべながらこう言った。

 

「さて……簡単には壊れてくれるなよ?」

 母のそんな姿に畏怖と感動を覚えつつもアルバはクレアに話し掛ける。

 

「クレア。ラール兄さんではないですが、討伐隊で気になる異性は誰ですか? そろそろ貴方も花婿が欲しいかと思いまして」

「……ラール兄さんが目をつけた女の所にいる下人。何か気になる。そう言うアルバは? そろそろ花嫁を見つけても良い頃でしょ?」

「……私はオレンジ髪の少女が気になりますね」

 旭達に危機が迫っていた。




次回もお楽しみに!
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