旭奇譚~和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件~   作:愛川蓮

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平日には仕事がありますので更新は遅れますが、着実に更新いたします。


第三話

 私、鬼月夕陽は目の前で座っている旭のもう一人の義理の姉である鬼月葵姫について考えていた。

 

 髪の色は桃色(いや、桜色か?)で何処か寝惚けたような、夢見心地の目をしており、どっちかと言うと細身な雛姫に対して肉付きが良い。……旭は常日頃から「雛姉みたいなかっこよさと葵姉みたいな体を手に入れたいっす!」と言っているが、今の所は絶望的だろう。

 

 ただ……こいつ、性格はかなり悪い。一言で表すとすれば唯我独尊、あるいは傍若無人といった所か。外見に似合わず気分屋で我が儘、自信家で毒舌、そして独善的……何よりも妖との戦いを生業としている鬼月家でも最強格とも言える才能を有している。それ故に努力をしておらず、また努力をしてなくても凄まじい強さを誇っていたのだが……努力に努力を重ねた旭に何度か敗北をしたせいで多少は努力の大切さもわかったようだがな。

 

 まあ、そんな才能の塊なせいでそこらの普通の努力をする俗物な凡人共の事は殆ど興味を抱いておらず、尖った性格や優秀な、あるいは特別な者達でなければ名前すら覚えようとしない性格破綻者だ。

 

 ……とは言え、この権力闘争等が日常茶飯事な鬼月家ではかなり面倒な立場だ。二人の父親……昏睡している現当主は葵姫の母と政略結婚をする前に小作人の娘……雛姫の母親と駆け落ちをしており、それで産まれたのが雛姫だ。つまり雛姫と葵姫は異母姉妹ということになる。

 

 で、問題は此処からだ。二人の父親は雛姫を溺愛しており(旭が鬼月家の養子になる前に起こった事件が雛姫を狙ったものだと判明すると血の粛清を引き起こした程らしい)それ故に有り余る才能を有し、最上級の妖とも渡り合える様な葵姫を放っておく筈もない。

 

 名目上は実地訓練……真の目的は葵姫の抹殺だったのだろうな。弱い『小妖(しょうよう)』しかいないという嘘をつき、実際は大量の妖がいる場所に放り込まれた。

 それを偶然知った旭はなんと、持てるだけの装備やお札、習いたての式神術まで使って葵姫を助けに向かったのだ。

 

 で、運良く(いや、悪くか?)遭遇したのだ。よりにもよって、葵姫の父が送り込んだ刺客が葵姫を神経毒で痺れさせ、止めを刺そうとする場面に。

 

「あら? この私を前にして考え事なんて良い度胸をしてるじゃない」

「ん? ああ……少し、『あの時』の事を考えていてな」

「…………ああ、あの時の」

 話を戻そう。旭は葵姫に止めを刺そうとする刺客に「葵姉に、何をしてるんすか……お前らぁぁぁぁぁ!」と不意打ちをかまし、葵姫を庇った……所で葵姫を追ってきた妖達(中妖どころか大妖までいる群れだった)が襲来し、刺客達を食い殺したのだ。

 

 で、旭はたった一人で葵姫を庇いながら必死に戦うも敗れ、哀れにも二人揃って妖に身を汚される……寸前で現れたのが私の側で控えている伴部だ。

 

 こいつ、何時から準備していたのか閃光玉だの煙玉だの臭い玉だのを大量に使って妖達の五感を麻痺させ、大混乱に陥れた所で神経毒に痺れて動けない葵姫を背負って、共に逃げ出したのだ。

 

 そこから三日間は凄まじい激闘の連発だった。神経毒でろくに動けない葵姫を庇いながら追撃に追撃を重ねてくる妖達を相手に必死の戦いを繰り広げたのだ。まあ、最終日に二人揃ってとんでもない凡ミスを犯して完全包囲をされた時には本気で死ぬかもしれないと思ったが……旭と伴部(恐らくだが葵姫も)の救出に現れた雛姫と神経毒が抜けた葵姫のコンビが妖達をあっという間に蹴散らし、葬り去ったことで九死に一生を得たのだ(旭も伴部もズタボロで生死の境をさ迷ったが、なんとか帰還できた)。

 

 この経験+その時に二人の伴部に向ける(重すぎる)感情を知った旭は下手をすれば伴部を巡って殺し合いになりかねない二人の仲をどうにか決裂させない為に伴部を自身のお付きとして行動を共にさせる事で二人との接近を出来る限り減らし、更に『賭け』を提案したのだ。

 

 その『賭け』の内容は……『雛姫か葵姫、旭(まあ、可能性は低いだろうが)の誰かがが当主となった時に伴部を一番幸せに出来る方に伴部を譲る』という伴部を景品にしたものだ。因みに、万が一にもどちらも相応しくないと判断したり旭が謀殺されたり、雛姫と葵姫のどちらかが殺された場合は胡蝶様経由で最も伴部を幸せにできる第三者に伴部を譲る事にしている。

 

「つれないわねぇ、もっと狼狽えて返事してくれても良いものでしょうに。それとも私ってそんなに異性から見て魅力ないのかしら?」

「彼は私のものだよ?」

 おっと、考え事をしている間に葵姫の話のターゲットが伴部に向いた様だな。……うん、旭が葵姫みたいな体を手に入れたいと言うのもわかるような気がする。仮面であんまりわからんが伴部も揺れる胸を見てるし。

 

「そのような事は御座いません。人々が言うには姫様の美しさは天女の如く神々しく、その美貌は千里先でも輝くと評判、断じて魅力がないなどという事はないかと」

「昔からお世辞が上手だったよね」

 世間一般で語られてる評判そのままか……まあ、答えなかったら答えなかったらで不評を買うだろうから仕方ないと言えば仕方ないのか? 

 

「あら? 誉めてくれてたのね、嬉しいわ。人づての話ではなくて貴方の個人的な意見だったらもっと参考になったのだけれど」

「ぶりっこ」

 案の定、若干不快そうだな……だが、ただの悪ふざけの演技だな。相変わらず性格の悪い奴だ。

 

「姫様の質問に対して返答するならば私の一個人の意見ではなくより広範な者達の意見こそ目的にかなうもの、噂や渾名はその点で言えば俗物的ではありますが一定の指標にはなるかと」

「ああ、それに伴部みたいな下人が個人的な意見でお前を評したらお前の派閥の人間に『無礼者!』って言われて謀殺されてもおかしくないからな」

 伴部が実にそれらしく取り繕った一般論を言い、私は苦笑いをしながら補足する。なんせ、こいつの派閥の人間はこいつの美貌や才能に崇拝と言っても良い感情を抱いているのも要るんだ。そんな一般論で自分を守るのも悪いことではない。

 

「そう、詰まらない意見ね。……貴方はいつもそう」

「お前達はいつもそうだ」

 葵姫は脇息の上で肘をついて頬杖しながら伴部を見やる。伴部を探るようなその瞳は瞳術の可能性も考えたのか、伴部は直ぐ様に違和感ないように自然な所作で仮面の下越しに視線を逸らしてその術中に嵌まるのを回避する。

 ……違和感と言えば、伴部もそうなんだよな……葵姫の騒動の際の装備と言い、雛姫や葵姫に対する言動と言い何となく性格とかを『知ってる』感が否めないのだ。

 ……葵姫の騒動で最後の最後で妖達に完全包囲をされた時に雛姫が助けに来た時も後ろに旭がいたにもかかわらず「何で姉御様が此処に……!?」とか思わず言って動揺してたしな。後、旭を初めて見たときも旭が去っていった後でブツブツと何か呟いていた様な気がする。

 

「……そうそう、ずっと思っていたのだけれど伴部、貴方この前私が旭経由で与えてあげた御守りはどうしたのかしら? 常に身につけるように命じた筈よ?」

「くすくすくす……燃えちゃったみたいだよ?」

 逃げた伴部に対して暫しの沈黙の後、葵姫は思い出したような言い草で……そして何処か嘘臭い口調でその事を指摘した。

 

「あ~……それに関しては私からの仮説は良いか?」

 伴部が弁明をすると確実に可虐性を含んだもの言いをしそうなので、先手を売って仮説を言うことにする。

 

「私たちはあの後で帰ってしまったから、わからないのだが……仮説としては三つ。1つ、大妖を倒した際に下敷きになった。これならば、夜達が大妖を退かせば見つかるから大丈夫だ。二つ、戦闘中の衝撃で首から外れて木々に引っ掛かった。これは良く見ていれば見つかるかもしれないが、探さなければ見つからない所に引っ掛かってるかもしれないから見つかる確率は半々と言った所だろうな。三つ、大妖の攻撃の余波で消し飛んだ。これでは見つからないだろうな……この世にないんだからな」

「……はぁ、仕方無いわね。夕陽の推察に免じて今回だけは許してあげても良いわよ。代わりに、暫く旭と一緒にこの部屋に来なさい。暇な時間にもの探しの呪いを教えてあげるわ。光栄に思うことね」

「嫌われるのが怖い癖に」

 心底仕方なさそうな溜め息と共に上から目線でそんな事を言われた。……まあ、仕方あるまい。

 

「おっと……そろそろ飯を食って『里』に帰らないと夜になってしまう。……伴部、一緒に行くぞ」

「……は」

「泥棒猫」

 私が一番の警戒対象(座敷わらし)を一別しながらそう言うと、座敷わらしは憎々しげな顔で私を見ていた。……こいつ、油断してるとすぐに伴部に『厄』を擦り付けようとしてくるからな。定期的に屋敷を離れていないと伴部に厄が根付いて危険なんだ……最低でも允職になるまでは時折里に避難をさせてもらおう。

 

 ──────────────ー

 

 悠然とした動きの夕陽と何処か憔悴した動きの伴部が障子を開けて退出をするのとほぼ同時に襖ががらりと開き、彼女にとって一番の()が入ってくる。

 

「旭は?」

「ああ、彼と一緒にご飯を食べに行ったわ。その後、里に帰ってしまうみたい」

「そうか……で? あいつに渡した『あれ(・・)』はどういうつもりだ?」

「あら、あれは苦境に絶望して諦めてしまわないように精神を奮い立たせるためだけのものよ? 監視の術式も同様よ。あくまで「彼」の奮闘を見守るためのものに過ぎないわ。そうしないと見守れないもの」

「守られていたくせに」

 葵は怒気を滲ませて詰め寄る雛に飄々とした態度で応戦する。……まあ、同時に雛に対する殺気も滲み出ていたが。

 

 数十秒ほど、二人は怒気と殺気が渦巻かせながら睨みあっていたが……やがて、二人とも息を吐きながらお互いに座り直す。

 

「……今は殺り合うつもりはないさ」

「私もよ。全く、あの子が自分が悪党になるにもかかわらずにお付きにするもんだから面倒な事になったわ……思わず憎んじゃったじゃない」

「殺し合えば良いのに」

 そう。二人は旭が伴部をお付きにし、賭けを提案して暫くの間は彼女に対して憎悪をしていた。

 雛は本気で惚れている幼馴染みを毛嫌いしている妹との賭けの景品にしたことに、葵は自分を裏切って彼をお付きにしたことに対してだ。

 ……だが、その時の旭の態度に違和感を覚えた二人は人を使ったり式神で監視したりして旭の真意を探り……その狙いについて知ると、旭(夕陽)の好感度を高めるための行動を開始したのだ。

 

「……で? 何時まで見ている気だ?」

「私達二人掛かりで消されたいのかしら?」

 二人は天井裏にいるであろう相手に殺気を飛ばすと、天井裏に留まっていた妖力が静かに去っていくのを彼女達は把握する。

 

「全く奴め。伴部だけでなく旭にまで唾をつけるとはな……」

「ま、あの『鬼』ならしょうがないんじゃないかしら? 実際に旭は英雄の素質があるし、ね」

 彼女達の言っている存在とはある意味目的は同じであるが、二人に馴れ合う積もりは全くない。ましてや、愛した男だけでなく自分達を無条件で姉と慕っている少女まで狙っていると為ればなおさらである。

 

「葵、結界術は勉強しろ。幾らなんでもあっさり抜かれ過ぎだ」

「後、屋敷の結界や警備を見直す必要があるわね。何あっさりと侵入されてるのよ……」

 二人は侵入した相手について頭を抱えながら話し合い……最後にこう言った。

 

「協力はしてやる。しかし……最後に勝つのは私だ。あいつを……伴部を幸せにするのは、私だ……!」

「ええ。私も協力はするわ。でも、勝つのは……私よ。彼を幸せにして、添い遂げるのは……私よ」

「彼は私のものだ」

 そう宣う彼女達の表情は恋する乙女のようで、そしてその瞳は底無しの穴のようにどんよりと暗く曇っていた……




次回もお楽しみに!
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