旭奇譚~和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件~   作:愛川蓮

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今回も遅れてしまった……


第三十話

「「伴部、旭!」」

「「「紫!」」」

「旭……伴部!」

「何で雛姫と葵姫は伴部の名前の方が先に出るわけ!?」

「今は関係ないデスよ! 『シャイン・エッジ』!」

 ラールの奇襲によって吸血された紫に絶叫をあげる赤穂家の面々とアリアの攻撃によって妖母とアリアの妖気が混ざった血を撃ち込まれた旭と伴部が倒れ伏すのを見て雛、葵、白虎が悲鳴をあげる。

 ……旭よりも先に伴部に対して心配するような悲鳴をあげた姉二人(雛と葵)に花がツッコミをいれたが、アリシアはそれを振り払いながらアリアに対して光の短剣を投げて牽制を入れながら斬りかかる。

 

「甘いわ! ……ラール、惚れた女にみとれるのはその位にして此方へ来い!」

「……わかったよ」

 短剣とアリシアを弾いたアリアは血を吸われた影響で荒い息を吐いている紫を愛おしそうに見つめるラールにキレ気味にそう言い、ラールは不満そうになりながらも紫を地面に下ろし……即座に回避行動を取った。

 

「貴様、よくも紫を!」

「許さん、殺してやる!」

「うおぉぉぉ!?」

 ラールに対する殺意を口にしながら妖刀で斬りかかる赤穂家の面々にラールは必死に逃げ惑う。その間に(ゆかり)と赤穂家の当主、アリシアはラールが地面に下ろした紫に慌てて近づく。

 

「紫! 目を開けて、お願い!」

「紫、確りしろ!」

「傷口を見せてクダサイ! ……これは!?」

 顔を青ざめさせながら紫を揺する二人を制してアリシアが紫の首筋を見ると……そこには牙の跡がなく、イバラに囲まれた十字架で出来た紋様が浮かんでいた。

 

花嫁の刻印(ヴァンパイアサイン)……!」

「それはなんだ?」

 赤穂家の当主は難しそうな顔を浮かべたアリシアに疑問の声をあげる。

 

「……爵位持ちの吸血鬼が戯れの為や自分が手に入れたいと思って噛み付いた異性に打ち込む刻印デス。噛まれたのが一度だけなら問題はないんデスけど……二度目からは夜の方が調子が良くなり、三度目は他者の血を欲する様になり、四度目は太陽を極端に怖がるようになる上に他者の血を吸わなければ体調が悪くなるようになり……五度目で完全に最初に噛んだ吸血鬼の伴侶と成り果てるデス」

「ならば、此処でコイツを討てば紫は救われるということだな!」

「義兄様方、援護します!」

「悪いけど、死ぬわけにはいかねぇなあ!」

 アリシアの言葉に赤穂家の面々はラールに苛烈な攻撃を開始し、(ゆかり)もまた自身を救ってくれた義理の姉を救うべく、義兄達と連携してラールに襲い掛かるがラールはそんな彼らの攻撃を必死にではあるがそれらを防いでいた。

 

「……貴方は行かないんデスね?」

「……ああ。彼女達の戦闘の余波から紫を守らねばならないからな」

「確かにそうデスね……」

 そう言って赤穂家の当主とアリシアはその向こうの凄まじい激闘に目を向けた。

 

 そこには滅却の炎を刀に纏わせて振るう雛と扇を手に持って全てを切り刻む風を発生させながら格闘戦を仕掛ける葵、四聖獣をモチーフにした拳法で戦う白虎がアリアと戦闘を繰り広げていた。

 戦っていない面々の内、霊力を扱える面々は結界を張ることで倒れた旭や伴部、非戦闘員への流れ弾を(必死に)防いでいた。

 

「はあぁぁぁぁぁ!」

「せい!」

 雛が滅却の炎を振るうとアリアはエクスカリバーから光の防壁を発生させて防ぎ……

 

「!? ちぃ!」

「消えなさい」

「なめるな!」

「……!」

 あっさりと炎に侵食されて防壁が破られると、横っ飛びに回避するがそこに冷徹な表情の葵が扇を振るい風が襲い掛かるが……アリアはそれをエクスカリバーから発生させた光の斬撃で全てを掻き消し葵に接近するも、葵は裏拳で光の斬撃を弾き飛ばし光の斬撃は下水道の壁を大きく切り裂く。

 

「切り刻んでくれるわ!」

「『玄武の型(げんぶのかた)』、『玄武吸腕(げんぶきゅうわん)』!」

「なんと!?」

「そこから『玄武放弾(げんぶほうだん)』!」

「ええい、ジャネット!」

 雛達を切り裂かんとアリアは下水道の通路全てを覆う程の光の斬撃を多数放つが、白虎は亀甲紋を発生させた腕を振るうとそれらは全て消え去り、そのまま白虎の放ってきた光の砲撃を焔の聖女が振るう槍で弾き飛ばした。

 

「……このままでは埒があかぬか……ラール、さっさと妾の下に来い! ずらかるぞ!」

「へいへい……それじゃあ、あばよ!」

「逃がさ……何!?」

 アリアの苛立ち混じりの言葉にラールは答えながら飛び上がり……赤穂家の面々の一人が剣風を放つがラールはそれを蝙蝠に分裂することで(幾らか撃墜されたが)回避した。

 

「よっと、待たせて悪いな」

「ふん。まあ、女に軽薄なお主が本気になれる女が出来ただけでも良しとするし……あやつらにも『楔』を打てたしな。では、逃げさせてもらうとしよう」

「逃がすと思う?」

 アリアの言葉に葵(口には出さないが雛と白虎も)は殺意を撒き散らしながらアリア達へと一歩歩み寄るが……

 

「悪いが……逃げさせてもらう。まあ、エクスカリバー単体での突破は難しいだろうから小細工を使わせてもらうがな!」

 アリアは不敵に笑いながら焔の聖女から焔で出来た槍を貰うと、それを一振して……槍から焔が取り払われると漆黒の旗が広がり、禍々しさと神々しさを掛け合わせた旗槍へと姿を変えた。

 

「持ち逃げしたエクスカリバーだけでなく、『聖者と加護の御旗(ホーリー・オブ・フラッグ)』……ローゼンクロイツ家の誇る神器を妖側に奪わせるなんて……!」

「……元は妾がジャネットに渡した物じゃ。それに、これは聖者の御旗が変貌した姿。名は『復讐と神罰の御旗(アベンジ・ペイン・フラッグ)』と言う」

 苦々しげなアリシアにそう言いながら旗を地面に突き刺すとそこから漆黒の焔が舞い踊り、アリア達と葵達を隔てる壁となる。

 

「この程度の焔など……何!?」

「……嘘でしょ?」

 雛が事も無げに焔を燃やそうとして……焔の壁は滅却の炎を受けてもびくともせずにその異能の力の強さを(良くも悪くも)理解している雛も葵も愕然とする。

 

「……これでも先祖がエクスカリバーもろとも神から授かった神器じゃ。幾ら概念までも燃やす異能だとしても、簡単には燃やせぬわ」

 アリアは驚愕している雛と葵をせせら笑うと「では、さらばじゃ。次に会う時はそやつらが妾か母上の子になって連れ帰る時じゃろう」と言いながら堂々と立ち去っていった。

 

「待て!」

 雛はそう言って最大出力の滅却の炎を焔の壁にぶつけ、焼き尽くすが……既にアリア達はいなくなっていた。

 

「くそ……!」

「お姉様、落ち着いて。花とかが怯えてるわ。……それで、貴方達は旭達に何をしようとしているのかしら?」

「おっと……見破られたか」

 雛が周囲に滅却の炎を撒き散らし、葵はそれを宥めながら旭に刀を向けていた多々良に風の刃を放つ事で牽制をした。

 

「な……てめぇ、何で旭を殺そうとしてんだよ!?」

「……あいつの話じゃ、旭とその御付きはアイツに妖化するような何かを撃ち込まれたんだろ? だったら、被害を出す前に殺すのが退魔士って仕事なんじゃねぇのか?」

「それは貴方が決める事じゃないし、旭が殺される事を望むと思う?」

「旭が今のを聞いたら、『妖になって雛姉や葵姉、民の迷惑になるくらいなら殺して欲しいっす』とか言いそうだけどな」

 夜が多々良にキレながら狐徹を構えて怒鳴ると、多々良は淡々と旭に刀を向けた理由を言い、葵が多々良を威圧しながら反論をするが多々良の言葉で雛と共に「……言うわね」、「旭が言いそうな言葉だな……」と溜め息を吐いた。

 

「まあ、ソイツは赤穂家のご令嬢もそうだけどな?」

「……それは紫を殺すという意味で合っているな」

「……ああ」

 多々良の言葉に赤穂家の面々は殺気だった表情で各々の刀を構えて陰陽師達に戦闘態勢を取る。

 

 一触即発の空気に全員が身構えるが、そこにわって入る人間がいた。

 

「あ、あ~……意見、言っても良いか?」

「ん? お前は誰……髪の色から旭の子孫だっていう鬼月白夜か。どうしたんだ?」

「いや、さ……あんた達の判断も間違ってるわけじゃないんだよ。恩人だからって躊躇ってたら、死ぬかもしれないんだからな」

 多々良は白夜のその言葉に怪訝そうな表情になるが、白夜は気にせずに話を続ける。

 

「だけど、俺がこうしているようにまだ旭は死ぬ運命じゃないと思うんだよ。もしもこの時に死んでいるなら、第二次人妖大乱で旭衆は活躍出来てない筈だしな」

「……つまり、あるかもしれない活躍の為に未来の危機は見逃せって事か?」

「あんたも旭達の事は殺したくないんだろ?」

「……」

 多々良は白夜の言葉に憮然とした表情になった後……ふっと笑って刀を下ろす。

 

「撤収だ。旭達は助けたし、上に下水道に巣くっている妖達の事を報告しないとな」

「……良いのか?」

「ああ。本当にいざという時は雛様や葵様が始末をつけるだろうし……正直に言って、旭や伴部があのまま妖になるわけがないだろうし、な」

 刀を下ろした多々良がそう言うと、仲間が旭達に目を向けながらそう聞くが多々良は肩を竦めながら下水道を出ていった。

 

「……ふぅ。緊張したぜ」

「良くやったわ。流石は旭の子孫ね」

「……大した度胸だな。下手をすればお前が殺されてたぞ?」

「……旭衆の日誌で多々良さんの性格は把握してたし、その後の事も書かれてたからそう判断しただけだよ。……本当なら阻止したかったんだけどな」

「相手は凶妖だ。生き残れただけでも幸運だったぞ」

 汗を拭いながら一息吐く白夜に葵と雛が誉め、白夜はそれに肩を竦め……すぐに苦笑いをした。

 

「ところで……あれは良いのか?」

「何が……あら?」

「あいつは……!」

 雛と葵が白夜の指の方向に目を向けると、そこには伴部を抱えて上に向かおうとしている白虎がおり二人は伴部を取り返すべく走り出した。

 

「……良いのか?」

「流石に殺しはしねぇだろ。それに……白虎の妹達も助けるだろうしな」

 誰が伴部を連れていくかで揉めに揉めている三人の合間を縫って彼を背負った夜(側には旭を背負った花がいる)が上に上がるのを見ながら白夜達も地上に向けて進む為に歩き始めた。

 

 ──────────

 

 都から離れたある山地……地下水道の汚水が吐き捨てられる事になっていたその通路の出口で鬼は待ち構えていた。

 

「あら、これはこれは碧鬼ちゃんじゃないですか? 随分と懐かしいですね? 再会は何時ぶりの事でしたでしょうか? もしかして、寂しくなって久々に母に会いたくなりましたか?」

「ははは、相変わらずこいつ話通じないなぁ。真性でイカれているね」

「……殺すぞ?」

 無数の怪異の群れと共に地下水道から現れた『母』の第一声を、修験僧の出で立ちに笠を被った碧鬼は皮肉げな表情で言い捨て吸血鬼の王はそんな鬼に黄金の剣を向けた。

 

「ふふふ、照れ屋さんなのですね、貴女は。そんな恥ずかしがらずとも母は何時でも何処でも、喜んで子供達を迎えてあげますよ? ほら、ぎゅっとしてあげましょうか?」

「気持ち悪いんだよ、ババア。そんな事のために俺が貴様のような気違いに会いに来たとでも思ってるのか?」

「死ね」

 心からの善意でそう宣う『妖母』を、碧鬼が罵倒した瞬間に飛んできた光の斬撃を錨で弾きながら鬼は尋ねる。

 

「用件は分かっているだろう? ちと聞かせて貰えないかな? 態態あんた程の妖がまた何でこんな夜逃げみたいな事をしているんだ? しかもこの時期に」

「これから死ぬ貴様にそんなの知る権利があるかぁ!」

「お前には聞いてないよ」

「……アリア、止めなさいな」

 そう言って襲い掛かってくる吸血鬼を捌いた後、その理由の大半を分かっていても、それでも尚鬼は期待を込めて問う。そして『妖母』はそんな鬼の身勝手な質問に喜んで答えた。

 

「アリアが失礼しちゃいましたね。そうですね……実は坊や達が、少し反抗期みたいでしてね? ……もしかして気になるのかな?」

「勿論だとも。教えて貰っても良いよな?」

 その言葉に鬼は口元を裂けそうな程に歪めて答えた。その美貌に浮かべるは喜悦の笑み。そしてそれは『妖母』の短くて、しかし要件を押さえた説明によってより凄惨なものとなる。

 

「ふふふ……ふふふふふ………くふふふふふふっ!!! それはそれは、また何とも素晴らしい話じゃあないか? 最高だよ!! ふふふ、そうか、二人揃ってババアの甘言を振り切ったとは! 相変わらず楽しませてくれるなぁ!!!」

「妾にとってはトラウマの再現じゃ……!」

 話を聞き進めていくと共に、鬼はその笑顔を一層歪め、吸血鬼の殺意に満ちた発言を無視しながら気味の悪い程邪悪な笑い声を上げる。

 

 当然だ、この誰それ構わず母親面する化物の言葉は魅了と魅惑の暴力だ。その甘言を一度聴けば多幸感と安心感とで碌に思考する事も、ましてやその快楽を振り切る事も容易ではなかろうに、それを………!! 

 

「ぐふふ……あぁ!! やっぱりアイツらは期待通りの人間達だよ!! そうだ、そうだとも! そうでないと! 私を! 殺す!! 英雄達は!!! そうでないと………!!!!」

「……おい、そう言えばお主からなんか雌の臭いがするんじゃが……何処ぞで自慰でもしたか?」

 何処か芝居がかった、酔うような仕草で鬼は叫ぶ。その顔は自身の期待通りの、いやそれ以上の結果を出した未来の英雄の活躍に恍惚の表情を浮かべていた。ついでに言えば『妖母』の顔を彼女の御気に入り達が突き刺した話を聞いた時には思わず『イって』いた。法衣で見えないが鬼の下の下着はその時に完全にぐちょぐちょに濡れそぼっていたのだ。

 ……そういう意味ではアリアの質問はある意味的を射ていた。

 

 顔だけは美女を装う化物のその快楽に浸った表情は何処までも魅惑的で魅力的であった……が、『妖母』と吸血鬼の周りに侍る妖達(吸血鬼の子を除いて)はその姿に寧ろ怯える。興奮した鬼の出す強烈な匂いに有象無象の怪異共は恐怖していたからだ。鬼の体臭なんて嗅げば大抵の妖はどれ程遠くから匂ってきたものであろうとも、それを感じた瞬間に即座にその場から全力で逃走するものだ。

 

 それが、妖の中でも一際強欲で身勝手で我儘で狡猾な『鬼』という存在であった。

 

「……ところで、あの時妾の攻撃を防いだ影はお主の分霊か?」

「ん? ああ、そうだよ?」

「あらあら、確かにあの坊や達には沢山式神が張り付いていたのはアリアの口から聞いていましたし、動きに見覚えがあったので予想はしていましたけれど……まさか本当に貴女の分霊がいたのは驚きましたよ?」

 まさか手助けをする程に入れ込んでいるとは……碧鬼の性格と好みを良く知る『妖母』は、其ほどまでにあの青年と少女に彼女が入れ込んでいる事実に素直に驚いていた。同時に、彼女自身もまたそれ故に一層『我が子』への愛情と愛着を強め………

 

「おいおい、冗談は止してくれよ。何で俺のための英雄達を自分の餓鬼扱いしているんだ? そんな来歴、設定してないんだがな? ……特に旭には、ね」

『妖母』の思考に対してそう吐き捨てる碧鬼。そう、そんな経歴、碧鬼は認める積もりはなかった(特に親友を自称していた人物の忘れ形見である旭)。当然だ、彼らは彼女を討ち果たして英雄となる二人なのだから(……旭は認めないだろうが)。そこに『妖母』なぞが入り込む余地なぞない。それでは……それでは彼女は『妖母』の前のただの前座ではないか! そんな事認められる訳がない!! 

 

「それからさ……吸血鬼。お前、アイツらを妖母と自分の妖気で『汚した』よな?」

 そして何よりも、碧鬼は此度の一件で一番気に入らない事実について指摘する。何時しか碧鬼の顔の右半分には影が差していた。右目が鬼火のように赤く、紅く輝く……その口調も、様子も剣呑であり、妖気が荒ぶり、唯人でも分かる程に恐々しい殺気が垂れ流されている。

 

 そうだ、長年自分を討ち果たす理想の英雄を探し続けていた碧鬼にとってそれこそ何よりも気に入らず、そして許せぬのはその事であった。そのような因子を、そのような要素を彼女は構想していなかった。

 

 故に問い詰める。その内容次第では、折角見出だした英雄を諦める必要もあったが……

 

「ああ。あやつらは母上の腹から戻るのは嫌じゃそうだからな……ならば、体を作り変えるしかあるまい? ま、時間は掛かるし母上の子か妾の子になるかは分からぬが……どっちにしても大したことはあるまい」

 アリアは常人ならば失禁して失神しそうな特大の殺気を向けられているにもかかわらず、そんな鬼をせせら笑いながら凄絶なまでの霊力と妖気を迸らせながら黄金の剣を構え、焔の聖女を出現させる。

 

「……そうか。時間はかかるのか。それに……うん。まぁ、これ迄色々此方の期待に応えてくれたんだ。少し位は大目に見て上げないとな?」

「……傲慢で嘘つきで残虐で独善な鬼が随分とまあ、寛大な事じゃなぁ?」

 碧鬼はアリアの言葉を吟味して考える。そして、最終的には二人を『許した』。

 

 アリアの言うとおり、それは鬼という独善の塊としては驚く程に寛大な決定であった。たかが人間相手に、それが不可抗力であろうとも少しでも自身の計画から外れるような要因があれば他の鬼ならば大いに憤慨していただろうから。

 

 ……無論、その判断には碧鬼なりに自分勝手な思惑があるのだが。

 

 ……さて、それは兎も角として、碧鬼は『妖母』と吸血鬼を許した訳ではない。いや、許せる訳がない。自身の獲物を、英雄を、御気に入り相手と親友の忘れ形見に勝手にちょっかいを出され、挙げ句の果てには汚されて、奪われるなぞ冗談ではない。冗談ではないのだ。

 

「まぁ、そういう訳で………取リ敢エズ、オ前ラ死ネヨ?」

 次の瞬間、異形の姿に変貌した碧鬼は殆ど瞬間移動のような挙動で『妖母』に向かって突貫していた。『妖母』の頭を吹き飛ばそうとして振り上げられる白い足………それは同じく瞬間移動の様な挙動で回り込んだアリアの聖剣に受け止められ、弾き飛ばされた。

 

「あらあら、貴女も反抗期なのかしら? 良いでしょう。ふふふ……何でしたらもう一度母のお腹に帰りますか? 次はあの子達と一緒に産んであげても良いですよ?」

「母上、空気を呼んでくれませんか?」

「ブチコロスゾ、クソババア!!」

「やってみろ、くそ鬼が。捻り潰してお握りにしてくれるわ!」

 自身が殺されかけた直後であると言うのにそんな呑気でイカれた事を言う元地母神……その世迷い言に対して人を装った姿をかなぐり捨てた鬼は絶叫にも似た禍々しく獰猛しく、怒りに満ち満ちた咆哮を叫び襲いかかり、吸血鬼はそれに対して焔の聖女と彼女の子と有象無象の妖を従え、聖剣を振るって応戦を開始する。

 

 山林に爆音が轟いた。

 

 ……この数日後、地下水道の大規模な掃討と捜索を実施した多々良を中心とする陰陽寮の退魔士達の一隊は、この地下水道の出口にて数千からなる妖の散乱死体の山(吸血鬼はレッサー以外は確認出来なかった)を発見する事となったのであった。




次回もお楽しみに!

……出来れば次回は年内、最悪でも新年の3日以内に投稿したい。
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