旭奇譚~和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件~   作:愛川蓮

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第4章
第三十一話


「……そうですか。いよいよ、叔父様が動きますか」

 深夜の都の旧街の中でも外れにあるあばら家の中で橘商会の義理の長女である橘沙世は共犯者達と話し合っていた。

 

「ああ。あんたとあんたの妹の思い人である下人を拷問して、下水道で見た妖は橘商会が都に持ってこようとして逃がしちまった妖だって自白させろってよ」

「いや、まあ……確かに好意はあるんですけど……」

 そう沙世に言ったのは、狐白の橘商会への襲撃前夜でも会っていた入鹿であった。

 

「ふざけた話ですね。そもそも、妖を貴族と陰陽寮の依頼に見せ掛けて都まで運ばせたのは叔父様でしょうに……!」

「……だが、実際に運んできた商隊を率いていたのが商会長の橘景季である以上責任は商会長が背負うことになる」

「そして商会長が妖を都の下水道に住まわせてしまった罰を受けた後で橘倉吉(くらよし)率いる保守派が橘商会を牛耳る……それが保守派の作戦ですね」

 怒りを滲ませた言葉で叔父を詰る沙世に事実を話したのは入鹿の師であり、この場にいる三人のリーダー的な存在である龍飛。その後の橘商会の保守派のシナリオを言ったのは、龍飛と入鹿を都に引き込んだ神威であった。

 

「龍飛さん、神威さん、入鹿さん……保守派に対する諜報活動及び、此処までの協力ありがとうございます」

 沙世は彼らに向き直り、先ずは感謝を述べると懐から包みを取り出した後で頭を下げる。

 

「まだまだ商売人としても交渉人としても未熟者である私ですが……どうか、橘商会の膿を取り除くための戦いに、孤児になった私を暖かく迎え入れてくれた家族を守るための戦いに最後まで力を貸してください」

 向こうの失策もあったとは言え、自身が商売人としても彼らと交渉するには人生も足りていなくても手を貸してくれた彼等に対して自身が出しうる範囲のお金を差し出して助力をこう。

 

 ……そんな沙世に入鹿は苦笑いを浮かべながら、沙世の頭を撫でる。

 

「俺らに対して頭を下げんなよ。それに……商会の実権を握ったら俺と龍飛を密かに殺そうとする奴らなんて、此方から願い下げだ」

 そう、龍飛達が沙世に寝返ったのは沙世を始末しようとした際に倉吉達が橘商会の実権を景季から奪った後で入鹿と龍飛を殺そうと相談していたのを偶然聞いてしまったからだ。

 

「ありがとうございます。では、作戦の実行時の行動ですが……」

 沙世はそう言って居直ると、作戦を実行した際の行動を入鹿達と議論を開始する。

 

 ……その最中、沙世は義理の両親や義妹、義妹の親友や思い人を脳裏に浮かべながらこう思った

 

(私は、大切な人達を守る。例え、私の命が失われたしても……!)

 

 それから数日後……

 

「が……!?」

 あたいの胸から刀が飛び出す。それが引き抜かれ、あたいの心臓付近から血が大量に噴き出す。

 

「あんた……なん…で、が…ふ!? ……こん…な……!?」

「あ、はは……あっははははは! やった、やったぞ! くそイレギュラーを殺した! 殺してやったぞ! ひゃははは!」

 倒れたあたいを見下ろすその男は狂喜的な高笑いをしながら恐ろしい事を言い出したっす。

 

「この調子で、佳世ちゃんを誑かすロリコン下人とアホ義姉も掃除(・・)しないとねぇ!」

「!? ま、待…て……! うあぁぁ!?」

「……ま、止めは刺さなくても良いか。どうせ、僕の式神か解き放った妖に食い殺されるし。待っててね、佳世ちゃん!」

 あたいが男を止めるために伸ばした腕に刀を刺した後で、下卑た笑いを浮かべながら歩き出す男……

 

(佳世ちゃん、沙世姉、伴部…さん……)

 血が抜けすぎたのか、頭がボーッとする……

 

(どうして…こう、なったんす……かね……?)

 あたいはのたのたと腕に刺さった刀を抜き、それを支えに立ち上がって、ゆっくりと歩きだしながら、事の始まりを思い出していく……

 

 ────────ー

 

 扶桑国が央土に構える都、その空は曇天でしんしん、と静かに雪が降っていた。小さな粉雪は土の上に落ちると共にしゅっと溶けてしまい地面を濡らしていく。

 

「……くしゅん!」

 人や車両が激しく往き来する都の出入りを管理する大門、それを一歩越えたあたいが最初に感じたのが痛みすら感じそうになる肌寒さだったっす。余りの寒さにくしゃみをしながら身震いをする。

 

 都の壁の内側が膨大な霊力によって夏は涼しく冬は温かく管理されているのに対して、その壁の外側は正に自然の厳しさそのものっす。今の時期は師走の月、冬も本格的に厳しくなり、山間の集落であれば今頃降雪によって外界との交流が完全に断たれる時期でもあるっす。

 

 多くの場合山間や離島の村では冬には村人総出で食糧をかき集めどうにかして冬を越えようとするのだけど……いざ雪融けの季節になって旅人なり行商人なりが出向けば村が全滅していた、なんて事は珍しくないっす。あるいは人間同様餓えた妖に襲撃されて村人全員が妖の腹の中、なんて事も起こり得る事態なんすよね。

 

(まあ、だからこそ結成してからの師走の月には旭衆総動員で近隣に中妖までは防ぐ結界のお札や薪、食料を運んで回ってるんすよね)

 偽善だって言われるかもしれないけど……それでも、民の犠牲を避けたいんすよね。

 

「あ、あの………旭様、伴部さん……こんな時に、すみません………」

 その声に振り向くと、そこには狐耳を笠で隠し、藁の上着で尻尾を隠した白ちゃんが恐る恐るといった表情であたいと伴部さんを見上げていたっす。

 

「いや、別に気にする事はないが……」

「そうっすよ、気にする事なんてないっすよ」

「だけど………」

 白ちゃんは申し訳なさそうにあたいや伴部さんの包帯に覆われた腕を見るっす。

 

「それに怪我のせいで宮仕えが免除されてたせいで暇だったんで……渡りに船だったんすよ」

「付き添いは吾妻との約束だからな。当然の義務を果たすだけの事だ。それに仕事はあった方が良い。流石にただ飯食いは気まずいしな」

 ……あの下水道の掃討作戦から1ヶ月、高い霊薬まで使って伴部さんを歩ける様にしてから行われた一週間の(アリシア曰く)『でーと』作戦が終わり、暇になっていたあたいは伴部さんと一緒にいた白ちゃんから孤児院への訪問に行かないかと誘われたんで行くことにしたんすよ。

 

「にしても……伴部さん、都の男の人達に凄い睨まれてたっすね」

「誰のせいだと……!」

「まあ、そこら辺は想定外だったんすけど……睨まれたくなかったら、ちゃんと鈍感を治すっすよ」

 あたいは新街に通じる門に着くまでの間に伴部さんを都の男の人達が睨んでいた事を言うと、伴部さんは苦々しげな顔であたいを見たけど……だったら、ちゃんと白虎の思いに応えるか雛姉や葵姉の思いに気付けば良いのに。

 因みに、伴部さんが都の男の人達に睨まれてたのは一週間の間に雛姉、葵姉、紫姉、ゆかちゃん、白虎に花さん、白ちゃんと取っ替え引っ替えで『でーと』させたせいみたいなんすよね……

 

(だから、伴部が睨まれてたのが旭のせいって言うのは正しい)

(そうなんすよねぇ……後で何かしらのお詫びはしなきゃいけないすよね)

 あたいは夕陽の言葉に溜め息を吐きながら孤児院への道を歩むっす。

 

「それよりも土産は持ったか? 落とすなよ? 代わりはないぞ?」

「あ……は、はい! 落とさないようにきちんと持っておきます!!」

 伴部さんのそんな言葉に白ちゃんは粗末な風呂敷に包まれた荷物……吾妻さんの孤児院に向かう際の機嫌取りの為の手土産を抱き抱えるように持ったっす。

 

 同じ都と言っても妖や犯罪者等の侵入を防ぐ目的もあり、城壁と衛兵と結界によって出入りを管理された内京に比べて、外街はかなり乱雑で、雑多っす。

 

 元々が大乱で生じた難民が勝手に入植した事もあって内京と違って区画整備なんてされていないっす。しかも、四方の土から出稼ぎ農民……それどころか荘園等から逃げた小作農や貧民、犯罪者、クロイツ家や王家みたいな外国人、その他くそ爺のような訳ありな人物が好き勝手に住み着くようになったせいで、建物の様式すら統一されていないんすよ。

 

 ……まあ、逆説的に言うとそんな公権力から半分無視されているような街を歩くあたいと伴部さんと白ちゃんは正直悪目立ちしてたっす。悪目立ちはするけど……この際は仕方ないっすね。退魔士や公家の人間である事を証明すれば余計なちょっかいをかけられる可能性は低いんすよ。……だから、じろじろと不躾な視線で見られるのはもう諦めるしかないっすね。

 

 雑多で小汚く、だけどある意味では活気と賑わいに溢れた外街を更に一刻程大通りに沿って進んでいく。次第に建物が少なくなり、風景に田畑が交じり始めた頃に目的地に辿り着いたっす。

 

 それは屋敷だったっす。土壁で四方を囲んだ木材建築の武家屋敷に近いっすね。にしても……

 

(葵姉……幾らなんでも、やり過ぎっすよ)

 あたいは大袈裟な程までに豪華になった孤児院に苦笑いをしながら……! 

 

「伴部さん!」

「旭様……まさか!?」

「伴部さん、旭様もどうしたんですか?」

 あたいと伴部さんは白ちゃんを後ろに庇うと、あたいは蔵丸から愛用の薙刀を取り出し、伴部さんは葵姉製の短刀を構えて……

 

「ふふ、俺を感じたら即座に戦闘態勢に入るのは正しいけど……今の俺は旧友に会いに来ただけだから、そう構えなくてもいいよ。……それと碧花、止まれ」

「ふぐ!?」

「……誰が旧友だ、誰が」

 そこには買い物帰りだと思われる吾妻さんと……何処か馴れ馴れしく吾妻さんの肩に手を起きながら、自分に似た鬼の半妖の女の子の襟首を掴んで止める赤髪碧童子さんがいたっす。

 

「み、みんな! これ、お土産……!?」

「はい、ストーップ!」

 白ちゃんが風呂敷を開いて持ってきた芋羊羮を見せつけた瞬間、孤児院の子供達が雪崩のように白ちゃんに押し寄せ……ようとして鬼の半妖の女の子に押さえ込まれたっす。年長組も年少組もなく目を輝かせて、口元から涎を垂らして芋羊羮のもとに突っ込んでるんすけど……女の子はそれを華麗に捌きながら子供達を怪我させる事なく白ちゃんから離れさせるっす。

 

「す、凄い……」

「あの鬼の半妖は一体……」

「こら、お前達っ!! はしゃぐのも良いがその前に御礼を言いなさい!!」

「あんた達! 騒ぐのは良いけど、白が帰ってきたんだから良い子にしな!」

「Stop!」

 あたいと伴部さんがそれに呆然としていると……芋羊羮に興奮する子供達とそれを捌く鬼の半妖さんはいきなりその叱責にびくりと肩をすくませたっす。子供達が視線を声の先に向ければそこには腕を組み硬い表情を浮かべる吾妻さんと猫さんとジェイさんが立っていたっす。

 

「はぁ……まずはお土産を持ってきてくれた白と客人達に有り難うだけでも伝えなさい。人の好意を無下にするものではないぞ? な?」

「まぁまぁ、雲雀……子供が元気なのは良いことじゃないか」

「それはそうなんだが……お前には言わせたくないな」

 吾妻さんの言葉を茶化す様に言う赤髪碧童子さんに吾妻さんは深々と溜め息を吐きながらそう言ったっす。

 

「あの~……吾妻さんと赤髪碧童子さんって、どんな関係なんすか?」

「この英雄馬鹿に旭姫の先祖諸とも散々な目にあわされた」

「おいおい……窮地に陥ったら、助けてあげたじゃないか」

 そんな赤髪碧童子さんの反論に吾妻さんは「お前が私達を助けた回数の数十倍は迷惑をかけられたがな」と皮肉げにそう言ったっす。

 

 そんな吾妻さんの様子に最初は怯えていた子供達は互いに顔を合わせると、おずおずとあたい達の方を見たっす。

 

「え、えっと……その、お土産ありがとうございます!!」

 年長の子供の一人が音頭を取って頭を下げれば続くように他の子らも感謝の声を上げてお礼を言ったっす。

 うんうん、これも吾妻さん達の教育の成果っすね。

 

「俺達は唯の付き添いだ。礼を言われる立場じゃない。……白、その菓子を選んだのはお前だ。返事してやりなさい」

 伴部さんがそう言うと、吾妻さんの叱責と赤髪碧童子さんとの言い合い、子供達のお礼にポカンとした表情を見せていた白ちゃんにそう勧める。伴部さんの言葉に我に返った白ちゃんは若干困惑するけど、伴部さんが再度勧めると少々恥ずかしげに頷いて子供達のお礼に応じるっす。

 

「え、えっとね……気にしてないからね! そんな余り心配しなくてもいいよ!? その、皆が嬉しそうで良かったから……え、えへへ、みんなで仲良く食べよう?」

「……あの女狐の義妹だったにしては優しいじゃないか」

「お母さん、白先生と狐白さんは別なんだから当然じゃないですか!」

 白ちゃんの言葉にそう言った赤髪碧童子さんに鬼の半妖の女の子はそう反、論……!? 

 

「「「お母さん!?」」」

「……うん、まあね。旭の子孫達と同じところから来た俺の娘の……」

「碧花旭童子と申します! 宜しくお願いします、旭様! それと……お父さん!」

 そう言って、碧花旭童子さんは伴部さんに抱き付いて……え? 

 

「……お父さん?」

「はい! 私は、お母さんとお父さんの娘なんです!」

(まさか、あの鬼と伴部の娘とはな……)

 あたいが恐る恐る聞くと、凄く良い笑顔で碧花旭童子さんはそう言ったっす。

 

「ええ……」

「う、ヴえ゙ぇ゙ぇ゙ぇぇェェェ………!!!???」

「ええぇぇぇぇっ!? 伴部さん、何で吐くんすか!?」

(いや、吐いて当たり前だろ! あの鬼と娘をつくるんだぞ!?)

 あたいが吐いた伴部さんに驚くと、夕陽が赤髪碧童子さんに失礼な事を言う。

 

「……それはそれで傷付くなぁ」

「お、お父さん大丈夫!?」

「言ってる場合か! ジェイ、水持ってこい!」

「お、OK!」

「と、伴部さん!?」

「気持ちはわからんでもないが……庭先で吐くな」

 ああ、もう! 色々とグダグダな訪問になってきたっす! 

 

 ────────ー

 

「伴部さん、幾らなんでも吐くのは不味いっすよ」

「まあ、それはそうですが……」

 俺達は孤児院でのグダグダな騒動を終えた後、芋羊羹を吾妻雲雀や弟子達、孤児達や鬼、鬼の娘と共に食べた後で雑用もこなした後、帰路に着いていた。

 

 ……にしても、あの鬼と俺の娘って……はは、質の悪い話だな。未来の俺はどんな状況であの鬼と『そういう事』をしたんだ? 

 

 ……あの鬼の半妖の言葉を嘘だと断言出来なかったのは、あの半妖に抱き付かれた際に父性の様なものを感じてしまったからだ。

 

「それにしても、吾妻さんにはあっさりとバレたっすね。あたい達の状況」

 鬼月旭は自分の手を見ながら、俺達が吾妻雲雀に言われた事をぼそりと呟く。

 

 ……そうなんだよなぁ。まあ、最悪の状況ではないだけ増しだな。

 

「不味い延命の薬を飲んでいるとはいえ、あたい達も早く強くなってあの化け物達を倒すっすよ。……でないと、あたいは雛姉や葵姉に迷惑をかけちゃうかもしれないんで」

 鬼月旭は俺を見ると、微笑んみながらそう言う。

 

「……ええ、俺も死ぬ気はありませんから」

 ……鬼月旭の言うとおりだ。俺は生きたい。原作を最後まで生き延びた後で何をするかはわからないが……それでも死ぬのはごめんだ。

 

(だが、旭衆や姉御様、ゴリラ姫……それらを総動員しても勝てるかどうか……)

 何せ、妖母にその直系の娘だからな……

 

「白ちゃんもごめんなさいっすよ。本当は吾妻さん達といたい筈だったのに……」

 重い雰囲気になりそうなのを察したのか、鬼月旭はそう言って白に向き直る。吾妻雲雀や弟子達は然程気にしてなかったが餓鬼共からは随分とブーイングを浴びせられた。年少組は泣きじゃくりながら白の服の袖を引っ張って帰るのを阻止しようとしていた程だ。白も随分と楽しそうに過ごしていたので鬼月旭や俺の判断に不満を抱いたのは想像に難くない。

 

 それに、鬼月家の上洛と役務もそろそろ期限だ。そうなると白は俺や鬼月旭と一緒に北土の本家に行かざるを得ない。そうなると、何か特別な理由がない限り彼女が再び孤児院を訪れる事が出来るのは三年後になる筈だ。心残りがあるに違いなかった。

 

「い、いえっ、あ、その……確かにみんなとご飯は食べたかったですけど、理由は分かるから納得はできます。それに…………」 

 鬼月旭の言葉を若干慌てたように否定する妖狐の少女。そして両手の掌を擦るように重ねて迷ったような表情を見せるが……数秒後にはにっこりと健気な笑みを見せて顔を上げる。

 

「そ、それに……! 私、姫様や伴部さんとご飯食べるのも大好きですから!!」

「白ちゃん……お礼に晩御飯のおかずを言っちゃうっすね。今夜は煮浸しっすよ!」

 その言葉に微笑んだ鬼月旭の話に白はあからさまに目を見開き、輝かせた。口元から涎が垂れそうになり、慌てて啜り出す。流石化け狐、油揚げ好き過ぎるな。

 

「旭様、伴部さん!! は、早く御屋敷に戻りましょう! もう日が暮れてますから! ねっ? ねっ!?」

「白ちゃん、慌てないっすよ!」

 先程までの遠慮がちな態度はどこへやら、此方の法服の袖を掴み、急いで帰宅を急かす白であった。全く、調子の良い奴だ。

 

(……傍から見たら、姉妹にでも見られそうだな)

 仲睦まじく歩む鬼月旭と白の二人を見ながら、俺は妹の事を思い出していた。

 

(あいつは、『雪音(ゆきね)』は今何処で何をしているんだろうな?)

「伴部さーん! 早くしないとあたいや白ちゃんとはぐれちゃうっすよー!」

「……今、行きます」

 俺が離ればなれになった今世の妹を思っていたら、鬼月旭の声で立ち止まっていたのに気付き慌てて追いかけた。

 

 ……妹の、雪音の衝撃的な所在を知るのは、それから三年後の事だった。

 

 都の大門、それを潜った直ぐ先の都の広場で、それは待ち伏せるように鎮座していた。周囲に雑人数名と護衛……アリス・クロイツと龍姉妹を侍らせた四頭立ての大きな牛車はどんな人物が乗っているのかは一目瞭然でわかった。

 

「……あれって、橘商会の……佳世ちゃんっすかね?」

「恐らくは」

 鬼月旭のお見舞いに来たが、留守だったので屋敷の人間に何処に行ったかを聞いて此処に来たってところか? 

 

「あら? これはこれは奇遇ですね、旭ちゃんに伴部さん! 御体の方はもう大丈夫なのですか?」

「やっぱり佳世ちゃんだったん……んん?」

 牛車の物見窓から此方を見やる異国情緒のある可愛らしい商家の娘。その気分屋で無邪気そうな笑みを一瞥した鬼月旭は微妙そうな顔になる。

 

「……どうしたんですか?」

「いや……佳世ちゃん、ちょっと失礼」

 鬼月旭は物見窓まで近付くと、佳世ちゃんの匂いを嗅いだ後で納得した顔になる。

 

「容姿は佳世ちゃんに良く似てたけど、微妙に使ってるお香の匂いがキツいっすよ。佳世ちゃんの子孫の人っすか?」

「流石は旭ちゃんですね、正解です!」

 鬼月旭の言葉にいたずらっ子の様な笑顔で先程の少女の隣に佳世ちゃんが現れる。……随分と似ている子孫だな? 

 

「で、この子は誰っすか?」

「この子は私の子孫で……」

「小百合~~~!」

「止まれ、この馬鹿!」

 佳世ちゃんが子孫の名前を言おうとした瞬間、道の向こうから突っ走ってくる赤穂九恩とそれを止めようとする鬼月白夜がやって来て……

 

「ふん!」

「げえ!?」

 雑人の中に紛れていた橘沙世に何処と無く似ている少女に蹴り倒された。

 

「……柚子も来ていたのか」

「うん」

「……面倒な事になりそうだ」

 白夜の言葉に俺は無意識にそう呟いていた……




次回もお楽しみに!
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