旭奇譚~和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件~ 作:愛川蓮
「いや~……一週間ぶりに里のみんなに会えるっすね~」
俺は今、鬼月旭の使役する巨大な鷹の式神に乗って鬼月旭が率いる集団である旭衆が住んでいる里に向かって飛行していた。
(そもそも、こいつはどうして俺をお付きにしたんだ……?)
俺がこいつに出会ったのは、俺が姉御様の世話役から下人に落ちてすぐの頃の事だったと思う。
あの姉御様しか見ていない鬼月家現当主『鬼月
俺が見回っていた庭で姉御様と和やかに話しているオレンジ色の髪の少女……鬼月旭がそこにいた。
その時に姉御様に見付けられ、その視線で俺に気付いた鬼月旭に話し掛けられたのが俺とこいつの最初の接点だったと思う。
次に接点が出来たのは偶々ゴリラ姫の警護をしていた時だと思う。
稽古を(才能ゆえにあっさりと)終えて暇そうにしていたゴリラ姫のもとに、将棋盤を持って鬼月旭が現れたのだ。最初はすげなくあしらわれていたが、懲りずに話し掛けた事で「……一局だけよ?」と才能以外見ていないゴリラ姫にしては寛容な意見と共に将棋を始め……才能の差で完膚なきまでゴリラ姫が鬼月旭を叩き潰した。
その時にゴリラ姫に投げ付けられた言葉が原因で目茶苦茶泣きそうになっていたが、それを堪えて「次は負けないっすからね!」と涙目で将棋盤を抱えて部屋に帰って行った。
……それからも姉御様と和やかにかつ楽しそうに話す姿とゴリラ姫に稽古や遊びを挑んでは完膚なきまで叩き潰されるというのが何回も起こったので、年上の退魔士との任務に同行していた時にコッソリと理由を聞いてみたのだ。
すると鬼月旭は少し考えて……「あのままだと……雛姉も葵姉も幸せになれないと思うんすよね」と答えた。
鬼月旭は「雛姉は何処か寂しそうだったっす。たくさんの人に囲まれてたけど、本当はただ一人の……本当に大切な人と一緒にいたいんだと思うんす。だから、少しでもその人が戻ってくるまでの代わりをしたいんす。葵姉はもっと単純すね。葵姉は色んな人に崇拝されてるけど、それは才能に目を焼かれちゃった人だからなんすよ。つまり、葵姉本人は見られてないんす。だから、才能に目を焼かれていない……あたいみたいに、葵姉をちゃんと人間として見てる人がいるんすよって稽古とかに勝って言ってあげたいんすよね……まあ、今の所は負けっぱなしっすけどね」と微笑みながらそう言ったのだ。
……その行動が功を奏しているのかどうかはわからないが、鬼月旭が間に入る事で以前は互いに無視しあっていたゴリラ姫と姉御様は鬼月旭と一緒にいる間は少しは話をするようになっていた。
更に、様々な人(その中には何故か今も生きているゴリラ姫の母親や拗らせババアも含まれている)のアドバイスや必死の努力をした結果……薙刀の稽古で鬼月旭がゴリラ姫を下し、ゴリラ姫に世の中は才能だけじゃないし、自分の様にゴリラ姫をちゃんと個人として見ているのだと言うことを伝え……その日からゴリラ姫は鬼月旭に対する毒舌を(多少は)抑え、姉として接する様になった。
(極めつけはあの姉御様バカの為時がゴリラ姫を謀殺しようとした時のだろうな)
あの姉御様しか見ていない男の事だ、恩人の娘だろうが誰だろうが万が一にでも姉御様の対抗馬にさせない為の工作だろう。あの男は鬼月旭が近くにいる場所でゴリラ姫を罠に嵌めて殺す事を洩らし、彼女に助けに向かわせたのだ。
最低でもゴリラ姫共々処女喪失による次期当主争いからの脱落、最高の結果でゴリラ姫諸とも妖に殺される事を想定していたのであろうが……俺がゴリラ姫の護衛として同行していたのがある意味で命運を分けた。
暗殺に乱入した鬼月旭が奇襲してきた化け者共に膝を屈し、そのままゴリラ姫共々化物共による輪姦パーティーが始まる直前に俺が前もって準備していた煙幕玉に閃光玉、臭い玉を使用、化物共の五感を麻痺させた所で鬼月旭の手を取り、ゴリラ姫をおぶって全速力でその場から避難したのだ。……まあ、救出する前に重傷を食らったんだが。
そこから神経毒でろくに動けないゴリラ姫を庇いながら三日三晩追ってくる化け者共から共に逃げ続け、最後は毒の抜けたゴリラ姫と何故かやって来た姉御様が原作ゲームではあり得ないタッグを組んで化け者共を纏めてワンパンで葬り去った事で俺達は揃って助かった。……いや、俺も鬼月旭も割とズタボロだったけど。
それからどういう訳か俺は鬼月旭によってお付きに任命され、何故か視線に鬼月旭に対する殺意が混じりつつあった姉御様とゴリラ姫から逃れさせる為か上洛の際に共に都に行かされ……そこで『
なお、抗争寸前だった二家と山賊化した武士団は最終的にほぼ全員が『
(いや、前日譚の『
そして、鬼月家に帰ってきた鬼月旭はモグリやはぐれの捕縛を主軸とした何でも屋としての側面を持つ衆を作らせてほしいと長老衆に頼み……姉御様とゴリラ姫の鶴の一声で結成されたのが旭衆というわけだ。
「伴部さーん、着陸するから飛鷹に掴まるっすよ~」
俺はその声に意識を引き戻し、鷹の式神の背中にしがみつくと……ずしんと軽い振動と共に、式神が地面に着陸した。
「ただいま……」
「おかえりなさい、旭さま!」
「ぐぇ!?」
「こら、『
式神から降りた直後に突撃してきた狐耳の生えた半妖の少女によって鳩尾に頭突きをくらい、女性として出しちゃいけない声を出して悶絶する鬼月旭に近寄って来たのは金髪の髪にシスター服を着た少女……件の妖母を殺すために海を渡ってきた一族『クロイツ家』の末娘である『アリシア・クロイツ』だ。
「旭、悪い! 夜狐を抑えられなかった俺の責任だわ」
『旭さま~!』
そう言って数人の半妖の子供達と一緒に走りよってきたのは例の道硯翁を憎悪し、殺すために行動している『夜』と名乗っているモグリの陰陽師だ。
こいつは半妖達を積極的に保護しており、現在は鬼月旭に突撃してきた少女も含めて十二、三人ほどがこいつの世話になっている。
因みに、保護している理由は霊力を持っていたが故に捨てられて孤児となっていたこいつと友人達を拾ってくれた上に陰陽術を手解きしてくれたのが狸の半妖の女性だったかららしい。
……だからこそ、養母が罪に問われ、自分達と同じ孤児達が半妖になる切っ掛けになった道硯翁を許す事が出来ず復讐戦に打って出たのだが……返り討ちにあい死にかけていた所を鬼月旭に拾われ、復讐の為の牙を研ぐために雇われているらしい。
「伴部、覚悟! そして、今度こそ家訓にならってあなたを私の婿に!」
「妹をたぶらかす下人め、死ね!」
「だから、何でそうやって何時も襲い掛かって来るんだお前らは!?」
「白虎も『
「何時ものだろ? つーかよ……白虎の奴、何時か姫さん達に殺されるんじゃないか?」
「そうなった場合が恐ろしいデスね……」
俺は俺でトンファーと青竜刀を持って襲い掛かって来る兄妹の攻撃を必死に捌きながら降りた時に渡された短槍で応戦する。
こいつらは大陸から落ち延びてきた退魔士一族『
……恐らくだが、旭衆の里がかなり屋敷から離れた場所にあるのは鬼月旭に対する嫌がらせとあわよくばこいつらが開拓の途中で死んでほしいという願望が合わさった場所を選んだんだろうな。
まあ、戦闘出来る奴はどいつもこいつも中妖なら返り討ちにするし大妖でも力を合わせれば打倒できる力量はあるし、鬼月旭に救われたりこいつの度量に感服して下ったり、住んでた村が滅ぶ寸前で行き場のない奴が来たりで徐々に発展しつつあるんだがな。
……昔から思うが、やっぱり
姉御様とゴリラ姫を多少なりとも和解させられるだけのコミュ力に、手が血塗れになる程の努力の必要はあったとはいえゴリラ姫を打倒出来るだけの能力に優秀な人材を確保出来るほどの人脈……正直、別のゲームだったらメインヒロインでもおかしくないんだが……鬱ゲーの闇夜の蛍では病んだ場合が恐ろしい。
主人公君を旭衆や人脈を使って監視し、コミュ力を使って言葉巧みに恋敵を破滅に追いやり、果ては鍛え上げた実力で主人公君を殺す……考えるだけでこれだけの恐ろしい展開が思い浮かぶ。はっきり言ってそうならないで欲しい(確実に俺を巻き込むだろうし)。
(もしも主人公君と気があうのなら、すぐに病むヒロイン達のメンタルをケアする主人公君の相棒として活躍してほしい所ではあるな)
なんせ、こいつの人脈や戦力は有効活用をすれば原作においての主人公君が受けることになる理不尽展開をなんとか出来る確率も上がるからな。
「原作が始まるまで、こいつが歪まないようにしないとなぁ……」
「? 伴部さん、何か言ったすか?」
「いえ、何でもありません」
俺は何時もの様に俺をそっちのけで喧嘩を開始した白虎と黒虎の兄妹を仲裁するために動き出した鬼月旭を見ながらそう呟いた……
数日後、俺は新たな任務で旭衆はその任務地の近くにある村からの依頼で共闘をする事になる……
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夜……草木も眠る丑三つ時。
その時刻の山の中で轟音と共に何かが木々を折りながら吹っ飛んで来た。
「ぐにゃ!?」
「ぐばぁ!?」
それは尾が四本ある巨大な猫と白い体毛の巨大な狒々だった。彼らはこの近辺で縄張り争いをする大妖であり、相手と雌雄を決するべく自身の配下全てを率いて来たのだが……その軍勢は全てたった一人の『鬼』によって粉砕され、彼ら自身もまた圧倒されていた。
「ば、バカな……幾ら鬼とはいえ、儂らの軍勢がたった一体に……!?」
「な、なんなのよあいつは……! あれだけの軍勢を整えるのに、どれだけ時間がかかったと思ってんのよ……!」
「……こんな所で縄張り争いをしている様な小物じゃこの程度か……まぁ、あんまり強くてあいつらが死んだら俺が困るから難易度調整の為に連れていくのはこれぐらいが丁度良いか」
そこにいたのは、青い美女だった。青い長髪に同じく蒼い瞳、着こむは托鉢坊主を思わせる意匠の僧侶の衣服……手には、巨大な錨を携えていた。
……そして、笠を被っている頭部には彼女の
「貴様、何者じゃ……!」
「ん? 俺かい? 俺の名は……」
狒々の言葉に鬼の美女が答え、その名にそれなり以上に知識を蓄えていた狒々の顔が急速に青ざめていく。
「ば、バカな……何故じゃ、何故お主が、いや……あなた様の様な大物が……!?」
「な、何よ!? この鬼はそんなに……」
「さて、時間も無限にあるわけじゃないんだ……俺に逆らえないようになるまで徹底的に上下関係を叩き込んでやるよ」
完全に腰の引けている狒々とそれに焦る化け猫に鬼はニコニコと笑いながら近付き……鬼の腕力で殴打する音と狒々と化け猫の絶叫が辺り一面に響き渡った。
「ふぅ。まあ、こんなもんか……」
完全に心を折られてひれ伏している狒々と化け猫の前で鬼は息を吐き……すぐに狂気的な笑みを浮かべる。
「今回はどっちが成長をするかな~……俺が最初に認めた
彼女の見据える未来には槍を携えた英雄となる下人の男とその相棒として薙刀を構える英雄となる退魔士の少女と対峙する己の姿。
だが、同時に思い浮かぶのは薙刀を構えた退魔士の少女に調伏され式神となった事で彼女を慕う数多の人間達や彼女のお付きの下人と共に並び立つ己の姿。
「どっちの道に進むにせよ……二人とも、俺を失望させてくれるなよ?」
鬼……名を『
次回もお楽しみに!