旭奇譚~和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件~   作:愛川蓮

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第三十六話

「な、これは……!?」

(馬鹿な……式神が乗っ取られた、だと……!?)

 あたいと夕陽は式神との視界の共有があっさりと途切れた事に驚き……それと同時に部屋から飛び出ると、縁側を足場に跳躍して塀を飛び越えると本屋に向けて走り出した。

 

「旭、行ってはダメ! それをしたら、貴方は……!」

 そんなカサンドラさんの声は慌てていたあたいには届かなかった……

 

「夕陽、確か本屋はここら辺……って、本屋の周辺の人達全員が寝てるっす」

(ああ。周辺の憲兵が何事かとやって来ていたお陰で、只人は心配しなくても良いが……いたぞ、白夜達だ。奴等は自力で起きたらしい)

「良かった……白夜さん、何があったんすか?」

 あたいは道に寝ていた民達を踏まれたりしないように端の方に動かしたりしながら、夜達を起こしていた白夜さん達に話し掛けたっす。

 

「何もも糞も……いきなり子守唄が聴こえてきたかと思うと、強烈な眠気が襲ってきて……気が付いたら、伴部さん達はいなくなってたんだよ」

「っ……!」

(やはりか……)

 あたいは白夜さんの話に臍を噛みながら、指示を出し始める。

 

「アリシアと白虎は事の次第を橘商会に報告を! こんな事態になったのなら、都組も総動員して探すっすよ!」

「了解!」

「わかったデスよ!」

「夜と花さんは新街の方を回って探して欲しいっす! 端の方から丁寧に! 黒角さんや伊吹さんとも協力して!」

「わかった!」

「任せて!」

「鳥谷さん、紫音さんは都の北の方から白夜さんと雛子さん、九恩さんは南の方から捜索を!」

「承知!」

「わかりました!」

「任せろ!」

「わかった!」

「おう!」

 あたいが指示を出すとみんなは一斉に走り出したっす。

 

「旭、私達も行きます!」

「佳世や沙世、伴部を敵の手に渡したのは私達の醜態もあったから……だから、手伝う!」

「紫姉、ゆかちゃんも……わかたっす。紫姉達は唯ちゃんと一緒に西の方を探してほしいっす」

「わかりました! (ゆかり)、行きますよ!」

「って、旭様はどちらを?」

「あたいは東の蔵街の方面を探すっす。隠れる場所が豊富なんで」

 あたいは唯ちゃんにそう言うと、北へ向かって走り出したっす。

 

「さてと……先回りをするか」

 散開して伴部達を探し始める旭衆を尻目に一人の男が北へと向かったのを、誰も知らなかった……

 

 ──────────

 

「おい、起きろ!」

(ぐぅ!?)

 俺は何者かに顎を強かに蹴られて叩き起こされた。

 

「入鹿、やり過ぎだ」

「悪い。でも、いい加減起こさなきゃ話が進められないだろ」

「それはそうだがな……神威、貼り付いていた式神は処理出来たか?」

「勿論ですとも、随分と精巧で大柄でしたがね……所詮は本質は紙、全部あの様ですよ」

 俺が何が起こったのかを理解しようとしていると、嘲るような笑い声が響く。僅かに残る理性で俺がそちらに目を向けるとピクピクと痙攣するように床に倒れる幾体かのズタボロに切り刻まれた式神が垣間見えた。恐らくは監視や隠密行動よりも戦闘を意識した比較的大柄なそれらは若干震えてから此方を一瞥すると、次の瞬間には機能を停止してそのままぐったりと崩れ落ちる。

 

(はは……どれが、誰のだか知らねぇが……こんなに尾行してたのかよ。半ば分かっちゃ…いたが……ドン引きものだな、これ)

 俺は朦朧とする意識の中で冷笑する。思惑はそれぞれだろうし、化け狐の騒動の時に唯の式神探しの道具で見せつけられたものではあるが、改めて見ているとうんざりするものだ。

 

 何が笑えるかって予想はしていたが全く気配は感じ取れていなかった事だろう。我ながら間抜けな事だ。恐らくは純粋に護衛任務のために貼り付いていたのもあるだろうが……ストーキング式神共を一斉駆除してくれた事を意味するので清々している所がない訳でもない。

 

(……問題はそのまま俺を見逃してくれる訳ではないだろうという事だがな)

 そんな事を考えていると男達の一人が指を鳴らす。同時に青白い炎が発生して式神の残骸は灰塵に帰した。それは単なる炎ではないように思われた。恐らく式神(正確にはその残骸)を媒体にして居場所を特定されぬように「縁切り」を兼ねているのだろう。

 

「これで追跡は不可能って訳だな」

「ああ。後は縛り上げたこの二つだけだ」

 俺がその言葉に疑問を感じて辺りを見渡すと……そこには、霊力を一時的に封じる札で身動きが一切できない様にぐるぐる巻きにされた蜂鳥と岩燕がいた。

 

(……? 何故、あの二人のは身動きを封じるだけなんだ? それに、あのお嬢様達は……?)

 俺が相手の動きに疑問に感じながら、護衛対象を捜し……俺から余り放れていない場所に背中合わせの状態で縛り付けられていた。

 

 ……問題はアリシアを性転換させたような少年と夜刀神十香、誘宵美九も何故か縛られてる事だ(特に誘宵美九は雁字搦めにされて柱に縛り付けられていた)。

 

 そして、俺の方は霊力の流れを塞き止め、封じ込める加護が込められている荒縄で粗末な椅子に縛り付けられていた。……しかも、念入りに荒縄の上から更に護札が貼り付けられている。

 

「……そろそろ意識は戻ってきたか、鬼月の下人よ?」

 その言葉にぼんやりと、焦点の合わない瞳を動かす。そこにいたのは正面から此方を見下ろす人影。地味目の色の外套を着込んでいるその男は声の質から中年……四十前後の年頃に思える。重々しい口調だった。

 

「お、お前ら……は………?」

「ただの暴漢だ……って、言ったら満足か? ま、信じないだろうがな」

 俺の質問に対して位置的に俺の顎を蹴りあげて起こしたであろう二十代程度の若い男が俺をせせら笑いながらそう言った。

 

(……だろうな)

 でなけりゃお嬢様達の財布やゴリラ姫製の短刀を持ち逃げせずに拘束している筈がない。

 

「おい入鹿、止めろ。部下が失礼な物言いをしたな、許せ」

 厳かに手を上げて入鹿と呼ばれているせせら笑った青年を止め、俺に向けてそう宣う男。こいつがリーダー格、か? 

 

(原作キャラ……じゃねぇ、か)

 毎回都合良く原作ゲームのキャラクターに出会さなければならぬ理由がある訳でもない。故に相手が見知らぬ相手だからと言って何か可笑しい事がある訳もまたない。とは言え今の物言いは………

 

「……あぁ、此方の立場を言い忘れていたな? 弾正台所属、弾正官吏の竜飛だ」

 その単語……その意味を理解した瞬間、俺は内心で激しく動揺……

 

「っと、言いたい所だが……実際は橘商会保守派に雇われた傭兵の龍飛だ。そう緊張しなくていい」

 した瞬間にそれを悟っていたのか、竜飛と名乗った男はそう言って自身の本当の身分と名前を明かした。

 

「保守派のって、それはどういう……」

「ああ、橘商会の姫君に言うとすれば……橘商会の主導権争いにこの下人や使用人達、女は巻き込まれただけだ」

 佳世の言葉に龍飛は縛られている夜刀神十香達や誘宵美九、俺を指さしてそう言う。

 

「主導権争い……?」

「ああ。俺達の仕事は『下水道の事件の真相が妖母ではなく、橘商会が逃がしてしまった妖だった』と下人に拷問してでも白状させて商会長の橘景季を追い落とす為の足掛かりにする事だったんだが……雇い主が報酬を支払う気がないとわかってな。それで、『ある人物』の誘いに乗って景季派に寝返った」

「それなら、どうして私達や伴部さんを拐ったんですか!?」

 沙世の質問に何故か苦笑いをしながら答えた龍飛に佳世は身動ぎをしながら噛みつく。

 

「俺達に依頼した保守派を炙り出して犯人だとわからせる為だ。本当は奴がやっている不正を暴露するつもりだったが……思ったよりも根が深くてな、下手に暴露をすると橘商会が危ないために雇い主の命で此処に連れてきた」

 そう言って龍飛はすまなそうな目で俺を見ると、俺の肩に誰かが触れて……

 

「『ペイン・リマインド(傷よ、甦れ)』」

「あ、ぎ…う、が……あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 聞き覚えのある声が聴こえたかと思うと、凄まじい痛みと共に全身の傷口が蘇ったかの様に開いて俺を血塗れにする。

 

「おい、大丈夫なのか? 旭を除いた鬼月の姫君達の想い人である下人を再起不能にしたら、俺達が殺されるぞ」

「心配しないで。『リペア・オール(心を癒し、体を救え)』」

 俺が激痛に悶え苦しんでいると、激痛で軋みそうな心が軽くなり体の傷も軽く痛むだけになった。

 

「これである程度拷問したみたいになった」

「づ…う……お、お前も一枚噛んでたの、か……」

 俺の側に立っていたリリシアに怒りと殺意を込めた目で睨むもリリシアは何処吹く風と受け流した。

 

「リリシアさん、どうして……」

「……龍飛達の雇い主に頼まれた。保守派が橘商会を支配したら、私達も都から追い出されて秘術の探索に支障がでそうだし……何よりも、保守派の首魁は佳世と彩衣様の貞操を狙ってるからそれに腹を立てたのもある」

「ふえ!?」

 沙世の言葉にリリシアが若干の怒りを込めながら呟いた言葉に佳世が愕然とする。

 

(……マジかよ)

 いやまあ、原作での佳世ちゃんの発言や外伝での胸糞さ加減を考えたら保守派が権力を握ったらそうなるってのはわかるんだけどな……

 

「まあ、傷はどうにか拷問したみたいになったんだが……後は俺達に進捗を尋ねに来る監視役を誤魔化すために拷問をするフリをしなければならないという問題が残ってる……下人、上手く演技をしろよ?」

 神威と呼ばれた男がそう言いながら、部屋に置かれている様々な拷問器具を指差す。

 

(……成る程、な)

 俺はまだまだ苦しい時間は続きそうだと内心で溜め息を吐いた。

 

 龍飛達の偽りの所属である弾正台………固有名詞の語源としては実際の歴史における日本の律令体制時代に設置された政府機関の一つである。政府内の調査・監督を司る機関として設立されたものの干渉を厭う公家や他省庁の反対もありその実際の権限は限定的で、尚且つ検非違使の設立もあって早期に名誉職と化したとされる部署である。

 

 無論、それは正史における弾正台である。当然ながらこの世界における朝廷はその設立から今日に至るまでの歴史は全く別物であり、固有名詞こそ同じであるがその立ち位置も、その権限もまた違っていた。

 

 扶桑国における司法組織は大きく分類して刑部省と検非違使庁、そして弾正台の三つに分けられ、これ等は並立して存続している。

 

 朝廷の直轄領土における法律制定・審査・執行及び民衆に対する裁判と刑罰を刑部省は司る。現実における法務省と裁判所、刑務所を兼ねる組織と思えば良かろう。

 

 刑部省は獄卒を除けば殆んど武力を持たない。実際に罪人の捜索と捕縛を司るのは検非違使庁である。朝廷直轄領における警察組織と思えば良かろう。

 

 弾正台は上記二組織に比べて人員数では少数ではあるが、ある意味で最も恐ろしい組織である。

 

 弾正台は朝廷内省庁及び公家、大名家、退魔士一族、そして一部の豪商や豪族、及びその関係者相手の監査・監督・調査を司る。その対象もあって凡そ政治的な案件に対して関わるこの機関はそれ故に必要とあれば残虐な『尋問』を行う事も少なくない。

 

 いや、正確に言えば扶桑国は身分制度が厳しく、権力者への実力による『尋問』は流石に憚られる。故に実際の所その関係者……所謂部下や家臣に対して彼らの鋭い牙が剥かれる場合が多い。原作ゲームにおいてもルートによってはヒロイン(特に赤穂紫)や主人公がその被害に遭い、場合によってはバッドエンドする事にもなる……というのはゲーム及び公式設定集での設定である。

 

 そして………手加減された偽りのものとはいえ、今正にその『尋問』が俺に対して行使される事となった。

 

(縄は出来る限り緩めるから痛みに悲鳴をあげるフリをしてくれ)

「ぎぃ゙……!?」

「お、良い声で鳴くじゃねぇか、よっ!!」

 入鹿の小声に合わせて出したその声とともに入鹿は偽りの嗜虐の笑みを浮かべて俺の身体に括りつけた縄を縛り上げる。これは俺の手足を拘束する霊力阻害の加護のあるものではなく普通の縄だ。文字通り拷問縄とも言う拷問用の拘束方法である。本来なら縄の荒い表面が肉に食い込み、削り、圧迫感が血流を阻害し、肺をも締め付ける……んだが、もとが緩んでいる縄を普通に縛り上げるだけだから大丈夫だ。

 

 ……尚、原作ゲームでは特定のイベントをこなす事で男色肥満拷問官によって全裸亀甲縛りから三角木馬責め、挙げ句最後は薬漬けで掘られて牝堕ち、遊郭に売られて男娼になる場面が豊富なスチールによって無駄な程詳細に描写されるトラウマバッドエンドルートが存在したりもする。

 

「あ゙ぐっ゙がっ!!? ふぐっ!? う……ぐ…………」

 散々に身体を締め付けられた俺は絞められる直前の鶏のようなみっともない声を上げながら項垂れる……様に見せかける。

 

(どうやら、バレてはいないな。まあ、拷問を見たことがない素人だろうから当然だが……)

 俺は薄目を開けて多少ビビった表情で俺を見ている監視兼伝令役らしき男を見ながらそう思う。

 

「よぅし。次はこいつだ!!」

「ひっ……!?」

 大量の水が注がれた桶が目の前に置かれると何が起こるのかを察した俺は思わず恐怖に本気の悲鳴を漏らす。

 

(多少は本気でやらにゃならんからな……)

「お? 察しが良いな? それじゃあ、行くぜ……!」

 小声でそう呟いた後で入鹿は加虐的な言葉を良い、そして容赦なく水責めは開始される。

 

 最初の責めは五十数える間行われた。冷水が目一杯入った水桶、その水面から髪を引っ張って引き摺り出された俺に許された呼吸はほんの二、三回であった。直ぐに責めは再開される。今度は六十、その次は七十………

 

 十秒ずつ増える水責めが六回目、即ち百数えるまで水桶の中に沈められた俺は陸に上げられるとともに何度も何度も咳き込む。そして目眩がする俺の正面に龍飛が座りこみ尋ねる。

 

「さて質問だ。貴様は先日の地下水道での妖退治の依頼に参加していた、間違いないな?」

 その言葉に俺は小さく何度も頷く。

 

「その依頼は橘商会が会長、橘景季のものである。相違ないな?」

 その次の質問にも俺は再度頷く。そうだ、あれは橘景季がゴリラに提案してのものだった筈だ。

 

「報告によれば地下水道の中に潜んでいたのは彼の悪名高い妖魔が母とその娘の吸血鬼であるとか。それは事実か?」

 俺は頷く。俺はそうゴリラに報告したし、同じく地下水道に潜っていた赤穂紫や鬼月旭、旭衆も目撃して報告している。事の真偽をどう解釈するかは御上次第であるが既にそのように報告している以上それを否定する意味はここではない。

 

「……というのは嘘で、実態は橘景季が地下水道で秘密裏に飼育していた妖共が脱走して、その処分に奔走していたのが先日の一件の顛末、そうだな?」

「あぁ………あ?」

 一瞬そのまま頷きそうになった俺は、しかし直前にその言葉の意味を解してそれを止める演技をする。同時に何処からともなく鳴り響く舌打ち。そのまま俺の脇腹にイラついた様子の男からの蹴りが入れられる。

 

「がふ!? げふ、げ……は…!?」

「屑の下人風情が頑張るな! お前は聞かれた事に『ハイハイ』と頷いていれば良いのだ!」

「おい、止めろ。監視役が失礼したな、質問を続けよう」

 そう怒鳴った男に対して目線で牽制をいれた後で龍飛が再び話始める。

 

「出来過ぎな話とは思わんかね? 地下水道に彼の妖魔の母が潜伏していた? 馬鹿馬鹿しい事であろう? そのような大物が何故長年大人しく隠れていたのだ?」

「それはそうですけど……」

 龍飛の言葉に佳世が言葉を濁す。

 

「ましてや今年の夏には商会の隊列が狐の化物共に襲われたらしいが、これも出来過ぎだとは思わんかね? 都を往き来する商人共の隊列は無数にある。よりによって護衛の多い橘商会を何故襲う? それも都合良く鬼月の者らが救援に来たようだな? まるで最初から襲撃が分かっていたかのように、な」

(まあ、保守派が妖を運ぶ様に依頼をしたんだがな……)

 龍飛は俺の顔を、俺の瞳を覗きこむ。そして瞳を細めてそう宣った後、小声でぼやく。

 

 てか、前日譚で狐璃白綺…今は狐白に襲撃される切っ掛けになったあれはあわよくば妖に景季を殺して貰えるようにした保守派の謀略だったのか。

 

「さて取り調べを続けようか? 共に悪逆無道な橘商会の秘密を暴き、正義を白日の下に晒そうではないか。善良なる扶桑の国の良民として、な?」

「誰が悪逆ですか……!」

(よくもまあ、思ってもない事をペラペラと喋れるな……)

 俺は龍飛が喋っている事に内心では苦笑いをする……

 

「それ、喉が渇いただろう? たんと飲みやがれ……!!」

 その思考を遮りながら神威に水責めを再開され、俺は酸欠の苦しみを再び味わう事になったがな……

 

 ──────────

 

「……っち、旦那様に報告してくる!」

 拷問されても未だに此方の思ったことを話さない伴部に苛立った様子の監視役が去った後で龍飛達は伴部を水から引き上げ、縄を解いた。

 

「手加減したとはいえ、お前、根性あるなぁ……俺がこの種の仕事をしてからこれまでやった同じような下人達はあっさりと吐いてたぜ?」

「……ああ、そうかい」

 神威がそう言いながら伴部に顔を拭くための布を手渡し、伴部はそれに対してあまりありがたくなさそうな声でそれを受けとる。

 

「そういや、よ……爺の方はどうなんだ? この予定変更に対してよ? あの化物の命令とは言え突然横槍入れて路線変更されれば文句があるんじゃねぇのか? あの老い耄れ、無駄に面子を気にしてただろ?」

「上手く説得はしたらしい。流石に年を食っていないな。利に聡い商人をああもあっけなく丸め込むとは……役人というのは恐ろしいものだ。……俺達があの爺を裏切って景季派に着いたのもバレてたが、篩にかけるには良い機会だと笑ってたよ」

「……恐ろしいな」

 神威は入鹿からの質問に冷笑に近い笑みを漏らす。龍飛はその言い様に皮肉の感情を読み取っていた。この同胞、扶桑の国に潜り込んでから知らず知らずの内にその影響を受けているように思えた。

 

「あ、あの……旭ちゃんの名前を言っていましたけど、皆さんは旭ちゃんの知り合いなんですか?」

 佳世の言葉に入鹿は顔をひくつかせ、龍飛はそんな入鹿に溜め息を吐いた。

 

「……入鹿が旭衆に偽の依頼を出して蝦夷にある俺達の村に来るかどうかを仲間内で賭けをしていたんだが、実際にやって来たうえに偶々故郷を襲ってきた妖の退治を手伝ってくれてな。それで知り合った」

「俺はその後、龍飛からの拳骨にキツい訓練、挙げ句飯抜きにされたけどな」

 龍飛と入鹿の言葉に佳世は「旭ちゃんらしいなぁ……」と呟きながら、「その話をもっとお聞きしたいです!」と言った。

 

 

「良いぜ? ま、楽しめるかどうかは人それぞれだろうけど、な」

 入鹿はそう言いながら、昔の話をし始めた……




次回もお楽しみに!
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