旭奇譚~和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件~   作:愛川蓮

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遅れに遅れて申し訳ございませんでした!


第三十八話

「ん~此処もダメっすね」

 あたいは白鷺丸さんと一緒に橘商会に対して敵対的な人間が所有している蔵を中心に佳世ちゃん達を探してるんだけど……見つからないっす。

 

「やれやれ……本当に手強い敵だねぇ」

「そうっすね……」

(……やはり胡散臭いな、こいつ)

 夕陽は白鷺丸さんの喋り方や仕草に胡散臭さを感じているみたいで警戒をしていたっす。

 ……あたいも怪しさは感じてはいるんすよね。

 

 とはいえ……

(他に手掛かりがないんすよねぇ……)

(そうなんだよなぁ……)

 あたい達は溜め息を吐いて……

 

(ん?)

(どうしたん……あれ?)

 あたいは夕陽の言葉に違和感を感じ……すぐにそれが何かを理解したっす。

 

(式神との繋がりが回復してる!?)

(式神との視覚を繋いで佳世達が何処にいるかを探れ!)

(わかってるっすよ!)

 あたいはつい先程まで繋がりが断たれていた佳世ちゃん達につかせていた式神との視覚を共有するっす。

 

(此処は……橘商会の蔵の一つっすよね?)

(ああ。……完全に反対の方向だな)

 てか、蔵街に着いた時にすぐ近くにいたっすよ!? 

 

(……それと、入鹿達がいるぞ)

(あ、本当だ)

 伴部さんの側には3年前に依頼を出した入鹿さんとその師匠の龍飛さんがいたっす。

 

 って、事は……

 

(拐ったのは、入鹿さん達なんすかね?)

(多分だがな。そして、恐らくだが依頼人は保守派の誰かだろうな。でなけりゃ、橘商会の蔵を使えん)

 あたいと夕陽は式神から送られてきた映像から誰が犯人かをあたりをつけて……はにゃ? 

 

(なんで、リリシアさんが……?)

(それに何故アリシアの子孫や夜刀神が縛られているんだ?)

 あたい達が訳のわからない事態に混乱していると……

 

(誰か来たぞ)

(黒幕っすね! さあ、正体は誰っすか!)

 あたい達はやって来た人間に注目して……

 

(この人は……!?)

(なる程な)

 やって来たのは……

 

 ────────

 

「そ、そんな……どうして貴方が!?」

 佳世の驚愕の声と共に現れたのは七十代前半くらいの老人だった。

 

「……やはり」

 沙世がポツリとそう呟こうとして……よってきた老人に腹蹴りを叩き込まれた。

 

「あがっ……!? お゙ゔぇ゙……!!??」

「御姉様!? 倉吉の叔父様、やめてくださ……あぐ!?」

「喚くな、小娘に孤児が」

 腹蹴りをくらった影響で激しく咳き込む沙世を見て、佳世は慌ててそれを止めようとするが……それに対して侮蔑と、嫌悪と、言い様のない感情が混合された色の身内に向けるべきでない瞳をしている老人にビンタをもらうことで倒れ伏した。

 

「さて……たかが下人に景季の悪事(・・)を吐かせるのに随分と時間がかかるではないか」

「それは申し訳ございません。しかし、こいつは俺がこの家業を初めて以来の難敵でしてね」

 老人の嘲りに対して神威は肩を竦めながら苦笑いを……

 

「がふ!?」

「は、下人風情が英雄ぶるんじゃねえよ!」

「さっさと吐いちまいな!」

「そしたら楽にしてやるからよ!」

「あぎ、あが、が……!?」

 俺に対しては老人の護衛達が殴る蹴るの暴行を加えてくる。

 くっそ、今の衝撃で刃物が……! 

 

「……おい、止めさせろ。あいつを殺したら面倒な事になる」

「ふん……おい」

 老人が龍飛の言葉に不満そうにしながら暴行を止めさせる。

 

「さて……鬼月の下人よ、話をしようではないか」

 暴行を受けた際に何処かで切れたのか、血が目に入ってくる中で老人は俺を見下すような目で話を始めた。

 

「お主が景季の悪事を吐いたら褒美をやろうではないか。金、女、下人からの脱却……好きな物をくれてやる」

「……」

 俺は老人の提案を受け入れるか思案するふりをしながら橘商会の重鎮だと思われる老人が何故商会長を嵌めようとするのかを考える。

 

「く、倉吉の叔父様……何故こんな事を?」

「……景季さんにやっている悪事を探られたからだよ」

 佳世の老人への質問に吐き捨てる様に言ったのは沙世だった。

 

「悪事……?」

「……この爺は朝廷からの禁則事項として固く戒められている蝦夷と手を結んでその特産品を入手するならまだしも、同じ北や東の土産品を得ようとする商人を雇った人間に襲わせて妨害して利益を独占するわ、引き換えに武器や雑貨を売り捌いて裏帳簿で莫大な資産を得ているわ」

 沙世は心底見下げ果てた者を見るような目で老人を見ながら話を始める。

 

「それだけじゃ飽きたらずに朝廷が監視の目の届かない事を良い事に辺境の地で捕らえた妖達を養って、開拓村を襲わせて、肥えたそれらの血肉を裏で売買してすらいるわ。しかも表では開拓村や朝廷に武器を売って、用心棒の斡旋で利益を貪っているんだから笑っちゃうわよね……最近では都組の奮闘で用心棒の斡旋は閑古鳥がないてるみたいだけど」

 良い気味だと言いたげな目で沙世は続けてこう言った。

 

「それと……お父さんとお母さんを殺した妖はこの爺が差し向けたみたいね。お父さんは景季さんの親友で景季さんに潰されて今はないお父さんの海鮮問屋の改革を阻止する為にあの屑どもが頼んだみたい」

「な、なんて事を……」

 憎々しげな目でそう言う沙世に佳世は信じられない者を見るような目で老人を見つめる。

 

「……良く調べたではないか」

 老人は沙世の言葉に忍び笑いをしつつも、勝ち誇った様な顔で言葉を続けた。

 

「しかし、こうして儂に捕らえられていては何もならぬなぁ……儂の罪を述べたところで頼れる下人は縛られておるし、たかが使用人では何もできまい」

「あ、げふ……か、は……」

 老人はニヤニヤと笑いながらがら空きの沙世の腹に蹴りをいれた。

 

「それと……貴方がお父さんを殺したのは、もう一つ理由があるんですよね? それも知ってますよ?」

「ほう? 申してみよ」

 沙世の睨み付けながらの言葉に老人はニヤニヤ笑いのままそれを促し……その言葉で凍り付く事になった。

 

「お父さんを殺した理由は、景季さんが彩衣さんに告白する前に貴方のもとに妾に来るように彩衣さんを説得してほしいって彩衣さんの乳兄妹だったお父さんに頼んだ際に手酷く断られた事ですよね? 確か……『古くさい因習や下らない上に醜い偏見で自分を騙す奴に大事な妹分をやれるか!』でしたっけ? いやぁ、まさにその通りですね。確か、彩衣さんや佳世の事を『橘商会を腐らせる魔女ども』って陰口を叩いてましたよね? 自身の恋心に気付かずに景季さんや彩衣さん、佳世に嫉妬や下らない偏見で八つ当たりをする時点で貴方の……が!?」

 そこまで言った所で沙世は顔面に憤怒の表情の老人の蹴りを受け、喉を絞められる。

 ……もう少し、だな。

 

「黙れ、孤児風情が! 貴様に……貴様に何がわかる! 継承の関係上本家に近いとは言え、若造が商会の頂点にたった事、部外者を大量に捩じ込み仕事を変えた事、あまつさえあの様な余所者の寄生虫の魔女の血を入れるなど……あやつも死んで当然だったわ! 儂に対してあの様な罵倒を加えるなど許されんわ!」

「ぐ、う……!?」

「御姉様! やめて……やめてください!」

「喧しい! 貴様ら、この小娘を『接待』してやれ」

 老人の一言で下卑た顔をした護衛達が佳世へ歩み寄ろうとして……縄が切れた! 

 

「下人風情が言わせてもらうが……お前に商会長の器があるとは思えんな」

「同感だ!」

「ぎゃあ!?」

 俺が立ち上がって佳世に寄っていた護衛に蹴りを入れると、入鹿もまた沙世の首を絞めていた老人を殴り飛ばした。

 

「き、貴様……何をする!?」

「やれやれ……大丈夫か、沙世?」

「入鹿さん……ありがとうございます」

 入鹿が沙世を助け起こすと、沙世はそんな入鹿に微笑みながら衣服を整える。

 

「……リリシアさん、『鏡』は完璧ですか?」

「ええ、バッチリとこいつの自白や醜い計画が橘商会中に映し出してるわ」

 沙世がそう言ってリリシアを見るとリリシアは己の魔術で隠していたデカイ姿見を出現させ、不敵に笑う。

 

 ……実はクロイツ家は鏡や水面に術をかけて通信機代わりにすることが結構ある。まあ、式神が時間がかかるのもあるが。

 

「な、貴様らどういう……!?」

「悪いな、依頼者どの。俺達は依頼人を鞍替えしたんだ。橘商会を掌握した暁には密かに俺と入鹿を口封じしようとしていたお前から……」

 老人の焦りの入った言葉に龍飛はそう言いながら沙世の隣に立つ。

 

「俺達の実力を認め、お前が提示した以上の金を提示してくれた橘沙世にな」

「え? お、御姉様が龍飛さん達の依頼者だったんですか?」

 龍飛の言葉に佳世は唖然としながら沙世に問いかける。

 

「うん。黙っててそして伴部さんとのデートをぶち壊してごめんね。この報いは、この爺を奉行所に突き出した後で確りと受け入れるから……」

「この……孤児がぁぁぁぁぁ!」

 老人は懐から短銃を取り出すと、それを射ち……俺はそれを叩き落とした。

 

「と、伴部さん?」

「沙世様、失礼を承知で言わせて貰います。貴方はバカですか?」

「はい?」

 俺の言葉に沙世は唖然とした顔になるが……俺はそれを無視しながら言葉を続ける。

 

「沙世様が受けようとしている報いが何かは知りませんが……それで橘商会を去った場合、佳世様は『自分を守るために大好きな義姉がいなくなってしまった』と思って傷ついてしまいます」

「あ……」

 俺の言葉でそれに思い至ったのか沙世は顔を青ざめさせる。

 

「だからこそ、沙世様は報いを受けても橘商会にはいるべきです。例え後ろ指を指されようとも、恨まれようとも……佳世様の笑顔を守るために沙世様は留まるべきです。それに……佳世様と沙世様には笑顔が似合いますから」

「……!」

 ……思わずクサイ台詞を言ってしまったが、沙世は知り合いで転生者仲間だからな。幸せになってほしいし、これからも俺や唯を支援してもらう為にも橘商会にはいてほしいんだ。

 

「この……下人に蛮族どもが! 許さ……」

「許さないのは……」

「私達の方です!」

「ぐばぁ!?」

 その言葉と共に老人が後ろから蹴り飛ばされた。入って来たのは札を構えた橘小百合とレイピアを持った橘柚子だった。

 

「小百合ちゃん、柚子さん!?」

「佳世様、大丈夫ですか!」

「小百合、柚子も間に合ったか」

「いきなりアルトに話された時にはどうなるかと思ったが……無事で何よりだ」

 さっきまで縛られていた男がそう言って共に立ち並ぶと、橘柚子は不敵に笑ってレイピアを構える。

 

「この……! 小娘を除いた連中を撃ち殺せ!」

 老人がそう言うと、護衛達は懐から短銃を……

 

「『それ、捨ててくださ~い』!」

「うむ」

「「「は~い!」」」

 取り出した護衛達や老人は誘宵美九の言葉に従って、短銃を投げ捨てた。

 

「き、貴様ら何をしている!?」

「いや、館長こそ……「おらぁ!」ぎゃあ!?」

 短銃を投げ捨てた事に驚愕している隙を突いて入鹿が飛び掛かり……俺達はそれを鏑矢にして(佳世、沙世、誘宵美九は除いて)老人達に襲い掛かった。

 

 ────────────

 

「…………」

 橘商会の部屋の一つで景季は怒髪天突くを体現したような怒気を発しながら鏡に映るその映像を見ていた。

 

「……会長、かなりキレてますね」

「それはそうだろう。不正をしていた上に開拓村に対する妖の襲撃にその妖の肉の売買……佳世様を狙っただけでなくあの様な外道な事をしていたと知ればああもなろう」

「彩衣様や佳世様を魔女呼ばわりした事や沙世様を孤児呼ばわりした事、沙世様の実の両親を謀殺した事も激怒する要因だろうな。……正直に言うと怒りの大半はそれだと思うがな」

 アーサー、敏隆、紅虎の旭衆都組の長達は殺気だつ景季を見て冷や汗を流しているが、彼らの瞳も十二分に怒りを宿していた。

 

 当たり前だ、妖と戦う退魔士や武士たる彼らにとって妖を利用する事は考えただけでも身の毛がよだつと言うのに妖を只人に襲わせたり、その肉を売買するなど到底許せる事ではなかった。

 

「アーサー殿、敏隆殿、紅虎殿……都組や傭兵達を率いて今すぐに蔵街へと向かい、あの男を捕縛してくだされ」

「……会長は何を?」

「私はあの男を除いた保守派に釘を刺しに行きます。あの男を庇ったり、助ける事のないように、と」

「沙世様はどう致します? 佳世様や橘商会を思っての事とは言え、背信行為を働いたのも事実ですが……」

 景季の命令にアーサー達は頷くが、一方で景季に倉吉の背信行為を報告せずこの様な行為を働いた沙世に対する処遇をアーサーが聞く。

 

「沙世に関しては此方に佳世と共に連れてきてくだされ。彼女と話をする必要がありますし……彼女をどうするかを決めなければなりませぬから」

「わかりました」

 アーサーは一礼をして退出すると、敏隆と紅虎も武士団と王家の退魔士達の下へと向かっていった。

 

「……沙世」

 景季は自身の盟友にして親友であり、彩衣の乳兄妹だった青年の忘れ形見たる少女の名前を呟きながら逃れえない罪を犯した人間を裁くために歩きだした。

 

 ────────────

 

 まあ、瞬殺だった。老人の護衛は恐ろしく手早く片付けられた。

 

 ある人間は入鹿の刀で腕を切り落とされてのたうち回り、ある人間は龍飛の独特な拳法で喉を潰されて気絶しており、ある人間は神威の術によって地面に首だけを出して埋められており、ある人間は夜神十香によってピクトグラムのごとく壁にめり込んでいたりと死屍累々を体現したような状況になっていた。

 

「……倉吉叔父様がいません!」

 佳世がそう言うと、俺達は周囲を見渡し……本当にいねえ。俺達が暴れてる隙に逃げやがったな!? 

 

「追いましょう! 逃げられたら厄介な事になります!」

 沙世の言葉と共に俺達は外へと出る。

 

「…………は?」

 俺達は外に出た瞬間に何故か呆然としていた老人に追い付いた……のは良いんだが、俺達もまた呆然とすることになった。

 

 何故なら……

 

 

 それから十数分後、

 

「誰か……」

「ぐ……」

 佳世は着物を血で染めた沙世を膝枕し、涙目になりながら願う。

 

「旭、伴部……止まれ、止まってくれ!」

「止まりなさい、二人とも!」

 雛と葵は必死に攻撃してくるそれらに応戦をしながら吠える。

 

「まだ来ますヨぉぉぉぉ!?」

「あの野郎、一体どれだけ呼び寄せやがったぁ!?」

 旭衆や入鹿と龍飛、十香達が半狂乱になりながら押し寄せる妖達を必死に捌く。

 

「まだかよ!?」

「今必死でやってるわよ! どんだけ大量に工程が必要なのよこの霊具!」

 それらの様子に焦った様子の白夜の言葉に唯は四聖獣が描かれた棒の様な霊具の固定を外していく。

 

 そして……

「誰か」

「殺す、佳世ちゃんを沙世姉を伴部さんを……守るためにあたいがみんなを守るために殺すんだ」

「ああ、全てを殺そう。お主の敵を、全て!」

「ええ、哀れな人間達に救済()を」

 天を舞う背中に血で出来た蝙蝠の羽と光で出来た翼を持ち、血で出来た無数の球体を従えた旭と旭に付き従う様に飛ぶ旭に良く似た少女達……

 

「誰か、旭ちゃんと伴部さんを……止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

『グオオオオオ!』

「と、言うわけで……死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 地を駆ける異形となった伴部の咆哮が交差して旭と殺し会う中で、佳世の悲痛の叫びが燃え盛る蔵街の中で木霊した……




如何でしたか?
次回もお楽しみに!
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