旭奇譚~和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件~ 作:愛川蓮
「……このくそ爺、許せない……!」
(だな……!)
あたいは佳世ちゃんと沙世姉を連れさらい、でーとを台無しにしたくそ爺の犯罪に腹を立てていたっす。
蝦夷と交易をして特産品を入手するのはまだ良いっす。そんくらいなら、利益を求める商人らしいってことで許せるから……
でも、そこから先……商人を盗賊に見せ掛けて襲わせた事、妖を飼育して開拓村を襲わせた上に肥えたらその血肉を売買した事、沙世姉の実の親を謀殺した事、佳世ちゃんや彩衣さんを橘商会を腐らせる魔女呼ばわりした事は……
「絶対に許さないっすよ……!」
(すぐに伴部達の援護……に? なんか焦げ臭くないか?)
「あれ、言われてみれば……へ?」
あたいは夕陽に言われた事で焦げ臭いのに気付いて周りを見渡して……蔵街のあたいがいる周辺が燃え盛っていたっす。
「こ、これは……!?」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
あたいが周囲の状況に唖然としていると、悲鳴が聴こえたのでそこに向かうと……そこには、人足と見られる人達が妖に襲われていたっす。
「危ない!」
あたいは薙刀を蔵丸から取り出すと、それを振るって人足達を襲っていた小妖を斬り倒す。
「大丈夫っすか!?」
「な、なんとか……」
「そりゃ良かった……じゃない! 何が起きたんすか!? 何で都に妖が……」
「俺達に聞かれてもわからねえよ! 何処からともなく急に現れたんだよ!」
(旭……物陰に何かあるぞ)
あたいが人足に何が起きたかを聴くと、人足達も何が起きたのかがわからないと叫び、夕陽の言葉で示された場所に行くと……
「……お札って、これは!?」
(ああ。転移の札に……妖誘導の札だ)
そこには本来なら殲滅の為の大規模な術に中妖や小妖達を誘き寄せる為にしか使ってはいけない札が転移の為の札と一緒に張られていたっす。
「つまり、これは……」
(人為的な妖の出現……だけじゃないぞ、周りを見ろ!)
「げ!?」
あたいが周りを見ると、結界が壁の様に蔵街の周辺を囲っていくっす。
「あたい達に追われない様にするなら結界くらいしかいらない筈……妖は一体、誰が……!?」
(どうやら、佳世を狙っているのはあの爺だけじゃなかったらしいな……)
あーもう! 本当にやることが一杯すね!
(全員の式神に視界及び情報の共有!)
「旭衆総員に連絡! 佳世ちゃん達は東土側の蔵街にいるっす! 誘拐の主犯は橘倉吉、動機は自身の犯罪を景季さんに押し付ける事による橘商会の乗っ取り及び自身の罪の隠蔽! なお、蔵街には妖誘導の札と転移の札で多数の小妖や中妖がやって来ている上に、結界もあるんでそれに対する道具も持ってくること!」
あたいは指示を終えると、死角から飛び掛かってきた中妖を切り捨て白鷺丸さんを捜そうと辺りを見回して……
「が……!?」
(旭!?)
あたいの左胸から刀が飛び出す。それが引き抜かれ、あたいの左胸から血が大量に噴き出す。
あたいが振り向くとそこにいたのは……血の滴る刀を手に持ち狂喜の笑みを見せる白鷺丸さん。
そのまま白鷺丸さんはあたいに刀を袈裟懸けに振り下ろし、あたいはその一撃でうつ伏せに倒れる。
「あんた……なん…で、が…ふ!? ……こん…な……!?」
「あ、はは……あっははははは! やった、やったぞ! くそイレギュラーを殺した! 殺してやったぞ! ひゃははは!」
倒れたあたいを見下ろす白鷺丸さんは狂喜的な高笑いをしながら恐ろしい事を言い出したっす。
「この調子で、佳世ちゃんを誑かすロリコン下人とアホ義姉も
こいつ、伴部さんや沙世姉も殺す気で……!?
「!? ま、待…て……! 「しつこいなぁ!」うあぁぁ!?」
あたいが白鷺丸を止めるために腕を伸ばすと、手に持った刀であたいの腕を刺して地面に縫い止めた。
「……ま、止めは刺さなくても良いか。どうせ、僕の式神か解き放った妖に食い殺されるし。待っててね、佳世ちゃん!」
蔵街に妖を解き放ったのも、こいつか……!
(佳世ちゃん、沙世姉、伴部…さん……)
血が抜けすぎたのか、頭がボーッとする……
(そんな、この傷じゃあ……!?)
……夕陽の声が、遠くに聴こえる。
あたいはのたのたと腕に刺さった刀を抜き、それを支えに立ち上がって、ゆっくりと歩きだす。
(まあまあ、可哀想に……すぐに助けてあげますからね?)
(ふん、妾と母上の力を貸してやる。まあ、ほんの少しだけだがな……さて、どうなるかな?)
……だれカのコエがいやにいんしょうてき二きこえる
あたいは、オソいかかってくるあやかシをドウにかたおしながら、アルイテ……
そこには、アタマがはんぶんはじけてたおれているおとこのヒトとたおれふすすうにんのヒトタチと……なきながらアトズサル佳世ちゃんと血を流して佳世ちゃんを庇おうとする沙世姉と、沙世姉にたいしてカタナをふりおろそうとする……
「なにを、してるん……すか……」
あたいは、そのグズに……
──────────
俺達が蔵の外に出ると、何故か呆然としていた老人に追い付いた……のは良いんだが、俺達もまた呆然とすることになった。
何故なら……そこら中にいる中妖や小妖によって蔵街が燃えていたからだ。
しかも、丁寧に結界が張ってあって中から逃げられないようになっている。
「え? え? ど、どうして燃えて……? しかも、なんで妖が!?」
「おい、爺! お前の策か!?」
佳世が蔵街の惨状に動揺していると、入鹿が老人の首を締め上げながら問い詰める。
「ち、違う! 貴様らや景季からの追手を防ぐための結界は雇っている退魔士に仕掛けさせたが、妖は知らん! 儂ではない!」
入鹿に締め上げられながら老人は必死に弁明するが……嘘ではないな。そもそもこの老人に蔵街を焼きつくす程の妖を出す理由がない。
つまり……
「他の誰かの仕業かよ……!」
「佳世様、館長! ご無事で何よりです!」
俺が更に面倒な事になりそうな気配を感じて頭を抱えていると、モグリの退魔士らしき優男が刀を持って此方にやってきた。
「し、白鷺丸か!? これは一体全体どういう……!?」
「わかりませんが、何者かが仕掛けたのは確かです! 佳世様達を捜しに来た旭様とは手分けして……」
「……嘘だな」
老人の言葉に白鷺丸と呼ばれた優男が弁明をしようとして……鼻を引くつかせた入鹿がその言葉に待ったをかけた。
「入鹿さん、どうしたんですか?」
「旭が佳世様を捜しに来たのは本当なんだろうが……手分けしてってのは嘘だろ?」
「何を根拠に……」
入鹿の言葉に佳世が首を傾げ、白鷺丸が反論をしようとするが……入鹿は頭を掻きながら核心を告げた。
「お前、臭うんだよ。魔除けの藤の花の匂いが混じった血の臭いがな」
「……え?」
藤の花の匂い……そう言えば、鬼月旭は「佳世ちゃんが『仲直りに!』って、くれたんで」と言って藤の花が入った匂袋を常に身に付けていたが……!? おい、待て! つまり……!?
「………………っち、獣ってのは、本当に鼻がきくな」
そう言って白鷺丸はそうするのが自然であるかの様に短筒を引き抜いて……狙いは、沙世か!
「お前、死ねよ。ロリコン下人」
沙世を庇うように動いた俺に対して下卑た笑いを浮かべた白鷺丸が短筒を放つと……俺の意識は、消えた。
──────────
「えっ………?」
橘佳世が目の前で生じた事象を理解するのは数秒の時間を要した。
彼女にとってこの日はこれまでの人生の中でも余りに濃厚過ぎる一日であった。半ばお遊びと分かっていても柄にもなく朝早く義姉に起こされる前に目が覚めて、身嗜みを整えて化粧をして、そうしてお昼頃になってからは義姉と一緒に意中の人間と御忍びのデート……それが実質的に唯の護衛であったとしても佳世は構わなかった。
どうせその内に何処か良家の子息と見合いをしていつの間にか結婚しているのだ。せめて一度くらいは意中の人間とデートをしてみたかった。
其ほど期待してなかった事もあるが、少なくともデートの前半は彼女にとって思った以上に楽しかったのは認めるしかない。
流石に自身の心が読める訳でも無かろうが、伴部が絶妙に佳世や沙世と興味があった、やってみたかった、理想としていた物事を良く要点を押さえて実践してみせてくれたのは嬉しかった。この日の「デート」はこれまで彼女の親友としてきた御忍びでのお出掛けよりも遥かに自由で、遥かに楽しくて……確かに満足していたのだ。少なくともあの瞬間までは。
デートの後半、佳世が書店に行きたいと思ったのは、ちょっとした出来心で、ちょっとした悪戯心で、ちょっとした遊び心から来たものだった。確かに五月蝿い老女中や両親に知られる事なく興味ある本が欲しがった事もあるが、この書店に向かうという行為自体が一種の自己投影であった。
彼女の読んだ事のある恋愛小説に書店を舞台にした場面があって、佳世は自身がやってみたかった事半分、自身を楽しませてくれた伴部に対する御褒美扱い半分にその場面を再現してみたかったのだ。佳世は自身の顔立ちが世間一般で価値あるものとして扱われている事を良く良く自覚していた。
………その直ぐ後に始まった非日常的な経験を彼女は忘れる事はないだろうと確信していた。
伴部への拷問が始まれば偽りのものとはいえ、佳世は完全に怯えていた。おおよそ暴力沙汰とは無縁だった彼女にとってその光景は刺激が強過ぎた。半ば狂乱状態にあっても佳世は愚かではない。龍飛の言葉によって、父を追い落とそうとする幼い身で必死に考え……よりによって犯人が大叔父の老人な上に様々な不正や義姉の実の両親を謀殺するという暴挙、自身や母に歪んだ恋心を向けていたという予想を遥かに上回る事態に思考を停止してしまった。
更に義姉が襲撃者達を寝返らせていた上に老人の策謀を利用して炙り出しをする等と更に混乱する事態になってしまったが……直後に義姉を庇った伴部に対して義姉が無事で良かったという安心感と義姉に対するほんの少しの嫉妬心を抱いてしまって自己嫌悪に陥ったものの、やっぱり自分は伴部を好きなのだと理解してしまった。
そう、確かに佳世は恋をしているのだ。三年前に自覚をもち、それで親友と喧嘩になり、最終的には自身の思いを肯定してくれた親友の付き人が……発砲音とともに義姉を庇った佳世にとって愛しい青年の頭が弾けた。頭から飛び散った何か温かいものが頬に当たったのを佳世は気付く。しかし……彼女の意識はひたすらに目の前の光景にのみ集中していた。
「あ……あぁ……ぁ…………」
同じく温かいものを被った義姉の声が妙に響く。……それは、佳世も同じ様に声を出していたからだと今気付いた。
「い、いい、い…い……いやああぁぁぁぁぁぁっ!!?」
「伴部、さん…いや……いやああぁぁぁぁぁぁっ!!?」
全てを理解したとともに、佳世と沙世は気が狂ったような金切り声を上げていた。いや、理性は理解しても心が認めるのを拒否していた。拒絶していた。
「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「入鹿、神威……奴を殺せ!」
「わかってる!」
「全く、とんでもない展開になったな!」
義姉に雇われた三人や新人の女中達が彼を銃で撃った男に同時に飛び掛かった隙を突いて佳世と沙世は彼のもとに駆け走っていた。そして近付いた事でより鮮明になった惨状に佳世と沙世は更に顔を青ざめさせて、目を見開く。
頭に出来た傷は深刻だった。弾丸はその頭を明確に打ち砕いた。頭頂部からやや右斜めに着弾した鉛弾はその表皮を引き裂いただけでなく頭蓋骨を吹き飛ばした。砕け散った白い破片はあるものはそのまま桃色の中身に捻りこんでいて、あるものはそのまま中身を巻き込んで地面に散乱していた。
虫の息……そう、正に虫の息だった。限りなく死んでいた。死んでないが死んでいるも同然の状況だった。
余りに血生臭く、余りに凄惨で、余りに衝撃的過ぎるその光景は、特に相手が幼心に仄かで、しかし明確に好意を意識していた青年であるが故により一層悲惨で………
「伴部さん!? 伴部さん!! 伴部さんっ……!!?」
「嘘、なんで、どうして……」
半狂乱になって佳世と沙世が行ったのは地面に飛び立った骨肉をかき集める事だった。文字通り甘やかされて箸より重たいものを持った事のないか細く白い指先で必死の形相で佳世と沙世は青年のぐちょぐちょとなった血肉を拾い集める。その手が真っ赤に染まっている事すら自覚出来ずに。
「嘘っ! 嘘嘘嘘! 嘘ですよね!? そんな……どうして!? いやです! いや、いやあぁぁ!!?」
泣き叫びながら佳世はひたすらに彼の一部を集める。彼女達自身最早何をしているのか分からなかった。しかし、彼のために何か出来る事がしたくて、このままだと彼が死んでしまう事は分かっていて、このままだと彼が二度と戻らないような気がしていて、だから………
「旭ちゃん、伴部さんが伴部さんが……!」
己の側にいる親友の式神に必死に語りかける。親友が来てくれれば、きっとなんとかなると思って。しかし……その思いは即座に打ち砕かれた。
「無駄だよ、佳世ちゃん……あのイレギュラーは死んだから」
「な……!? うあぁ!?」
「どうやって……きゃあ!?」
「……ぇ?」
義姉と自身の子孫を弾き飛ばした男の言葉に佳世は呆然となった。
「な、何を……言って……?」
「いやさぁ、偶然を装ってあのイレギュラーに接近して佳世ちゃんの近くから引き離した後で……後ろから『グサリ!』と刺して……そのまま放置してきたから見てないけど……心臓を刺してやったし、今頃は失血死して呼び寄せた妖連中に食われて骨も残ってないんじゃないかな? ま、原作にいない分際で佳世ちゃんの親友になったり、僕らの邪魔をしまくった報いだから、自業自得だけどね! アハハハハハハハハハハハ!」
死んだ……死んだ? 親友が、旭が……様々な過酷な騒動を命懸けで駆け抜けて、生き抜いた彼女が……? 目の前で狂った様に笑う青年の言葉に佳世は目の前が、真っ暗になるような感覚を味わう。
「なん、で……こんな、こんなの計画には……!? 原、作……まさか!?」
沙世は青年の言葉に何かに気が付いたように顔を上げ……青年に肩を撃たれた。
「あぐ!?」
「御姉様!」
「うるさいよ、くそ女。そもそも佳世ちゃんにはあのイレギュラーも、そこのロリコン下人もお前の様な自称姉もいらない……僕の様なイケメンで彼女を幸せに出来る人間が……」
「訳のわからねえ事を言ってんじゃねえ!」
次の瞬間、何故か突然現れた妖や結界を破ってきた入鹿に青年は蹴り飛ばされ、妖の腕を心臓に突き刺された。
「が……!?」
「よし……なぁ!?」
心臓を突き刺した事で入鹿は誇るように笑うが……なんと青年が神威に変わっていた。
「な、何をやってんだ…バカ、野…郎……」
「か、神威……!? な、なんで……さっきまで……」
「全く……だから、獣は嫌いなんだ」
「入鹿さん、後ろ!」
「まさか、『
「錯覚だよ」
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
神威を貫いた事に動揺した入鹿を霊術で吹き飛ばし、男は佳世達に少しずつ迫る。
「ひ、ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
「逃げるなよ。お前には、佳世ちゃんからくそ女やイレギュラー、ロリコン下人を殺して奪った大悪党にならなきゃいけないんだから」
「ぎゃっ!?」
悲鳴をあげて逃げようとした倉吉を青年はいつの間にか手に持っていた二本目の刀で斬るが……何故か傷がなかった。
「まさか、『ブック・オブ・ジ・エンド』!? ……さては、それで佳世の命の恩人って過去を挟み込む気ね……!」
「正解♪ さ、佳世ちゃん……これで斬られて、下らない連中の事なんて忘れて僕のお嫁さんになろうか」
青年は気持ち悪い笑みを浮かべてゆっくりと佳世に寄ってくる。
「いや……」
「させるか……!」
佳世は斬られまいと後退り、沙世は短刀を手に決死の覚悟で青年の前に立ち塞がる。
「邪魔だなあ……死ねよ」
青年は刀を構え、沙世を斬り殺そうとする。
……その後は、偽りの恋心を植え付けられ彼女の大切なものを奪った彼の妻にされてしまうのだろうと佳世は何処か冷静に考えていた。
(いや……)
嫌だ、こんな人間の妻になるのだけは死んでも嫌だと心が悲鳴をあげる。
(助けて……)
彼女の脳裏に浮かぶのは、愛しい青年と共に自身を救ってくれた親友の少女の姿。
(助けて……)
自身の願いを汲み取り、時には両親に一緒に怒られてくれた親友、自身を父の商売敵の魔の手から救ってくれた親友、自身の危機には必ず駆け付けてくれた……
「助けて、旭ちゃん……」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
そのか細い悲鳴が聞こえない位の咆哮と共に刀が振り下ろされ……
「なにを、してるん……すか……」
刀を持っていた腕の一つが薙刀に斬り飛ばされた。
「…………ぎ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? ぼ、僕の腕がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ「うるさい」ぶげぇ!?」
「あ、旭ちゃん……そんな!?」
「あさ、ひ……」
青年を蹴り飛ばした旭は満身創痍だった。左肩は妖の牙で肉を抉り取られ、左腕はそれによって地面に着いていた。右肩も妖の爪が突き刺さったままであり、両足も左足は皮で辛うじて繋がっている様な有り様になり、右足も切り傷だらけであった。顔や髪も血塗れであり、致命傷としか見えないような刺し傷からは今も血が流れ出ていた。
「旭……ちゃん。ごめん、なさい……ごめんなさい、ごめんなさい! 私のわがままのせいで……伴部さんの事も本当にごめんなさい!」
「旭、う、そ……あ……あぁ、あ……」
「だい、じょう…ぶ、すよ……」
泣きながら旭に抱き付く佳世の懺悔の言葉と沙世の絶望の声に旭は途切れ途切れに話ながら辛うじて無事だった(それでも血塗れだが)右手で佳世の頭を撫でる。
「まも…る、から……伴、部さん……も、佳…世、ちゃん、も……沙、世……姉、も……まも、る……から」
「な、なんで生きてんだよ! 大人しく死ねよ、イレギュラー!」
何故か五体満足になっていた青年が刀を振るい……それが旭の背中から生えた血で出来た蝙蝠の翼と光で出来た翼が防いだ。
「……は?」
「だから、協力して…もら、う……っすよ」
「おお、もう妾達を出せるのか……
「了解。
次の瞬間、まるで全てが巻き戻るかの様に傷が治っていく旭の側に髪を血の様な深紅で染めた蝙蝠の翼を生やした古風な話し方をする旭に良く似た少女と髪を雪の様な純白に染めた光の翼を生やした感情を持たないかのような話し方をするこれまた旭に良く似た少女が現れた。
「あんたも、一緒に戦ってくれるんすね」
「え?」
「何が……?」
「へ……ぶげあ!?」
傷が治り、血塗れだった体も血が手品か何かの様に消えていく旭の言葉と共に青年が殴り飛ばされる。
………腕であった。巨大な腕であった。まるで鎌のような鋭い爪の生えた五本の指に、魚の鱗のような外殻に包まれた鈍色の巨大な腕。それは五本の指をカタカタと昆虫のように蠢かしていた。その腕の先に視線を移せばそこにいたのは撃ち殺されて倒れたままの鬼月の下人の死骸。
「ば、バカな……へあ?」
………死骸が起き上がった。まるで上方から糸で吊るされた操り人形のような異様な立ち上がりかたで。粉砕された頭から中身を溢しながら。先程まで何らの変哲もなかった今一つの腕は、しかし一瞬後には同じく異形化していた。今一つのそれと同じように鎌のように鋭い五本の爪の生えた巨大な腕に………そして、変化はそれだけではない。
「え、これ……な、なんですか~!?」
めきめきと、筋繊維が肥大化し、膨張していく。その足はいつの間にか猪のように頑強で筋肉質になっていた。蹄が出来ていて、灰色の獣毛が皮膚を覆い隠すように伸びていた。
「な、なんだ……?」
バキバキという骨が砕けるような音とともに首が伸びる。頭部の傷口が泡立ちながら盛り上がる肉によって塞がっていく。
「これは……!?」
頭蓋骨は変形していた。異様に首の長い馬か、あるいは龍にも似た形状の細長い頭、夜中であるが故に吐き出された吐息が白くたなびく。その歯は既に人間のものではなく、寧ろ牙と呼んだ方が良いくらいに鋭利だった。
「小百合、下がって!」
「な、何なんですか……!?」
……最早その彼の形状は人間から大きく乖離していた。
「待て待て待て! ヤバくないか……!?」
「旭、伴部……」
『旭、下人……』
その闇夜色の髪の毛は何時しか頭部から頸椎に沿って鬣のように長く伸びている。余りに長く伸びてしまっていたせいで目元が隠れてしまっていた。しかし、僅かな隙間からは確かに妖しく光る紅色の眼光が青年を覗いていた。
「さあ……」
「さあ」
「始めましょう」
それは、血で出来た無数の球体と自身に似た少女を従えて天を舞う旭も同じ眼光をしていた。
………狂気と、野生と、本能と、ほんの僅かな理性の光が混濁した虚ろな眼光だった。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「踊り狂おうぞ、お主の無様で不恰好で惨めな踊りを妾に見せよ!」
「
『グオ゙オ゙オ゙オ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙!!!!』
月夜の空に何処までも醜く、何処までも疎ましく、何処までもおぞましい怪物達の咆哮が鳴り響いたのだった………
更新していない間も読んでくれた人達には感謝しかありません……
これからも頑張ります!
次回もお楽しみに!