旭奇譚~和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件~   作:愛川蓮

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第八話

 牛車と言えば多くの者が平安時代に公家が乗っていた物を想像するだろう。

 

 史実においては中国の古事もあって貴人の乗るものとして平安時代から室町時代の中頃まで使われた牛車は、当然ながら和風ファンタジーをテイストした『闇夜の蛍』でも登場しているし、古くからの退魔士の家系であり、自らを神話の時代から続く由緒ある血統であると誇示している(無論嘘っぱちだ)鬼月家もまたそれを日常的に使用している。

 

 とは言え、それは現実の牛車とは似て非なるものである。

 

 まず牛が違う。牛車を引く二頭の牛は肌が青く、その頭部からは角が生えていた。元々は夔牛(きぎゅう)という霊獣を先祖に持つ個体であるらしいが世代交代を続けていく内に血が薄まり、今となっては前述の他に知能が高く人の言葉をある程度解する程度のものでしかないらしいが。

 

 牛車自体は豪奢で煌びやかであるが俺からすればそれ以上にその高度に組まれた術式の方が目を引く。十枚ばかりの結界に呪い返しに防音、腐食止め、強度の強化……ざっと目にしただけでも一ダース以上の術式があらゆる状況からでも中の人間を保護するように、そして各々が干渉しないように緻密にかつ慎重に組まれている事が分かる。

 

 ましてや中に至っては退魔士達が長年の実験を行い編み出した人工的な器物の『妖化(ようか)』の技術を使う事で『迷い家(まよいが)』と化している事が一番目を引く事実であった。

 

 元ネタは遠野物語等で伝わる訪れる者に富を授ける山中の謎の家であるがこの世界では微妙に違う。

 

『闇夜の蛍』の舞台は北陸東北をモデルにしているが此方の世界における迷い家は当然のように妖である。しかも大妖ないし凶妖クラスの厄介者だ。

 

 簡単にイメージするなら某ジブリの動く城を思い浮かべれば良い。本体は悪魔……ではないが意識を持つ妖力の塊のようなもので、建物は付属品、建物どころか周囲の土地まで支配するマップボス、いやマップそのものがボスのような奴だ。

 

 人間を噂や幻惑で屋敷に案内し、対象は恍惚状態のままでその身体を霊力そのものとして分解して吸収してしまう食虫植物みたいな質の悪い代物だ。しかも幻惑や催眠が効かない相手には屋敷自体が牙を向く。迷い家の中はある種の結界により異界化しているらしく、それこそ明らかに空間が現実の面積よりも広く時間の流れも異常だ。物理法則すら限定的な改変が可能で無数の罠もあって迷いこんだ人間は大迷宮の中で永久にさ迷い発狂する事になる。

 

 ……いや、一流の退魔士なら態態屋敷に入ってそんな遊びに付き合わずマップ攻撃で仕止めるけど。この戦術を考案した退魔七士が一人寛仁上人が言っている、「態態相手と同じ舞台で戦う必要はない」って。けど、流石に近距離無双な鬼や大入道相手に決闘を申し込んで平地に誘い出してから山に登って目からプロトンビーム撃ち込んで回避不能な嵌め殺しするのはどうなんだろう(合理主義な鬼月夕陽もこの点は呆れてたしな)。

 

 ……話が逸れた。兎も角も退魔士達、特に実例の『迷い家』が多く棲息(?)している北部の退魔士一族はそれの特性とその有用性を良く理解していた。そして研究に研究を重ねて、更に一部の家々はそれを人工的に『製造』する事に成功していた。

 

 故にその技術を流用した牛車は実際の大きさも然る事ながらその内部空間は更に十倍以上の広さを誇り、更には複数の独立した空間と繋がっていた。もし化物や賊が中の者を襲おうとしても中を無理矢理開いたら現れるのは別の独立空間に閉じ込めていた鬼月家が調伏(洗脳)した妖の群れである。無論、牛車自体が燃やされたら中の者も閉じ込められるがそもそも一撃で強化され迷い家化した牛車を破壊するなぞかなり難しい。

 

 因みにこれは鬼月家の屋敷も同様で、更には人工的かつ非人道的な実験で生み出された茶髪ポニーテールのシャイな座敷わらしなんかもいたりする(鬼月旭と夕陽には見えているらしい……)。攻略可能キャラではなくちょいキャラではあるが外伝小説で彼女が生まれてからその境遇と最期の経緯なんかも触れられたりしている。……取り敢えず鬼月家って糞だわ。

 

 さて、前置きが長くなったのは謝ろう。まぁ、そういう訳で仮に牛車に相乗りするとしてもその中は結構広々としている。その上、下手すれば切り替えた別の空間内で待機していても良いのだ。いや、寧ろそちらの方が普通なのだろう。退魔士本家の娘とたかが一下人の関係からすればそちらの方が遥かに当然だ。

 

 故にだ、故に本来ならばこのような状況は有り得なかった。

 

「どうした? 折角寝床も用意してやったのだ。遠慮する事はない。横になっておく事だ。傷の具合は承知している。そのような体勢では傷口が開こう?」

「いや、雛姉……流石に寝るための布団があっても雛姉の目の前で寝る度胸は流石にないと思うんすけど……」

「旭様の言うとおりです。幾ら事情があるとしてもこのような非礼は……」

「いや、旭……お前の目の前で寝るのは良いのか……?」

 同乗する同い年の少女の淡々とした言に、鬼月旭が何処か呆れながらツッコミ、それに便乗して俺は膝を屈して頭を下げながら答える。仮面はなく、故に足や肩を襲う激痛は薬師衆の麻酔を使ってもまだ相当の痛みではあったがそれを表情に出す訳にもいかなかった。可能な限り無表情を浮かべる顔は、しかし額に汗が浮かび上がる。

 

(糞、本当に面倒な事になった……!!)

 俺はそう思いつつ、痛みを誤魔化すために頭を下げたが視線だけは周囲を観察する(なお、鬼月旭は心配そうな表情でちらちらと俺を見ていた)。

 

 迷い家の現実改変によって精々六畳分である筈の牛車の中は三十畳余りの大部屋となっていた。しかも足下は畳で御丁寧にも牛車の出入口には靴置き場がある仕様である。

 

 姉御様は座布団の上で正座していた。前には漆塗りに金箔で紋様を描いた文台、その上にはこれまた高そうな硯箱があり、手元には何か書状が置かれていた。どうやら執務をしていたらしい。

 鬼月旭は座布団の上で胡座……をかきそうになりながら必死に正座をしていた(前にゴリラ姫の前でうっかり正座から胡座に移行してしまった時に正座を覚えられるようにと『言霊(ことだま)術』で一昼夜正座をさせられて漏らした事があるからだ)。前にはそれなりに年代物の文台(時折姉御様及びゴリラ姫と同乗することがあるらしく、乗せて貰っているらしい)、その上には姉御様から貰って以来鬼月旭が使っている愛用の硯箱(筆はゴリラ姫からだ)があり、手元には日誌兼帳簿(旭衆の一日毎の収入と依頼の推移やそれにおいての諸経費が書かれている物)が置かれていた。……どうやら、此度の依頼の経緯やかかった費用を計算していたらしい。

 

 背後の壁には掛け軸、そこから右に視線をずらせば見事な屏風絵、左に視線を向ければ絹を染め上げた几帳に脇息が置かれていた。その他周囲を見渡せば棚があり、刀剣類を置いた台座があり、その他煌びやかな調度品が置かれていた。

 

「相変わらず牛車での旅なのに豪華っすね……」

「……言っておくが、私の趣味ではない。私は野宿でも構わなかったのだがな……さりとて誉れある鬼月の直系が外で寝るのも外聞が悪いらしくてな」

「あ~……確かに。雛姉って、名君って誉れ高い『玉楼帝(ぎょくろうてい)』みたいな感じっすね」

「ん? まあ、憧れている人間の一人ではあるな。彼の様な質実剛健な人間でありたい……と、私は思っているよ」

 鬼月旭が牛車の中の豪華さに呆れていると、姉御様は苦笑いをしながら同意して鬼月旭の告げた百年前くらいの帝の名に微笑みながらそう答えた。

 

(……姉御様って、結構スムーズに笑える様になったよな。鬼月旭のお陰かね?)

 俺は苦笑いや微笑みをスムーズに出来る姉御様に内心で感心する。闇夜の蛍では笑うことに馴れておらず、主人公君との交流の果てに少しずつ馴れていく……というイベントもあったからな。

 

「伴部さーん。なんか雛姉に対して失礼な事を考えてないっすか?」

「いえ……滅相もない事でございます」

 エスパーかよ!? いや、失礼な事は本当に考えていないが……

 

「そう言えば……確かお前と旭は今回綾香に同行中は野宿だったか?」

「まあ、そーっすね。てか、旭衆は仕事全般が野宿っす」

「はい、その通りで御座います」

 俺は感情を晒さないように淡々と答える。無論、途上に宿場町や村があればそちらに宿泊したが、そういうものがない場合は当然のように野宿をした。鬼月綾香は下人衆に比べれば遥かに実力は上であるが、それでも一族の末端であり、力も一族全体では余り強い方ではない。迷い家化した牛車なぞ使える立場にないので彼女も我々下人同様野宿する事になる。

 

 まぁ、それでも立場が違うので野宿の準備や食事は此方で用意するし、我々はその辺りで交替で警戒しながら雑魚寝するのに対して彼女は天幕があってぐっすり眠れるのだが。うん、途中天幕張るのを手伝おうとして失敗して白虎から怒られて『しゅん』としたり見張りもやろうとして眠たくなって頭こくこくしててアリシアに怒られて『しゅん』としてたの可愛い。

 

 因みに旭衆は基本的に低い立場だし、鬼月旭も元々は村娘であるために牛車は(基本的には)使えない。なので基本は我々と同じ雑魚寝である。……流石に男女別に寝てはいるが。

 

「……そうか。牛車に乗るのもか?」

「護衛として控える事はありましたが、入室した事は御座いません。何せ下人でありますので」

 これまで鬼月家一族の幾人かに護衛として随行を命じられた経験はある。しかし、同行する女中や側用人であれば兎も角、下人程度が護衛は勿論その他如何なる理由でも牛車に乗せられる事はなかった。それは俺個人に限らず、下人全体での扱いである。まぁ、非公式に乗った者は幾人かいるだろうけども。

 

「そうか。ならば今回は貴様にとっても初めての経験か」

 筆を止めて、何処か愉快そうな表情を浮かべて姉御様は更に言葉を続ける。

 

 

「この牛車は防音だ。外の音は聞こえるが中の音はしない代物、外を警戒するならば態態耳を澄まさんでも良い。そもそもお前は重傷の上、疲労困憊だろう? 私もそんな者にいちいち礼儀は求めん。早く怪我が治るように努力するのが最善の行いの筈だ。違うか?」

「まあ、それもそうなんすけどねぇ……」

 鬼月旭も同意したとおり、姉御様の主張自体は合理的ではあった。成る程、それは認めよう。しかし……

 

「……では、せめて敷物はもう少し離れた場所に御願いしたいと思います」

「さっきも言ったけど、雛姉の目の前で寝る度胸は流石にないと思うっすよ?」

 鬼月旭も言ったとおり、流石に執務中の姉御様の目の前数メートル先で横になるとか罰ゲームだろう!? 

 

 最初は「迷い家」が内蔵する幾つかの別空間で休息を取ると俺は考えていた。そうではなく護衛も兼ねてと同じ空間内に滞在するとしても別室、同室としてもせめて横になる場所は部屋の隅だろうと思ったよ。

 

 いや、本家の長女が仕事する目の前で寝るとか論外だろうが!! こんなの一目でも見られたら詰みだ。余りに無礼過ぎるし、そうでなくてもひねくれた噂話でもされかねない。それに……

 

「……主より先に寝るのも無礼でございますので」

「……む」

 一応は俺の主である鬼月旭より先に寝るのも割りとアウトの部類である。本人は「所詮、あたいは元村娘っすから」とフランクに対応するが、それでも義理とは言え本家の末娘。それよりも先に寝たとあればどんな事を言われるかわかったものではない。

 

「ん~……じゃあ、あたいが寝れば寝るんすね? 雛姉、出来たんで確認お願いするっす」

「わかった。……ふむ、計算も出来てる、誤字脱字もなし……良くできてるな」

「そりゃあ、こういうのの書き方は雛姉や葵姉、思水様に叩き込まれて、計算は宇右衛門様に叩き込まれたっすからね……間違えたら申し訳がたたないっすよ」

 鬼月旭の言葉に姉御様は「それもそうか」と苦笑いをする。そうなんだよな、こいつって姉御様やゴリラ姫、拗らせババア以外にもデブ衛門や下人衆頭である『鬼月思水(しすい)』ともある程度の交流はあるんだよな……だからこそ、こいつや旭衆を目の敵にしている長老衆も迂闊には手を出せないのだ。

 

「それじゃあ、あたいは寝させてもらうっすよ……伴部さん、敷物移動させるっすね」

 そう言って鬼月旭は敷物を出来る限り姉御様から離れた場所(それでも視界内だが……)に置き、姉御様の前に用意した布団には自分が入る。

 

「それじゃあ、おや…す、み……」

 そのまま「すー、すー……」と寝息をたてる鬼月旭に頭を抱えてしまう。どんだけ寝付きが良いんだよ……

 

「さて、旭は寝たんだ。お前も寝たらどうだ?」

「……では、お言葉に甘えて」

 姉御様の言葉に俺は内心で溜め息を吐きながら敷物の方に移動する。

 

「っ……」

 右足の痛みに無表情で耐える。糞、やっぱり表情変えずにいるのムズいわ。屋敷に戻ったら真っ先に仮面の支給してもらおう。

 

 刃先を布で覆った槍を手元に置いて、何時でも護衛の任を果たせるように俺は座り込んだまま眠気に身を任せる。

 

(少なくとも摘まみ食いの可能性がないだけ洞窟よりはマシだな)

 予想以上に疲労していたのだろう、俺は重い瞼をゆっくりと閉じていき、睡魔に身を任せていた。

 

「お休み、■■、旭。良い夢を」

 意識を完全に失う直前、幼馴染みに懐かしい名前で主ともども呼び掛けられた気がした。

 夢か現か判断つかなかったが、少なくともそれは何処ぞの気狂い鬼のそれと違い不愉快ではなかった……

 

 ────────────────────

 

 ……あぁ、折角の機会だったのにまた碌に話も出来ずに寝させてしまったな。鬼月雛は広い部屋の片隅で何時でも警戒出来る体勢で寝入る幼馴染みと自身に気を使いながら眠る義妹を見つめてそう思った。そして思うのだ、自分はまだまだ力不足だと。

 

 彼は唯一無二の存在だった。母が死に、父とは会えなくなった彼女は広い屋敷の中で頼れる者もおらずに一人だった。

 

 ……いや、正確には世話役の大人や遊び相手の子供はいた。しかしそれは彼女の求める者ではなかった。大人達はよそよそしく頼れる程信用出来なかったし、遊び相手の子供達は農村生まれの彼女とは感性が余りに違い過ぎた。

 

 そんな時に連れて来られたのが彼だった。同じ農村生まれ、それでいて貧しい村だったからか働き者で、世話焼きで、此方に合わせてくれる少年は彼女にとって唯一頼りになり、信頼出来る存在だった。子供ながらに拙くも好いていたといって良い。別に鬼月の家の権力なぞ興味もなかった雛は家出してこの頼りになる少年と一緒に畑でも耕して暮らそうとでも空想していたくらいだ。何なら遊び半分で実際に計画について話し合ったくらいだ。無論、彼方も遊び程度にしか思ってなかっただろうがそれでも彼女にとってはそれが楽しかった。

 

 それが変わってしまったのは一つには陰謀で化物に殺されかけて力に目覚めた事だった。それによって彼女を取り巻く環境は一変した。いや、それ以上に……

 

「そうだ、それは問題じゃない。本当の問題は私自身の愚かさだ……」

 鬼月雛は瞼を閉じて思い出す。自分の取り巻く環境が変わった事、自分が命を狙われている事、自分におもねる大人が大量に寄ってきた事、それが幼く愚かな彼女には余りにも怖くて……だからいつも頼りになる少年に助けを望んだのだ。屋敷から逃げたいと。

 

 それがいけなかったのだろう。余りに不用意な発言だった。少年が即決で自分の助けに応じてくれなかったというだけで彼女は少年に失望して詰って、泣いて、その場から去った。その次の日には少年は彼女の世話役から追放されていた。

 

「……そうさ、それに絶望して苦しんでいたところに現れたのが……旭、お前だった」

 自分のせいで彼は追放され、下人衆に落とされた。それを後悔し、絶望し、己を苦しめ続けていた所に代わりでも良い、代わるその時まで自分が支えてみせると言って手を差し出してくれたのが目の前で寝ている義妹なのだ。

 

「だからこそ、あの男を今でも許せない……!」

 自分が大切にしている義妹を自身の競合相手にしない為に葵や未だに思いを寄せている下人もろとも謀殺するためにわざと彼女が近くにいる時に話した……旭が『当主様に嵌められた葵姉を助けてくるっす!』と書き置きを残して飛び出していたのを見て慌ててやって来た自身に悪びれずに告げた父に言った言葉は完全なる本心である。

 ふざけるな、そんな事の為にあの子を……旭と■■を殺そうとしたのか。『自分の為』を免罪符にして、自分を救ってくれた者達を殺すというのか……その気持ちが爆発して出たのがあの男に対する苛烈な発言だったのだ。

 

「……その後でお祖母様の助けがなければお前達を救えなかったというのは、腹が立つ話だがな」

 父に暴言を言って部屋を飛び出した自身に旭達の現在地を告げ、そこまでの道案内の式神を出した若作りの祖母には感謝はしている……時折、彼を見る目が何処か怪しかったのには目を瞑ればだが。

 

「あの時は肝が冷えたな……全く、毒が抜けるならもう少し早く抜ければよかったものを……」

 駆け付けた自分がみた光景……それは、全身が血塗れの伴部が限界を迎えて倒れ伏し、同じく血塗れの旭が顔に一閃をくらって自分の特徴にしている鼻から上を横切る傷を作った場面だったからだ。

 それに半狂乱になった自身が乱入するのとほぼ同時に毒の抜けた葵と共に妖達と向き合い……それを凪ぎ払い、どうにか二人を助け出して……そして、旭に手酷く裏切られた……かに思えた。

 

「本当に情けない話だ。お前は、私達が殺し合わないように自分が憎まれ役を買って出たというのにな」

 彼をお付きにして、葵との賭けの景品にした。それが、どれだけ腹が立ちどれ程旭を憎んだかわからなかった。だが、祖母が言った「あの時の旭の言動の意味を二人で考えなさい」と溜め息混じりで言われた事で冷静になれ……旭の監視の為につけた式神で旭の真意を知った事でそれは己の勘違いだったとわかったのだ。

 

「■■、旭……『許してくれ』とは言わない。だが、もう少しだけ、もう少しだけ待ってくれ」

 この十年余り、彼女はひたすらに学び、鍛え、力をつけた。戦いだけではない。財力も教養も、派閥も、それはただひたすらに彼と義妹を助けたいからだ。彼らを救い出したいからだ。

 

「お前達が自由に生きれる様に、頑張るから。全てを終わらせてみせるから……」

 彼女は懺悔するように、謝罪するように震えた声で呟く。自分達のせいで大切な青年が苦しみ、義妹は自分達のために青年を死なせない為に苦しんでいる事に彼女は耐えられなかった。

 

「そこから助け出してやる。だから……だから………」

 だからせめて、全てが終わったら二人とも、静かに私と一緒に暮らしてくれ。そのための脅威からは、その存在からは私が全力で守るから。

 

「それがたとえ、誰が相手であっても………」

 そう告げる彼女の瞳には、聖母のごとき慈愛の光と……狂気にも似た激情の炎が揃っていた……




次回もお楽しみに!

蛇足:『闇夜の蛍』に旭がいた場合の台詞集2『夕陽編』

自己紹介
「私は夕陽……ただの夕陽だ。私は旭に寄生する寄生虫に過ぎんからな」

主人公への脅し
「もしも旭を幸せに出来ないと判断させてみろ……お前を、殺す」

主人公の悪堕ちがバレた場合
「そうか……お前は、そういう奴だったか」→即座に主人公の心臓を手刀で貫く冷徹な表情の夕陽のCGが映る。

旭エンド時
「旭をあいつを支えてくれて、ありがとう……」
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