旭奇譚~和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件~ 作:愛川蓮
……これは、夢っすね。
あの時、葵姉と雛姉が共闘をした時の夢っす。
「つぁ……!」
あたいは既にボロボロの体を酷使し、手にした薙刀で右にいた妖を切り捨てながら後ろの妖に石突で攻撃し、左にいた妖に呪符を投げつけて攻撃する。
「が……!?」
「伴部さん!?」
あたいが伴部さんの苦悶の声に反応すると、そこには妖の攻撃を受けてあたい以上にボロボロな伴部さんが遂に倒れ伏す光景だったっす。
「貰ったぁ!」
「しま……うあぁぁぁぁぁ!?」
あたいが伴部さんに気を取られた隙を突かれて、妖の内の一体の攻撃があたいの顔の真ん中を切り裂きその血が目に入る。
(不味い……! このままだと……)
「死ねぇぇぇぇぇ!」
『グアァァァァァ!』
『シャアァァァァァ!』
『ブルルゥゥゥゥゥ!』
血に目を潰され、完全に身動きを止めたあたいに妖達の攻撃が……
「■■、旭!」
「なん……!?」
『『グオ……』』
届く前にあたいを呼ぶ声が聴こえ、攻撃を加えようとした妖達が全て断末魔の声すらあげずに焼き払われたっす。
「旭、旭! しっかりしろ!」
「……雛、姉…?」
「嘘だろ……!? なんで、姉御様が此処に……!?」
あたいが此処にはいない筈の雛姉の声に問い掛けると、ぼやけた視界に見える雛姉の顔は凄く泣いていそうな顔になってたっす。
「ああ、良かった……お前や、■■が死んでいたらどんなに……」
「そこに、葵、姉も……入れてくれると、嬉しいんす、けどね……」
「あら……嬉しい事を言ってくれるじゃない」
あたいは疲労と傷の痛みで途切れ途切れになりながら苦笑いをしていると、その声と共に雛姉に襲い掛かろうとしていた妖が扇から放たれた風でバラバラにされたっす。
「葵姉……」
「……旭、伴部も良く頑張ったわね……後は私に任せなさい」
「……お前にだけは負けん」
そう言って雛姉と葵姉はあたい達を挟むように立ち、刀と扇をそれぞれ構えるっす。
「……私達は、今怒ってるんだ」
「ええ、だから貴方達程度にそんな時間はかけられないの。だから……」
二人はそう言って、霊力を溜めるとそのまま妖達に放ったっす。
「一撃で決める」
「一撃で決めてあげる」
そしてその言葉と共に放たれた一撃は、包囲していた妖達を全て消し飛ばし……それを見て緊張が一気に抜けたあたいは……そのまま意識を失ったっす。
それから……
「旭、起きろ。屋敷だぞ」
「ふえ……?」
あたいは牛車内で目を擦りながら起き上がるっす。
あたいの目の前には、にこにこと微笑んでいる雛姉の姿が……あ~着いたんすか。
「雛姉、此処までありがとうっす」
「……雛様、此処までお連れしていたただきありがとうございます」
「いいや、可愛い義妹と怪我人の為さ。礼には及ばない」
「それ以外興味のないくせに」
あたいと伴部さんがお礼を述べると、雛姉は微笑みながらそれにこたえそのまま颯爽と去って行ったっす。
「くぁ~……やっぱり、雛姉ってああいう冷静な感じが格好良いっす。何時かはあたいもああいう風になりたいっすねぇ……」
(今のままだと、クールって言うより可愛いって感じになりそうだけどな)
「旭は変わらなくても充分良いのに」
あたいがそれに痺れていると、伴部さんは何処か呆れた様な視線と座敷わらしちゃんからの不満そうな視線があたいに刺さってるっす。
「旭様、お帰りなさいませ」
「あ、
あたい達にそう言って近付いてきたのは三年前鬼月家に家人として所属している『
「どうしたんすか?」
「いえ、伴部さんには葵様からの伝言です。『戻ったら、すぐに私の部屋に来なさい』だそうです。旭様には……」
唯ちゃんはあたいの腕を掴むと、引き摺り出すっす。
「此処最近、肌や髪を手入れしていない旭様をお風呂に入れる為です」
「ちょっ、ま……!? なんでいきなり……!? 何時もは二、三週間は先なのに……伴部さ~ん! また後で~!」
「………………はあ、行くか」
「旭も貴方も大変だよね」
あたいは唯ちゃんに引き摺られながら伴部さんにそう言ったっす……
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「う~……ちょっとくらい、肌や髪の手入れをしなくても人間は死なないのに……」
「人間は死ななくても鬼月家の品性は問われます!」
あたいは唯ちゃんに引き摺られてあたいに与えられてる部屋に備えられている風呂場に放り込まれ、唯ちゃん主導のお手入れをされていたっす。
「全く……雑用衆や女中の間でも旭様は残念がられているんですよ? 磨けば綺麗になるだとか、着ている物を改めれば可愛く見えるのにとか……色々言われているんですよ?」
「いやいや……それはありえないっすよ。だって、あたいはこんなちんちくりんだし、顔にはこんな十字の傷まであるんすよ? 可愛くなんて……」
「いいえ……傷は化粧とかで誤魔化せるし、可愛く着飾るのに体格なんか関係はありません。と、言うか旭様って積極的に他人と関わるのに自分の事になるとへたれますよね」
「あうう……」
あたいは唯ちゃんの言葉に怯みながら体を石鹸で洗うっす。
「そう言えば……どうして急に肌や髪の手入れの話になったんすか? 普通はもう二、三週間くらいして『髪が痛んできてるかも?』ってくらいの時にすっ飛んで来るのに」
「もう少し髪や肌に気を使って欲しいのですが……実は、葵様に都行きの話が出ていましてそれで葵様が同行する人間に旭様を要求したんです。それで旭様の身嗜みを整える事になりまして。これが終わったら都に着ていく着物選びに入りますよ」
「うへぇ……今日は忙しくなりそうっすね」
にしても都かぁ……沙世姉や佳世ちゃん、旭衆都組(というか、アリシアや白虎、黒虎とかの一部の人間を除いたクロイツ家及び王家一同と元山賊武士団)は元気っすかねぇ。時折手紙でやり取りをしてるんすけど、最近だと元陰陽寮頭の弟子が入ったとかで仕事の拡大もしてるって話っすね。
「って、ゆかちゃんや
「赤穂家も来るのは当然でしょう。参勤……んん、都行きは基本的に全退魔士家と大名の義務なんですから」
「そういやそうっすね」
あたいは唯ちゃんの言葉に頷きながら、髪を櫛でとかしていくっす。
「まあ、雛様も来るのですが」
「あれ? 雛姉もっすか?」
「ええ、多分……葵様が都に行っている隙に雛様に手柄を取らせ、都で官位を賜らせる事で雛様こそが鬼月家の跡取りだという大義名分とする為の雛様派の計略かと。因みに討伐するのは『
牛鬼かぁ……牛鬼!?
「……空亡軍の大幹部の一人じゃないっすか! 大丈夫なんすか、雛姉は!?」
「大丈夫ですよ。思水様が同行しますし、何より雛様もお強いですから……風の噂によると、牛鬼もかなり弱体化してるらしいですし」
「そりゃ、そうっすけど……心配っすよぉ……」
あたいはお香が焚かれた着物を着ながら溜め息を吐いたっす。
「あ、そうそう」
「ん? どうし……」
「逃げ出さない様に……都に着ていく着物選びは女中達が旭様を着物が置いてある部屋まで連れていきますので、悪しからず」
「あひゃあぁぁぁぁぁ!?」
あたいは逃げ出すためにこっそりと襖を開けたら……待ち構えていた女中達に捕縛されて連れていかれたっす……
「……全く、そこまで予想通りだったなんて」
少女はそう溜め息を吐きながら女中達に引き摺られていった己の主に呆れる。なんせ、三年前、見張りが自分一人だった時に着物選びを面倒くさがって逃げ出した前科があるので今回は女中達に応援を頼んだのだが……案の定、逃げ出そうとしていたのは呆れる他ない。
「はあ、よりにもよって『
少女はそう思いながら足で集めた情報の精査を開始する。
(確か、本来ならゴリラ姫は妖達に三日三晩汚されたせいで次期当主の最前線から脱落する……筈だったんだけど、旭と伴部……つーか、あの下人も十中八九転生者よね。によって(心は兎も角)体は清らかなままだから継承権は残ってて、姉御様と陣取り合戦中。で、旭は……まあ、次期当主の座には興味はないんだけど……若手の退魔士達からは人気があるからなぁ)
そう。旭はその努力家の面とどんな相手とも一定以上に仲良くなれる面から若手の退魔士達からは可愛がられており、良く冗談として「旭に当主になって欲しい」と言われているのだ。
(ただ、姉御様もゴリラ姫も二人揃って旭と伴部に執着してるんだよなぁ……そこら辺が余計な騒ぎの源にならなきゃ良いけど……所々で原作以上の疫ネタになりそうな部分も出てきたし)
少女の考えているとおり、雛と葵は旭と伴部に執着しつつあり旭や伴部を謀殺しようとした者は容赦なく粛清している。これに不満を持っている者も少なからずおり、これが火種となる可能性も充分にあるのである。
(沙世さんとも連絡を取りたいんだけどなぁ……でも、前日譚の『
少女は自身と同じ転生者であり、妹の橘佳世や義理の両親の幸せを願って原作を(自分の手の届く範囲で)変えたいと願っている少女を思いながらこれからやるべき事を考えて頭を抱える。
そして、少女はふと考える。
(……転生者が三人もいるって事は……他にもいて、原作からあんまり物語を変えたくないって連中もいるんじゃ……?)
少女は最悪の可能性も考えて身震いをするのだった……
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「……闇夜の蛍」
夜の暗闇の中……そこにいた少年の言葉で木々の間から身を隠していた者達が現れる。
「……『烏』、『白鷺』、『燕』、『獅子』、『狛犬』」
『いるぜ』
『此処に』
『おう』
『いるよ、『蛍』』
『ああ』
少年が呼び掛けると少年の近くにいた烏、白鷺、燕、ライオン、狛犬……の形をした式神が声を出す。
「現在の状況はどうだ?」
『相変わらず原作に向けてまっしぐらだぜ。……ちょっと変わってる部分はあるけどな』
『橘商会に義理の娘が居て、更にその少女の嘆願によって原作よりも戦力は増えてます。原作通りの軍勢なら『
「そっちの方はお前らが戦力を増やすんだろう?」
『ええ、とりあえず僕の転移術で連れてきて烏の口八丁で騙した妖の軍勢ならなんとか原作通りまで持っていけるでしょう。……橘佳世には申し訳ないですが、義理の姉は殺しますし両親には原作通り死んでもらいます』
『ま、しょーがねねえよ。これも俺達が生き延びるためだ』
「……」
『……』
少年の言葉に外道な発言をしながら白鷺と烏は見張っていた橘商会の事を話す。
……少年と燕の式神の不快そうな感じにはまるで気付いてなかったが。
『鬼月家の方はゴリラ姫が処女のままのせいか内紛の種が出来上がりつつあるぜ、このままじゃ原作以上の死者が出かねない。さっさとどうにかしないとな』
『ち、だからあの旭とかいう小娘と伴部とかいう下人をさっさと殺してりゃ良かったんだよ。そうすりゃこんな事には……』
『『ゴリラ姫の処女喪失事件で死にそうだから放っておこうぜ』とか言ってたのは誰ですかね?』
『うるせえ!』
狛犬の言葉に烏が苛立ったような発言をし、それを白鷺が茶化すような発言に烏が激怒する。
「烏に白鷺、喧嘩なら他所でやれ。獅子、他の所は?」
『水路の方は徐々に行方不明者が増えてるが……同時にクロイツ家と王家の連中が警護を買って出てるから妖母の方の軍勢は原作よりも少なくなるかもしれん』
『……悪い、謀略をしくじった俺の責任だ』
『燕は悪くねえよ。悪いのは都を縦横無尽に走り回って引っ掻き回したあの
少年の言葉に獅子の報告に燕は(明らかに演技とわかる)謝罪をするが、烏が気にするなと燕の肩を器用に叩く。
「燕、お前の所は?」
『……赤穂家は原作通り……いや、紫とイレギュラー……
『死亡フラグの戦闘能力が上がった所で対した役にはたたないとは思いますけどね』
「……」
『……』
燕の言葉に白鷺は冷淡な台詞を吐き、その発言に少年と燕は心底軽蔑したような視線で白鷺を見る。
『そーいやよ、蛍。お前の所は……原作主人公様はどうなんだよ?』
「……『
『そりゃ良かった。原作主人公様が原作通りじゃなかったらどうしようかと思ったぜ』
『『彼』がいないと始まりませんからねぇ……栄光を手にしてもらわないと困るんですよ』
烏の質問に少年は含みをいれた言葉を言い、その発言に烏はほっとした様子で白鷺はねっとりとした嫉妬も含んだ言葉でそれに安心した。
「……そろそろ夕飯時だし、怪しまれるかもしれないから解散だ」
『おーらい』
『了解』
『わかった』
『俺も家族が呼んでるからな』
『了解だ』
少年がそう言って解散を宣言すると、式神達もそれに答えてボッと燃え尽きる。
「はぁ、烏野郎とロリコン白鷺はどうやって排除すっかなぁ……」
少年はそう愚痴りながら家への帰り道を歩み出す。
「此処がどういう世界だか知りたくて話をあわせてあいつらの仲間になったんだが……原作通りに行くとかなんとか言っても、俺達がいる時点で大きく変わってるての。結局、それは自分の知っている物語から変わるのが怖いから逃げてるだけだろうが……燕はまだ変わる可能性も見据えて動いてるからまだ兎も角残りの四人は惰性で動いてるだけだな、こりゃ」
少年は溜め息を吐きながら更に愚痴りだす。
「ロリコン白鷺は橘佳世って言う女の子を自分の
「『
「あ……悪い、『姉貴』」
愚痴っていた少年……『
(そもそも……原作主人公が
螢は姉……『蛍夜
次回もお楽しみに!