絶対に勝ちたいショタVS絶対に下僕にしたい姫様   作:織葉 黎旺

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邂逅

「いけっ、《マシンナーズ・フォートレス》! ダイレクトアタック!!」

 

「うわああああっ!!!」

 

 尖った黒髪の活発な少年が、ビシッと癖毛の少年を指さすと、指示を受けた青いボディのロボットが、勢いよくラリアットをかました。子供向けの軽度な立体現実映像(リアルソリッドヴィジョン)の衝撃を受けて、彼は公園の砂場へと叩きつけられる。

 

 

「いてっ! くうっ……また負けたぁ……」

 

 今回で、直近五十連敗目。とうとう大台に乗った感があった。

 彼らはちょっと人よりデュエルが好きなだけの、一般的な小学生である。暇があればこうやって、公園でデュエルして遊んでいるのだ。

 

 

「へへっ、まあ今回はいい線いってたけどな。まだまだおれには勝てないぜ!」

 

 砂を払いながら立ち上がる少年に、鼻をかいた少年が手を差し出した。

 

 

 

「……そんなことないよ!」

 

 ──差し出された手は、拒まれた。

 

 

「ぼくだって、ずっと負けっぱなしってわけじゃないさ! 結構前には勝ったじゃん!」

 

「ひと月も前にたった一回勝っただけだろ?」

 

「でも勝ちは勝ちだ! たまたまいま丈くんがツイてるだけで、次どうなるかはわからないだろ!?」

 

 

 敗者の悔しさ、勝者の驕り、それらがぶつかり合って、売り言葉に買い言葉となっていた。お互いにお互いが嫌いなわけじゃない。むしろ好きだからこそ、相手のことを素直に認めることができない、そんな関係があった。

 

 

「……じゃあさ、明日もう一回本気で決闘しよう。それで俺に勝てたら、お前のことを──俺のライバルとして認めてやる」

 

 尖り髪の少年がそう告げる。癖毛の少年は、目を見開いて頷く。

 

 

「ああ──いいよ、やってやる! 明日だからね、吠え面かかないでよ!!」

 

 公園のスピーカーから、夕焼け小焼けが鳴る。六時の時報であり、小学生の彼らにとっては帰宅の合図であった。袂を分かった彼らは、それぞれ逆方向に歩みを進めていく。癖毛の少年は、弾かれたように駆け出した。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「どうしよう……」

 

 夕暮れの帰路、少年は頭を抱えていた。

 今日だって全力で闘っていたのだ。そりゃあデュエルは時の運だし、一概には言えないが、少なくともこのままでは、明日も今日の二の舞になるのが見えていた。

 

 

「うう、かくなるうえは……」

 

 少年はポケットの中のポチ袋に触った。お年玉の残り、そして最近貯めていたお小遣いがすべて、そこに入っている。本当は来月発売の新弾のための貯金だった。だが、約束の期日は明日。友としてライバルとして、男として無様を晒す訳にはいかないのだ。

 故に少年は、カードショップの扉を潜った。

 

「らっしゃーせー」

 

 気だるげな店員の声を尻目に、少年はショーケースに向かう。ケースに入るようなカードは一枚数千から数万円、今の予算では買えても精々数枚。しかも少年のデッキは小学生特有の、ある程度色々なテーマを寄せ集めて組み上げられたものなので、明確にシナジーのあるカードを買うことも難しい。数十分ケースの前で悩んで、門限が近づいてきたことに焦って、唸りながらパックのコーナーに向かった。

 

 

「うーん…………」

 

「さっきからなーに悩んでんの?」

 

 頬杖をついた店員が、話しかけてきた。

 

「あ、その……ぼく、強くなりたくて、何かいいカードはないかなって探してたんですけど」

 

「あーごめんね、ケースのやつ大体高いもんね」

 

 長いポニーテールを揺らして、店員は申し訳なさそうに苦笑した。

 

「キミ、何か組んでるテーマとかあるの?」

 

「テーマ……?」

 

「あ、そーゆー感じね。おっけー。えっと、テーマってのは共通の名前とかでまとまったカードたちのことね。【HERO】とか【ホープ】みたいな」

 

「へー……ん、そういえばタッくんの《フォートレス》も……」

 

「ああ、《マシンナーズ・フォートレス》ね。あれもテーマの一つよ」

 

 少年の知識、実力を何となく察した店員はゴソゴソとレジ裏のカウンターからパックの箱をいくつか持ち出してきた。

 

 

「全然関係ないカードからシナジーを見出してデッキを組むのも楽しいけどさ、慣れないうちはカテゴリごとにまとめるのが楽だし、楽しいし、強いよ」

 

 んで、そういう時に便利なのがコレ! そういって、手元の直方体の箱の群れを示す。

 

「デッキビルドパックっていうんだけど、3つのテーマを中心に組まれたパックだから、比較的手軽にテーマデッキが組めると思うよ。んー……そうだな、どれか一箱だけ半額であげよう」

 

「え、いいんですか!?」

 

「うん。ほら、来月新弾くるじゃん? それまでにある程度在庫掃いときたいし、ある意味ちょうどいいんだよね」

 

「む、むむぅ……」

 

 来月の新弾という言葉に、また苦しい顔をした。手元のポチ袋とにらめっこする。

 ──しかし、半額という言葉はあまりにも魅力的だったし、これしかないという妙な確信もあった。

 何より、この十箱の、その中の三十テーマの中から一つを選ぶというのは、何処と無く運命的でカッコいいので。

 

 

「……よし、これにする!」

 

 机の右端にあった、紫色のパッケージに手を伸ばした。前方には男女四人、後ろに悪魔らしき何かが写っている。

 

 

「この後ろのやつ、すごく強そう……! これでお願いします!」

 

「毎度あり。ああ、【神碑(ルーン)】だね。トリッキーだけど強力なテーマだよ」

 

 千数百円を対価に、少年は箱を手渡された。彼は嬉しそうに微笑むと、「ありがとうございました!」と一礼する。

 

「ついでだから持ってきな、ノーマル三コンセット。一箱だけだと揃うとは限らないからね、このくらいはサービスってことで」

 

 三コンとはつまり、三枚コンプリート──全種が一デッキの最大必要枚数分揃った状態ということである。

 

「いいんですか……!? ありがとうございますっ! いろいろ、お世話になりました!」

 

「いえいえ、今後ともご贔屓に〜」

 

 手を振る店員を尻目に、少年はカードショップを飛び出す。一刻も早く開封して、デッキを調整しなければならないからである。

 

 

 *

 

 

「ただいまー!」

 

 手だけ洗うと、少年は部屋に駆け込む。今優先すべきなのは夜ご飯よりもお風呂よりも、何よりパック開封。パックを開けて、カードを眺めて、その他のことはデッキを練りながら行えばいいのだ。

 

「♪〜」

 

 ハサミを取り出し、鼻歌交じりにパックの袋を切る。

 一パック目、光り物はなし。【神碑】二枚、【ヴァリアンツ】二枚、強制脱出装置一枚。

 二パック目、光り物はなし。似たような比率。

 三パック目、四パック目──と光り物がない状態が続いて、少年は少し不安になった。ノーマルであれば先程の三コンセットで揃えているため、できればスーパーレア以上のパーツが欲しいのだ。

 

 

 五パック目で流れが変わった。

 

 

「ん……?」

 

 パックの上部をハサミで切り落とした瞬間、ピカピカと妙に金色の光が中から溢れ出た。

 

「これはもしかして、なにかでる前兆かも!?」

 

 ワクワクしながら少年はパックを裏返して、中身を混ぜ始めた。どうせならレアカードは、己の手でドローして正体を確かめたいからである。

 

「ぼくのターン、ドロー!」

 

 一枚目から光り物は現れた。《ウェルカム・ラビリンス》──スーパーレアである。

 

「うーん……」

 

 少年の表情は芳しくなかった。狙いのテーマではなかった上に、スーパーレア以上のカードは一パックに一枚、箱全体で見ても七枚程度しかなく、その貴重な一枠が失われたからである。

 

「まあしょうがないよね」

 

 単純な割合で見ても三分の一である。目当てが出る方が珍しいのだ、仕方ないだろう──そう思いながら、流れで二枚目もドローした。

 

「えっ」

 

 引いたカードは《白銀の迷宮城》──スーパーレアである。本来ありえない、二枚目のSR(スーパーレア)。エラー箱ってやつなのかな、と首を傾げながら引いた三枚目、カードが虹色に光り出した。

 

 

『オーホッホッホ!!』

 

 どこからか、高らかな笑い声が響いてくる。確かな芯と響きをもったそれは、室内というより少年の脳内に反響し、収まると同時に()()()()()()()()()()()()()

 

『貴方が(わらわ)の幸運な従僕(マスター)?』

 

 

 ──それは銀髪の麗人だった。

 肩や胸元が大きく開き、透けた部分の多い特異な形状のドレスに身を包み、己の背丈ほどもあるハルバードを地面に突き立て、流麗な銀髪を片手でかきあげながら不敵に笑っている。

 

 何より特徴的なのは、背中から生えた二つの銀色の羽と、頭上から伸びる大きな巻き角である。その二点が、彼女が人でなく怪物(モンスター)であることを示していた。

 

 

「おねえさん、誰……?」

 

『あら、見て分からない? ならば教えてあげるのじゃ! 妾こそ、仕掛け(トラップ)溢れる迷宮城(ラビリンス)の主! 《白金の城のラビュリンス》であるぞ!!』

 

 どやぁーん、と胸を張って、彼女は得意げな顔をした。

 

「らびゅりんす……?」

 

『そんなことも知らずにこのパックを剥いたの!? 精霊(わらわ)を引き当てられてよかったわね、もう何でも解説してあげるぞよ!』

 

 若干口調が怪しいところはあったが、めいっぱい高飛車に、《白金の城のラビュリンス》は言った。

 

「らびゅりんす…………」

 

『え、ちょっとまって、貴方なんでそんなに悲しそうなの!?』

 

「ルーンがよかった……」

 

 悲しげに俯く少年に、女は歯軋りで答えた。

 

『キーッ!! あんな陰湿極まりない陰キャテーマより、小さいお友達から大きなお友達まで大人気の妾たちの方が絶対いいわよ!?』

 

「あっちのほうが強そうなんだもん……」

 

『妾の方がつーよーいー! っていうか精霊(わらわ)を当ててるんだから、もう貴方は【ラビュリンス】使いで決定なの!』

 

「精霊……?」

 

『そう。妾みたいな、使い手と意思の疎通が取れる特殊なカードのことよ!』

 

「確かに、きみみたいなのは見たことないや」

 

『でしょう!?』

 

「ってことは、精霊さんがいると強くなれたりするの? 引きが変わったりするの?」

 

『それはもう、貴方の努力次第じゃよ』

 

「じゃあそんなに変わんないってこと?」

 

『大いに変わるでしょ! 気持ちとか色々!!』

 

 カードの精霊が如何に重要でありがたい存在であるかを、《白銀の城のラビュリンス》は滔々と語って聞かせたが、お腹が空いてきていた少年には何も理解できなかったので、なるほど、と適当な相槌だけ打った。

 

 

『ああ、そうだわ。小さく可愛い妾の従僕(マスター)、名前を聞いてなかったわ』

 

(かける)、です」

 

『カケル──ふふ、いい名前ね! そう呼ぶわ! 私のことも好きに呼んでくれてよろしくてよ!』

 

「じゃあ──ラビュリンスさん」

 

『それだとデッキと紛らわしいじゃない!』

 

 好きに呼んでいいのではなかったのか、と首を傾げかけたが、確かにもっともな反論だったので諦めた。手に持つカードと今目の前にいる彼女を交互に見て、「うーん……」と唸る。

 こういう時は、特徴からあだ名をつければいいはずだと少年は小学校の人間関係で学んでいた。

 

「じゃあ、プラチナ姫!」

 

 たしか白銀は英語でプラチナだったよな──という着想と、ワガママで偉そうという特徴を組み合わせた愛称(ニックネーム)。一つ問題をあげるとするなら、少年が白銀と白金を混同してしまっていたことである。読みが『しろがね』で同じだから混ざったのだろう。

 

『プラチナ姫──ふふ、高貴な妾にピッタリの響きじゃない!』

 

 ──が、それに気づける者はこの場に存在しなかった。盛大な勘違いをしたまま、自己紹介は終わった。

 

 

「ねえねえ、姫さん」

 

『早速略すとは、不敬な童よのう。何じゃ』

 

「ぼく、明日絶対に負けたくないデュエルがあるんだ」

 

『ほう?』

 

「だから──どうか、力を貸して!」

 

『いいだろう』

 

 鋭い八重歯を見せ、姫は獰猛な笑みを浮かべる。

 

『貴様を勝たせる。だがその対価として、勝った暁には我が下僕となるのじゃ!』

 

「え、それはヤ……」

 

『なんじゃとう!?!?』

 

 

 

 

 







ショタ……真っ直ぐだが無知。
姫…………ひねくれていてムチムチ。
召使姉妹…たぶん次出てくる。クールで仕事のできる姉と、元気で悪戯のできる妹。メスガキ。


続くかどうかは気まぐれです。
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