Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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平和だが慌ただしい

あれから暫くして無事帰宅したララと茶々丸。買ってきた日用品などを整理した後、気を利かせてくれた茶々丸が夕食を作ってくれることになった。今はキッチンで料理をする茶々丸をララが横から見学している。二人の後ろ姿を見ていると、もうすっかり仲良くなれたようだ。少し離れた位置から二人の様子を窺っていた祐は優しく笑った。

 

「茶々丸上手だねぇ」

 

「ありがとうございます。私の場合、毎日行なっていることですから」

 

「毎日作ってるんだ、私は一回もないや」

 

「そうなのですか?」

 

作業の手を止めてララの顔を見る茶々丸。見えた表情は不満そうなものだった。

 

「何度かやろうとしたことはあるんだけどね、でも危ないからってやらせてもらえなかったの」

 

「なるほど」

 

(ララ様はたとえ料理であっても何を仕出かすか未知数ですからね…)

 

会話を聞いていたペケは心の中で呟いた。ララが作り出した発明品で騒動が起きたのは一度や二度ではなく、そこからも彼女が生粋のトラブルメーカーであることは王室で周知の事実であった。従って料理などもさせてはもらえなかったようだ。彼女が王女であり、させる必要がなかったというのもある。

 

 

 

 

 

 

それから夕食が出来上がるとテーブルを囲んで三人で食事を始めた。茶々丸の料理をララはかなり気に入ったようだ。そのとき美柑の料理とどちらが好きかと意地悪な質問が祐の頭を過る。しかしそれを言ったが最後、結局は己の首を盛大に絞めることになるのは明白だった為その言葉は飲み込んだ。

 

「ここまでやっておいてもらって今更だけど、姉さん達は大丈夫?」

 

「はい、遅くなるかもしれないとお伝えしましたら今日は自分達で用意すると」

 

「あら珍しい」

 

チャチャゼロに関しては料理などからっきしではあるが、エヴァはできないわけではない。普段茶々丸がいるのと本人の性格も手伝って滅多にすることはないが、それでも困らない程度にはこなせるのだ。

 

「久し振り過ぎて爆発とかさせてなきゃいいけど」

 

「流石にそこまでのことはないと思いますが…」

 

「姉さん達って、祐と茶々丸お姉さんがいるの?」

 

「血は繋がってないけどね、小さい頃から世話になってる人なんだ」

 

「へ~、どんな人?」

 

「凶暴で猛獣みたいな人だよ」

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

夕食の片付けも終わり、茶々丸もエヴァの家へと帰っていった。その後ひと段落したララから一緒に風呂に入ろうと誘われるが、そこは確固たる意志をもってお断りする。彼女の護衛を買って出た身でもあるし、何よりララはデビルーク星の王女なのだ。仮に周りにバレた場合、ついやっちゃいましたで済むような相手ではない。正直彼女との距離は測りかねている。ララはグイグイ押してきている気がするが、自分は考え無しにそれを受け入れるわけにもいかない。

 

ララが入浴中である今、祐は布団を用意していた。当初自分はリビングで寝ようと思っていたが、それを見たララの表情が如何にも不満そうだったので同じ部屋に布団を敷くことに。押しに弱いとは自分でも思う。

 

「お風呂上がったよ〜」

 

丁度準備も終わったところでララがペケを抱えて部屋に入ってきた。着ているのは今日買ったパジャマで、ピンク色の可愛らしいものだった。

 

「ユウのお家はベッドじゃないんだね」

 

「昔から俺は敷布団派でね。それにこっちの方が場所も取らないから楽なんだ」

 

「へ〜」

 

するとララは敷布団を見てソワソワとしだした。どこか獲物に飛びつこうとする猫のようである。

 

「どったの?」

 

「ねぇユウ、飛び込んでみてもいい?」

 

そういうことかと祐は笑う。本当にお転婆なお姫様だ。

 

「どうぞ、ただ変なとこぶつけないように気を付けてね」

 

「うん!それっ!」

 

布団に向かって勢いよく飛び込んだララ。その身体が布団に包まれたのと同時、ペケの「ぐえっ」という声が聞こえた気がするが大丈夫なのだろうか。ララ本人は布団の柔らかさにご満悦だ。

 

「ふかふかしててきもち〜」

 

「んじゃ俺も風呂入ってくるよ、ゆっくりしてて」

 

「は〜い」

 

寝転がったまま手を上げるララを確認し、祐も風呂場へと向かう。

 

少しして祐が風呂場から部屋へと戻ると、すっかり大人しくなったララが眠っていた。

 

「おっと、もう寝ちゃったか」

 

「ユウ殿がお風呂場に向かわれてから、すぐに睡眠に入られました」

 

祐の独り言にララの枕元で座っていたペケが答える。なるべく音を立てないよう、祐は自分の布団に座った。

 

「麻帆良を見て回ったのが良い運動になったかな」

 

「かもしれませんね、随分と楽しんでおられましたから」

 

ララは安らかな表情で眠りについている。正直言うと早めに眠ってくれたのにほっとしていた。彼女の裏表のない素直で純粋な性格は、隠し事の多い自分にとって強敵だ。ララと話しているとつい余計なことを口走りそうになる。それなりに気を使わなければすぐに襤褸が出てしまいそうになるのは千鶴を思い起こさせた。

 

ララは美しい。それは見た目だけの話ではなく、その心の在り方も。自分のような奴があまりその内面に入り込んでいい存在ではない。きっとよくない影響を受けてしまう。

 

「ユウ殿、一つお聞きしたいことが」

 

「ん?どうぞ」

 

「この星、地球はユウ殿から見てどれ程平和な星だと思われますか?」

 

ペケがした質問は、ララが眠った今だからこそ聞いてきたものだろう。祐にはそんな気がした。

 

「嘘を言ってもしょうがないからはっきり言うけど、とんでもなく不安定な星だね」

 

「…そうですか」

 

考え込む姿勢をとったペケから驚きは感じなかった。どこかでこの返答を予想していたのか、それとも最悪の場合を覚悟していたのかは分からない。

 

「この半年足らずで俺自身何度も戦った。相手は人間から妖怪だったり宇宙人だったり、魔族や古代の怪獣もいた。騒動や事件が最近目に見えて増えたんだ。侵略戦争の時に比べればまだマシだけど、アレと比べたってしょうがない」

 

「それらは地球の何かに引き寄せられたのでしょうか?」

 

「どうだろうね、そこまでは判断できないな」

 

異質な存在を呼ぶ何かが地球にあるのかは定かではない。だが言ってしまえばこの次元自体が歪なものなのだ。何があったところで今更驚きはしない。

 

「まぁ元も子もないこと言えば、あらゆる次元が入り乱れるこんな世界に安全な場所なんてもんはないよ。多少の差はあれどね」

 

「本当に元も子もないですね…仰る通りですが」

 

ペケが頭を摩った。多次元侵略戦争という常軌を逸した戦争が起きてからというもの、全ての世界は大きくその姿を変えた。祐の言った通り、もうどの次元であっても絶対に安全と言えない。

 

「また、戦争になると思われますか?」

 

「可能性はゼロじゃない。けどもし仮に世界がそっちへ進もうとしているなら、なんとしても阻止する。あんなことは、後にも先にもあの一回で充分だよ」

 

「あの戦争を、数あるものの一つにしちゃいけない」

 

暗くなってしまった部屋の空気を振り払う為に表情を柔らかくした祐が手を鳴らした。

 

「さ、こんな話はここまで。俺達も寝よう、ペケも今日は疲れたでしょ?」

 

「お恥ずかしながら、そろそろ限界です」

 

目を擦ったペケがララの布団の中へと入っていく。眠っているララは自然とペケを胸元に抱えた。恐らく普段からそうして寝ているのだろう。

 

「それではユウ殿、おやすみなさいませ」

 

「おやすみペケ」

 

布団に入ったペケもすぐに眠りについた。室内は再び静かになる。ララ達の寝顔を確認し、祐は立ち上がって一人外に出る。少し夜空を見たい気分だった。

 

 

 

 

 

 

次の日。朝食の最中にララには今日からリトの家で暮らしてもらうと話をした。泊まったものの自分がうっかりすぐ寝てしまったことが不満だったのか、少し渋った様子のララだったが納得はしたようだ。彼女には自分が帰ってくるまで家に居てもらうことにして、祐は学園に向かった。祐を見送ったララはテレビをつける。そこで流れるCMは新型スマートフォンのものだ。

 

「やっぱりこれが地球の通信端末なんだね」

 

「この形が主流のようですね」

 

「暇だし私専用を作っちゃおうかな」

 

そう言ったララはどこから取り出したのか、片手サイズのスティックのような物を持った。その『万能ツール』を使用してスマートフォンと思われる物を作り上げていく。

 

「ララ様、ここはユウ殿のお家なので爆発させないで下さいね…」

 

「大丈夫!取り敢えず通信機能しか搭載しないから!」

 

 

 

 

 

 

教室に着いた純一は周囲と挨拶を交わしていると、既に席に着いている祐の背中を見つけた。

 

「おはよう祐、今日は早いんだね」

 

「おお純一、おはよう。やっと落ち着いてきたもんでね」

 

「そりゃ良かった」

 

そこで祐がこちらの顔を見つめていることに気が付く。純一は首を傾げた。

 

「どうかした?」

 

「純一、ちょっと耳かしてくれ」

 

手招きをする祐を不思議に思いながら、素直に耳を近づける。すると祐は小声で話し始めた。

 

「梨穂子が少し前に告白されたって知ってたか?」

 

「は!?」

 

思わず飛び退いて祐の顔を確認する純一。付き合いの長い純一には分かる、この顔は嘘を言っている時のものではない。

 

「い、いったい何時!?」

 

「そこまでは知らん、一応結果を言うと梨穂子は断ったそうだ」

 

「そ、そんなことが…」

 

「そして明日菜は中等部時代に告白されたことがあるらしい」

 

「えぇ!?」

 

「更に木乃香も少し前に告白されたそうだ」

 

「木乃香まで!?」

 

怒涛の勢いで放たれる驚愕の事実に純一は脳の容量を越えそうであった。そして一人名前が上がっていない人物を思い出す。

 

「因みにあやかは?」

 

「そこが気になってるとこなんだよ、あやかだけはまだ不明でな」

 

しかし明日菜達が告白されているとなると可能性としては充分にある。それにあやかは財閥のお嬢様でもあり、自分達の中では一番外での付き合いも多いのだ。

 

「本人に直接聞くのは…なんというか憚れるし」

 

「それ明日菜にやったらひと悶着起きたからやめた方が良いと思う」

 

「やったのか…」

 

 

 

 

 

 

続々と集まり始めるA組。自分の席に明日菜が荷物を置いていると、横からあやかが話し掛けてきた。

 

「明日菜さん、今日は貴女が日直ですわよ」

 

「げっ、マジ?」

 

「マジです。こちら当番日誌ですわ」

 

手渡された当番日誌を受け取る明日菜。その顔は面倒だという感情を隠そうともしていない。

 

「まったく、偶にはクラスの為に一仕事くらいなさい」

 

「う、うるさいわね…」

 

ぺらぺらと日誌を捲りながら明日菜はあやかを見た。視線に気づいたあやかも明日菜を見返す。

 

「…なにか?」

 

「いや別に、何ってわけじゃないんだけど…」

 

「貴女らしくもない、何かあるのならはっきり言ったらどうです」

 

あやかに言われて明日菜は後頭部を掻いた。こんなことが気になるのも祐のせいだと八つ当たりを心の中でしながら意を決して口を開く。

 

「その、委員長ってさ…告白されたことある?」

 

「……え?」

 

その言葉を最後に二人揃って黙ってしまった。言ってしまった後だが明日菜は非常に気まずい。あやかの顔を確認すると完全に固まっていた。しかし少しずつ顔が赤みを帯びてくる。

 

「な、何を聞くかと思えば!いったいどういうつもりですか!?」

 

「あんたが言えって言ったんでしょ!で!どうなのよ!」

 

ここまで来たらもう進むしかないと自棄になった明日菜が更に聞き直した。あやかの視線は四方八方に飛ぶ。この反応は知っている。明日菜も取った行動だからだ。

 

「…あんのね」

 

「あ、それはその…んん!この私の美貌と頭脳を持ってすれば当然でしょう!困ったものですわ、お断りするのも楽ではないと言うのに!」

 

こちらも自棄になったのか潔く認めた。それと恥ずかしさを隠す為にわざと大袈裟な態度を見せる。結果としては言いながらどんどん恥ずかしさが増していた。

 

「よく自分でそんなこと言えるわね…」

 

「お黙りなさい!貴女のせいでとんだ辱めを受けましたわ!」

 

「後半に関してはあんたが勝手に言ったんでしょうが!」

 

「またあの二人喧嘩してんの?」

 

「朝から元気だねぇ」

 

二人の言い合いはクラスにも聞こえ始めていた。言い合いに発展した話の内容が聞こえていなかったのは運が良かったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

本日も無事に学生生活は終了し、荷物を纏めたララと共に祐はリトの家へと向かっていた。帰宅後ララが自分で作ったと手に持ったスマホを見せにきた時は驚いたが、彼女にとって通信機器を作成するのは大したことではないのだろう。どこの電波を拾っているのか等、気になる部分はあるがともかく連絡先を交換する。

 

「もしも~し!」

 

「面と向かって電話するのは初めてだよ」

 

「この端末を作ってからずっと連絡したがっていたので…」

 

そんなことをした後、結城家に着いてリトと美柑に迎えられる。改めての挨拶を終え正式にララはこの家で暮らしていくことになるのだ。無事送り届けたので長居も悪いと自宅に帰ろうとする祐。リト達が見送る中、何故かララの瞳は潤んでいた。

 

「ユウ…また絶対泊まりに行くからね…!」

 

「あの…ララさん、俺達別に会えなくなるわけじゃないんだから」

 

「これから会おうと思えば毎日学校で会えんだろ…」

 

祐とリトは若干呆れ顔である。美柑は苦笑いを浮かべながらララの背中を摩っていた。

 

「リト、美柑ちゃん。ララさんをよろしくね」

 

「おう」

 

「任せてください」

 

「それじゃみんな、また」

 

手を振ってその場を後にする祐。その背中が見えなくなると玄関を閉めた。

 

「う~…寂しい…」

 

「よしよし。ほらララさん、家の中案内するから一緒にいこ?」

 

「いく~…」

 

ララと手を繋いで美柑が二階へと向かった。リトは腕を組んで息を吐く。

 

「一日泊まっただけなのに重症だなこりゃ」

 

「ララ様は随分とユウ殿に懐いておられましたからね。どこかユウ殿を兄のように感じていたのかもしれません」

 

「祐を?あ~、でもあいつ面倒見がいいとこはあるからなぁ」

 

「それにララ様は妹君がお二人おられますが、兄や姉がおりません。ですから昔からそういった相手に憧れている部分があったように思います」

 

「なるほどな」

 

どうやらララは長女といった立場上、甘えられる相手がいなかったらしい。それが余計に祐へ懐くきっかけになったのだろうか。少しララが気落ちしていたのが心配だったが、夕飯を食べる時にはすっかり元気になっていた。そちらの方が良いのは間違いないのだが少々釈然としないリトだった。

 

 

 

 

 

 

土日を挟み、月曜日を迎えた麻帆良学園。遂に本日からララが正式に生徒として転入してくる。転入先はリトの所属している1年C組であり、そのことを知るリトは一人落ち着かない心境をなんとか隠していた。ホームルームの時間となり、C組の担任である葛木宗一郎が教室に入ってくる。

 

「本日よりこのクラスに海外からの留学生が転入することになった」

 

相変わらず言葉数の少ない宗一郎だが、その一言だけでクラスがざわめきだした。遂にきたかとリトが身構える。

 

「日本語は堪能のようだが、色々と勝手が違って戸惑うこともあるだろう。その際は皆、手助けしてやってほしい。入ってくれ」

 

「は~い!」

 

廊下で待機していたのであろう留学生の返事が聞こえてくる。少女と思われるその声に男子の期待はぐっと高まった。やがて扉を開けて入ってきたララは教壇に立つ。その姿が見えた時から現在に至るまで、クラスの視線はララから片時も離れなかった。絶世の美少女の登場となれば当然の反応ではある。

 

「自己紹介を」

 

「ララ・サタリン・デビルークです!今日からよろしくお願いしま~す!」

 

元気よく挨拶をするララ。一瞬間を置いてからクラスがわっと盛り上がった。

 

「やばっ、めちゃくちゃかわいい子がきた!」

 

「ひゃ~、モデルさんみたい」

 

「C組最高だぜ!」

 

「こいつは戦力の大幅強化だな!」

 

「戦力ってなんだ」

 

普段あまり騒ぐことのないC組もララの登場に他クラスに負けない勢いを見せる。その声は当然周辺のクラスにも聞こえていた。

 

「なんか盛り上がってるね」

 

「B組?」

 

「いや、この感じは…C組だね」

 

「へ~以外なとこ」

 

(なんで分かんだよ…)

 

同じくホームルーム中であったA組にもC組の余波が伝わったようだ。教壇に立っていたタカミチも反応する。

 

「今日C組に留学生の子が来ることになってたんだ。恐らくそれが関係してるんじゃないかな?」

 

「ほほう、留学生とな?」

 

「後でインタビューしてみるか」

 

「そうやってまたある事無い事書くつもりか!」

 

「書かんわ!失敬だぞ!」

 

「このゴシップパイナップル!」

 

「誰がゴシップパイナップルだ!」

 

「じゃあスタンド使い!」

 

「は?……さよちゃんのことか!」

 

「え、私がどうかしました?」

 

本日も平常運転のA組。そんな中木乃香が明日菜に耳打ちする。

 

「留学生ってララちゃんやろか?」

 

「たぶんそうじゃない?」

 

遅くても来週には通うことになると言っていたし、ほぼ間違いなくララだろう。この騒ぎも見た目から何から話題性抜群な彼女が関係しているのなら納得である。

 

「休み時間にちょっと見に行かへん?」

 

「まぁ、挨拶ぐらいはしておいてもいいわよね」

 

 

 

 

 

 

ホームルームも終わり、一時限目の前。既にララの周りにはクラスメイトが集まり質問をしていた。

 

「じゃあずっと海外暮らしだったんだ」

 

「でも日本語上手だね」

 

「結構勉強したんだ。でもまだ文字は自信ないから、色々教えてね」

 

理沙や未央達の質問に答えるララ。少し離れた自分の席から何かおかしなことを言いはしないかと、リトは聞き耳を立てていた。そんな彼に猿山が肩を組む。

 

「リト~、俺達もララちゃんのとこ行こうぜ?」

 

「いや、俺はいいよ。なんか賑わってるし」

 

「そんなつまんねぇこと言うなって。せっかくの美少女留学生なんだぞ」

 

会話をしつつリトは再びララを見た。この僅かな時間でもララはクラスメイトと円滑なコミュニケーションを取っている。祐も言っていたが、これなら学園生活に関しては心配しなくても良さそうだ。

 

「今は何処に住んでるの?」

 

「今はリトの家に住んでるよ!」

 

その一言に賑わっていたクラスが静寂に包まれた。リトは顔面蒼白である。口裏を合わせていなかったのを今になって思いだしても後の祭りだ。

 

「え…今なんて…」

 

「私、リトとミカンと一緒に暮らしてるの!」

 

クラス中の視線がリトに向けられる。女子からは驚愕の表情が見て取れるが、男子からは怒りを感じる。肩にあった猿山の手の力が強くなった。

 

「リト君、どういうことか…説明してくれるよね?」

 

「……」

 

顔を近づける猿山と少しずつリトとの距離を縮めていく男子勢。リトは身の危険を感じ、一瞬にして加速をすると教室から飛び出した。

 

「逃げたぞ!」

 

「あいつはクロだ!」

 

「ひっ捕らえろ!」

 

大半の男子が逃げたリトの後を追う。人が少なくなった教室でララが首を傾げた。

 

「みんなどうしたの?追いかけっこ?」

 

「まぁ、追いかけっこではあるわね」

 

「ふ~ん、私も見てこよっと」

 

「え?」

 

リト達を追ってララも教室から出ていってしまった。他の生徒達は困惑しながら見送る。

 

「まったく、うちのクラスは他と比べてまだ大人しい方だと思っていたのだがな…」

 

「なんだかリトのやつ大変そうだな」

 

離れた位置から一連の流れを見ていた一成と士郎が呟く。一成はこれから頭を悩ませる要素が増えたことに薄々気付き始めている。そしてそれはC組の委員長を務める少女も同様であった。

 

(ララ・サタリン・デビルーク…間違いなく要注意人物ね)

 

 

 

 

 

 

「待てよ結城!」

 

「少し話そう!」

 

「なら鬼気迫る表情で追ってくるんじゃねぇ!」

 

廊下を全力で駆け抜けるリトと男子達。リトは運動神経が非常に高いのだが、そんな彼に男子は執念だけでなんとか食らいついていた。しかその差は埋まらず、B組の教室前を抜けてA組も通り過ぎていったリト達。騒ぎを聞いたA組が教室のドアから廊下を覗く。

 

「今度はなんだろう?」

 

「先頭の人が追われてた感じしたけど」

 

「今のリト君やなかった?」

 

「何やってんのよあいつ…」

 

先頭を走っていたリトを見て明日菜が困惑する。謎の集団が嵐のように過ぎ去った廊下を眺めていると、一足遅れてララが歩いてきた。A組と同じようにドアから廊下を見ていたB組もララの姿に目を奪われている。A組の視線も現れたララに集中した。

 

「なんだあの美少女!?」

 

「見たことない子だ」

 

「てことはあの子が噂の留学生?」

 

辺りを見回しながら廊下を歩くララと教室からこちらを確認する明日菜達の目が合う。一瞬で笑顔を浮かべたララは手を振りながら駆け寄ってきた。

 

「明日菜!木乃香!」

 

「やっほ~ララちゃん」

 

手を伸ばすララの両手を木乃香が握る。どちらも嬉しそうな様子に明日菜が少し笑った。

 

「留学生ってやっぱりララちゃんやったんや」

 

「うん!私も今日から正式に麻帆良学園の生徒だよ!」

 

「いらっしゃいララさん、歓迎するわ」

 

「ありがと~明日菜!」

 

流れるように明日菜に抱きつくララを少し驚きながら受け止めた。出会った時から思っていたが感情の表現が直球且つ大胆だ。

 

「あれ、刹那は?」

 

「せっちゃ~ん、ララちゃんが呼んどるよ」

 

「ど、どうもララさん…」

 

「刹那!今日から同級生だね!」

 

「そ、そうですね…私も嬉しいです」

 

勢いよく距離を詰めてくるララは、刹那の人生ではあまり見ないタイプの人物だった。決して嫌いではないが、どう反応したらいいのか困ってしまうところがある。

 

「明日菜!誰よその子!私達そっちのけで仲良くして!」

 

「そうだよ!私達の方が長い間付き合ってきたのに!」

 

「なんか言い方おかしくない!?」

 

置いてきぼりを食らったハルナとまき絵が明日菜の肩を掴んで引き寄せた。謎の嫉妬である。

 

「もう刹那さんを落としたのか⁉」

 

「私達だってまだなのに!」

 

「落としたとはなんですか風香さん史伽さん⁉」

 

ララと刹那が自分達より仲が良さそうに見えた鳴滝姉妹がショックを受けたようだ。

 

「見せつけるように抱きついちゃってさ!」

 

「私達にはもう飽きたっての!」

 

「だからなんの話よ!」

 

裕奈と美砂も同じように悪ノリをしだした。こうなるともう止まらない。

 

「ララ君といったね?うちの明日菜達とはどういった関係なんだ」

 

「明日菜達とは友達だよ!」

 

「私だって友達だ!」

 

「なんですかその張り合い方は…」

 

クラスの何人かがララに対して正体不明の対抗意識を燃やし始めていた。ただ盛り上がる為の口実にしているだけの可能性は高い。

 

「これは負けてらんないよ!木乃香ちゃん!私とも手を繋ごう!恋人繋ぎだ!」

 

「ええけど裕奈どうしたん…?」

 

「私はキスだってできるんだから!ほら明日菜!ちゅーするわよちゅー!」

 

「なにすんのよ!」

 

「ブッ!」

 

困惑しながらも裕奈と手を繋いだ木乃香に反して、明日菜の顔を手で固定し唇を突き出しながら迫るハルナにはビンタが炸裂した。これもある意味気心が知れた間柄だからこその行動と言えなくもない。

 

「DVだ!これはDVよ!」

 

「違うと思うけど…」

 

「ワオ!ドメスティックバイオレンス!」

 

「急にどうした桜子⁉」

 

「たぶん言いたかっただけでしょ」

 

「皆さんおやめなさい!留学生の方も迷惑しておりますわ!」

 

暴走するA組を今まで静観していたあやかが止めに入る。そのあやかを見てララが顔を近づけてきたので、思わず身構えてしまった。

 

「な、なんでしょうか…?」

 

「貴女も見たことある!ユウの幼馴染でしょ!」

 

出てきた名前に他のメンバーも不思議そうな顔をする。あやかの幼馴染で『ユウ』となれば一人しかいない。

 

「えっと…逢襍佗祐さんをご存じなのですか?」

 

「勿論!あっ、ユウって今どこに居るの?」

 

「恐らくB組の教室だと思いますが…」

 

「そうなんだ、ありがとう!ちょっと行ってくる!」

 

手を振ったララはその場を去ってしまった。困惑しながら後姿を見送る一同。ララは走ってB組の教室に突撃していく。一方ララの様子を窺っていたB組は突然の来訪に驚いていた。

 

「あの子こっちに来てないか?」

 

「俺に会いに来たのでは!?」

 

「下がってろカス」

 

「なんだとテメェ!」

 

廊下側で騒ぐ生徒達も特に気に掛けることなくララがB組の教室内を確認する。しかしそこに祐の姿はなかった。もう一度確認した後、あやかの元に戻ってくる。

 

「ユウ居なかった~」

 

「そ、そうですか…」

 

なんと言っていいか分からず、取り合えず一言返したあやか。件の祐は少し前から騒動を予感しており、その正体も大方分かっていたので人知れず姿をくらましていた。

 

「あっ!茶々丸もいる!この前はありがとう!」

 

「いえ、お気になさらず」

 

「茶々丸とも!?」

 

「なるほど…これが尻軽というやつアルね!」

 

「くーふぇさん、流石にその発言は失礼です…」

 

「しりがるってなに?」

 

「尻軽と言うのは」

 

「茶々丸さん!説明しなくていいから!」

 

「そもそも誰や、くーちゃんにこんな言葉教えたんは…」

 

再び騒がしくなったところで亜子がそう言いながら周囲を確認する。一人だけ口笛を吹いて明後日の方向を見ている美空が犯人だとすぐに察した。仮にシャークティがこのことを知れば説教待ったなしである。

 

その時ベランダにいたエヴァが教室に戻ってくる。いつもに増して騒がしいなと思っていたが、その原因であろう者を見つけた。記憶にない人物であるララに探るような視線を向けていると、ララもエヴァを見つめ返す。近くにいた明日菜にエヴァが聞いた。

 

「誰だこいつは?」

 

「ああ、エヴァちゃん。この人は」

 

「初めまして!私ララ!貴女もこの教室の人?」

 

「…そうだが」

 

(こいつが例の宇宙人か)

 

「ちっちゃくて可愛いね!」

 

「なんだ貴様!」

 

「まぁまぁ、エヴァちゃん落ち着いて…」

 

明日菜がエヴァを宥めている隙に二人の間を取り持つ為、周りには聞こえないよう茶々丸がララの耳元に寄って小声で伝える。

 

「ララさん、この方が先日話していたエヴァンジェリン様です」

 

「この人がそうなんだ、確か凶暴で猛獣みたいな人なんだよね!」

 

「本当になんだ貴様!」

 

(この人も結構失礼ですね…)

 

一時限目担当の教員達が一年の各教室にやってくるまで、このよく分からない騒動は続くことになる。そして授業が始まる際、しれっと祐は自分の席に座っていた。

一番好きな章は?

  • 序章・始まりの光
  • 幽霊と妖怪と幼馴染と
  • たとえ世界が変わっても
  • 消された一日
  • 悪魔よふたたび
  • 眠りの街
  • 旧友からの言葉
  • 漢の喧嘩
  • 生まれた繋がり
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