Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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先行き不透明

[この時期から雪が降っているのは珍しい気がしますが]

 

[そうですね、今年は例年よりも早い段階から雪の降る地域が多くなっています。積雪に備えた準備は早め早めにしておくのがいいでしょう]

 

11月が半分を過ぎた平日。朝食を食べながら見ていたテレビでは、アナウンサーと気象予報士がそんな会話をしていた。焼いた食パンに大きく口を開けてかぶりついた美也の視線が画面に向く。

 

「確かに今年って去年より寒い気がするなぁ~、お布団から出るのも一苦労だよ」

 

やれやれといった様子の美也の向かいに座る純一は少し驚いた表情をしていた。

 

「にぃに、何その顔?」

 

「まさか儀式が?いや、それともごぼうガールの力なのか…?」

 

「お母さん、にぃにがまた変なこと言ってる」

 

「いいからご飯食べちゃいなさい」

 

「は~い」

 

 

 

 

 

 

「うひゃ~、さむっ」

 

登校の為に玄関のドアを開けた夏美が吹いてきた風に身を震わせる。続いて出てきた千鶴とあやかも寒さを肌で感じた。

 

「今日は曇だし、余計に寒く感じるわね」

 

「まだ真冬でもないというのに、体調管理に注意ですわ」

 

鍵を閉めて階段を下り寮から外に出る。その間に鉢合わせたクラスメイトと共に学園を目指した。

 

「あっ、見て見て!もう白い息出るよ!」

 

桜子が息を目一杯吸って勢いよく吐き出すと見ていた周りから「お~」と声が上がる。

 

「冬って感じ」

 

「負けないぞ~!僕の方が強く出してやる!」

 

何人かが息を吐いて気霜を楽しむ。これだけのことで盛り上がれるのはある意味流石と言えるかもしれない。

 

「おっ、風香怪獣みたいだね」

 

「がお~!パルを食べちゃうぞ~!」

 

「来るかちびっ子怪獣!あのでかいのに比べたら可愛いもんよ!」

 

「そう言えばあんた直接の被害者だったわね」

 

怪獣事件のことを思い出し、全員がどこか懐かしさを感じていた。まだ半年も経っていないが、この一年は色々と話題に事欠かなかったことが関係しているのだろう。

 

「虹の光でぶっ飛ばしてやるわ!」

 

「やめろよ!僕が宇宙に飛んでっちゃうだろ!」

 

はしゃぐクラスメイトを見てあやかがため息をついた。

 

「まったく…朝から元気なのはいいですが、もう少し落ち着きがあった方がよろしいですわよ」

 

「いいじゃないあやか、賑やかな方が楽しいでしょ?」

 

「賑やかすぎるのが問題なんです」

 

こんな寒空の下でよくはしゃぐものだと八割の呆れと二割の羨ましさを感じる。そして千鶴は幼い子供を見守るお姉さんだった。

 

そんな時、あやかは冬が好きで寒くなってくると日によってはテンションが二割増しになる幼馴染を思い出す。このタイミングで思い出したことに少々嫌な予感がしつつ、深く考えないようにと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

麻帆良学園の敷地内には路面電車が通っており、通学などで使われている。本日も満員の路面電車にあやか達は乗っていた。のどかが手すりに掴まりながら流れる景色を眺めて言う。

 

「偶には路面電車もいいね」

 

「そうね、ここから歩いてる人見てるのは気分がいいもんね」

 

「そ、そんなつもりはないんだけど…」

 

「全員がそんな穢れた考えをしてはいませんよ」

 

「穢れと言ったか貴様」

 

物事の感じ方は人それぞれでも、こうも違いがあるものかとのどかは朝から考えさせられていた。

 

[間もなく麻帆良学園前、麻帆良学園前]

 

車内放送が流れ、乗っている学生達が降車の準備を始める。今日も一日、学園生活が始まるのだ。

 

[お降りの際はお忘れ物をなさいませんようご注意ください]

 

[運転士さん、今日って結構寒いと思いませんか?]

 

突然運転士とは別の声が放送で流れてくる。不思議そうな顔をする学生達とは別に、何人かには聞き覚えのある声だった。

 

[え?あ~、そうですね]

 

[こうも寒いとテンションが上がるというか、辛抱たまらなくなりますよね]

 

[えぇ…]

 

「…この声祐君じゃない?」

 

「何やってんの逢襍佗君…」

 

A組が声の正体に気付き始める前、第一声の時点であやかは祐だと分かっていた。これ以上おかしなことを仕出かす前に止めに行きたいのだが如何せん人が多い為、ここをかき分けて最前列に行くのは厳しいものがある。

 

[あ~、興奮してきたな…一曲歌っていいですか?]

 

[えぇ…]

 

[お前と会った仲見世の~煮込みしかないくじら屋でー!]

 

[えぇ…]

 

「熱唱してるわね」

 

「これなんの歌?」

 

「いいぞ~!歌え歌え!」

 

運転士は終始困惑だが学生達にはかなりウケているようだ。結局そのまま路面電車が学園前に着くまで祐のゲリラライブは続いた。降車後しっかりあやかに折檻を受けたのは言わずもがなである。

 

 

 

 

 

 

「てことがあったの」

 

「バカじゃないの?」

 

朝の教室で桜子からその時の話を聞いた明日菜は思わずそう言った。相変わらず祐に対して遠慮のない発言だ。

 

「でもけっこう上手だったよ?」

 

「いや知らないわよ…」

 

「今度カラオケ誘ってみようかな~、明日菜も行こうよ」

 

「えっ、カラオケか~…」

 

あまり反応の芳しくない明日菜に桜子が首を傾げる。

 

「カラオケ嫌いだったっけ?」

 

「嫌いって言うか…人前で歌うのがちょっと…」

 

「そういえば明日菜の歌って聞いたことないかも」

 

「も~、明日菜は恥ずかしがり屋さんだなぁ」

 

「は、恥ずかしいもんは恥ずかしいのよ!」

 

「大丈夫だって、誰も明日菜の歌ちゃんと聞かないから」

 

「それはそれでムカつくんだけど、これ私が悪いの?」

 

軽い調子で安心させようとしたつもりの美砂だが、これでは「じゃあいいか」とはなれない。

 

「別に上手い歌を聞きにいってるわけじゃないんだから、あんなの楽しんだもん勝ちだって」

 

「ウチは明日菜の歌好きやえ?」

 

「へ~、木乃香聞いたことあるんだ」

 

「あっ!ちょっと!」

 

その時の光景を思い出しているのか、木乃香はにっこりと笑った。

 

「むか~しやけどね。そんときも恥ずかしそうに歌っとって、えらい可愛かったわ」

 

「あはは!微笑ましいじゃん!」

 

「うるさい!」

 

「ではそんな恥ずかしがり屋な明日菜の為にお手本を見せましょう、かましてやってよ楓さん!」

 

「裕奈が歌うんやないんかい」

 

「やれやれ、仕方がないでござるなぁ」

 

「意外と乗る気や!?」

 

いきなり流れ弾を受けた楓だったが、当の本人は満更でもなさそうである。席から立ちあがり咳払いをした。

 

「それでは拙者の十八番である『ニンジャ! 摩天楼キッズ』を」

 

「なんの歌…?」

 

「分かんない…」

 

「やめろ下手くそー!」

 

「金返せー!」

 

「せめて聞いてから言うでござる!」

 

飛んできた野次に楓は滅多に見ることができない怒ったような表情を浮かべた。本気でないことは周りも分かっているので笑いが起きている。熱くなった顔を冷ます為に手で扇ぎつつ、これは近いうちにカラオケに行くことになりそうだと予感する明日菜だった。

 

 

 

 

 

 

その日の夜。自宅でくつろいでいた祐のスマートフォンがメールの通知を受けた。画面を確認して返事をすると、今度は着信音が鳴る。

 

「はい、こちら逢襍佗」

 

『連絡する度に小ボケをしないと気が済まないのかお前は』

 

「こっちの方が楽しくない?」

 

『そうでもない』

 

「じゃあもういいよ!」

 

『勝手に癇癪を起こすな』

 

連絡相手は真名であり、電話越しに風の音が聞こえる。今いる場所は寮内ではないのだろう、本当に徹底しているようだ。

 

『本題に入るぞ?予定の最終確認だ。向かうのは来週の金曜日、まず宿まで直通のバスが出る駅に集合する』

 

「駅に行くまでの時間はそれぞれずらすんだよね」

 

『その通りだ』

 

あれから決まった諸々の予定を二人は確認し合う。基本的にバス乗車までは真名が指示した通りに動くことになっていた。

 

『よし、大方頭に入っているようだな』

 

「楽しみなことにはいつだって全力であります」

 

『よろしい。それでは当日、くれぐれも時間厳守で頼むぞ』

 

「任せてくだせぇよ、こんなんちょろいもんですわ」

 

『よく分からんが一気に不安になった』

 

その後も少し話をして通話を終了する。一度伸びをして仰向けになると天井を見つめた。待ち遠しい温泉旅行は目前だ。

 

「楽しい思い出になりますように、なんてな」

 

自分で言ったことに鼻で笑った。望み薄であることなど、自分が一番分かっている。

 

ところ変わって夜の高台。スマートフォンの画面を閉じた真名は視線を遠くへと向ける。

 

「さぁ、鬼が出るか蛇が出るか」

 

 

 

 

 

 

「と言うわけで、貴方にはこれから日本に向かってほしいと思いたるのよ」

 

美しい内装の教会と思われる室内で二人の男女が向かい合って話している。女性の方は椅子に座り、リラックスした状態だが男性の方は直立の姿勢で不信感を全面に出した表情を女性に向けている。

 

「例の件なら、既に動いていると聞きましたが?」

 

「その通りだけど、戦力は多いに越したことはないでしょう?ほら、あの国はここのところ荒れているようだし不測の事態に備える為よ。先方には私の方からちゃんと連絡しておくから、心配は無きにつきよ」

 

女性にそう言われても男性の表情は変わらない。それもその筈、彼女の考えに振り回された経験を数えるには両手では足りない程だ。安心など出来るわけがない。

 

「一応お聞かせ願いたいのですが、他に動ける者はいないのですか?こちらは他にもやるべきことがあるので」

 

「調査の末、場合によっては制圧に移行する可能性も考えると貴方が適任なりけるのよ。そういったものが得意たる貴方がね」

 

男性はため息を漏らす。聞きたいことや納得していないことは幾らでもある。だがどうせ聞いたところで肝心な部分ははぐらかされて終わりだ。こんな信用の置けない人物が上司だということに頭痛がした。

 

「分かりました。それでは準備もありますので失礼します」

 

背を向けて足速にその場を離れようとする男性。その背中を見て女性は笑みを浮かべた。

 

「現場で先方に会ったら仲良くしたるのよ」

 

「…善処します、最大主教(アークビショップ)

 

立ち止まりはしたが振り向くことなく答える。終始不服な思いを抱えたまま、黒い祭服を着た男は教会から出ていった。

 

今回の件、あまり悠長にしていると嗅ぎつけた魔術協会ないしは聖堂教会に対象を横取りされかねない。現状や今後のことを鑑みても、奴らにお前達の代わりに対応してやったなどとでかい顔をさせたくないのだ。

 

もっと言うと代行者と執行者もあの国に対して行動を起こす機会を窺っているという話を聞いた。この件はそういった意味でも渡すわけにはいかない。こうも面倒な邪魔者が増えたのは、混じり合ってしまったことで生まれた弊害と言える。

 

ただそれとは別に土御門があの国でどんな駒を使用しているのかを探る機会でもある。舌を何枚も持つ男が使う手札は把握しておきたい。運が良ければ芋づる式に掘り出し物などが見つかるかもしれないとも考えていた。

 

「精々拍子抜けさせてくれるなよ」

 

 

 

 

 

 

そして日々は過ぎ11月25日。学園のホームルーム時間を過ぎたあたりで祐は自宅を出発した。気配は感じないが、大事をとって普段から人通りの少ない道を通る。暫くして問題なく駅に到着、そのまま直行バスが出発する駅に向かうことができた。目的地のバスロータリーに着くと帽子をかぶり、スーツケースを横に置いた真名が壁に寄り掛かっている。

 

「どもども、おはようございます」

 

「ああ、来たか。おはよう」

 

挨拶を済ませると二人はベンチに座る。ここは大きな駅だが、平日であり通勤時間帯を過ぎた現在は人もまばらであった。

 

「寝坊はしなかったようだな」

 

「寧ろ一睡もできませんでした!」

 

「お前の体力は底なしなのか?」

 

夜通し起きていたとは思えない程本調子に見える祐。これも力が関係しているのだろうかと真名は考えていたが、あの光に関しては考えるだけ無駄だと頭から消した。

 

「そうだ、これを渡しておく」

 

真名がポケットから取り出したカードを受け取って確認するとそれは身分証明書だった。それだけでもおかしいが、これ以外にも色々と問題がある。そこに写っているのは間違いなく自分でも、名前・生年月日・住所・記載されているもの全てが自分のものではない。

 

「なんだこれ…」

 

「仕事の都合で本名を使うのは得策ではない。お前の分も作っておいた」

 

そう言いながら真名が見せた身分証明書も写真以外は違うものである。

 

「この三日間、お前は佐藤利久(りく)。私は鈴木恵麻(えま)だ」

 

「えぇ…」

 

「よろしく頼むぞ利久」

 

「違和感がすげぇよ」

 

「宿もこの証明書の通りに予約してあるから間違えるなよ」

 

「全部やっておくって言ったのはこれが理由か…」

 

予定を決める他にも本人達ての希望で手続き等は真名が行った。やってくれると言うなら是非そうしてもらおうと、特に深く考えずに任せた結果である。

 

「ここまでするって、いったい何の仕事するつもりなんですか」

 

「そんなことは聞くな。お前はただ旅行を楽しんでいればいい」

 

「気付いたら犯罪の片棒を担がされてた。なんてことになってたら絶対に許さんからな」

 

「それはないから安心しろ」

 

はっきり言って安心など出来るかとしか思えない。さっそく雲行きが怪しくなった。

 

「私達の関係は無難に恋人でいいだろう。それぞれ結婚もできる年ということになっているし、二人きりの旅行でも怪しまれることはない」

 

その言葉に再度証明書に目を通すと、年齢は19歳と記載されていた。真名の方を見ると18歳になっている。

 

「俺の方が年上なのは何か意味があるんですかね?」

 

「別にない。なんだ文句があるのか」

 

(ここは深堀しないのが吉だな)

 

年齢の話題はNGだと学んだ祐はそれ以上聞くのをやめることにした。また一つ賢くなった瞬間である。

 

「この二人は結婚を前提に付き合っているのだろうか」

 

「…それを考える必要性を感じないんだが」

 

「それはつまり遊びってことか!利久君が泣いとるわ!」

 

「知らんわ」

 

正直どうでもいい話を続けていると目的のバスがやってきた。乗車準備をしている中で周囲を見ていると、祐達以外に四組の利用者がいるようだ。基本的に年齢層は高めで恐らく夫婦と思われる。バスのドア前でバインダーを持った従業員が降りてきており、利用者の確認をするようだ。

 

「ほら、行くぞ利久」

 

「へいへい、分かりましたよ恵麻ちゃん」

 

確認を終えてバスに乗り込む二人。大型バスに対して利用者が少ないので、席は好きなところに座れそうだ。

 

「俺が窓際だ!譲らねぇぞ!」

 

「なんだこの彼氏は」

 

滑り込むように陣取った祐を見て呆れる。これが本当の彼氏であったなら別れを考える要因になるだろう。取り敢えず隣に座ると祐が二人の間にある肘置きを左腕で占領し、ふてぶてしくふんぞり返って座っていた。俗に言う王様座りである。

 

「まぁ、広さは許容範囲内かな」

 

「お前の態度は私の許容範囲内から外れそうだぞ」

 

それからひと悶着あったもののバスは出発。目的地である温泉旅館を目指して走り出した。窓から見える景色を終始楽しそうに眺めている祐を横目で見ているとどうにも肩の力が抜ける。これではまるで子供の遠足の付き添いだ。

 

「そう言えば、既に目的地付近は積雪量がなかなかのものらしいな。良かったじゃないか」

 

「そうなんすよ!あの時ごぼうでしばかれた甲斐があったってもんですな!」

 

「何を言っているんだ」

 

ごぼうの話は意味不明だが、かといって深く聞きたいとは思えなかった。それよりも気になる点がある。

 

「利久、お前は基本敬語を使うが私に対してはもっとくだけた口調でいい。私は年下だし、こうして二人で旅行をする仲だぞ」

 

「相手が年下で仲良くても敬語使う人はいるでしょうよ」

 

「だがお前は仲のいい相手にはそうではないだろう。私にもそうしてほしいんだよ、彼女なんだからな」

 

「…分かったよ、それがお望みなら。おい貴様、頭が高いぞ」

 

「高飛車になれとは言っていない。100か0しかないのかお前は」

 

 

 

 

 

 

三時間目の授業を終えた麻帆良学園。明日菜と木乃香が会話をしていると前の席の美空が振り向いて二人を見た。

 

「そう言えば逢襍佗君が今日休みって二人は知ってる?」

 

「へ?そうなん?」

 

「あいつ休みなの?」

 

二人の反応からどうやら知らなかったようだ。美空は体制を変えて逆座りをした。

 

「さっきB組の子と話してる時に聞いたのよ。木乃香はボーリングで一緒になったから知っているか、蒔寺楓ね」

 

「あ~、蒔寺ちゃん。うん、知っとるよ」

 

「美空、その人と仲いいの?」

 

「おんなじ陸上部だからね。由紀香と鐘とも仲いいけどそれは置いておいて、お休みの理由は家庭の事情だってさ。二人は何か話聞いてないかなって思ったの」

 

明日菜と木乃香が顔を見合わせる。家庭の事情という部分が気に掛かるが、一先ず知らないことを伝えた。

 

「ウチはなんも知らんなぁ」

 

「私も。てか美空ちゃん、その座り方結構きわどいわよ」

 

「スケベだなぁ明日菜は」

 

「なんでよ!」

 

明日菜から心配されても特に美空に気にした様子はなく、姿勢はそのままだ。

 

「女の子しかいないんだから別にいいじゃん。それこそ大浴場で裸の付き合いもしてるんだし」

 

「そ、それはそうかもしれないけど…」

 

「もしかして明日菜もリト君と同じくらい恥ずかしがり屋さんなんかな?」

 

「いや、あそこまでじゃない」

 

即座に断言する明日菜。リトは泣いていい。

 

「話戻すけど、どうやら最近休みとか遅れてくることが増えたらしくて心配してるっぽいんだよね。本人はそうは言ってないけど、たぶんあれはそう思ってると見た」

 

「心配してるって、その蒔寺さんが?」

 

「マキは大雑把に見えて結構面倒見いいというか優しいとこあるからね。そう考えるとなんというか所々明日菜と似てるかも」

 

美空が言ったことがよく分からず明日菜は首を傾げた。本人に自分が面倒見がいいという認識はないようだ。しかし木乃香は分かっているようで笑顔を浮かべている。

 

「あとでウチ、祐君に電話してみるわ」

 

「なんか分かったらよろしく。込み入った話だったら私には言わなくて大丈夫です」

 

「それって気を遣ってるでいいの…?」

 

「複雑な事情には近づかない、踏み込まないがモットーなんで」

 

三人がそんな話をしている教室の窓際の席には、いつも通り真名が座っていた。実はこの真名は本物ではなく、刹那に貰った『身代わりの紙型』を使用した分身である。この分身は使用者の腕がよければそれなりに複雑な行動もとれるので、問題なく本物の代わりに学園で生活を行えるものだ。

 

そんな分身真名の背中がつつかれる。振り返ってみると今も人さし指でつついているのはザジだった。

 

「何か用か?」

 

「素晴らしい、そっくりです。私も使ってみたい」

 

「…刹那に頼んでみろ」

 

 

 

 

 

 

現在バスはサービスエリアに停車していた。ここで30分の休憩を取ることになっている。真名がトイレから出てくると、同じバスの利用者である老夫婦と祐が会話をしていた。

 

「兄ちゃん達は恋人かいな?」

 

「そうなんですよ。今年で二年目になります」

 

「あらまぁ、いいわね。どっちから告白したの?」

 

「僕からです。そりゃもう熱烈な愛の告白をしました」

 

「ほ〜、因みになんて言うたんや」

 

「それはこんなとこじゃ言えませんよ!ハハハハハ!」

 

前もって用意していた訳でもないというのに、よくああも次から次へと言葉が出てくるものだと思う。それと同時にこうも感じた、やはり祐は嘘に慣れている。言葉に詰まることもなく、表情も一切崩れていない。きっとこれまでも多くの嘘を重ねてきたのだろう。

 

真名は自然と表情が真剣なものになっていた。相変わらず彼は底が見えない、話す時には気を引き締め直す必要があると考えていると祐は老夫婦とまだ会話を続けていた。あまり放置していると何を言うか分かったものではない。早めに介入しようとそちらに向かい、肘で軽く祐の腕を小突いた。

 

「こら、あまりそんなことを話し過ぎるものじゃないぞ」

 

「おっ、彼女さんじゃないか」

 

呼ばれて老夫婦に会釈をする真名。それを見て祐は笑顔を老夫婦に向けた。人の良さそうな笑顔だ。相手を油断させるには効果的だろう。

 

「こりゃ失礼。彼女のストップも入っちゃったんで、この話はここまでということで」

 

「うふふ、仕方ないわね」

 

祐も軽く会釈をしてその場を後にした。二人は隣り合って歩く。

 

「まったく、よく回る口だな」

 

「話し掛けられたからちょっと話すつもりだったんだけど、ついつい盛り上がっちゃって。楽しそうに聞いてくれるもんだからさ」

 

「悪い男だな、そうやってよく嘘をついているのか?」

 

「人聞きの悪い。ただまぁ…そうだね、よくついてるよ。知ってると思うけど」

 

素直に認めた祐は辺りを見回す。真名はその姿を見つめていると目が合った。

 

「なんか飲み食いする?俺はする」

 

「取り敢えずついていくよ」

 

「おっし、じゃあまずあの唐揚げだ」

 

屋台が並んでいるエリアを指さしてそちらに向かう祐とついていく真名。目的の屋台に着くとメニューが載っている看板を確認する。

 

「良さそうなのあった?」

 

「食べるとしたら私は塩だな」

 

「んじゃそれ二人分頼むか、俺が出すよ」

 

「どうした急に」

 

言いながら注文に向かおうとした祐の背中に真名が聞くと少し笑って答えた。

 

「二人の馴れ初めを赤裸々に語ってしまったお詫びということで」

 

「確かに重罪だな。よし、では次のものは私が選定しておこう。先に行っているぞ」

 

「こいつ、とことんタカるつもりだな…」

 

早歩きで屋台を見て回り始めた真名を見送り、祐は唐揚げを注文する。

 

二人の旅行はまだ始まったばかりだ。

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