Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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想起と後来

5月

埼玉県越谷市で謎の爆発が起きた。犯人、そして犯行理由は不明のまま一ヶ月程が過ぎる。この時はそんなことがあったんだくらいに思ってたっけ。(爆発された市民館には有名な龍の銅像が置かれていた・越谷市は日本で龍が初めて確認された場所でもある)

 

6月

彩湖にあるアウトレットで再び爆発事件が発生。事件の翌日に犯人が声明を発表、犯人は集団であり自らを『トゥテラリィ』と名乗って別次元とそれに関するものが攻撃対象と語った。数日後に開催された別次元ミッドチルダとの会合にトゥテラリィが乗り込むも全員が逮捕される。勿論報道はされてないけどそこには逢襍佗君がいて、トゥテラリィを止めるのに協力していた(アウトレットの爆発の際に現れた虹の光が世間でまことしやかに囁かれ始める。きっとこの事件から色々と動き始めたんだ)

 

我がクラスのバカピンクこと佐々木の下着が盗まれる。最終的に判明した犯人は妖怪であり、その名も『エロ河童』。ふざけた名前と容姿だがこれが本当にいた。後から聞いた話ではなんと二体おり、その両方がネギ君・桜咲・龍宮・そして逢襍佗君によって捕まえられたのだとか。(明日菜と木乃香談。当時では難しかっただろうけど、今だったらもっと詳しく教えてくれるかも?要検証)

 

7月

人が一日だけ行方を眩ませる一日行方不明事件が起きる。こちらの犯人は宇宙人である『エクレル星人』。地球延いては地球人の調査の為に人間を拉致して調べていた。この宇宙人になんと黄泉川先生が捕まり(わざとだったらしいが)、それを助け出す為逢襍佗君が単身UFOに乗り込みエクレル星人を倒す。(どう倒したのか聞いたら「UFOごとぶん投げてやった」と言っていた。冗談なのか分からない…)

 

工事現場で謎に包まれた大体四万年前の古代カプセルが発掘される。発掘から程なくして博物館で展示されるも謎の爆発でカプセルが壊れる。そして中身はびっくり40メートル級の巨大怪獣。(どうやって入ってたの?)街を破壊しながら暴れ回っていたところを逢襍佗君が宇宙まで吹っ飛ばして倒す。(書いてて思ったけど、これをやったんだからUFOをぶん投げたって話は本当だろう)私とパルは直接その現場を見ており、近くにテレビ局の人達もいたようだ。そしてその結果、日本だけでなく世界中に虹の光が知れ渡ることになった。

 

8月

逢襍佗君・佐々木・和泉の三人がタライ流し祭りなるものに これは別にいいか

 

『ソニューム』とか言う魔族に麻帆良学園都市全体が夢を操られる。次第に夢と現実が曖昧になり、私達は夢の世界に囚われてしまった。明石を執拗に狙っていたらしく、亡くなったお母さん(明石夕子さん)の幻を見せる等むかっ腹が立つことを色々とした。夢の世界では無敵だとかで倒しても倒しても復活するインチキ仕様だったのだが、真っ白な戦闘服に身を包み現実世界からやってきた逢襍佗君が大ハッスルしてソニュームを撃破。(無敵とは?逢襍佗君がおかしいのかな?)それ以外にも本物の夕子さんが出てきたりとてんやわんやな事件だった。

 

その後私にとって大きな出来事、逢襍佗君の正体を知ることになる。聞いた当初はそれはもう驚いて開いた口が塞がらなかった。ここから本格的に彼との交流が始まったと言える。その同じタイミングで花の魔術師を名乗る『マーリン』さんが明石に接触。基本的に正体を隠している逢襍佗君をフォローしてくれた…と思っていいんだろうか?私は直接会ったわけではないのでどんな人なのか判断できない。どうやら逢襍佗君とは古い友人らしい。その後少し調べたらおとぎ話に出てくる結構ヤバい人(人間なのか不明)だった。そんな人となんで知り合いなのかは、未だに逢襍佗君は教えてくれない。

 

9月

別の星からやってきた王子様『ハラート』が何がどうしてそうなったのか、いきなり宇宙船で学園に来たかと思えば全校生徒の前で千鶴にプロポーズをしてきた。私達は元より当の千鶴本人も目が点。(一目惚れだったそうだが、だからって即プロポーズするかね?文化の違い?)それだけならまだ良かったのだがこの王子様は強引が過ぎた。断った千鶴を事もあろうに脅して無理やり連れていこうとしたのだ。そんなことを許すわけもないので私達も協力して証拠を押さえ、最終的には逢襍佗君が魂の説得(本人談)でもってハラートを改心させて宇宙へと帰した。(この事件解決から千鶴は逢襍佗君を名前で呼んでいる。千鶴は逢襍佗君が何をしたのか知らない筈なのになんで?これは逢襍佗君も分からないらしい)

 

10月

待ちに待った麻帆良祭。私達はメイド喫茶でめちゃくちゃ忙しかったのだが、その裏ではかなり大変なことになっていたと後で知った。大学部の臨時講師『モデナ・ロマーニ』さんが過去に切り離した自分の感情が別個体として復活。復讐の為にこの街を狙っていたのだ。私達ははっきり言って蚊帳の外で、先述の通りこのことを知ったのは事件が解決してから。(正直悔しい)ただそれ以外にも重要なことがあった。それぞれ逢襍佗君と出会い、その正体に気付いている二人が超りん達に接触。話し合いの末関係を持つことになる。一人は魔術師の『蒼崎橙子』さん。(魔法使いと魔術師は違うものらしい)この人は魔術師の世界ではかなりの有名人らしく、その手のことに関してはとても頼りになるだろうと超りんは言っていた。そして二人目、私達のメイド喫茶にお客としても来てくれて何故かメイド服を着ていた『トール』さん。彼女に関しては別次元出身でしかも正体はドラゴンだとか。(そんな嘘をつくとは思えないけどいまいち信じられない)あれから今現在に至るまで彼女達の話は聞かない。今後二人と関わることはあるんだろうか。

 

今度は別の星からお姫様がやってきた。名前は『ララ・サタリン・デビルーク』ちゃん。この子はこの子で込み入った事情があるらしく、出身地のデビルーク星ってのも宇宙ではかなり有名な星とのことだ。ただ幸運だったのはララちゃん自体はかなり優しくていい子だってこと。宇宙人関連で碌なことがなかったから身構えちゃったけど、それは杞憂だった。この星に来たのも度重なるお見合いに嫌気がさして家出をしたからだって。現在は一年C組に所属しており、逢襍佗君達の幼馴染の家で暮らしている。(余談だけど妙に逢襍佗君と距離が近い。ララちゃんは誰にでも距離が近いが、それでも逢襍佗君は少し特別な気がする)

 

11月

学校行事はスキー・スノーボード教室はあっても事件は無し。至って平和。

 


 

「ふ~」

 

和美は机に広げたノートから顔を上げ、ペンを置くと大きく伸びをした。テレビを見ていたさよがこちらにやってくる。

 

「随分集中してたように見えましたけど、何を書かれてたんですか?」

 

「いやね、今年は色々あったから私が知ってる範囲で事件を書き起こしてたのよ。なんか日記みたいになっちゃったけど」

 

「えっと、見ても?」

 

「いいよ」

 

恐る恐る聞いてきたさよに頷くとノートを手渡す。その際手が触れたが、こうして彼女と話したり触れ合えるようになったのも妖怪事件からなんだなと懐かしくなった。そんなさよの視線はノートに注がれている。

 

「こうしてみると本当に変わった出来事ばかりですねぇ。目が回っちゃいます」

 

「だね。私としては充実した一年だったけど」

 

非日常を求める和美にとってこの2022年は生涯忘れない年といっても差し支えないものだ。まだ誕生日が来ていないので15歳だが、今までの人生で最も濃い一年なのは間違いない。するとさよは幸せそうな笑顔を浮かべた。

 

「私も、この一年は凄く充実してました。和美さんや皆さんとこうして一緒に生活できたんですから」

 

そう言われると照れてしまうが、こうもまっすぐ伝えられると応えてあげなければと思ってしまう。らしくないのは重々承知でも偶にはいいだろう。

 

「なら、これからは最高の一年を更新してかないとね」

 

「はい!」

 

満面の笑みを見せるさよに釣られて笑った。大変なことも山積みなのは想像に難くない。それでも和美はこの世界を楽しんで生きていこうと決めていた。きっと、この面子なら高い壁も乗り越えていける筈だから。

 

「さて、そんじゃそのページをシュレッターにかけないと」

 

「えっ、捨てちゃうんですか?もったいないですよ」

 

「いいのいいの、自分の頭の中を整理する為に書いただけだから。それに何かの拍子で美空とかに見られちゃったら困るでしょ?」

 

「た、確かにそうですね…逢襍佗さんのことしっかり載ってますし」

 

「そういうこと。仲間外れにしてるみたいでちょっと心苦しいけどね」

 

二人の同居人であり現在は教会に行っている美空は祐の秘密を知らない。和美達からすれば美空も知っていれば色々と楽な部分が出てくるが、こればかりは仕方がない。ノートのページを丁寧に取り、机に置いてある小型のシュレッターに入れた。

 

「これでよし。いい時間だし、大浴場いこっか」

 

「そうですね、お着替え持ってきます!」

 

物体に触れられるようになったさよは着替えをするだけでも楽しそうだ。お気に入りは最近買ったパジャマである。彼女がおしゃれに目覚めるのもそう遠くないかもしれない。自分の荷物を取っていると素早くさよが戻ってきた。

 

「お待たせしました!」

 

「はやっ」

 

鍵を閉めて大浴場に向かう。日中もそうだが夜は特に凍えるような寒さで、これだけ寒いと大浴場に入りがいがあるというものだ。

 

「和美さん、今日はお背中お流ししますよ」

 

「どしたの急に?」

 

「そんな気分なんです」

 

「まぁ、やってくれるんならお願いしようかな」

 

 

 

 

 

 

翌日、まだ暗い麻帆良の街をバイトである新聞配達を行う明日菜が走っていた。若いとは言えこの寒さは中々にくるものがあるが、木乃香お手製のマフラーもあってその動きに鈍さはない。明日菜には勿論のこと、ネギ・カモ・刹那・そして自分用を難なく編んだ木乃香の手腕には驚かされた。家庭的な部分は素直に羨ましいと思う。今度自分もマフラーの編み方でも習ってみようかと考えながら仕事をこなす。最後の新聞を配達し終わると、少し前に見えるのは例の自動販売機と見知った大きな背中だ。

 

思い返せば半年ほど前の6月、今と同じ光景を見た。その時から自分達の環境はかなり変わったように思う。冬の寒さがそうさせるのか、最近は過去を振り返ることが増えた気がした。なんだか年寄りみたいだと感じながら、見える背中に小走りで近寄った。

 

「おっす、おはよ」

 

「おお、おはよう明日菜。あれ?いつもの投げキッスは?」

 

「やったことないわよ…」

 

「じゃあ試しに今やってみ」

 

「絶対イヤ」

 

挨拶もそこそこに相変わらずの祐に呆れた顔をした。真面目に対応すると疲れるのだが、それでもどうしようもなくこの空間を心地よく感じてしまう。彼となんでもない話をするのは明日菜に安心を与えてくれていた。

 

「やってくれたらジュース一本奢ってやるぞ」

 

「どんだけやらせたいのよ」

 

「仕方ないな、俺がお手本を見せてやる」

 

「やった瞬間ひっぱたくからね」

 

「よっ!麻帆良の暴力ゴリラ!オウシッ!」

 

言い終わったとほぼ同時に明日菜のビンタがとんだ。早すぎて常人では目で追うのがやっとだろう。

 

「まだやってないのに!嘘をついたな!」

 

「これは暴言に対するもんよ!」

 

「真実を暴言とは言わない」

 

「反対側もやってほしい?」

 

「すみませんでした」

 

見せつけるように左手を上げると謝罪が返ってきた。ため息をついて手を下ろす。

 

「こんな寒いのに相変わらずねあんた。…いや、寒いから元気なのか」

 

「その通り、寒さは俺を元気にする」

 

桜子から又聞きした路面電車ゲリラライブといい、やはり冬になるとテンションが更に高くなるのは昔から変わっていないようだ。昔のままでいてほしい部分はあっても、ここに関しては変わってほしい明日菜だった。

 

「ん?なんだそのマフラー、いなせだな」

 

「いなせ?それって褒めてる?」

 

「褒めてる。これはマジ」

 

明日菜は巻いているマフラーの端をつまんで顔の近くに上げた。

 

「寒くなってきたからって木乃香が作ってくれたの」

 

「流石木乃香、やりおるわ。俺は貰ってないけど」

 

「そ、その内貰えるんじゃない…?」

 

「どうせ貰えてない俺のこと馬鹿にしてるんだろ!」

 

「してないわよ!」

 

「クソッたれが!」

 

ポケットから財布を取り出した祐は恐ろしい速度で小銭を入れてボタンを押す。出てきたココアを取り出し口から掴むと明日菜に押し付けるように渡した。

 

「ちょ、なに!?」

 

「いつもおつかれ明日菜!あと悔しくないから!悔しくないから!!」

 

明日菜の反応も待たず、祐はあっという間に走っていってしまった。呆気にとられた明日菜は何も言えずにその背中を見送る。我に返って気が付いたが渡されたココアの缶からは程よい温かさが伝わってきた。自販機で買ったばかりの温まっている缶は熱すぎるイメージがあったので不思議に思う。手元を見てみると缶の周りには薄っすらと虹の光が漂っていた。少しだけ、両手で缶を強く握る。

 

「ば~か…」

 

 

 

 

 

 

日曜日である今日、ネギは朝からエヴァの別荘に来ていた。すっかり習慣となった厳しい修行ではあるが、ネギの能力と向上心は上がる一方である。腐ることなくひたむきに努力する姿はエヴァも珍しく素直に褒めた箇所だった。現在は午前の部が終わっての休憩時間で、テラスのベンチ座りタオルで顔を拭きながら息を整える。少し先では賑やかな声が聞こえていた。

 

「ダメだ~!全然火力上がらない!」

 

「すぐに出せるようになっただけでも成長ですよハルナさん」

 

「そうっすよハルナの姉さん。寧ろ平均より成長速度は良い方ですぜ?」

 

「いやまぁ、それは良いことなんだろうけどさぁ…」

 

魔法用の杖を持ったハルナ、苦笑いを浮かべた刹那とカモが話している。ハルナの持つ杖の先には小さな火が灯っていた。二人以外にも明日菜・木乃香・和美・さよが別荘にいる。ネギと明日菜を通して芋づる式にエヴァの別荘の存在を知ったメンバーは、ネギ程ではないが時折この場に訪れてはそれぞれ訓練をするようになった。因みにその時のエヴァは心底面倒くさそうだった。

 

「木乃香に関しては治癒魔法だっけ?すっかり腕上げちゃって、全然追いつけないわ」

 

「お嬢様は他に類を見ない程の魔力量を宿しているのもありますし、あまり比べるのは…」

 

そう言った刹那達の目には修行中に擦り傷ができた明日菜を魔法で癒す木乃香と見学する和美とさよが映る。類まれなる魔法の才を持つ木乃香は主にネギ、そして偶にエヴァに教えを受けてハルナの言う通り着実に力を付けていた。そう木乃香が熱心に取り組むのも偏に自分ができることを模索していたからに他ならない。

 

「は~い、すっかり元通り」

 

「ありがと木乃香」

 

「ほ~、こりゃ大したもんね」

 

「木乃香さん凄いです!」

 

「えへへ、ウチも結構頑張っとるんよ」

 

褒められて少し照れている木乃香。微笑ましい光景を冷めた目で見ているのはエヴァだった。

 

「まったく、能天気な奴らめ」

 

「ケケケ、スッカリココモタマリ場ニナッタナ御主人」

 

「はぁ…」

 

ネギの修行を請け負うとは言ったが、それ以外にもおまけが付いてきてしまった。ただしエヴァからすれば嬉しいおまけではない。それでも追い出したりしないのは単に面倒だからかエヴァが優しいからかは難しいところだ。

 

「他ノ奴ラハ置イテオイテ、アノ『ホワホワ』ハ結構使エルンジャネェカ?オレ達回復魔法ッテノハ専門外ダッタカラナ」

 

「…かもな」

 

因みに『ホワホワ』とはチャチャゼロが付けた木乃香のあだ名だ。木乃香本人はこの呼び方は特に嫌ではないらしい。そんな話をしていると建物の中から茶々丸ともう一人が出てくる。食事の用意が出来たのだろう。

 

「皆さん!食事の準備ができましたわ」

 

「お待たせしました」

 

「おっ!きたきた!」

 

「待ってました!」

 

「先にちゃんと手を洗ってからですわよ!」

 

「お母さんか」

 

その声に反応し、建物に走っていく面々。良くも悪くも以前と比べてなんとも賑やかになったものだ。食事の準備をしていたのは茶々丸とあやかである。あやかは祐や木乃香の秘密を知り、その後ネギ本人から今後のことを考えて魔法使いであることを伝えられた。ネギの正体を知った結果最大限サポートをすると言い出したのは予想通りのこと。ただネギと明日菜が仮契約を行っていると聞いた時にひと悶着あったのも予想通りだったが、カモからネギとの仮契約を勧められた際は心の準備がまだできていないと見送ったのは明日菜達からすれば予想外のことだ。てっきり形振り構わず飛びつくものだと思っていたのはネギ以外全員の意見である。

 

「さぁさぁネギ先生!お疲れでしょう?私の愛が込められた料理をどうぞご堪能下さい!」

 

「は、はい…ありがとうございます」

 

「ちょっと~委員長、変なもの料理に入れないでよ」

 

「変なものとはなんですか!愛こそどんな調味料にも勝るものです!愛が全てですわ!」

 

「そうですか…」

 

熱く語るあやかに和美は引き気味である。変に茶化したのは失敗だったかと後悔した。

 

「ほらほら、ネギ君もあやかおばあちゃんも早く来なよ」

 

「誰がおばあちゃんですって!」

 

「自覚なかったの!?」

 

「ハルナさんシバきますわよ」

 

「ケケケ、ババア仲間ガ一人増エタナ御主人」

 

「殺すぞ」

 

騒がしいまま室内へと入っていく一同。巨大なテーブルが置かれた場所には食欲をそそる料理が並んでいる。そして席の一つに既に座っている人物もいた。

 

「やあみんな、修行お疲れさん」

 

「あれ!?祐さん!?」

 

ネギ達を待っていたのか軽く手を振る祐。あやかも驚いた顔をしているのでこの場に居たというわけでもなさそうだ。

 

「祐君いつの間に来てたん?」

 

「ちょっと前から。最近みんな頑張ってるって聞いてこっそり覗かせてもらってたよ」

 

「私全然気付けませんでした」

 

「てか来てたんなら声掛けなさいよ」

 

「下手に邪魔したくなかったからさ。それより早く食べよう、さっさと手を洗ってこい!いつまで待たせんだ!」

 

「なにこいつ!?」

 

「傍若無人だ!」

 

明日菜と和美にそう言われても祐にまったく気にした様子はなく、何故か誇らしげに胸を張った。

 

「知れた事、俺はゼロ姉さんの弟だぞ」

 

「立派ニナッタジャネェカ、泣ケルゼ」

 

「よせよ、照れるだろ」

 

「エヴァちん、保護者兼姉として一言ある?」

 

「知らん、私のせいではない」

 

「な、なんて無責任な…」

 

「この姉にしてこの弟ありね」

 

「そう、俺がこうなったのは姉さん達のおかげだ」

 

「知らん、私のせいではない」

 

「botになってるわよ」

 

 

 

 

 

 

折角出来上がった料理、冷めてしまってはもったいないので支度を素早く終えて食事を始めた。現実世界は真冬でもここは一年中暖かな気候を保っている。手軽過ぎる南国のリゾートと美味しい料理を明日菜達は最大限堪能した。

 

食事が終わった現在は各々が午後の修業に備えてゆったりと過ごしている。そんな中時折明日菜はテラスのベンチに視線を向けていた。座っているのは祐でそれは特に気にならないが、まるで当然と言わんばかりの自然な動作でエヴァが祐の隣に座った時からどうも視線がそちらに行ってしまう。祐とエヴァは会話をしており、無意識の内に聞き耳を立てていた。

 

「最近学校はどうですか?上手くやれてます?」

 

「お前にそんなことを心配されたくないわ。お前こそ最近遅刻や欠席が多いとタカミチが私に言ってくるぞ、なんとかしろ」

 

「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか」

 

「なんだその喋り方は…まさかえ〇りのつもりか?似てないぞ」

 

「老人受けいいと思ったんだけど…いててて!」

 

「失礼極まりないことをほざくのはこの口か?ん?この口か?」

 

内容としてはしょうもないことを話していた。しかし上手く言葉に出来ないがなんと言うか、とてもいい雰囲気に見える。そもそも物理的な距離がおかしい。人が二人座っても充分余裕がある程広いベンチにも拘らず肩が触れているし、若干エヴァが祐に寄り掛かっていてそこに関してお互いなにも言わない。ここは南国なんだから離れた方がいいだろうに何をくっついているんだと苛立った。手に持った飲み物を置いて席から立つと柱に身体を隠して二人の様子を窺う。宛ら証拠を押さえる為に張り込みを行う刑事だ。

 

「乱暴なんだから…俺はマゾじゃないですよ」

 

「だが私とふれあえて嬉しいんいだろ、隠さなくていい」

 

「そうっすね、嬉しい嬉しい」

 

「可愛くない奴め…」

 

そんなことを言いながらエヴァが引っ張っていた祐の頬から手を離したと同時に脇の間へ入り込んでより身体を密着させたのを明日菜は見逃さなかった。また祐の腕を掴んで自分の肩から襷のように掛けさせる。手慣れた動きだ、日頃からよくしていることが分かる。明日菜の観察に熱が入り始めた。

 

「一切の無駄がない流れるような動作ね…七年間を共にしたのは伊達じゃないってことか」

 

「だ、大胆かつ繊細です…」

 

「えっ、もがっ!」

 

声が聞こえたので振り返ると茶々丸・チャチャゼロ以外の全員が同じように柱から二人を観察していた。驚いて声の出そうになった明日菜の口を素早く塞いだのは和美だ。

 

「はーい大声出さない。オッケー?」

 

頷いた明日菜から手を離す。祐とエヴァにはバレていないようでそこはほっとしつつ、明日菜が周りになんとか聞こえる程度の声で話す。

 

「急に何よ」

 

「明日菜とおんなじで二人の観察」

 

「ダンナとエヴァの姉御の姿が見えないと思ったら、こんなことになってたとは」

 

ネギの頭に乗って双眼鏡から二人を覗くカモ。彼にしても祐とエヴァの関係性は謎な部分が多い為、野次馬根性を省いても興味の対象であった。

 

「ネ、ネギ先生…もしかすると教育に悪影響を及ぼすかもしれませんから、ここは私に任せて目を瞑っていただいて」

 

「あ、悪影響ですか?」

 

「流石にそこまでは大丈夫でしょ…」

 

全員が物陰から目を光らせる今も祐とエヴァは会話を続けている。相も変わらず取るに足らない話だが、それでもその姿から二人の関係は見て取れた。

 

「そう言えば祐君とエヴァちゃんの二人が一緒にいるとこは初めて見た気がするわ」

 

「確かに、言われてみれば」

 

家族であり、七年間程同じ家で暮らしていたのは知っていても学園では元より、あの二人が一緒にいるどころか話をしている状況を今まで見たことがなかった。だからだろうか、この光景がとても珍しいものだと感じる。

 

「随分とまぁ、べったりしちゃって」

 

「エヴァンジェリンさんが誰かとあんなに近い距離でいるのも初めて見ました」

 

「近いどころかくっついてるからね」

 

「お互い信頼し合っている、家族だから…なのでしょうか」

 

刹那が呟いた一言に全員が口を閉ざした。ここに居る全員が知っているわけではない祐の家族のこと。それでも八歳の時からエヴァと暮らしていたとなれば訳ありであることは察しが付く。少しだけ聞いたエヴァの生い立ちと合わさり、祐とエヴァがお互いを家族としている関係はきっと一言で言い表せる程簡単なものではないのだろう。その光景を見ている明日菜達もまた、一言では言い表せない感情を抱えていた。

 

「覗き見とはいい趣味をしているな貴様ら」

 

後から聞こえてきた声に全員が振り向くと、明日菜達の伸びた影から上半身を出したエヴァがいた。そして程なくして悲鳴が上がる。

 

『きゃ~~~!!!!』

 

影を使った転移魔法。かなり高等な技術だがそんなことよりも見た目のホラー具合にしか目がいかない。酷いもので言うとさよは腰を抜かしていた。陰から全身を出したエヴァが腕を組む。

 

「別に見られたところでどうという事はないが…姉弟の団欒に水を差されたとも考えられるか」

 

「公共の場でベタベタしてたのはそっちでしょ!恥じらいを持て!」

 

「ここは私の別荘だし、恥じらいに関してお前にだけは言われたくない」

 

「お前にだけはってのが引っかかる」

 

ハルナの発言を一蹴するエヴァ。ハルナは不服そうだが他の面々から擁護がないのが全てを物語っていた。

 

「ハルナさんに言われたくないのは私もよく分かりますが、子供もいる前で良くありませんわよエヴァンジェリンさん!」

 

「おい雪広テメェ」

 

「パル落ち着いて」

 

「ただ隣り合って座っていただけだろうが。それともなんだ?キスでも期待していたのか?」

 

『キス!?』

 

大袈裟な反応をする一同を見ていると少し面白くなってきた。もう少しからかってやってもいいかもしれない。

 

「そんなに見たいなら見せてやってもいいぞ?おい祐、こっちにこい。キスしてやる」

 

「なんすか急に…」

 

困惑しつつベンチから歩いてくる祐との温度差激しく周囲はパニック状態に近かった。

 

「なっ!?ば、馬鹿じゃないの!?」

 

「ポルノ女!ポルノ女よ!」

 

「なんと恥じらいのない!ハルナさんのことを言えませんわよ!」

 

「さっきから喧嘩売ってんのかテンプレお嬢様さんよぉ!」

 

「ハルナ、一回深呼吸や」

 

「別のところで戦いが起ころうとしている…」

 

「兄貴、丁度いいから仮契約の練習ってことで見せてもらおうぜ?」

 

「なんで!?キスしなくても契約できるでしょ!」

 

荒れる空気の中、静かに歩いてきた茶々丸が遠慮気味に声を掛ける。

 

「何やらお楽しみのところ申し訳ございませんがマスター、間もなく午後の部のお時間になります」

 

「む?もうそんな時間か。よし貴様ら、今私は少し気分がいい。午後は私が纏めて面倒を見てやる」

 

にやりと笑ったエヴァに反して全員の顔が引き攣った。

 

「えっ…いや、それは…」

 

「ぜ、全員は大変でしょ?私達はのんびりやるから…」

 

「口答えは許さん、いいから全員準備しろ」

 

「私ヤダよ!エヴァちんスパルタなんだもん!」

 

有無を言わさぬエヴァにハルナは逆ギレをした。だがそれだけで逃げることは叶わない。

 

「甘やかしては上達するものも上達せん!実際のスパルタのように殺されないだけありがたいと思え!」

 

「紀元前の話を今の時代に持ってこないでくんない!?」

 

「甘いな早乙女ハルナ、これからは紀元前…言うなれば神代の連中と事を構える可能性さえ考慮しても無駄ではない!生き残りたければ死ぬ気でやれ!」

 

「神代って確か神様とかが普通にいた時代のことよね?」

 

「そのように記憶しています」

 

エヴァの修行は何も実技だけではなく、学問の方面でも行われていた。頻度はそれ程多くないが裏の世界の歴史や専門用語などを教えており、そちらの成果も少なからず出ているようだ。

 

「どんなことしたら神様と戦わなきゃなんないってのよ!」

 

「前も言ったろうが、神なんぞ基本碌なものではない。何かが気に入らないとなれば向こうから来ることだってある」

 

「だからって現役JKをそんな奴らと戦わせようとする⁉︎誰かこのロリババア止めて!」

 

「誰がロリババアだ!」

 

「パル!余計なこと言ってエヴァちゃんを怒らせないでよ!」

 

普段よりも修行が厳しくなりそうな気配に明日菜がハルナを止める。この後のことを想像しネギは寒気がした。

 

騒動を一通り見ていた祐は苦笑いを浮かべる。こうなっては午後の修業は熾烈を極めそうだと考えている頭にチャチャゼロが乗った。

 

「面白ソウジャネェカ、オマエハ参加シネェノカ?」

 

「俺?確かに偶には…いや、今日はやめとくよ。入ったら逆に邪魔になりそうだし、みんなのお手伝いぐらいにしとく」

 

「ナンダ、ツマンネェナ」

 

「また今度ね」

 

自分は色々と勝手が違う。それがチャチャゼロも分かっているから素直に引いたのだろう。本日は大人しくして、弟弟子を始めとした仲間達の成長を見せてもらうとしよう。この仲間達と肩を並べて戦うこともこれからあるだろうと一人思いながら、沈んだ様子で歩いていく明日菜達の背中を追った。エヴァの隣につくと耳に顔を寄せて小声で伝える。

 

「ほどほどにね、エヴィ姉さん」

 

「分かっている。殺しはしないさ」

 

「それは最低条件なんすよ」

 

 

 

 

 

 

 

暗闇に包まれた太陽系の惑星間には数えきれない程の個体物質が漂っていた。そんな空間がなんの前触れもなく歪み始める。やがてその歪みの中心から巨大な岩のような物質が現れた。

 

謎の物質は自らの意思を持つかのように動き出す。辺りに散らばる物体を弾き飛ばしながら一直線に進む姿は、まるで行くべき場所が決まっているかのようだった。

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