宇宙空間を漂う宇宙船にはザスティンとブワッツ・マウルが居た。ララが地球で暮らすことになり、地球周辺に留まることになった3人はこうして宇宙から地球の観察を続けている。メインデッキから見える地球を、ザスティンは静かに見つめ続けていた。
「ザスティン隊長、最近ああやって地球を見てることが多いな」
「地獄戦線の戦場だった星だ。思うことがあるんだろう」
ザスティンから離れた場所でそんな会話をする二人。母星の守備に着いていた自分達は参加こそしなかったものの、地獄戦線の話はザスティンから詳しく聞いている。その話を嘘だとは思っていないが、想像を絶する出来事の連続で現実味は得られていなかった。
そんな時、レーダーがあるものを捉えたと音で知らせる。ブワッツとマウルがモニターに走っていくと、その様子を振り返ったザスティンが視線を向けた。
「隊長、直径10メートルと推測される隕石が地球に向かっています」
「落下地点は?」
「計算します。…なに?」
ブワッツがした反応にザスティンが訝しげな表情を浮かべる。同じ画面を見ていたマウルが困惑気味に口を開いた。
「い、隕石が三つに分かれた模様です…それぞれが別の場所に向かいました」
「この動きは…重力に沿ったものではありません。独自の推進力を持たなければ不可能な軌道です」
ザスティンの顔つきが鋭くなる。不明な点ばかりだが、だからこそ早く手を打たねばならない。
「そのまま可能な限り隕石の行方を追え。私は連絡を入れる」
「追跡を続けます」
「隊長、連絡はどちらに?」
「彼にだ」
朝の通学ラッシュよりも少し早い時間、祐は通学路をゆったりと歩いていた。勝手知ったる校舎が見えたところで、背後から誰かが顔を出す。
「ばあ!」
祐を驚かすように出てきた木乃香。しかし祐は驚くことなく素早い動きで木乃香の頬に両手で優しく触れた。
「ひゃっ!冷た!」
「残念だったな木乃香!俺を驚かすにはまだまだ修行不足だ」
「ん〜!なんや悔しい!」
口ではそう言っても木乃香の表情は楽しそうだ。祐は笑うと手を離す。
「おはよう木乃香。いつもより早いんじゃない?」
「おはよう祐君。そやね、このくらいの時間なら会えるかも思って」
「会えるって誰に?」
そう聞いた祐に木乃香の人差し指が向けられた。祐はその指を見る。
「えっと、なんか御用がおありで?」
「うん。実は渡したいものがあるんよ」
言いながら木乃香は鞄から何かを取り出そうとする。祐は首を傾げた。
「じゃ〜ん!マフラー!」
「あっ!きた!俺のもあった!」
驚いたと同時に嬉しそうな祐に今度は木乃香が首を傾げる。
「俺のも?」
「ああ、ごめん。実は明日菜に木乃香からマフラー貰ったって聞いててさ、帰った後悔しくて泣いたんだ」
「な、何も泣かんでも…」
冗談か本気か、おそらく冗談だろうがこう言われて悪い気はしない。にっこりと笑顔を浮かべた木乃香は綺麗に畳まれたマフラーを祐に差し出す。
「やっぱり直接渡したくて。でもなかなかいいタイミングなくてなぁ、はい!お待たせしました!」
「ありがとう木乃香!毎日大切に使わせてもらう!」
祐は丁寧にマフラーを受け取る。宝物がまた一つ増えた。
「それぞれみんなの髪色に近い毛糸で編んだんよ。最初祐君のはあの色にしようかなとも思ったんやけど、ちょっとカラフル過ぎる気ぃしてな」
「確かにね、滅茶苦茶目立ちそうだ」
渡されたマフラーは黒色で、木乃香の言ったあの色とは虹色のことだろう。貰ったのなら素直に喜べる自信はあるが、さまざまな事を考慮するとこの色の方がいいとは思う。木乃香は自分の巻いているマフラーを摘んだ。
「んふふ。ほら、ウチも黒!ウチとせっちゃん、祐君はお揃いや」
「そりゃいいね。あっ、でも桜咲さんにせっかくお嬢様とお揃いなのに逢襍佗の野郎邪魔しやがってとか思われないかな?」
「そないなこと思っとらんよ…」
「本当?」
「も〜、祐君ほんま変なとこ気にするんやから」
祐は意外とマイナス思考な部分がある。ふとした瞬間に自己評価が低い一面を覗かせると木乃香達幼馴染は知っていた。
「せっちゃん祐君のこといつも心配しとるんよ?危ないことやっとらんかな〜って」
「マジ?」
「うん。因みにウチもやえ」
「それはひたすら申し訳ないっす」
そこを突かれると謝る他ない。しかしこれからは無茶しませんと言えないのが悲しいやら情けないやらである。そんなことを思っていると、祐の手にあったマフラーを木乃香が持って広げた。
「はーい、ちょっとしゃがんで」
「あい」
言われた通りにすると木乃香がマフラーを首に巻いてくれた。手慣れた動作だ、これだけで魅力的に見えてしまうのは自分という男が単純な生き物だからだろうか。
「たま〜にやけど今日みたいにプレゼント用意しとくから、これからもちゃんと帰ってきてな?」
「…プレゼントはなくても、木乃香達が待っててくれるなら喜んで帰るよ」
「ホンマかな〜」
「おい!この子ったら疑ってんな!ひでぇやつだ!」
「ウチ酷くないも〜ん!」
そう言って木乃香は祐の横を小走りで抜けた。祐は困った顔で笑い、その背中を追う。隣り合って歩く為に木乃香は少しずつペースを落とし、追いついた祐と並んで校舎へと向かった。
「幼馴染のみんなにあげるつもりやったんやけど、他のみんなはもうマフラー持ってるみたいなんよね。何がええかな?」
「余った毛糸あげたら?」
「それは角が立ちそうやなぁ」
四時間目の授業が終わり昼休み。祐が男子トイレから教室に戻ろうとした時、少し先に壁に寄り掛かっている超がいた。どうしたのかと思っている内に超も祐を見つけてこちらに近づいてくる。
「やぁ祐サン、今ちょっといいかな?」
「どうも超さん。何かあった?」
「実は少し耳に入れておきたいことが…おや」
言いかけたところで超が祐の後ろを見た。釣られて振り返るとC組から出てきたララがこちらに走ってきている。その手にはお手製のスマートフォンが握られており、二人は一度目を合わせてから再度ララに視線を向けた。
「いたいた!ユウ!ザスティンから電話だよ!」
「ザスティンさんから?俺宛にってこと?」
「うん!はい、どうぞ!」
少々こちらを置いてきぼり気味にしながらララからスマートフォンが手渡される。若干戸惑いながら受け取り、なんとなく超を見るとどうぞとジェスチャーをされた。取り敢えずスピーカー部分を耳にあてる。
「えっと、もしもし」
『祐か?』
「はい。ザスティンさん…ですよね?」
『ああ、突然すまない。実は君の耳に入れておきたい話があってな』
先程の超との会話が重なる。少しだが、嫌な予感がした。
「お願いします」
『先程地球に直径10メートルの隕石が向かっていくのを私達の宇宙船が確認した』
祐は黙ってザスティンの話に耳を傾ける。無意識にその顔からは柔らかさが消えていた。
『そして問題はここからだ。その隕石は三つに分裂し、それぞれがまるで意志を持つかのように別の軌道を描いて地球に落下していった。いや、進んでいったと言うべきかもしれない』
普段と違う祐の真剣な表情にララは不思議そうな顔をした。対して超は静かに祐を見つめる。その時超とララの目があった。
「目的をもって地球に飛来した可能性が高い、ですかね」
『そう考えられる。それに隕石は大気圏突入後透明になった。少なくとも何かしらあるのは間違いない』
決して多い情報量とは言えなくとも、ここまでの要素から察するに普通の隕石とは到底思えない。そしていい予感がしないのも仕方がないだろう。
『落下した位置は透明になったせいで直接捉えることができなかったが、最後に消えた位置から大まかな予測地点を計算した。これからララ様の通信端末にデータを送る、君も確認してくれ』
「すみません、助かります」
『いや、気にしないでくれ。私達もこのまま隕石の動向を探るつもりだ、何か分かればまた連絡する』
「ありがとうございます、それではまた」
『ああ、頼むぞ祐』
通話を終え、ひとまずララと超に視線を向ける。気付くと二人は会話をしていた。
「チャオもA組だったよね!ユウとは友達?」
「そうヨ、それはそれは深い仲ネ」
「ふかいなか?それって仲良しってこと?」
「そんなとこネ」
なんとも和む雰囲気で出来ることなら祐もこのままにしておきたいが、状況的にそうも言っていられないので二人に声を掛ける。
「ララさん、電話ありがとう。それと今からザスティンさんがデータを送ってくれるらしいんだけど、それも見せてもらえるかな?」
「データ?いいけど、なんの?」
「隕石の、カナ?」
ニヤリと笑った超と祐の視線が交差した。祐は頷くことで返事をする。
「誰かに先を越されてしまったカ。さて、そのデータを見るなら場所を変えた方がいいダロウ。提供するヨ、ララサンもどうぞ」
「ほんと⁉︎よく分かんないけど行く!」
「まぁ、そうなるか。よし行こう、頼むね超さん」
「お任せあれ」
着々と話は進み、三人は超を先頭に歩き始める。先程の感覚を思い出し、祐は一度深い呼吸をした。
「さぁ、空いてる椅子にどうぞ」
「おじゃましま〜す」
祐と超がよく使用している生物工学研究会の部室に着いた。それぞれが椅子に座るとララがスマートフォンを取り出す。
「ザスティンから送られてきたよ。これを開けばいいんだよね?」
「うん、よろしく」
早速データを開いたララ。すると画面から立体映像が浮かび上がり、映し出された地球には三箇所赤い印が付けられていた。
「これはこれは、やはり高度な技術が使われているようだネ」
「えへへ、それ程でも」
「ララさんお手製だからね。そんで、この赤い点が落下場所か」
「どれ、場所の詳細を調べよう。それぞれにズームできるカナ?スキャンするネ」
「うん、それじゃここからいくね」
ララが操作して三箇所を順番に拡大していくと、超が制服のポケットから取り出した端末で立体映像をなぞる。すると程なくして場所が特定されたようだ。
「場所の名前が分かったヨ」
「高度な技術が使われてんのはそれもじゃねぇかな…」
「ありがとう、私は褒められると伸びるネ」
「まだ伸びるのか…」
更に進化するつもりの超に末恐ろしさを感じる。非常に頼もしくはあるが、敵にだけはなりたくないものだ。
「場所はウェールズ、ギリシャ、そして…日本」
地球が映し出された瞬間、一番目を引いたので分かっていた。隕石の落下地点の一つに日本が入っていたと。祐は腕を組んで続きを待つ。
「詳しく言うとウェールズはバートジー島。ギリシャはクレタ島で、日本は東京湾。あくまでこの付近、ということにはなるガ」
話ながら超は別々の端末を操作する。平然とやっているが、話すと同時に左右でまったく違う指の動きを行うのは誰にでもできることではないだろう。
「今のところ人的被害の情報は出ていないようだネ」
「取り敢えずそれは幸いか。誰か隕石に接近した人はいるのかな?」
「それもまだのようネ。時間がそれほど経っていないことも関係しているのだろうガ、隕石が落ちたという情報もない。どうやら政府のレーダーや衛星には引っ掛からなかったらしいヨ」
「チャオ凄いんだね、そんなことも分かるんだ。何か秘密があるの?」
「ふふ、言葉通りそれは秘密ネ」
「え〜」
不満そうなララに超は笑顔を見せる。そこには触れないのが常になっている祐は自分も大分毒されてきたなと一人考えていた。
「ウェールズとギリシャに関して何かするってのは難しいけど、東京湾に関しては動けるか」
「一応付近の監視はしているガ、これと言った動きは今のところないネ」
「流石っす」
仕事の速さも相変わらずだ。その時ララが指で地球の赤い点をなぞった。
「ウェールズ、ギリシャ、日本。何か関係ってあるの?」
「思いつくものは、少なくとも私にはないヨ」
「俺も同じ。ただこの3つに関係はあるのかもしれないし、ないかもしれない。まぁ、はっきり言ってまったく分からんな」
統一性のない3つの国、そして場所。その関連性は祐だけでなく超にも不明だ。祐の言った通り無差別ということもあり得る。余りにも判断材料が少ないので、これ以上考えても進展はないだろう。
「兎にも角にも現場に行くのが一番だな。何か感じ取れるかもしれない」
「善は急げ、カナ?」
「だね」
「えっ?ユウ、今から行くの?」
席を立つ祐を見てララが少し驚いた顔をしている。祐は苦笑いを浮かべて頭を掻いた。
「早いに越したことないからね、何もなかったらそれでいいし。言い訳は…学園長にお願いしたらなんとかなるっしょ」
「見事なパワープレイネ」
「俺の得意技だから」
超が言った通り、表の世界で隕石の飛来に気付いた者はいなかった。そう、重要なのは表の世界ではという点である。なら裏の世界ではどうなのか。
祐が落下予測地点に向かうことを決めたのと同時刻。ウェールズのバートジー島に舞台は移る。
日本との時差でウェールズは間もなく早朝五時を迎えようとする時間だった。空に太陽の姿はまだなく、自然に囲まれた風景には人の気配はない。しかし、そんな夜の明けきらないバートジー島を進む人物がいた。
服装は男物のスーツであり、少し暗い赤髪は肩に掛からない程度に短く揃えられた凛々しさを感じる顔つきの女性だ。目元の泣きぼくろが印象的でもある。暗く舗装されていない岩場を歩く姿に迷いは見られなかった。彼女『バゼット・フラガ・マクレミッツ』は魔術師であり、隕石の存在に気付いた裏世界の組織の一つ魔術協会から派遣された人物である。
本来ならば今日は休暇のバゼットだったが、ロンドンにある魔術協会の総本山『時計塔』が隕石を探知。他勢力の介入前に現場を押さえたい魔術協会は碌な準備もなく即対応を決めた。その結果、偶然にも落下地点から一番近くにいた彼女に白羽の矢が立ったのだ。こんな時間に、それも休暇を突然潰されたとあれば恨み言の一つでも出そうなものだが彼女に至ってはそれはない。理由を端的に説明するならバゼットは休日というものが苦手だからだ。
(この島に仕事で来ることになるとは。何が起こるか分かりませんね)
今まで訪れたことはないがこの島の話は知っていた。出来れば色々と見て回りたい気持ちはあれど、今は優先すべきことがある。隕石が落下したと思われる地点に近づくにつれて違和感が増していく。なんとなくだが違和感の正体に当たりを付けた。これはバゼット自身にも馴染みのある魔術形式だ。
「そこで止まってください」
歩き続けるバゼットに声が掛かる。声の正体は少し先の岩に立つ、黒く長い髪をポニーテールで纏めた女性だった。バゼットは172cmと高身長であるが、相手も負けず劣らずの高さだ。ただしそれよりも目を引くのは、その身長よりも長い日本刀を腰に携えていることだろう。服装もなんと言うか個性的だが、今はそれ程重要ではない。どう考えても一般人ではなさそうだ。
「こんな時間に人払いを使うとは、随分と念入りですね」
その言葉に日本刀を持つ女性『神裂火織』の目つきが変わる。バゼットの言う通り、火織は周囲に人払いの魔術を施した。とある友人から譲り受けたルーン文字の刻まれたカードを使っての魔術だ。にも関わらずこの場に現れたとなれば、相手も只者ではない。
「こちらに無駄な戦闘をする意思はありません。どうかこの場を去ってください」
「それはこちらの台詞です。私はこの先に用がある、貴女こそ立ち去りなさい。闇討ちをしなかったことに免じて後は追わないと約束しましょう」
お互いに引く気はまったくないようで、相手を見つめる時間が少しだけ続く。両者とも目の前の人物が誰かは分からない、しかし目的がこの先にあるであろう隕石なのは間違いないと考えていた。そして両者とも生真面目で口が達者ではないという共通点がある。どちらかが交渉を得意とするのであればまた違った結果になったかもしれないが、そうはいかさそうだ。バゼットは両手にはめているグローブの位置を直した。
「埒が明きません、時間も惜しいので退かないのなら実力行使に出ます」
「そちらも退く気はないようですね」
ボクサーのような構えをとるバゼットに火織も構えをとった。左手が愛刀の『七天七刀』に添えられる。嵐の前の静けさだ、一触即発とはまさにこの状況のことを言うのだろう。双方の軸足に体重が乗った瞬間、海から大きな水飛沫が上がった。
「⁉︎」
「あれは…」
二人の視線が音のした方向に注がれる。そこには海から上がったのであろう隕石が宙に浮いていた。バゼットと火織は視線を相手に戻す。どちらも言葉は発しなかったが、優先対象を隕石に移したと感じ取った。
3メートル程の隕石にひびが入り始めると中からオレンジ色の光が漏れ出し、間を置かずに爆発する。飛んでくる破片を火織は斬り、バゼットは拳で粉砕した。火織は横目でバゼットを見る。
「手持ちの武器はないのですか?」
「…何か?」
「いえ、聞いただけです」
視線をすぐに逸らす。バゼットは暫く火織を見るが、こちらを向く気配がないので同じように正面に戻した。爆発によって舞った粉塵から影が出てくる。身長は2メートル程、全身が鉄で覆われた人型だが人ではない存在だ。
「一応聞いておきますが、知り合いですか?」
「いいえ。生憎機械とは縁遠いもので」
現れた存在に生物的外見は感じられない。しかしロボットにしては全身が緩やかな曲線を描いている。言うなれば金属生命体と称されるだろう。そんな金属生命体は辺りを見渡し、その後二人にも視線を向けた。
「お前達が地球人だな」
まさかの呼び掛けに二人は驚いた顔をする。あちらから声を掛けてきたのもそうだが、何より言葉が通じることが衝撃だった。聞こえたのはあまり感情の起伏を感じない、それこそ機械的な音声だ。
「こ、言葉が分かるのですか?」
「ああ」
バゼットと火織はまた目を合わせる。どちらが話すか若干の押し付け合いをして、次はそっちが聞けと言っているような火織の目に渋々バゼットは折れた。
「確かに私は地球人です。横の彼女は分かりません」
「…地球人です」
「それで、貴方はいったい何者です」
不服そうに答えた火織を置いておいてバゼットは話を続ける。オレンジ色に光る二つの目がこちらを見ていた。
「私はこの星の戦士に会いにきた。我々は強き者を求めている」
言葉少なく答える金属生命体。周囲の気温がまた少し下がった気がする。
「理由は?」
「その者と戦う為だ」
その返答が来るとバゼットと火織は即座に構えを取った。そうしたのは言葉だけが理由ではない、金属生命体から圧を感じたからだ。戦闘時に発せられる特有のもので、相手は金属でもどうやら意思というものはあるらしい。
「お前達は戦士だな。戦闘を開始する」
言い終わると同時に両手を水平まで上げて掌を向けると、そこからオレンジ色のレーザーが発射された。二人は危なげなく回避して、流れる動作で火織が金属生命体の足元に斬撃を飛ばす。割れた岩や舞った砂で視界が塞がれたところで目の前に現れたバゼットの放った拳が腹部に突き刺さり、金属生命体は後ろへと吹き飛んだ。
「相手は恐らく地球外且つ未知の生命体です!一旦私達の話は後回しにしましょう!」
「ええ、一旦!後回しにします!」
攻撃を仕掛けてきた正体不明の敵に対し、三つ巴で戦うのは得策ではない。考えは同じだったようで火織の提案にバゼットは素直に乗ってきた。一旦という部分を強調したことには目を瞑り、共通の敵を無力化ないしは破壊することに集中する。
倒れていた金属生命体が立ち上がる。バゼットは先の攻撃に確かな手応えがあったが、相手を見る限り決定打とはならなかったようだ。それに少しだけ苛立ちが生まれる。
「この星の力を知る必要がある。お前達が一番最初の相手だ」
「試しているつもりですか」
「つもりではない、試すのだ。その為に来た」
「お望みならば粉々に粉砕してあげます」
闘志を滾らせるバゼットに火織は少々不安を覚えた。見た目は凛とした冷静そうな女性だが、その実中身はそうではないのかもしれない。これは自分が一歩下がった状態を取るべきかと考える。
「私はバッサール。この次元、この星への先陣を任された」
「歓迎はしません。貴方は望まれぬ来訪者のようですから」
「遠路はるばる来たところでしょうが、早々にお帰りいただきます」
猛然たる未知との遭遇がここに起きた。後に大きな事件へと発展する出来事はここから始まるのだ。まだ星が空に輝く時刻、バートジー島に強い風が吹いた。
同時刻、ギリシャのクレタ島。島の北西に位置するバロスビーチでは少しずつ青空が顔を出していた。まだ早朝と言える時間だが、この美しい景色の広がる辺境の地を女性が歩いている。真っ赤な長い髪を風に揺らし、ご機嫌な様子で鼻歌を奏でる青い瞳の彼女の手にはトランクケースが握られていた。
彼女は特に理由もなく、気の向くままにこの国を訪れていた。そしてこの場所にも。進む先にあるのは奇しくも隕石の落下地点だ。彼女の存在がそうさせるのか、それとも運命がそうさせるのか。未知との遭遇は間もなくここでも起ころうとしていた。