Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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Collision

祐が隕石を感知する少し前。

 

ブリッジにいたザスティンの耳に機械音が届く。振り向けば素早くモニターを確認していたブワッツが表情を険しくしていた。以前の出来事と今が重なり、ここにいる全員が事件の気配を察知している。

 

「隊長!数日前に観測した隕石と同様のものが!」

 

やはりか。ザスティンはそう思うと同時にブワッツに近寄った。隣のモニターで情報を追うマウルが続報を伝える。

 

「数は100!前回と違い全て同じ軌道で地球に向かっています!」

 

「予測到達地点出ます!」

 

「これは…」

 

映し出された予測到達地点、そこは祐がバッサールと戦闘を行なった場所だった。

 

「あの隕石を追うぞ!」

 

ザスティンの指示のもと、宇宙船は地球に向かう隕石の後に続いた。猛スピードで進む中、ブワッツとマウルに告げる。

 

「祐に連絡次第、予測到達地点には私が向かう!お前達はもしもの時に備えてララ様の元へ行け!」

 

「「了解!」」

 

 

 

 

 

 

早朝ということもあり人もまばらなオフィス街では、本日も普段と何ら変わらぬ一日が始まろうとしていた。会社へと向かうあるサラリーマンがふと空を見上げる。歩きながら真冬特有の澄んだ空を暫く眺めていると違和感に気付いた。遥か上空から、無数の光が降り注いでいる。少しずつ大きくなる光をただ茫然と見つめていた。

 

立ち止まり、じっと空を見る男に周囲は不審な目を向ける。そして男に釣られるように空を見れば、同様の反応をした。大勢が正体不明の光を認識し始める。

 

光が近づいてきたことで、人々はその正体が炎を纏った隕石だと理解した。次第に焦りと不安がこの一帯を支配し、一人が走り出したことで周囲もそれに続く。辺りから悲鳴や叫び声が上がれば、それは連鎖的に恐怖を増幅させた。

 

懸命に逃げ回る中、遂に隕石の一つが地上に激突する。コンクリートを容易に粉砕し、その破片が周囲に降り掛かかった。それからも立て続けに隕石は飛来する。オフィス街は一瞬でその街並みを変化させられた。

 

そこから比較的離れた場所にいた若者が、信じ難いこの光景を映像に収めようとスマートフォンを向けている。大気圏を突破したことで表面からは煙が上がってる隕石にカメラをズームさせた時、その隕石が中からオレンジ色の光を発して爆発を起こす。落下してきた隕石の全てが同じように吹き飛び街を更に破壊した。なんとか隕石から逃げ延びた人々も、恐る恐る様子を窺っている。巨大な黒い煙の中から今度は無数の小さな光が浮かび上がった。そして不気味な機械音が聞こえ始める。風が吹き、ゆっくりと煙が流れていく。

 

現れたのは、無惨に変わった地面に立つ人型の金属生命体だった。先頭にいた一体が前に出る。周辺を軽く観察してから、無機質な声が発せられた。

 

「攻撃開始」

 

その言葉を合図に後ろに控えていた兵隊が掌からレーザーを発射する。無差別に飛び交う攻撃に逃げ惑うしかない人々。街は再び破壊と恐怖に陥れられた。

 

金属生命体から離れる為に走る一人の女性は、息を荒くしながらも止まらないようにと震える足をなんとか動かす。そんな彼女の耳に一際大きな爆発音が響く。音の正体は攻撃を受け、勢いよく宙を舞うトラックだ。不幸にもそのトラックは女性を巻き込んで地面に落下しようとしていた。思考が停止し、大きく目を見開いて立ち止まってしまう。死を予感し、頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 

しかし、そうしていても身体に衝撃はやってこない。何が起こっているのかと少しずつ目を開ければ、ファンタジー漫画に出てくるような見慣れない服装をした大柄の男性がトラックを片手で受け止めている。男は軽い荷物を放るようにトラックを投げ、黒く長いマントを翻して振り返った。

 

「怪我はありませんか?」

 

「あ…えっと…」

 

未だパニック状態の女性は上手く応えることができない。ザスティンはそんな女性の手を取り、優しく立たせると両肩に手を乗せた。

 

「余計なことは考えずに走るんだ。今はここから離れることだけを意識すればいい」

 

「さあ!走って!」

 

女性の向きを180度回転させ、背中を軽く押して声を掛けた。反射的に足を前に動かすことができた女性は、そのままおぼつかない足取りながらも離れていく。その姿を見届け、ザスティンは今も破壊活動を行う集団に視線を向ける。すると何体かはザスティンの存在に気が付き、攻撃を中止してこちらを見ていた。

 

「破壊された個体と、そうでない者もいるな」

 

祐のスーツから送られた映像と戦闘後の残骸を調べていたので見覚えがある。今この場にはあの時と同じタイプと、その簡易型と思しき姿をした2種類がいた。数の割合は簡易型が圧倒的に多く、先日と同系統のものは見たところ確認できた範囲では二、三体だ。このタイプは隊長格、または上位種と言ったところだろうか。

 

「お前は地球人か?」

 

「違う。だがこの星を侵略するつもりなら私は貴様達の敵だ」

 

炎が広がり始めた街でザスティンと侵略者達の視線が交差する。敵の数は優に200は超えているいるようだ。一対多数というレベルではないが、ザスティンに後退の意思は微塵もない。刀身が緑色のエネルギーで形成された愛用の剣を出現させる。バッサール軍団の標的がただ一人に定まった瞬間、ザスティンの隣に上空から虹の光が降り注いだ。周囲に強風が吹き荒れる中、初めから分かっていたのかザスティンは変わらずバッサール達に視線を送る。やがて光が晴れると、戦闘服に身を包んだ祐が隣に立っていた。

 

「すみません、遅くなりました」

 

「いや、充分だ。それにしても、空から来るのは相変わらずだな」

 

「空は渋滞してませんからね」

 

「やはり来たか、虹の光」

 

場違いな会話を交わしつつ、お互いに目の前の敵を見据える。先頭に立つバッサール・リーダーが祐に反応した。衝突は目前まで迫っている。

 

「何か案はあるか?」

 

「正面突破で。貴方と俺ならそれが一番だ」

 

「違いない」

 

二人は構えを取る。この光景だけ見れば多勢に無勢と言えるだろう。正確な敵の数は300、対してこちらはたったの2人だ。しかし祐もザスティンも、己が死地に向かう兵士とは思っていない。そして、横にいる戦友がここで倒れるとも思っていなかった。

 

「攻撃再開」

 

言い終わると同時に二人へ無数のレーザーが嵐のように飛来する。祐は全身に光を纏い、ザスティンは剣を突き出して進撃を開始した。双方降り注ぐ攻撃をものともせず、速度を増しながら敵陣に突入する。リーダーは空中に飛んで回避するが、簡易型は対処できずに爆発と共に吹き飛んでいく。接近した祐とザスティンは、休むことなく敵へ攻撃を仕掛けた。

 

遠方からはレーザーが、そして近くからは打撃が飛んでくる。爆心地の中心にいながら、二人はただ目の前の敵を薙ぎ倒していった。押し寄せるバッサール・ソルジャーの波に呑まれることはない。それぞれが思い思いに動いているようでいながら、実際はお互いを補い合って戦っていた。それを感じ、ザスティンは笑顔を浮かべる。

 

「驚いたな!君が周りに気を配りながら戦うとは、随分変わったじゃないか!」

 

「それまた言いますか!俺だって一応反省してます!」

 

「いい傾向だ!成長だな!」

 

「恐縮です!」

 

軽口を叩いているが動きは止まらない。止まれば最後、この猛攻にすぐさま押し潰されるだろう。それだけの状況下に置かれながら、二人には諦めも悲観もなかった。この程度で根を上げるようなら、今ここに居ない。確かな経験、そして相手への信頼が祐とザスティンにはあった。

 

「やはりあの力は無視できない」

 

「隣の男もだ」

 

「この次元は当たりだろう」

 

上空に停滞しながら祐達の戦いを観察していたリーダー三体がそう言った。虹の光が最優先事項だったが、それだけではない。中々どうしてこの次元そのものが高い戦闘力を保持した個体が多いと見える。星の数ほど存在する世界の中にあって、極めて高い特異性で溢れている次元に遭遇した。前の次元の記憶は既に消え去っているが、もしかすると待ち望んだものへ遂に辿り着いたのかもしれない。そう思わせるだけのものがここにはあった。

 

 

 

 

 

 

侵略者の襲撃が始まったという情報は未だ日本をはじめ、世界には届いていない。しかしそれも時間の問題だ。表の世界にも新たな戦火が広がってしまった事実は直に伝わるだろう。そんな中、一足早く情報を手に入れた近右衛門は本日を休校・自宅待機とし、裏の世界にも身を置く教員達を緊急招集。既に行動は開始され、麻帆良学園全体に警備体制を敷いた。学園長室にて状況を伝える続報を待ちながら、横に控える刀子に声を掛ける。

 

「高橋先生はどうじゃ?」

 

「今も中庭に。黄泉川先生が付いていますが、避難させますか?」

 

近右衛門は一度視線を落とす。そしてすぐに首を横に振った。

 

「いや、そのままでいいじゃろう。麻帆良(ここ)にいる限りは彼女の意思を優先しておきたい」

 

「かしこまりました。では、私も配置に着きます」

 

「うむ、頼んだぞ」

 

刀子は一礼してから学園長室を後にする。扉が閉まったのを確認し、近右衛門は席から立ち上がると窓から遠くの空に視線を投げた。

 

そして現在、中庭には麻耶と愛穂の二人がいる。今も虹の光が飛んでいった方向から目を逸らさない麻耶の横に愛穂は黙って佇んでいた。双方見ている方向は同じだ。

 

「黄泉川先生」

 

声に愛穂が顔を向ける。麻耶は放心状態からは脱したのか、少し落ち着きを取り戻した様子だ。動揺や不安は消えてはいないだろうが、それは仕方がない。

 

「黄泉川先生はご存知だったんですか?その…逢襍佗君のこと」

 

ここに座り込んでいた麻耶を最初に発見したのは、近右衛門からの招集を受けて学園長室に向かっていた愛穂だ。彼女の様子から只事でないことを察し、なるべく刺激しないようにと優しく寄り添うことでなんとか麻耶から話を聞くことができた。そしてその内容に頭を抱えたくなったのが正直なところだ。

 

「知ってた。宇宙人に攫われた時、あいつが助けてくれたんだ。その時に」

 

当時のことを思い出しながら答える。思い返してみれば、あの時から自分の立場も随分と変わったものだ。

 

「宇宙人を捕まえたのは、本当は逢襍佗なんだ。あいつが黙っててほしいって言ったから、私の手柄になっちゃったけど」

 

「…そうだったんですね」

 

麻耶の視線が落ちる。その姿に愛穂は後頭部を掻いた。なんとなく、彼女の気持ちが分からないでもない。若干の気まずさを感じつつ、頭を下げる。

 

「申し訳ない、高橋先生。事情があったとはいえ、秘密にしてて」

 

「いえ…仕方ないですよ。そんな話、簡単に言えるわけありませんから」

 

今言ったことは本心だ。こんな秘密をおいそれと他人に話していい筈がない。麻耶もそれは充分理解している。それでも、こうして奥底では嫉妬のような感情を抱いてしまっている自覚があった。情けない、こんなことを考えている場合ではないというのに。

 

「あの子は今も…今までもずっと戦ってたんでしょうか?」

 

「宇宙人事件より前のことは…私も詳しく知らない。けど、あいつは戦ってたんだと思う。前からずっと」

 

愛穂の解答に麻耶は悲しそうに笑った。いや、苦しそうだったかもしれない。どちらにせよ、その姿が痛ましいことに変わりはないだろう。麻耶は心の中にあるものを吐き出すように、大きなため息をついた。

 

「ほんと…聞かなきゃいけないこと、沢山あるなぁ」

 

独り言のように呟いたものは、やけに愛穂の耳に響いた。そっと麻耶に近づき、彼女の肩に手を乗せる。

 

「逢襍佗は、最後になんて?」

 

「帰ったら、ちゃんと話すって言ってました。本当のことを」

 

「そうか」

 

そう言うと今度は腕を伸ばし、一歩近づいて麻耶の肩を引き寄せた。突然のことだったので、麻耶はそのまま愛穂に肩を抱かれる形になる。

 

「じゃあ、ここでしっかりあいつを待つとするじゃん」

 

「よ、黄泉川先生?」

 

困惑しながら愛穂を見れば、真剣な表情が目に映った。きっとその視線の先には、祐がいるのだろう。

 

「私も、あいつに伝えなきゃならないことがあるんだ」

 

もしかすると彼女も自分と同じなのかもしれない。聞きたいことがあって、伝えたいこともある。そして、このまま終わりになどさせたくない。

 

「一回…手を離しちまった。引っ掴んで、捕まえとくべきだったのに」

 

当然それだけで詳しいことは分からない。だが今の話は祐とのことで、愛穂は自分がその時取った行動を後悔している。そう思ったのは麻耶の察しがいいからなのか、はたまた別の理由があるのかは定かではない。ただ、やはり彼女は自分と同じだと確信した。

 

「だから、次は絶対に離さない。私の思ってること全部ぶつけて、勝負してやる」

 

そう言って愛穂は笑顔を見せる。逞しく、安心感を覚える彼女の表情に麻耶も次第と笑みを浮かべた。志を共にする、頼もしい仲間の存在に気付けたからだ。

 

「それなら、私もお供します」

 

「おう!よろしくじゃん高橋先生」

 

本当は、できることなら今すぐにでも祐の元へ向かいたい。麻耶も愛穂も同じことを考えている。しかし自分が危険地帯に行ったところで事態を悪化させるだけだと麻耶は理解している。そして愛穂には周辺の警備という役目があった。歯痒い思いを抱きながらも、二人はここで帰りを待つ。

 

全ては祐が帰ってこなければ始まらないことだ。帰ってきたら、まずは怪我の確認をするべきだろう。何よりも彼の安全が第一だ、混み合った話はその後にすればいい。しっかり話してくれると約束したのだから。きっと、きっとこの約束は守ってくれると信じている。

 

(だからお願い逢襍佗君、無事に帰ってきて)

 

祐が無事に帰ってくること。今はそれだけを望み、そして祈る。これほど誰かのことを心配したのは青子以来…いや、それ以上かもしれない。

 

命を懸けた戦いなど、麻耶にとっては漫画やアニメの中だけの話だった。だがこうして自分の近くにいる子供が、自分の受け持っている生徒がその渦中に身を置いている。これは空想の話でも、他人事でもない。確かな現実で、向かい合うべき問題だった。

 

今まで過ごしてきた世界とは別の新たな世界へ、高橋麻耶は知ってか知らずかその一歩を踏み出していた。

 

 

 

 

 

 

あれから街は更に荒れ果てていた。周囲には瓦礫と敵の残骸が散乱し、炎は燃え盛り煙が立ち込める。少し前までは平和な日常があった筈の風景は、見るも無惨なものに様変わりしていた。

 

祐とザスティンは襲い掛かるバッサール・ソルジャーを押し退け、その数を着実に減らしている。少なくともこの戦力では二人を崩せそうになかった。

 

「押されているな」

 

「このままではこちらが負ける」

 

「ならば仕掛けるしかない」

 

上空から観察していたリーダー三体は状況が芳しくないと判断し、急降下で二人に迫る。それを察知した祐とザスティンは今いる場所から飛び退く。すると先ほどまで立っていた場所に三体が同時に放ち、空中で合わさったことで巨大化したレーザーが降り注いだ。祐達に被害はないが、付近にいたソルジャー軍団の何体かはそのまま消滅する。

 

「隊長格のお出ましか」

 

「そうみたいですね」

 

相手の戦力が増したということだろうが、やるべきことに変化はない。初めから殲滅するつもりだったのだ、寧ろお陰で葬る時間が短くなる。

 

着地したリーダー達はそのまま迷いなく別れて相手に向かう。数は祐に二体、ザスティンに一体だ。それぞれに放たれた拳を祐は両手で、ザスティンは刀身で受ける。

 

「私は一体で充分ということか?舐められたものだ!」

 

リーダーごと剣を振り払い、強制的に後退させる。すると残っているソルジャーはザスティンに進行を始めた。

 

「優先すべきはあの虹だ。しかし、お前は強い。どちらが上だ」

 

「自分で見極めるといい」

 

短く会話を済ませ、ザスティンはなだれ込んでくるリーダーとソルジャーを迎え撃つ。その少し横では祐が二体のリーダーからの攻撃をいなしていた。

 

右から飛来するレーザーを避けつつの蹴りが腹部に突き刺さり、バッサールは身体をくの字に曲げて吹き飛ぶ。そして左側からこちらを捉えんとする拳を下から左手で掬い上げるように逸らすと、開けた空間に踏み込んで右拳を金属の首に放つ。のけぞりを起こした隙を見逃さず、間髪入れずに後頭部を掴んで頭突きを見舞った。鋼鉄を想起させる強固さを持つ筈のバッサールの輪郭が僅かに歪む。続けてツインアイが強く発光すると、そこから2本の光線が発射された。ふらつくバッサールに防ぐ術はなく、光線の直撃を受けて後方に押し出される。

 

(やはり変わった。要因は…さまざまだろうな)

 

戦いながらも祐を横目で確認していたザスティンはそう結論付けた。バッサールとの初戦を見た時も思ったが、祐の動きは予測が困難だ。というのも、次にくるであろう行動が読めない。基本的には肉弾戦を主体としているのだろう。しかし繰り出される攻撃はそれだけではない。先程の目から発射された光線のように、要所要所で挟まれる変則的な攻撃も予測の難解さに拍車を掛けている。そもそも彼の持つ力自体が謎に包まれているのだ。何をしてくるのか、何ができるのか、それが分からないのは戦闘において相手に大きな精神的圧力を与える。相対した際のやりづらさだけで言えば、今の方が上かもしれない。これが現在の祐が最も得意とする戦い方なのだろう。本当に、変わったものだ。

 

先に吹き飛ばされていたバッサールが上空に飛んだ。もう一体は起き上がると地上から進んでくる。高低差を交えた攻撃をするつもりのようだ。受けて立とうと祐が構え直した。

 

その時、どこからか飛んできた小型の装置が宙に浮いていたバッサールの胸部に張り付く。それにバッサールが気付いたのと同時、突如装置から高圧電流が流れた。空から地面に落下する様子を見て、仮面の下で祐は困惑する。今の攻撃は自分やザスティンのものではない。ではいったい誰がと周囲に意識を飛ばすと、見知った気配を感じ取った。

 

地上にいたバッサールもこちらに近づく存在を感知する。上空に目を向ければ、そこには空を高速で飛行する路面電車の姿があった。祐からすればとても見覚えのある路面電車だ。その空飛ぶ路面電車は祐の横を通り過ぎ、正面にいたバッサールに突撃して弾き飛ばした。唖然とする祐をそのままに、後方へと移動した路面電車のドアが開かれる。するとそこから祐の装着しているものとよく似た戦闘スーツを纏った者達が降りてきた。

 

装備の影響により、その人物達が誰なのか一般人では判断することはできない。しかし祐には分かる、彼らが誰なのか。ここにいる全員の視線が集中した時、中央にいた小柄な人物が声を上げた。

 

「僕達もこの戦闘に参加させてもらいます!」

 

そう言うと走って祐の隣に立ち、残りの三人も後に続く。

 

「あんたら!他人の星で好き放題暴れ回ってんじゃないわよ!」

 

「このような蛮行を見過ごすわけにはいかん!」

 

「…まぁ、そういうことだ」

 

感じ取れる気配はやはり祐がよく知る者達。ネギ・明日菜・刹那・真名だ。いや、それだけではない。路面電車の中にもいる。

 

「間に合ったカ。やはり急ぎの際は空路に限るネ」

 

「試運転には丁度良かったですね!」

 

操縦席に座る超と聡美の会話を聞き、和美が二人の顔を見る。他のメンバーも今の話は聞き流せなかった。

 

「…試運転って、まさかこれ動かしたことなかった感じ?」

 

「空を飛んだのは今回が初めてヨ」

 

「ちょっと!そんなもんに私達乗せてたの⁉︎」

 

「私達の理論通り、無事に着いたんだからいいじゃないですか」

 

「そういうことではありませんわ!」

 

「えっと、私はちょっと楽しかったですよ」

 

「飛んだりすり抜けたりできる奴は気楽でいいな!」

 

あやかとさよ、ハルナも参加したことで賑やかになる車内だが、木乃香は一人祐達を映すモニターを心配そうに見つめていた。戦闘を見るのは初めてではない。それでも大切な人が戦う姿に不安が掻き立てられる。簡単に慣れるものではないし、慣れたいというのも少し違う気がした。そして自分が戦えないということに少なからず罪悪感も覚える。無意識のうちに握る拳の力が少し増した。

 

「……」

 

そんな木乃香に気付いたカモは、任された索敵レーダーのモニター前で彼女の表情を窺う。

 

(う〜む…こりゃフォローが必要かもな)

 

「こらカモミール、君はレーダーから目を離してはいけないヨ」

 

「もう!オコジョ使いの荒い娘!」

 

状況がまだ上手く飲み込めていない祐は隣に立つネギを見る。その視線を感じ、ネギか顔を向けた。二人の視線が仮面越しに重なる。

 

「どうてここに…」

 

「貴方に会いに来ました。一緒に戦いたいからです」

 

なんとか言葉を紡いでいた祐と違い、ネギの発言は力強いものだった。只々真っ直ぐな想い、混じり気のない本心を伝える。

 

「僕も戦います、貴方と一緒に。他でもない貴方とだから、迷いなんてありません」

 

何も言えずにいる祐の背中が軽く叩かれる。そちらを向けば腰に手を当てた明日菜が自分を見ていた。

 

「ほら、ぼさっとしてないで。あいつらなんとかするんでしょ」

 

「まずは奴らを片付けましょう。話はそれからとことんさせてもらいます」

 

刹那も続けて祐に声を掛ける。真名は何も言わなかったが、こちらに視線は向けていた。すると一旦の仕切り直しとしてザスティンが祐達の元へやってくる。彼もこの状況に困惑しているようだ。

 

「この者達は…増援ということでいいのか?」

 

「えっと…まあ」

 

「はい!僕達は仲間です!この方にはいつもお世話になっているので、是非協力させてください!」

 

祐が言い淀んでいると、これまた迷いなくネギが答える。その勢いに少々面食らうザスティンだったが、やがで笑みを浮かべた。

 

「どうやら頼もしい仲間のようだ。ならばここは君達の力を借りるとしよう」

 

「全力で頑張ります!」

 

何か思うところがあったのか、ザスティンは共に戦うと決めたようだ。ネギ達のことは碌に知らない筈なのだが、既に彼らを信用しているようにも見える。

 

なんとか冷静さを取り戻せた祐は一度軽く頭振るった。気になることも言いたいことも山積みだ。だがそれらは刹那の言った通り、この侵略者を片付けてからにしよう。話は、その後でいい。

 

普段あれだけ悩んでおきながら、いざ戦闘となると思考が透き通っている。やるべきことが己の中で明確になり、迷いが生まれないのだ。瞬時に決断を済ませられる。そんな自分はやはり戦うのが一番なのだろう。これはきっと、紛れもない事実だ。

 

余計な考えを今は振り払う。全ての意識をこの戦いに。なんとしてでもこの侵略者を通すわけにはいかない。守りたいものがすぐそばにあるのだから。その為にこそこの力は、この命はある。

 

「聞きたいこととか色々あるけど、確かにこっちが優先だな」

 

一歩前に踏み出すと、それに合わせて全員が横一列に並んだ。バッサール達も列を組み、宛ら二回戦の幕が上がろうとしている。

 

「取り敢えず、あの侵略者供をこの星から叩き出す。みんな、頼むから大怪我はすんなよ」

 

「分かりました!」

 

「やってやろうじゃないのよ!」

 

「全身全霊でいきます」

 

「仕事はきっちりこなすさ」

 

「これは騎士として負けていられんな」

 

全員が戦闘の構えを取る。バッサール軍団の掌が祐達に向けられた。

 

「攻撃再開」

 

こうして再び戦いの火蓋が切って落とされる。敵は別次元からの侵略者。立ち向かうのはなんとも歪な即席集団だった。

 

しかしそんなことは問題ではない。生まれも育ちも、そして種族すら違う纏まりのない衆と言われようとも、全員の想いは同じ方向へと向けられている。目指すものが同じならば、手を取り合える筈だ。そうしたことでこの世界は生まれたのだから。

 

隣から感じる熱に過去を呼び起こされながら、祐は大地を強く踏み締めた。

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