Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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未だ見えず

タカミチと祐は学園長室の扉の前にいる。祐にとっては幾度となく訪れた場所だが、今は事が事なので少し緊張した面持ちであった。タカミチが扉をノックし、声をかける。

 

「学園長、祐君を連れて来ました」

 

「うむ、入ってくれ」

 

扉の奥から声が聞こえたことを合図にタカミチが扉を開ける。するとそこには椅子に座り、机の上の資料を見ている近右衛門の姿があった。

 

「おお、祐君。こんな時間にすまんな。タカミチ君もご苦労じゃった」

 

「いえ、とんでもないです」

 

祐はそう答え、タカミチは頭を下げた。

 

「立ち話もなんじゃ。ソファにかけてくれ」

 

言われた通り来客用のソファに座る祐。相変わらず深く沈むな、とどうでもいいことを祐は考えていた。祐のテーブルを挟んで向かいの席に近右衛門とタカミチが座る。

 

「さて、さっそくで申し訳ないが、ここに呼ばれた理由はタカミチ君から聞いておるかね?」

 

「はい、こちらに来る前に。今日起きた爆発事件に関してですよね」

 

「うむ、その通りじゃ」

 

近右衛門はソファに座り直し、少し前かがみになった。

 

「今日の爆破事件、君は実際にあの現場にいたという事で間違いないな?」

 

「はい、間違いありません。あの場に居合わせて、犯人とも戦闘を行いました」

 

祐はタカミチに先ほど伝えたことを近右衛門にも伝えた。学園長は目を閉じ、「ふむ」と一言つぶやいた。

 

「なるべく遠出は控えるようにと伝えた件についてはまた追って話があるとして、事件のことについて聞かせてもらえるかの?」

 

「はい」

 

それから祐は事件のことを学園長たちに詳しく話した。

 

 

 

 

「なるほどの。同じ黒い服装にホッケーマスクをかぶった者達とな」

 

「犯人たちと深く話したわけではないので分かったことは少ないですが、幻想種などに強い恨みを持っているという事は間違いないかと」

 

「『化け物が来さえしなければ普通に暮らせていた』か…」

 

「それと顔は直接見ていませんが、声からして年齢は若かったと思います」

 

祐の話を聞いて、二人はその内容を自分の中でまとめる。

 

「彼らの犯行理由も気になりますが、異様な身体能力を持っていたことも気になります」

 

「その者達は魔法も気も使っていなかったと言っておったな」

 

「はい。明らかに常人の力ではありませんでしたが、魔力や気、それ以外の特殊な力の流れも感じられませんでした」

 

祐は犯人たちと対峙して感じたことを話し始める。

 

「やっと力を手に入れたと言っていた事、実際に戦闘して戦い慣れているようには見えなかったことから先天的なものではないと考えます」

 

「目的の為に、何らかの方法で力を手に入れた」

 

「おそらく」

 

タカミチの言葉に祐が同意した。三人はしばらく沈黙する。

 

「やれやれ…多少情報が出たとはいえ、まだまだ分からぬことだらけじゃな」

 

「すみません、もう少し引き出せていたら…」

 

「何を言う、それは祐君が気にすることではない。君が無事だというだけで十分じゃ。君は他でもない一高校生なんじゃからな」

 

そう言って祐の肩に手を置く近右衛門。祐はその手から暖かさを感じて自然と笑みが溢れた。

 

「ただし先ほども言ったが、遠出をしたことに関しては後ほど話があるからの」

 

笑顔のまま伝えられた学園長の言葉に祐は何とも言えない顔になる。

 

「はい…返す言葉もございません…」

 

対して近右衛門とタカミチはとてもいい笑顔だった。

 

 

 

 

その後情報の擦り合わせを終えた三人。祐は学園長室から帰宅することにした。

 

「それでは失礼します」

 

「うむ、こんな時間まで付き合わせてしまってすまなかったの」

 

「いえ、むしろ久しぶりにちゃんと話せてよかったです」

 

「ならわしとしては、もう少し頻繁に顔を見せてほしいんじゃがの」

 

「肝に銘じておきます」

 

祐は笑って答えた。

 

「それじゃ祐君、気を付けてね」

 

「はい。おやすみなさい学園長、タカミチ先生」

 

扉を閉じて祐は帰っていった。残った近右衛門とタカミチは共にため息をつく。近右衛門は自分の席に戻り、タカミチは机の横に立った。

 

「どう思うタカミチ君」

 

「これで終わりではないでしょう。おそらくまだ仲間はいると思います」

 

「そうであろうな」

 

お互い確証はないが確信はあった。きっとこの事件はここでは終わらない。長年修羅場を潜り抜けてきた二人の直感ともいえるものは同じ答えを導き出していた。

 

「奴らの目的ははっきりせんが、事によっては我々(魔法使い)も動く必要があるやもしれん」

 

「同感です。僕の方でも本腰を入れて調べてみることにします」

 

ただの犯罪であればこちらとしても積極的に介入するわけにはいかないが、相手が超能力者の系統であるならばその限りではない。魔法が世の中に知れ渡って早10年が経とうとしている。未だ魔法使いは次元侵略戦争以降表立って動くことはないが、一般人と協力していくつかの問題を共に片付けた事もある。今回もおそらく、こちらの介入が必要となる案件になるであろうと近右衛門は踏んでいる。出来る事ならここで終わりという事になってほしいが、叶わぬ願いであろうとも思っていた。

 

「ようやく訪れた平穏。しかし以前に比べ世界は大きく変わった。そう易々と長く続く平和が訪れるはずもないか…」

 

何ともやるせないといった風に近右衛門は口にした。タカミチは真剣な表情で窓から外の景色を見ている。

 

「学園長、彼の事は…どうお考えですか?」

 

タカミチが近右衛門に視線を向けてそう聞いた。

 

「あの子はもう充分戦った。出来る事なら戦いからは遠ざけてやりたい。じゃが…」

 

近右衛門がタカミチを見る。

 

「世界がそれを許すか、何よりあの子自身がそれを許せるのか」

 

「わしがしてやれる事は少な過ぎる。何とも…情けない話じゃ」

 

深く息をして、近右衛門は感情を噛みしめるように目を閉じた。

 

それを見て再び外に視線を戻すタカミチ。そこには自宅へと帰宅している祐の後ろ姿があった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

女子寮の一室。その部屋には二人の少女が暮らしている。一人は一年A組出席番号18番、龍宮真名。女子高生とは思えぬグラマラスな体系に184cmという身長を持つ、ストレートの黒髪を腰より下に伸ばした褐色肌の少女である。もう一人の住人である少女は真名に反して151cmと小柄で色白。黒い髪をサイドテールに纏めている。出席番号15番、桜咲刹那である。

 

「それで刹那、お姫様とのお出かけはどうだった?」

 

ソファに座りからかう様に声をかけてきた真名に、自分の机の椅子に座っていた刹那は鋭い視線を向ける。

 

「茶化すな真名。死人が出ているんだぞ」

 

「そうだったな、これは失礼」

 

謝罪する真名だったが、心が籠っていないことは丸わかりだった。それに対して何か言おうとした刹那だったが、飄々とかわされるだけだろうと思いやめた。

 

「それにしてもまさかショッピングモールを爆破とは。相手は余程の過激派と見える」

 

真名は付けていたテレビを見ながら言う。今だテレビのニュースは爆破事件の事を扱っている。新しい情報が入ったわけでもあるまいによくやると、どこか冷めた目で見ていた。

 

「奴等がなんの目的でこんなことをしたかは見当がつかないが、どんな理由であれ許されるものではない」

 

刹那がテレビに視線を移し、その目つきをさらに鋭くする。あの時、現場で少し離れた位置から木乃香達を見つめていた小柄な少女こそ刹那であった。彼女はある理由から木乃香を常に監視している。その為今回の事件にも居合わせた。木乃香から離れず監視していたので実際にこの目で爆破の瞬間を見たわけではないが、怪我をして搬送されていた人々は見た。本人であれその友人や家族であれ、皆一様に暗い表情。中には泣いている者もいた。正義感の強い彼女がそんなことを許せるはずもない。

 

「流石に事が大きくなり過ぎたな。もうただの悪戯では済まないが、余程何かに強い憎しみでもあるのか、ただアホなだけか…どちらにしても厄介なことは変わりないな」

 

あくまで真名は一歩引いた様な物言いをした。

 

「まぁ、何はともあれクラスメイト達が無事でよかったよ」

 

「知ってたのか」

 

「なにもいいのは目だけじゃないんだ」

 

真名は得意げに笑った。刹那はアウトレットへ出かける木乃香の監視をすると言うことしか真名には告げていない。興味自体は無かったであろうが、木乃香達が教室で例の場所に行こうと計画していた会話自体は聞いていたのだろう。相変わらず抜けめないルームメイトだと思った。

 

「刹那。これは友人としての忠告だが、そろそろお前も腹を括ったほうがいい」

 

先ほどの態度から一転して、真剣な表情を真名が見せた。それに勘付いた刹那も気を引き締める。

 

「どういう事だ?」

 

「もう遠くで見ていては、守りきれなくなるかもしれないという事だ」

 

真名の言葉に刹那の表情が曇った。それを横目で見つつ真名が続ける。

 

「お前達の関係をどうこう言うつもりはないが、恐らくこれから一波くる。一つ起きれば、波というものは続けて起きるものだ。きっと世界は騒がしくなる」

 

刹那からの反応はないが、真名は構わず続ける。

 

「後悔先に立たずと言うやつだ。どれだけ手を伸ばしても、その手が届かなくなるというのは、なかなかに堪えるぞ?」

 

「ああ…肝に銘じておこう」

 

そうは言ったものの、刹那はすぐに答えを出すことができなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

時刻は23時を回り、女子寮もすっかり静かになった。明かりの消えた部屋で明日菜は二段ベットの上の階で目を閉じている。夢と現実を行ったり来たりしている状態の明日菜にふと声がかかる。

 

「明日菜、まだ起きとる?」

 

「んぇ?なに木乃香?」

 

寝ぼけていた明日菜は少しだけ驚きながら返事をした。しかし木乃香からの返事はなく、代わりに物音が聞こえる。

 

「ごめんやすー」

 

「えっ?なに?」

 

気がつくと木乃香がこちらのベットに登ってきていた。突然の事に頭の回転が追いつかず、ぼけっとしている間に木乃香は明日菜の隣で横になった。

 

「うーん、ちょっとだけ狭いかも知れへんな」

 

「ちょっと、どうしたのよ急に?」

 

ようやく状況を理解し始めた明日菜が疑問を投げかけた。

 

「今日はそういう気分なんよ。あかん?」

 

「いや、だめってことはないけど…」

 

そんな風に上目遣いで頼まれては折れるしかない。本人は認めないだろうが、明日菜は木乃香のお願いにはめっぽう弱かった。明日菜は少し左に寄って木乃香のスペースを空けた。

 

「ふふ、なんや明日菜とこうやって寝るんは久しぶりやね」

 

「そりゃあ、もうお互い高校生だしね」

 

お互い仰向けの状態で横になる。一人で寝るには十分な大きさだが、流石に二人で仰向けになると少し狭い為、肩は常に触れている形になる。

 

「祐君のこと、まだ怒っとる?」

 

目線は二人とも天井を見つめたまま、木乃香が明日菜に聞いた。

 

「ううん、もう怒ってないわ。むしろ自分が嫌になるっていうか」

 

「なんでなん?」

 

「あいつは死んじゃいそうになってる人を助けるために動いてた。それは絶対悪いことなんかじゃない。それが分かってるのに私は…祐を責めちゃった…」

 

普段の明日菜ならこんなに自分の気持ちを曝け出すことはなかっただろう。それが今こうなっているのは、この状況がそうさせるのか、それとも他の理由があるのか。それは明日菜本人にも分からなかった。

 

「急にいなくなって心配になったのは本当。勿論それも怒った理由だけど、それだけじゃない。私、祐が私達を置いて別の人のところに行っちゃったのが寂しかった」

 

自分の思いを口にするたび、また自己嫌悪に陥る。

 

「なんの怪我もしてない人と、今にも死んじゃうかも知れない人。どっちを優先するべきかなんて考えるまでもないのに」

 

「明日菜」

 

名前を呼ばれそちらを向くと、明日菜はこちらを向いた木乃香に優しく引き寄せられた。それにより向かい合った状態で頭を木乃香の胸に抱えられる。それに少し驚くが、そこから抜け出そうとは思わなかった。

 

「明日菜はなんも悪くあらへんよ?祐君も悪くあらへん。今日の事は二人とも悪くあらへんて」

 

そう言われて明日菜は目を見開いた。胸に抱えられている為その表情は誰にも見えてはいない。木乃香は優しく言い聞かせる様に続ける。

 

「ウチかて祐君が急におらんくなってすっごく不安になったし、寂しい気持ちになったえ。大浴場で会った時に美砂も言うとったんや、そう思ってもしゃあないって」

 

気づけば明日菜は木乃香の背中に腕を回していた。木乃香と同じ様に優しく抱きしめ返す。

 

「でも祐君も悪くない。きっと祐君は、もう誰かが自分の目の前で死んでまうのは見たくないんよ。だって祐君優しいもん」

 

彼の優しさは、幼馴染である二人はよく知っている。誰かが危険な目にあっていたら黙っていられない性格なのも。

 

「明日菜も祐君も悪くあらへん。今日の事はたまたま上手く噛み合わなかっただけや。だから明日菜、そない自分を責めんであげて?辛そうな明日菜見とったら、ウチもみんなも、祐君も悲しくなってまうよ」

 

明日菜は一度抱きしめる力を強めた。しばらくして顔を上げて木乃香を見る。

 

「木乃香…私、祐になんて言えばいいのかな?」

 

「特別なことなんて言わんでええんよ。この前は少し言い過ぎてごめんって言えば。祐君もきっと、はよう明日菜と仲直りしたいって思ってるはずやもん」

 

「頑張ってみる…」

 

「うん、ウチも協力するえ」

 

木乃香の笑顔を見て明日菜も笑顔を見せた。

 

「木乃香」

 

「なに?」

 

「ありがとね」

 

「おばんどす〜」

 

明日菜は一瞬ぽかんとした後、ふふっと笑った。

 

「それ、使い方間違えてるんじゃなかった?」

 

「えへへ、祐君のまね〜」

 

二人はそれから少し話をして、気付けばどちらとも眠りに落ちていた。二人の手はしっかりと握られたまま。

一番好きな章は?

  • 序章・始まりの光
  • 幽霊と妖怪と幼馴染と
  • たとえ世界が変わっても
  • 消された一日
  • 悪魔よふたたび
  • 眠りの街
  • 旧友からの言葉
  • 漢の喧嘩
  • 生まれた繋がり
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