Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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相似

相も変わらず寒い日々が続く12月も終盤。冬休みやその他多くのイベント事に浮き足立つ麻帆良学園は、千雨にとって普段以上に心休まらない場所であった。

 

元も子もないことを言えば、この街は普段からお祭り騒ぎの連中で溢れかえっている。気にするだけ無駄だとは重々承知しているものの、気になってしまったことは早々に無視できないものだ。しかし冬休みとなれば、そんな騒がしさとは多少の距離を置くことができる。クラスメイト達と理由は違えど、冬休みを心待ちにしているのは千雨も同様であった。

 

本日も学業を無事に終えて足早に自宅を目指す。と言うのも先程までクリスマスパーティーの話で盛り上がるクラスメイトに巻き込まれ、無駄な時間を大量に消費させられた。参加するつもりのないイベントの話など興味があるわけもなく、なんとか隙を見て抜け出してきたのだ。

 

(ったく!どいつもこいつも浮かれやがって!だから嫌いなんだよイベント事ってのは!)

 

盛り上がりたいなら勝手にすればいい。だがそれはこちらに迷惑が掛からなければの話だ。人間誰しもがお祭り好きではないし、騒ぐのが苦手な者もいる。しかし連中はそんなことはお構いなしと全員を巻き込もうとするのだ。これをいい迷惑と言わずになんと言おうか。

 

不機嫌なことを隠そうともせず、地面を踏みつけるように歩いていた千雨がふと足を止める。気付かぬ内に普段の帰路とは別の道を進んでた影響で、ある公園の入り口に差し掛かっていた。ここは確か祐がボランティアしている場所だったはずだ。

 

「……」

 

入口を無言で見つめる。特に興味があるわけでもないはずなのに、どうしてか足が動かなかった。そんなことをしている内に、偶々前を通った人物が千雨の顔を見る。

 

「あら?貴女確か…前に大勢で来てくれた子よね?」

 

「へ?あっ、どうも…」

 

声を掛けてきたのはあの時祐と一緒に公園の清掃をしていた高齢の女性だ。彼女のことをかろうじて覚えていた千雨は会釈をした。相手は一人だったこちらならまだしも、20人以上いて尚且つ目立っているわけではない自分のことをよく覚えていたなと少し驚く。

 

「こんにちは、偶然ならタイミング良いわね。逢襍佗君なら向こうで落ち葉を集めてるわよ」

 

そう言って女性はゴミ袋を両手に持って何処かへ行ってしまった。そんなつもりではなかったのだが、声を掛けられた手前このまま帰るのも気が引ける。なんとも言えない顔で教えられた場所へと向かった。

 

程なくして箒で落ち葉を掃いている祐を見つける。どうやらあれからもずっとここのボランティアをしているようだ。何かの点数稼ぎが、それとも本当に善意からか、いったいどんな考えで行っているのかは少し気になる。ただ確かなことは、そのどちらも自分であれば選ばないだろうということだ。

 

暫く千雨は祐の後ろ姿を黙って見つめていた。この前も祐の背中を見つめていたことを思い出しつつ、ここまできて今更なのだが声を掛けるか迷っている。別に用があるわけでもなく、挨拶程度ならここでする必要もない。そもそもそこまで親しいかと問われれば、返答に困る。所詮自分達は同じ学園に通う同級生というだけだ。

 

迷うくらいなら話しかけない方がいい。そう考えて来た道を戻ろうと振り向いた時、強い風が吹いた。下から噴き上げるような風に慌ててスカートを押さえる。すると後ろから祐の声が聞こえた。

 

「うおおお⁉︎落ち葉がーーー‼︎」

 

見てみると先程まで祐の横に積まれていた落ち葉が宙に舞っている。自然が生み出した美しい風景と言えば聞こえはいいが、掃除していた方からすればたまったものではない。祐が急いで残りの落ち葉の山に覆いかぶさって飛んでいくのを防ごうとした瞬間、第二波が放たれ全てが吹き飛んでいく。結果地面に意味もなく倒れ込んだ祐だけがその場に残され、少しの間を置いて背中に枯れ葉が降り積もる。うつ伏せの状態から動こうとしない姿があまりにも気の毒だったので、千雨はそっと近づいてしゃがむと祐の後頭部に乗っていた落ち葉を軽く払ってやった。

 

「あ〜、その…大丈夫か?」

 

「こんなのないよ…」

 

拳を強く握る祐は甚く惨めであった。

 

 

 

 

 

 

あれからなんとか立ち直った祐は掃除を再開し、成り行きで千雨も協力してくれていた。先程の反省を踏まえ、こまめにゴミ袋へと集めた落ち葉を入れていく。

 

「ありがとう長谷川さん、貴女の優しさのお陰で立ち直ることができた」

 

「お前いちいち大袈裟なんだよ。あと私は別に優しくない」

 

自動販売機の件といい、祐はどうにも反応が仰々しいところがある。大したことはしていないのに、こうも感謝されては居心地が悪かった。

 

「そんなことないさ、現に俺は助かってるよ。こうして手伝ってくれてるのもその証拠ってね」

 

「あっそ」

 

気恥ずかしくなった千雨は乱暴に会話を終わらせる。この程度で動揺するとは自分は余程の初心なのだろうか。言っておいて何だが笑えない冗談だ。初々しい自分の姿など想像したくもない。

 

そんな自分に比べて祐は物事を真っ直ぐに受け止め、感情を正直に伝える性格だという印象を千雨は持っていた。その結果彼の周りには多くの人が集まり、多方面に友好関係を築いていると。本当に、何から何まで自分とは正反対の人間である。そう一人で考えていると、何故か祐が苦笑いを浮かべていた。千雨は訝しげな視線を向ける。

 

「なんだよその顔」

 

「いやね、俺も同じような感じだったのかなって」

 

「はあ?」

 

要領を得ない返答に、千雨は余計分からないといった顔をした。箒で掃きながら祐は続ける。

 

「少し前なんだけど、ある人に貴方は優しい人だって言われたことがあって。でもねぇ…個人的には納得出来なくて、俺は自分勝手な人間だって返してさ」

 

「なんか良く言われたり褒められたりすると、素直に受け取れないんだよね」

 

正直意外である。先述の通り、千雨は祐が素直な性格だと思っていたからだ。どういった経緯で祐が優しい人と評されたのかは知る由もない。しかし千雨の想像する祐であれば、特に何も考えずありがとうと返すような気がしてた。

 

「そう思ったのは、煽ててんじゃないかって疑ったからか?」

 

「いや、それはないかな。その人は多分本気で言ってくれたと思ってるよ。俺の勘ではね」

 

「勘って言う割には、結構自信ありげに見えるな」

 

「勘だけは鋭いって自負してるもんで」

 

「てことは、そいつは嘘じゃなくて本気で言ってんだろ?ならいいじゃねぇか」

 

疑っているのならまだしも、相手が本心から言っていると分かっているのならわざわざ跳ね返すことでもない。自分は他人に対してそんな信用を置けないので、裏があるんじゃないかと思ってしまうが。

 

「その人が優しすぎるから、俺を良いように解釈してくれたと思うんすよ。とまぁ…色々ここまで屁理屈こねてきたけど、結局はがっかりされたくないから予防線張っただけなんだろうね」

 

予防線なら自分もよく張っている。期待されないように、落胆されないように。期待なんてしてくれるな、そんなもの勝手に背負わされちゃ堪ったものじゃない。応える力など持ち合わせていないのだから。

 

そもそも誰からも期待なんかされてない奴には関係のないことだったかと、千雨は心の中で自笑した。

 

「お前って誰かに褒められたらそのまんま受け取るもんだと思ってたよ。ポジティブ思考って言うかさ」

 

「そうありたいもんだけどね、残念なことに俺程のマイナス思考はそういないと思うよ。なんの自慢にもならないけど」

 

マイナス思考、それも千雨にとって切っても切り離せないものだ。常にこの立場で生活していると言っても過言ではない。どんなものでも基本的に疑っていた方が危険や厄介事を回避しやすい。そして傷つくことも減る。自分を守るには最適な行動だと思っていた。

 

特別辛い目に遭ってきたわけでも、壮絶な人生を送ってきたわけでもない。それでも現実や未来に希望を持って過ごせる程真っ直ぐで純粋にはなれなかった。誰のせいでもない。そうなった原因は他でもなく、この性格を持って生まれた自分に他ならないのだから。

 

「それにしちゃ、普段の言動は真逆な気がするぞ」

 

「ポジティブ思考に憧れてはいるからね。それか虚勢張ってるのかも」

 

「かもって…なんで疑問系なんだよ、自分のことだろ」

 

「自分のことだって案外分からないもんよ。自分自身に目を向けるのも、良くないと思う部分を改善しようとするのも、結構しんどいじゃん?離れたものは見ても、一番近くのものからは視線を逸らせがちになるから」

 

 

 

ああ、しんどいよ。自分をしっかり見つめるなんて。嫌なとこしか目に付かないから。好きになれたら、自信を持てたらどんなに良かったか。

 

悪い部分が分かってるなら変えていけばいいって言うんだろ、仰る通りだ。できないからこうなってるんだけどな。

 

他の奴はいったいどうやってるんだろう。どうやって折り合いをつけてるのか想像もできない。駄目な部分は改善しようと努力してるのか?それとも自分のこと好きなのか?

 

お前らに、私はどう見えてんだ。

 

考えるだけ無駄か。くだらないことを考えてるって思われるに決まってるさ。私みたいな根暗の思うことなんざ、周りからすれば取るに足らないことなんだろうよ。

 

どうせ下に見てんだろ?別にいいさ、実際その通りなんだろうからな。

 

「そういう所こそしっかりしなきゃいけないんだろうけど、難しいよね」

 

苦笑いを浮かべながら祐は掃除を続けている。恐らく悩んでいるんだろう、自分の性格や考え方に。普段のやり取りから、彼を悩みなどなさそうで羨ましいと呆れながら見ていたこともある。こうして二人きりで話してみれば、認識を改めることばかりだ。

 

すると祐も手を止め、千雨と向かい合う。普段であれば千雨は人と目を合わせるのが苦手な為、すぐに逸らせるところを今この時はする気にならなかった。

 

「唐突で申し訳ないんだけど、俺ってどんな奴に見える?」

 

「…私に聞くなよ。私はそこまでお前のこと知らないし」

 

「そりゃ御尤もだ」

 

祐は特に気にした様子もなく掃除を再開する。その姿を横目で見つつ、千雨も手を動かした。先程のことが嘘のように今は風が吹いていない。箒を掃く音が二人の耳に響いている。一人で余計なことを考えていたせいで無駄に疲れた気がした。その影響だろうか、気が抜けていた千雨は自然と口を開いた。

 

「よく分かんないけど、お前って実は捻くれた性格だったりするのか?」

 

「そう見える?」

 

「ああ」

 

「正解だよ長谷川さん」

 

祐は笑顔で答える。否定もせず認めた姿も、より千雨の考えを明確なものにした。

 

なんだ、お前もか。

 

自分とは何もかも正反対の人間という感想は間違っていたと言わざるを得ない。

 

祐に褒められたが、千雨は自分に慧眼があるとは思っていない。そもそも相手をどうこう言える程、他人を見ようとはしていないのだ。ならばどうして祐が捻くれていると確信できたのか、答えは至って単純だった。

 

「生憎、私に人を見る目なんてないぞ」

 

「そう?でも俺のことは当てたじゃない」

 

「さっきまでの話聞いてれば、誰でもお前は捻くれてるって思うよ」

 

「否定できませんな」

 

「はぁ…分かった上で見ると、お前ほんと面倒くさそうな奴だな…」

 

「どうした?急に追い討ち仕掛けてくるじゃん」

 

よく分かるさ、自慢にもならないけど。お前が捻くれてて面倒くさい奴って確信したのは、お前が分かり易かったからだけじゃない。

 

捻くれてんのは、面倒くさい奴なのは私も同じだからな。

 

 

 

 

 

 

落ち葉を大方集め終わった二人はゴミ袋を運ぶ。祐は千雨が結局最後まで付き合ってくれたことに少々驚きを感じるも口に出すことはしなかった。

 

祐が公園内に設置されている物置の扉を開けている最中、手持ち無沙汰になった千雨は隣にある掲示板を眺める。そこにはザジが出演するサーカスのチラシも貼られていた。

 

「そのサーカス、ザジさんが出るんだってね」

 

声に反応して視線を移すと、いつの間にか隣に立っていた祐も同じように掲示板を見ていた。

 

「お前も呼ばれたのか?」

 

「ありがたいことにね。チケットもくれたよ」

 

「…そうか」

 

千雨は急に居心地が悪くなった気がした。この様子だと恐らく祐は見に行くのだろう。しかし自分はそうではない。ザジに返答も碌にしないまま、棚上げにした状態で済まそうとしている。罪悪感を覚えているが、それが一番無難だと思ったからだ。後ろめたさから千雨はサーカスのチラシからそっと目を逸らした。

 

「長谷川さん、今までクリスマスパーティーって行ったことある?」

 

祐は千雨の返答を待たずに歩き出し、一旦置いておいたゴミ袋を持って物置に入れ始める。そんな背中を見つめ、またそこから視線を外した。

 

「ねぇよ。そういうの、私には合わないから」

 

「あら、そうなんだ。因みに俺は今年初参加です」

 

「別に聞いてな…お前行ったことないのか?」

 

「うん」

 

これまた予想外だ。A組に勝るとも劣らないお祭り好きな印象を受ける祐が今まで参加したことがないとは。てっきり何度も参加しているものだと思っていた。

 

「なんつうか、意外だな。そういうの好きそうなのに」

 

「興味はあったんだけどね。これに関しては、まぁただ単にきっかけがなかったってだけだよ」

 

「なるほどな」

 

軽く相槌を打ち、千雨はそれ以上探索することはなかった。祐もこちらが参加しないことを深掘りしなかったのだから、お互いこれでいいのだろう。

 

深く知ろうとしなくていい。多少人となりを分かっていれば。

 

「まぁ、その…なんだ」

 

知り合い程度でいい。これくらいの付き合い方が、きっと気楽だと思うから。

 

「楽しめるといいな、クリスマスパーティー」

 

それでもここで終わるのは味気なさすぎる気がして、一言だけ付け加えることにした。そんなことを気にするくらいならもっと話をすればいいと分かっていても出来ないのが自分という人間なのだ。今更素直な性格になれるわけもない。

 

「ありがとう、俺もそう願っとく」

 

らしくない一言だったかもしれない。ただ、言われた祐は笑顔を見せた。なら余計な一言ではなかったのだろう。

 

「感想は後日伝えるね」

 

「伝えんでいい」

 

「そんなに俺に興味がないか!この俺が話したいっつってんだぞ!」

 

「なんだこいつ…」

 

 

 

 

 

 

ボランティア活動を終え千雨と別れた祐は自宅に戻ることなく、その足で別の場所へと向かっていた。目的地は女子寮の近くにある、以前祐が明日菜に自身の秘密を明かした人気のない場所だ。

 

暫くすると木造のベンチに腰掛ける人物達が見えてくる。あちらも祐に気付いて手を振ってきた。

 

「おいーす、逢襍佗君」

 

「こんばんは逢襍佗さん」

 

「やぁ、祐サン」

 

「どうも皆さん、お待たせしました」

 

呼ばれた相手である和美とさよ、そして超に挨拶をする。手始めに世間話をしてもいいが、一先ず要件を書くことにした。

 

「さて、さっそくだけど話ってのは?」

 

「実はさっきニュースで知ったんだけど、ちょっと変わった事件が起きてるみたいでね」

 

「変わった事件、ね」

 

「そう、まずはこれ見て」

 

和美の合図と共に、超は膝に乗せていたノートパソコンの画面を祐に見せる。画面に視線を向けると動画が再生された。

 

『続いてのニュースです。数日前から都内各地で不特定多数の男性が突然気力を失い、その場で塞ぎ込んでしまうという現象が多発していることが判明しました』

 

「なんじゃそりゃ…」

 

「気持ちはよく分かるけど、一旦最後まで流すわよ」

 

画面はスタジオから街中へと変わる。長い大通りをマイクを持ったレポーターが歩いていた。

 

『こちらが現場です。昨日の20時頃、人通りの多いこの場所でも同様の事件が起こりました』

 

祐はなんとも言えない表情でニュースを視聴する。モニターから伝えられる事件の詳細は、当事者ではないことも手伝ってか深刻に捉えるのが難しい。正直言って肩の力が抜ける。

 

『いきなりしゃがみ込んだと思ったらブツブツ言い始めて。クリスマスなんてとかカップルがどうとか…なんか愚痴を言ってるみたいでした』

 

映像で目撃者のインタビューが流れる中、祐は今までの情報を大まかに纏める。

 

街行く人々が突如としてクリスマスや恋人達に嫉妬や僻みを向けるようになった。症状が出た人物は今のところ男性限定。それ以外に関連性はなく、年齢から何までバラバラである。また発症すると極度の厭世的な思考に陥り、現在もその状態が続いているらしい。

 

『未だこの症状について詳しいことは判明しておらず、現在も被害者は増え続けている模様です』

 

全て流し終えたのか超が映像を止めた。難しい顔で腕を組んだ祐にさよの視線が向けられる。

 

「何か感じますか?」

 

「いや、特には。でも確かに変わった事件だね」

 

肩の力が抜けるとは言ったものの、被害者が増え続けているのなら無視はできない。それに起きている現象から鑑みて、特殊な力を使用しての犯行だと思って良さそうだ。

 

「ニュース見てまず超りんに連絡したら、やっぱり情報仕入れてたみたいでね。みんなで早めに共有しといて損はないかなって」

 

「ありがとう、助かるよ」

 

「いえいえ」

 

言葉では短く答えたが、内心で和美は幸福感のようなものを覚えていた。真面目な雰囲気の祐にこうして感謝されると、彼の役に立てていると実感できる気がする。嬉しさから顔がにやけそうになるもそこは堪えた。

 

「発見された発症者は現在入院中。身体に異変はないガ、ニュースでも言っていたように今もネガティブな状態で塞ぎ込んだままのようネ」

 

和美から説明を引き継いだ超により、発症者の現状が伝えられる。分からないことだらけの事件でも、謎を紐解く鍵となり得るものはあった。それが他ならぬ発症者だ。

 

「その人達に会えれば、何かを感じ取れるかもしれない」

 

「じゃあ忍び込む?」

 

「最悪ね。でもゲンさんに掛け合ってみたら、正当に面会できるかも」

 

「「げんさん?」」

 

超常犯罪対策部である太田源八のことを知らない和美とさよは当然首を傾げる。しかし超に同じ反応は見られなかった。彼女も会ったことはない筈なのだが、この様子では恐らく源八を知っているのだろう。

 

「祐サンなら誰にもバレずに忍び込めるだろうガ、普通に会えるならそれに越したことはないかもネ」

 

「それに、横の繋がりは強固にしておいて損はないヨ」

 

「間違いない。てか超さん、ゲンさんのこと知ってんだね」

 

「勿論、既に調べさせてもらったヨ」

 

「ですよね…」

 

「「誰?」」

 

 

 

 

 

 

室内を僅かな灯りが照らす冬木教会の聖堂に綺礼が入ってくる。最前列の席にはいつものように金髪の男性が座っていた。

 

「随分と忙しそうだな」

 

「もう間もなくクリスマスだ。忙しいのも当然だろう」

 

軽く言葉を交わして綺礼は男性の元へ進む。すると男性が振り返り視線を向けてきた。

 

「ここのところ、街で何やら愉快なことをしている者がいるようだな」

 

「急に気落ちした男が大量発生しているという話なら私も小耳に挟んだが、そのことか?」

 

綺礼の問いに男性は微笑した。その表情にどうやらこの件で間違いないと判断する。

 

真冬の夜にあって、この聖堂に暖房器具は設置されていない。室内とはいえ厳しい寒さなのだが、二人に気にした様子はなかった。

 

「引き起こされた結果は取るに足らんが、手法は中々に面白い。彼奴等が特異なことに及ぶというのはどの次元でも変わらんな」

 

「ほう。犯行に及んだ者の正体が分かっているようだ」

 

「戯け、我を誰だと思ってる」

 

男性の態度や物言いは正に傲岸不遜と思えるものだ。何も知らない者からすれば顔を顰めるかもしれない。

 

しかし綺礼は知っている、目の前の相手がどんな存在なのかを。従って男性にそのことで苦言を呈しなどしない。この世にある大抵のことは、彼の気分一つで如何様にも姿を変える。どんな荒唐無稽に思えることを口にしても、この男が言ったのならそれは決して大口を叩いているわけではない。

 

「失礼した。して、その犯人が何者なのか大いに気になるのだが」

 

男性は笑みを深くした。これでもそれなりの付き合いだ。初めから予想していたが、素直に教えてもらうことは出来ないだろう。この表情を見れば嫌でも分かる。

 

「そうさな、では方便をくれてやろう」

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