事件から翌日。昼の12時を回った現在も未だ事件の新しい情報は開示されておらず、ニュースも昨日と変わらずといった状態である。
事件の事や明日菜達との事、色々とやらねばならぬ事が山積みの祐は、追って伝えられるであろう遠出をした事への罰に戦々恐々としながらも、まずは腹が減ってはという事で行きつけの店に繰り出していた。目指す先は麻帆良学園の超人気店、中華料理屋台『
祐が目的の場所、学園都市の広場に着くとそこは既に多くの人で賑わっていた。超包子は路面電車二台を屋台とし、不定期で営業が行われている。営業予定日などはSNSで発信しているようだ。
「あれま、まぁこの時間帯じゃしょうがないか」
そう言ってなんとか空いている席を探し出した祐はその席へと座る。するとそれを待っていたかの様に一人の人物が話しかけてきた。
「やあやあ祐サン。毎度ご贔屓にどうもネ」
「こんにちは超さん。今日も繁盛している様で」
「勿論ネ。我が超包子は麻帆良1ヨ」
話しかけてきた少女はこの超包子のオーナーにして麻帆良が誇る世紀の大天才こと一年A組出席番号19番、超鈴音である。
「そりゃ間違いない。では今日もその味を堪能させていただきます」
「任せるネ!ご注文はいつものでよろしいカ?」
「お願いします」
「かしこまりネ」
常連であり顔馴染みの祐はこの店でいつも同じものを頼む。超を始めとした従業員達はそのことを周知である。従業員の中には他のA組の生徒も何人かいる。その中でも特に重要なのはこの店の料理長を任されている四葉五月だ。今もこの大忙しの中その腕を奮っている事だろう。
オーダーを取り屋台に戻ろうとしていた超は一度立ち止まり、祐の方に振り向いた。
「そうだ祐サン。食事が終わったら私のところに寄ってほしいネ。少しお伝えしたい事があるヨ」
「え?あぁ、了解」
「お願いネ」
(伝えたいことってなんだ?)
疑問に思いながら料理が運ばれてくるのを待つ。ほどなくして従業員が料理を運んで来た。
「こんにちは祐さん。お料理お待たせしました」
「おお、こんにちは茶々丸。料理どうも」
料理を運んできたのは茶々丸であった。彼女も従業員としてこの店で働いている看板娘の一人だ。
「今日は手伝いの日だったんだ。いいねその服、相変わらず似合ってる」
「あ…ありがとうございます」
従業員の制服であるチャイナドレスを褒めと料理をテーブルに置きつつ茶々丸が答える。それが終わると祐の顔をじっと見つめ始めた。
「えっと、どうかした?」
「いえ…あの、祐さん。マスターが…」
「師匠がどうかしたの?」
「いえ、やはりなんでもありません。すみません、忘れてください」
「えぇ…このタイミングで切る…?」
ごめんなさい、と言って茶々丸は屋台に戻っていった。なんとも気になるところなので、後でエヴァに連絡してみようと思いつつ祐は料理に手を伸ばした。
「美味かった…五臓六腑に染み渡った…」
料理をすべて完食し、料金を屋台に払いに行くと古菲がレジにいた。
「ごちそうさまでした。クーさんお会計お願い」
「おぉ祐。毎度どうもアルヨ」
手慣れた様子で仕事をこなしていく古菲。
「さっき超さんに話があるって言われたんだけど、今屋台の方にいる?」
「事務所の方の屋台にいるはずアル。話って何アルか?」
この質問が来るということは、今から聞かされる話は超以外は誰も知らないという事だろう。
「俺もわかんない。皆目見当もつきません」
「もしかして祐、告白されるんじゃないアルか?」
古菲がおどけた様に言った。しかしそれを聞いた祐は真剣な表情になる。
「マジかよ、ついに来たか…ごめん俺一回風呂入ってくるわ」
「自分で言っておいて申し訳ないアルが、たぶん違うから入らなくていいと思うアル…」
そもそもなぜ風呂に入る必要があるのかは古菲は聞かなかった。古菲の発言を聞いた祐は「なんだよ!冷やかしかよ!そういうのはよそでやっておくんなまし!」と言って超の待つ屋台に走って行ってしまった。
「超さんいらっしゃいますか?」
事務所兼倉庫として使っている二両目の屋台のドアをノックして声をかける祐。するとすぐに返事が返ってきた。
「ハーイ。どうぞ、空いてるネ」
それを聞いてドアを開け中に入る祐。そこには机の上にノートパソコンを置いて何やら作業を行っている超がいた。
「わざわざご足労かけて申し訳ないネ」
「いえいえ、とんでもない」
「さぁ、こちらに掛けてくれたまえ」
自分の隣にパイプ椅子を置く超。失礼します、と祐はその椅子に座った。パソコンから祐に体の向きを変え、二人は向かい合う形になる。
「さて、さっそくではあるがまずは用件を伝えることにするヨ」
「お願いします」
なんでかわからないが、そうした方がいい気がしたので祐は姿勢を正した。
「用件とは他でもない。昨日の爆破事件のことネ」
それを聞いた祐はわからないといった顔をした。
「昨日の爆破事件は俺も知ってるけど、なんでその話を俺に?」
「それはもちろん、貴方が事件の当事者の一人だからヨ、祐サン」
ニヤリと笑って超はそう言った。対して祐は困ったような顔をした。
「明日菜達から話を聞いたの?」
「祐サン達があの日アウトレットに行くことはたまたま教室で小耳にはさんだネ。でも私は祐サンが爆破の現場にいて、犯人と戦闘したってことも知ってるネ」
「だから被害者ではなく当事者と言ったヨ」
祐の表情が真剣なものへと変わった。
「どうしてそこまで知ってるか聞いても?」
超はフフン、と鼻を鳴らすと得意げに答えた。
「祐サン、今あなたが持っているスマホはだれが作ったものカナ?」
「えっ、超さんだけど…ちょっと待って!?これに何かついてんの!?」
そう言って急いでポケットからスマホを取り出す。祐の使っているスマホは超がお近づきの印にとくれたお手製のスマホだった。
「そのスマホには一定以上の衝撃や周波数が観測されると、自動で私に祐サンの今いる場所が伝えられるようになってるネ」
「俺のプライベートは…いったい…」
「普通に生活している分には作動しないヨ。今回は爆発音がそれに該当した感じネ」
しかしそこで祐に疑問が浮かぶ。
「でもいた場所が分かっても、俺が何をしていたかまではわからないはずじゃ」
「そこは私物の人工衛星をもってすれば、どうとでもなるヨ」
「あれ、もしかして犯罪者の方ですか?」
「何を言うカ、これも祐サンを心配すればこそネ」
「俺は息子か何かか」
「まだ私はそんな歳じゃないネ」
「そういう事じゃないよ…」
祐はため息をついた後、改めて超を見た。
「まぁ、俺のプライベートの件は良い」
「良いのカ?」
「いや間違えた。良くないけど、いったん置いとく。それより本題に移ろう」
手を組み、前かがみの姿勢になって超を見つめる祐。超はそれに応えるように見つめ返した。
「俺に伝えたいことっていうのは何?」
「うむ、まずはこれを見てほしいネ」
超はパソコンを操作し画面を変えると自分の椅子を横に引いた。それに合わせて祐も椅子を引き、超の横に詰める。画面には試験管のような物に青い液体が入っている画像が写されていた。
「実は越谷で事件が起きてから、私はずっとこの件について独自に知らべていたネ」
「どうして?」
「ただの爆破事件とは思えなかったからヨ。強いて言うなら女の勘というやつネ」
「そりゃまた…」
超の回答に何とも言えない顔をする。超は話を進める。
「お気づきかもしれないが、犯人は一人二人ではなく集団ネ。正確な人数は掴めていないが、20人前後と私は踏んでいるネ」
「何か理由が?」
「彼らの隠れ家を見つけたからヨ。今はもう破壊した上で移動してしまっているから其処にはいないがネ」
流石にこれには祐が驚く。
「場所を見つけたってどうやって…まだあいつらが何なのかも分かってないってのに」
「そこは私が天才と呼ばれる所以と思ってほしいネ」
そこで祐はジト目を向ける。
「詳しくは企業秘密ってことか…」
「話が早くて助かるヨ」
そこで超が画面を指さす。
「そこで発見したのがこれネ」
「青い液体ってことしかわからんな」
「これが彼らの力の源と言ったら、どう思うネ?」
祐が画面から超に視線を向ける。その視線を受けて超は一度笑ってから説明に入った。
「実際に戦った祐サンならわかっているとは思うガ、彼らの身体能力の高さは常人のそれではなかったはずネ」
「仰る通りで。なのに奴らから特殊な力は感じなかった」
「それもそのはず。彼らの力は科学の結晶だからネ」
「科学の結晶?」
椅子に座り直し、足を組んで超が話す。
「この液体を体に投与するとあら不思議、姿形は変わらぬままで常人が到達しうる極限の身体能力が手に入るという代物ヨ」
「私は便宜上この液体のことを『超人血清』と呼んでいるネ」
「超人血清…」
「効果は先ほど言った通り、体内に投与すればたちまち超人の出来上がりヨ。彼らの会話を盗聴してたガ、この血清の説明と効果を事細かく語ってくれて非常に助かったネ」
「盗聴もしてたんかい」
「おっと、これはオフレコでお願いネ」
人差し指を立て、唇の前に持ってくる超。祐は今さらかと思いそれ以上触れるのはやめた。
「でも盗聴できてたんなら、あいつらの目的や狙う場所なんかも分かったりは」
「残念ながらそこまで口は軽くなかったネ。その二つは私にも分からないヨ」
確かに残念だ。それが分かればこれから先手を打つこともできただろうが、相手もそこまでおしゃべりとはいかなかった。
「まぁ、そこら辺は犯人を捕まえた警察あたりに任せるとして。重要な事がまだあるネ」
「どうやってこれを手に入れたのか、だよね」
「その通り」
正解、と言うように祐を指さした超は再びパソコンに視線を戻す。
「このような物を開発するには昨日今日とはいかないネ。それに年月だけでなく非常に高度な頭脳が必要となる」
「それが今まで影さえ見せず一切世に出ていなかったこと。トップシークレットとして厳重に秘蔵され続けたという線もあるガ、手にした者たちがテロリストとは言え少数の名も無い集団だと考えると、ほぼほぼこれは『次元漂流物』と見て間違いないと思うヨ」
彼らに
この世界が異世界、別次元と繋がるようになってから、時折別世界の物が流れ着くことがある。それを総称して次元漂流物と呼ぶ。
「こんなもんどこの次元が作ったんだ」
「次元は無数に存在するネ。どこから流れてきた物なのかを特定するのはまず不可能ヨ」
「ま、そりゃそうだわなぁ」
祐は腕を組み深く息を吐いた。
「これがあの集団全員に行き渡ってるのか、まだまだ数があるのかはわからないけど。次元漂流物が関わってるとなると一般人が対処できる問題じゃ無くなったと見ていいな」
「この情報は麻帆良学園の魔法使いの皆さんにも先ほど送ったヨ。もちろん匿名でネ」
「前から思ってたけど、何で自分の事隠すんだ?」
「その方が都合がいいからヨ。じゃないと今のように自由に動けなくなるネ」
「自由ねぇ」
胡散臭いといった視線を祐から受けるが、超はどこ吹く風だ。
「もし私の事がばれたら祐サンも同罪ネ。私達は最早一心同体ヨ」
「いよいよ脅してきやがったなこのチャイナ娘」
「貴方にはそれなりの物を渡してるつもりヨ。信用もネ」
「いつも世話になってるのは間違いないけど、ほんとに信用されてるのかね」
疑いの気持ちを口から出すと、超がそれに反応する。
「むっ、さすがに聞き捨てならないネ。私の祐サンへの信頼は本物ヨ。現にこうやって唯一顔を合わせて情報を渡してるではないカ」
「いや、まぁ…そうなんだけど、超さん自分の事あんまり話さないからさ」
「それを貴方が言うのはどうかと思うネ」
「俺はほら、聞かれなかっただけだから」
「私も聞かれてないだけネ」
「聞いたら教えてくれる?」
「内容によるネ。祐サンなら特別に下着の色までならOKヨ」
二人を沈黙が包む。祐の顔は何時になく真剣だ。
「……何色ですか」
「今日はピンクネ」
そう言って超は着ていたチャイナドレスのスカートを少し捲り、下着を祐にわずかに見せる。
「信用します。そしてあなたに忠誠を誓います」
椅子から立ち上がり超の前に跪く祐。悲しいかな祐は思春期真っただ中の高校男子だった。エヴァが見たらさぞ悲しむだろう。
「信用してもらえたようで何よりネ」
座ったまま祐の前に手を差し出し、祐がそれを取って立ち上がり元の椅子に座る。
「まじめな話、祐さんとはこれからも仲良くしていきたいと思っているネ。だからこれはその為の投資のような物ヨ」
「投資なんかしてもらわなくても、俺も超さんとは仲良くしたいと思ってるよ?」
まっすぐな視線で超にそういう祐。超はそれを見て優しく笑った。
「それは嬉しいネ。でもこれは私がやりたくてやっている事。気にしなくていいヨ」
「そっか、じゃあこれからもよろしくお願い致します」
「こちらこそネ」
そう言って互いに頭を下げた。
「さて、話は以上って感じかな?」
「そうネ、今私が持っている情報は…」
そう言ってパソコンを操作する超。途中指が止まり、そのまましばらく固まる。祐が不審に思い声をかける。
「超さん?どうかした?」
「思っていたよりも早く動いたネ。彼らどうやら本格的に動き始めるようだヨ」
祐が事態を把握できずにいると超が口を開いた。
「彼らがネットに動画をアップしたネ」
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何もない部屋に数人の人物が並んで立っている。全員が黒いライダースジャケットに黒いズボン、そしてフルフェイス型のホッケーマスクを着けている。其処に居る人物たちの中には何人か女性も交じっている。中央に立つ人物もおそらく体形から女性であろうことが見て取れた。
「皆さん、我々は前日のアウトレットを爆破した者たちの仲間です」
中央に立っていた人物がしゃべり始める。音声は加工してあるようだ。
「そして越谷の市民館、神奈川の博物館を爆破したのも我々です」
なぜ我々がそのような行動に出たのか、それはまず我々の経緯を語る必要があります。
皆さんもご存じの通り今から八年前の2014年、日本の静岡県伊豆市に次元変動の影響で二つの別次元の生命体がやって来ました。
彼ら二つの生命体は戦争中であり、その最中にこの世界にやってきたのです。
そして悲劇が起こりました。あろうことかその生命体達はその場で戦闘を始めたのです。
何の罪もない人々が大勢その戦闘の犠牲となりました。
我々はその事件の生き残りです。
我々はその場で愛する家族を、友人を、隣人を失いました。
それから日本では直接的被害はその一度だけではあったものの、世界中で次元同士の戦闘が起こり、2018年には多次元侵略戦争がはじまります。
いくつもの次元を巻き込んだこの戦争は二年前に一応の決着を見せました。
皆さんはこの世界が平和になったと思っているのでしょうか。
それは間違いです。別次元はいまだ無数に存在します。
それどころか今この世界に別次元の者達が住んでいます。我々の世界に我が物顔で暮らしているのです。
彼らが直接戦争に参加したわけではないとしても、彼らと同じ次元の住人が戦争を行っていました。
いつ新たな次元が現れるか、今隣で暮らしている別次元の住人が牙をむくのかわからないのです。
それなのにこの世界の多くの人々は別次元の者達を受け入れ、共に暮らしていこうとしています。
そんな者たちに問いたい。貴方は自分の大切な人が彼らに殺されても今と同じことができるのかと。
受け入れる事、認めることは美しいことでしょう。しかし、すべての物を受け入れ認めることはできません。
自分を、大切なものを守るために拒み、認めないことも必要なはずです。
我々は別次元の住人たちを認めない。許しはしない。そして、それに協力する者達も。
今までの爆破はその意思表示にして、そういった者達への警告です。
過激だと、人殺しだと言う者もいるでしょう。しかし世界が変わるためには生半可な事では意味がない。祈るだけでは、待っているだけでは世界は変わりはしません。
我々はこれより別次元の者、それに協力する人々を敵と認定し攻撃を仕掛けていくとここに宣言します。
正直に言えば我々は少数であり、力も強大ではありません。我々がこの戦い勝つことは難しいでしょう。
しかし、我々が戦うことによって我々の遺志を継いで戦う者達が生まれてくるはずです。
そして何時しかこの世界に真の平和をもたらすと信じています。
それこそが我々の目指す勝利なのです。
我々の敵は別次元の住人とそれに属する者、そしてそれに肯定的もしくは協力的な者のみです。
そうでない人々には手を出すつもりはありません。
これを見た皆さんがこの世界のために立ち上がってくれることを願っています。
全ては正常な世界の為に
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「我々は『トゥテラリィ』真の平和を望む者」
その言葉とともに動画が終了した。共にそれを見ていた祐と超は黙ったままだ。
「トゥテラリィ…ドイツ語で守護者を意味する言葉カ。大きく出たネ」
そう言った超は祐を見る。真剣な表情をしていたものの、その表情からは感情が読み取れなかった。
「祐サン、これは思ったよりも悠長にはしていられないかもしれないヨ」
「ああ…間違いないね」
そんな中祐のスマホの着信音が鳴った。
「タカミチ先生からだ」
「おや、さっそくお呼びがかかったネ」
「超さん、俺行ってくる」
スマホをしまい祐が椅子から立ち上がる。超はそれにうなずく。
「いってらっしゃい祐サン。何か新しいことが分かればまた連絡するネ」
「ありがとう、それじゃまた」
そう言って駆け足で進み、ドアを開けたところでこちらに振り向く。
「料理ごちそうさま。今日もおいしかったって五月さんに伝えておいて」
「
頼んだ、と言って祐はドアを閉めその場を離れていった。そのドアをしばらく見つめる超。
「
一番好きな章は?
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