Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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混戦

クリスマスパーティーに参加していた生徒達の避難は順調に進んでいた。教員達の迅速な対応も理由の一つではあるが、一番大きいのは影達が脇目も振らずに麻帆良ヶ丘公園に突き進んでいるからだろう。謎の人物『須御井茂輝(すごいもてる)』が影を挑発し、まんまとそれに乗せられた結果である。

 

教員として避難誘導を行なっていた麻耶は現在取り残された生徒がいないか周囲を見回っていた。そんな彼女の元に小萌がやってくる。

 

「高橋先生」

 

「月詠先生、そちらはどうでした?」

 

「まだ誰も見ていませんね、高橋先生は?」

 

「こっちも同じです。もう暫く見て回るつもりですけど」

 

「そうですね、私も確認してみます」

 

大方避難は完了したのかもしれないが恐怖から身を隠している生徒もいる可能性がある。生徒を第一に考える彼女達はまだ探索を終える気にはなれなかった。

 

「あっ、そう言えば聞きました?さっきの放送」

 

「すごいもてるって人のものなら…」

 

呆れたような表情で麻耶は答えた。彼女も声の正体は祐であると思っている内の一人だ。こんな状況で彼が動かない筈もなければ、先の放送もなんとなく祐ならやりそうだと感じた。麻耶も祐への理解が随分深くなったようである。

 

「私の勘ですけど、あれは多分逢襍佗ちゃんだと思うのです」

 

「えっ…どうしてそう思われたんですか?」

 

勘と言うには自信ありげに小萌は口にした。一旦同意も否定もせずに麻耶は理由を聞く。

 

「逢襍佗ちゃんならやりそうだからです」

 

「…同感ですね」

 

判断材料としては驚く程に少ない。しかし同じ理由且つ考えだった麻耶が何か言えるはずもなかった。

 

「それに逢襍佗ちゃんがこんな時にじっとしてると思えません。あの子はみんなが大変ならなんとかしようって頑張る子です。相変わらず私達に一言もないのはダメダメポイントですけど」

 

そう語る小萌の姿に麻耶は見覚えがあった。祐の秘密を知る前の、最終的に侵略事件へと繋がるあの出来事の時も小萌は同じような表情をしていた。仕方なさそうで、それでいて愛おしそうな優しい顔を。

 

「月詠先生は、やっぱり逢襍佗君をよくご存知ですね」

 

「それほどでも!ただあの子の困ったちゃん具合はよく知ってます!」

 

胸を張って答える小萌は何故か自慢気である。

 

何か、理由があるのかもしれない。小萌が祐のことをここまで理解しているのには。彼女は愛穂と同じく、所謂問題児と呼ばれる生徒の面倒を人一倍見ている。そして愛穂は宇宙人による誘拐事件で祐の秘密を知ったと言っていた。ならば小萌にも何かがあったのかもしれない。祐をよく知るきっかけとなった出来事が。

 

「あの、つかぬ事をお聞きしますけど…月詠先生は逢襍佗君と以前何か」

 

言葉の途中で遠くから爆発音のようなものが聞こえてきた。驚きつつも二人は顔を見合わせる。

 

「もしかして、麻帆良ヶ丘公園の方から…?」

 

「私達も急いだ方が良さそうですね。色々と」

 

 

 

 

 

 

麻耶と小萌が合流する少し前、祐は既に麻帆良ヶ丘公園に到着していた。周辺にはまだ誰もいない。今は時折風が芝生を撫でる音さえ聞こえるが、これは嵐の前の静けさというものだろう。

 

腕を組んでその時を待つ祐から少し離れた場所に何かが近づいてくるのを感じた。そちらに視線を向けると二人の少女が突然その場に現れる。まるで瞬間移動だ。やってきた二人は周囲を確認している。

 

「まだ誰も来てな…あれ⁉︎あんたなんでいるの⁉︎」

 

「あら、あの時の」

 

辺りを見回していた美琴と黒子は祐を発見して驚いた顔をしている。そんな二人に軽く手を振って挨拶した。

 

「こんばんはお二人さん。また縁があったね」

 

「こんばんはって、どうしてここに…まさか」

 

「先程の放送、もしかして貴方ですの?」

 

驚いていたのも束の間、二人は祐に疑いの目を向けている。あの放送の後、指定された場所にたった一人で居たのなら仕方ない。

 

「違うよ、俺逢襍佗だし。声も違ったでしょ?」

 

「いや、確かに名前と声は違ったけど…」

 

「パーティー会場からそれなりに離れたこんな場所に居るのは、どう考えても不自然ですの」

 

「あの放送をした人とは関係者だけど、俺がやったわけじゃないですの」

 

「真似しないでいただけます?」

 

印象的な言葉遣いだったのでつい真似してしまった。黒子からすぐに反応がきたことに祐は満足そうである。

 

「お嬢さん、君も素晴らしい反応速度をお持ちのようで。これは期待の新人だね」

 

「あの…何を仰ってますの…?」

 

「黒子、多分だけどあんた面倒なのに目を付けられたわよ」

 

黒子は祐に若干引いている。背が高く黙っていると威圧感のある鋭い目つきをしていることに加え、意味不明な言動とクリスマスツリー帽子が合わさって印象は不審者まっしぐらだ。

 

「そんなことより!ここにいるのは危険です、すぐに避難を」

 

「えっ、僕影と戦う為に来たんですけど…」

 

その一言に黒子の視線が鋭くなる。彼女をよく知る美琴は黒子が仕事状態に切り替わったのを感じた。

 

「貴方は超能力者、もしくは魔法使いでしょうか?それともどこかに所属していらっしゃいますの?」

 

「いいえ、ただの一般人です」

 

大嘘である。しかし虹の光を使えますなどと言うわけにもいかない。タカミチ辺りがこの場に居てくれれば上手いこと便宜を図ってくれただろうが、残念ながらここには祐達三人しかいないので助けは期待できなかった。

 

「でしたらこちらの避難誘導には従っていただきます。これでもわたくし風紀委員(ジャッジメント)ですの」

 

黒子は制服に付けている盾を模した印の腕章を摘んで祐に見せた。先程の瞬間移動も相まって、彼女が風紀委員(ジャッジメント)だと素直に納得する。

 

風紀委員(ジャッジメント)。この麻帆良学園都市に存在する他に類を見ない治安維持組織の一つだ。特殊な要素を幾つも持ち、その中でも重要なのはこの組織が生徒によって形成されていること、そして全員が『超能力者』であることだ。風紀委員(ジャッジメント)は魔法使い・警備員(アンチスキル)とは別の組織としてこの学園都市で起こる問題の解決にあたっている。

 

学園内ではあくまで一般生徒であり括りとしとは超能力者に部類されるものの、魔法使い側と深い繋がりのある祐は関わりを持ったことはないがその存在は無論知っていた。超能力者と魔法使いという違いから来るものなのかは分からないが、風紀委員(ジャッジメント)と魔法使いの関係性は祐の知る限り深くない。その中間に立ち、双方と繋がりを持つのが警備員(アンチスキル)だ。仮にこの三つの組織が表立って手を取り合うことがあるのなら、恐らく警備員(アンチスキル)が橋渡しとなるのだろう。

 

「なるほど、じゃあさっきのも魔法じゃなくて超能力ってわけだ」

 

「ええ、その通りです。お姉さまの知人である貴方に手荒なことはしたくありませんから素直に避難してくださいな」

 

「手荒なのはやめてください…」

 

「なら余り駄々を捏ねないでくださいまし」

 

祐はこちらを見つめる黒子から美琴に視線を移す。目が合ったものの、特に助け舟は出してくれなさそうだ。当然と言えば当然である。仕方ないので祐は誰か知り合いが来るまで時間を稼ぐことにした。

 

「そこをなんとかなりませんかね?少しでもこの街の役に立ちたいんだ」

 

「そのお気持ちは立派ですけれど、いたずらに被害を増やすわけには」

 

話が平行線を辿っている中、静かだった麻帆良ヶ丘公園に騒がしい足音が聞こえてきた。目を向ければ遠くに無数の影が確認できる。我先にとこちらを目指して全力疾走しているようだ。

 

「もう来ちゃったわね」

 

「はぁ…お早いご登場ですこと」

 

「…ん?」

 

迫りくる影に黒子がため息をつく。祐もそちらを見ていたのだが、どうにも来たのは影だけではなかったようだ。別の方向から影を迎え撃つように数人が走っている。

 

「オラァ‼︎」

 

「ぶふぉ!」

 

飛び出してきたリーゼントの男が先頭にいた影を殴り飛ばす。それに続いて複数の男子生徒が影に飛びかかった。

 

「なんだテメェ!」

 

「俺は豪徳寺薫!この俺の目が黒いうちは、お前らみたいな奴らに麻帆良で好き勝手させねぇぜ!」

 

「俺達も忘れてもらっちゃ困るな!」

 

「祭りと喧嘩は麻帆良の花だ!」

 

奇襲を受けた影は動揺しながらも男子生徒達と戦闘を開始した。置いてきぼりをくらう三人。まったく予想していなかった勢力の登場に祐は頭を掻いた。

 

(しまった…喧嘩好きな人達のこと失念してたな…)

 

この麻帆良学園都市の生徒人口は恐ろしい数だ。人の数が多ければその分変わり者も多くなるわけで、危険なことに自ら嬉々として向かう学生も少なくなかった。今影と殴り合っているのは正にそういった生徒達だろう。

 

「調子乗ってんじゃねぇぞ陽の者が!」

 

「かかってきやがれ影野郎!」

 

瞬く間に両者入り乱れる混戦となってしまった。生徒達から魔力等は感じない。しかし何人かは気を使用している者もいる。見たところ無意識のようだが、これこそ麻帆良は魔境と言われる所以かもしれない。

 

「あれまぁ、始まっちゃったよ」

 

「ああもう!どうしてこうお馬鹿さんが多いんでしょうか!」

 

ご立腹な黒子は軽く跳躍するとその場から消えた。一瞬で間に割って入り、影と取っ組み合っていた男子生徒を強制的に引き剥がしつつ体勢が崩れた影の鳩尾に蹴りを入れて突き放す。黒子は小柄で手足も細く見えるが身体の使い方が上手いのだろう。体幹にぶれもなく、余計な力も入っていない。

 

風紀委員(ジャッジメント)ですの!生徒の皆さんはお馬鹿な真似はやめて速やかに避難なさい!」

 

黒子の声に双方が動きを止める。生徒の数人は風紀委員(ジャッジメント)と聞いて顔を青くした。

 

「なにっ⁉︎風紀委員(ジャッジメント)だと!」

 

「せっかくいいとこだってのに!」

 

様々な意味で風紀委員(ジャッジメント)にお世話になっている彼らは既に及び腰である。しかし先頭に立つ豪徳寺薫はそうではなかった。

 

「悪いがここで逃げたら漢が廃るぜ!嬢ちゃんこそ巻き込まれないうちに帰んな!」

 

「ちげぇねぇ!」

 

豪徳寺に同意した数名は黒子の静止を聞かずに影と戦闘を続ける。彼も彼で動きには目を見張るものがあった。達人とまでは言わないがそれなりに心得はあるようだ。荒削りながら気をコントロール出来ているのも大したものである。

 

「…分からず屋さんにはキツめにいきますわよ」

 

額に青筋を浮かべた黒子はどさくさに紛れて拘束から抜け出そうとしていた男子生徒と共に消える。祐達の背後に現れると、地面より僅かに浮いた位置から少々乱暴に男子生徒を放り投げた。

 

「いてぇ‼︎」

 

「少しは反省なさい!次!」

 

そうして次から次に運搬を繰り返す。敢えて雑に投げ捨てている部分に目を瞑れば実に見事な腕前であった。

 

「は〜、凄いもんだ」

 

「他人事みたいに言ってるけど、言うこと聞かないとあんたもこうなるわよ」

 

感心した様子の祐に美琴が倒れて積み重なっている男達を指さして忠告する。そちらを見てから視線を美琴に移した。

 

「俺は大目に見てよ」

 

「じゃあ避難しなさい」

 

「それはちょっと…」

 

「あんたねぇ…」

 

どうにもごねる祐に美琴も呆れ気味だ。こうなれば自分が少し強引にいこうかと考えていると騒がしい声が聞こえてくる。

 

「邪魔すんじゃないよ!」

 

「このちんちくりんが!」

 

「誰がちんちくりんですか!」

 

「二手に分かれるぞ!」

 

「陽の者は逃がさん!」

 

悪口こそ言ってもやはり女性である黒子には手を出さず、影はまだ強制退場させられていない者と戦う組、させられた者を追う組の二手に分かれた。

 

麻帆良中に現れた影は全てこの場に向かっている。その数は今も増す一方で、いくら黒子でも一人では男子生徒を狙う影を対処しきれない。しかも相手はこちらを無視して進むのだから尚更だ。

 

「お姉様!」

 

「任せて!」

 

呼ばれた美琴は一歩前に出た。前髪を指で流す彼女の指先には光が走っている。その青白い輝きは正に稲妻だ。祐はその光景に驚いたふりをする。

 

「えっ、ミサカちゃんも超能力者?」

 

「そう言うこと。危ないから下がってなさい」

 

(で⚪︎こちゃんの本領発揮か)

 

人差し指を迫りくる影に向けた。輝きを増した光が発射されると風を切り裂いて襲いかかる。真っ直ぐに走っていた影に避ける術はなく、飛来した電撃に貫かれて砂のように消えていった。

 

「見事ですぞ!」

 

「んなこといいからそこで伸びてる人達連れてって!」

 

「へ〜い」

 

祐は周囲を見回すと離れた場所に清掃用具が入っているであろう物置を発見する。横には大きな台車も置かれており、丁度いいとそちらに向かった。急いで台車を引いてくると、積み重なる男子生徒を言い方は悪いがごみ収集のように荷台へ投げていく。全員を乗せ終わると荷台に迫る影を電撃で打ち払う美琴に声を掛けた。

 

「ミサカちゃん!全員乗せ終わったから俺も参加していいよね!」

 

「いいわけないでしょ!」

 

美琴は対処に集中しているのでこちらの質問を適当に流してくれないかと思ったが駄目だった。こうなれば作戦を切り替えることにする。

 

「じゃあこうしよう!そいつらの狙いは男だから俺達が逃げれば当然追ってくる。そこで俺がその辺ちょろちょろするから、追ってくる奴らをミサカちゃん達で削ってくれ」

 

「はぁ⁉︎囮になるっての⁉︎」

 

走り去ろうとする影の臀部を蹴り飛ばしながら美琴は聞いてきた。自販機に放たれたものと同じく見事な蹴りだ。明日菜といい勝負をするかもしれない。

 

「どうせ狙われるんだからそっちの方が効率いいでしょ。はい決まり!」

 

「あっ!ちょっと待ちなさい!」

 

美琴の返答も待たず祐は飛び出した。手を叩いて影の意識を自分に向けさせる。

 

「おい根暗共!年下の美少女に手厚く守られてる男がここにいるぞ!」

 

「なんだこいつ!」

 

「馬鹿みたいな帽子かぶりやがって!」

 

自分でやっておいてなんだが本当に挑発に弱い連中である。黒子方面の影さえこちらを向いており、たった一言で注目の的だ。

 

「悔しかろう!だがお前らじゃどうすることもできん!だって俺は美少女に守られてるから!」

 

「ごちゃごちゃ喋りおって!」

 

「あいつからやるぞ!」

 

「集中攻撃ー‼︎」

 

例え口から出まかせでも影には効果絶大だと知っている。思惑通り影は祐に狙いを定めた。

 

「大漁大漁」

 

迫る影と付かず離れずの距離を維持して祐は走る。掃除機に吸い込まれる埃のように辺りの影は祐へと引き付けられていた。現状男子生徒と取っ組み合っている者を除いてほぼ全てが釣れている。

 

「ミサカちゃん!かましてやってください!」

 

「あの馬鹿…!ちょっと当たっても文句言うんじゃないわよ!」

 

不満やら何やらを織り交ぜながら美琴は密集している影を薙ぎ払う。そして言葉とは裏腹に祐には被害が及ばないよう配慮してくれていた。

 

「やっぱり放送はあの方ですわね…」

 

大腿に巻きつけているホルダーから寸鉄を取り出しつつ黒子は須御井茂輝(すごいもてる)の正体を確信した。祐が誰よりも早くこの場にいた事と、何より今の安い挑発が先程の放送そのものだったからだ。

 

意識を切り替えて豪徳寺達に向かう影の頭上に移動して頭部を踏みつける。更にそのまま踏み台として利用し距離を伸ばすと、手に持った寸鉄を瞬間移動させて周囲に放った。突如現れた寸鉄に貫かれて影が消滅する。

 

「なんだ⁉︎」

 

「あの嬢ちゃんがやったのか!」

 

消える陰に驚く一同。その隙を見逃さず、着地した黒子はまず目の前にいる豪徳寺の腕を掴んだ。

 

「あっ…」

 

気が付いた時にはもう遅く、豪徳寺も他の生徒と同じように強制転移させられた。ただ今回は地面ではなく、祐が持ってきていた荷台に投げ捨てられる。そして服を寸鉄で荷台に固定されるというおまけ付きだ。

 

「うごっ!」

 

「ぐへっ!」

 

下の方から呻き声が聞こえるも黒子は気にせず元いた場所に戻る。なんとか目の前に居た残りの影を消滅させた男子生徒達に視線を向けた。全員もれなく動きが止まっており、正に蛇に睨まれた蛙である。

 

「今ならわたくしに投げ飛ばされるか、ご自分であの荷台に向かうか選べますわよ」

 

彼らの中でも高い実力を有していた豪徳寺が捕まったことで全員が若干尻込みしている。畳み掛けるなら今だろう。

 

「先に言っておきますけど、逃げたら投げる高度を倍にします」

 

『自分で行きます!』

 

男子生徒達は訓練された軍隊のように美しい隊列を組んで荷台へと走っていく。黒子はため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!桜咲さんが来たよ!」

 

街に溢れかえっていた影が一箇所に集中したことで一息ついていた一年A組を始めとした一行。その中で刹那の接近に気が付いたまき絵が周りに知らせる。

 

「あれ?結城もいるじゃん」

 

「えっ、ほんとだ!美柑ちゃん!リトだよ!」

 

「はぁ…よかった…」

 

「お〜いリト〜!」

 

刹那の隣にリトの姿を発見した香苗が呟けばララは嬉しそうに大きく手を振る。そのせいで周りからやけに注目されてリトは気まずかった。

 

「あの人って確か明日菜達の幼馴染だよね?」

 

「ああ、そう言えば」

 

美砂と円はリトを見ながら会話をする。ララと親しいように見えるが彼女とリトは同じクラスなので別におかしな話ではないと特に気にしなかった。

 

「でもなんで桜咲と?」

 

「それは分かんない」

 

あの後ネギと明日菜はそのまま麻帆良ヶ丘公園に向かい、刹那がリトを送り届ける役割となった。だが当然そんなことを知らない二人は首を傾げる。

 

「良かった!怪我はない?」

 

「お、おう…」

 

ララに手を握られてしどろもどろになるリト。彼の身を案じていた梨穂子と香苗も一安心といった様子だ。しかし美柑の顔には私怒ってますと書いてある。それに気付いているリトはあまりそちらの方向は見たくなかった。

 

「観念してちゃんと謝ったほうがいいよ」

 

「うおっ!なんだ純一か…」

 

後ろからの声に驚きつつ振り返ると純一が呆れた顔で立っていた。どうやら梨穂子か美柑から自分のしたことを聞いていたようである。

 

「わ、分かってるよ…ちゃんと謝る…」

 

「後で祐に何か言われるかもね」

 

「一生の不覚だ…」

 

「リト、こっちきて」

 

「はい…」

 

美柑に呼ばれて肩を落としながら歩くリトの背中をここまで送り届けた刹那が苦笑いで見送る。そんな彼女にあやかと木乃香が近づいてきていた。

 

「刹那さん、どうやらリトさんがお世話になったようで」

 

「おおきにな、せっちゃん」

 

「いえ、お気になさらず」

 

リトのことはあまり知らなくとも彼が木乃香達の幼馴染であり、仲のいい間柄であることは知っている。ならば彼は絶対に守るべき対象の一人だ。刹那にとって木乃香の大切なものを守るのは何より優先するべきことである。

 

「この後はどうなさるんですか?」

 

「麻帆良ヶ丘公園に向かいます。ネギ先生と明日菜さんは一足先に向かわれましたから、私も急がなくては」

 

二人の予想通り刹那も例の場所に行くようだ。今回の敵はどれ程の脅威なのか判断に困る相手なのだが、自分の大切な人が戦うことに不安を覚えるのは変わらない。それでも木乃香は笑顔で刹那の手を握った。

 

「怪我してもウチが治せるけど、怪我せんのが一番やから。気を付けてな」

 

「お嬢様…はい、お任せください!」

 

木乃香からの言葉に刹那は一層気合を入れる。彼女から向けられる想いによって全身から力が湧き上がる感覚がした。おかげで今の刹那は気力が限界突破している。

 

「なんかあの二人、いい雰囲気?」

 

「こんな状況だから燃え上がってるとか」

 

「これがクリスマスイブってやつなのね…」

 

「…何が?」

 

周囲は手を握り合う刹那と木乃香を少し離れて観察していた。二人がその視線に気が付いていないのは良いのか悪いのか。その視線に気付きながらも言わぬが花だろうとあやかは黙っていることにした。

 

そんな周りから一歩引いた場所で士郎はここからどう麻帆良ヶ丘公園に向かおうかと考えていた。何も言わずに姿を消せば友人達に余計な心配を掛けるだろうし、かといって正直に話せば止められるのも目に見えている。

 

「衛宮士郎サン、で間違いないカナ?」

 

「え?あ、ああ…そうだけど」

 

突然声を掛けられて一瞬呆けてしまう。話しかけてきた相手である超とはまったく接点がないのでそれも当然であった。しかし何故か相手はこちらの名前を知っており、それが余計に士郎を困惑させる。

 

「私は一年A組の超鈴音ネ、どうぞお見知りおきを」

 

「よ、よろしく」

 

芝居掛かったお辞儀をする超になんとか会釈をする。どうにも彼女の考えが、そしてこれからが読めない。それと同時に超鈴音という名前にどこか聞き覚えがある気もしていた。

 

「まぁ自己紹介はこれくらいにしておいて。衛宮サン、麻帆良ヶ丘公園に行きたいのなら力を貸すヨ」

 

士郎は声こそ出さなかったが動揺を思い切り顔に出してしまった。それを見て超はにっこりと笑みを浮かべる。

 

「安心してほしい、私は祐サンの協力者。彼のサポートは私の役目ネ」

 

「祐の協力者だって?」

 

詳しく聞いたわけではなくとも祐に協力者がいること、そしてその人数が最近増えたことを士郎も本人から聞いていた。しかし素直に超を信じてよいものかは難しいところだ。目の前の彼女が嘘をつく理由は見当たらないが、信用できる要素も見つけられない。だがそんな考えも超は予想していたらしい。

 

「那波千鶴親衛隊Tシャツの制作者はこの私、と言ったら多少は信憑性が増すカナ?」

 

「なっ⁉︎」

 

今度は顔だけでなく声でも驚きを表してしまった。あのTシャツと出来事はごく限られた人物しか知らない。そこで士郎は祐の発言を思い出す。

 

『超さんがものの数分で作ってくれた物だぞ!着れることに感謝せえ!』

 

(あっ…)

 

聞き覚えがあったのは祐から名前が出ていたからだった。信用する要素としては弱いかもしれないが、祐の協力者であることは信じていいかもしれない。

 

「祐の協力者ってことに関しては一応信じる。それで、これからどうするつもりなんだ?」

 

「作戦ならあるネ。なに、私に任せてくれていいヨ」

 

(なんだか不安だ…)

 

「あれ?そういえばネギくんと明日菜は?」

 

超の笑顔は可愛らしいものなのだがどうにも不安が拭えない士郎。そんな時、裕奈がネギと明日菜が居ないことに疑問を浮かべる。

 

「確かに」

 

「ネギ先生と明日菜さんは逃げ遅れた方がいないか探索しています。私も向かいますので、一旦失礼しますね」

 

あまり長く話していると深掘りされる可能性がある為、刹那は端的に説明するとお辞儀をしてから離れていった。

 

「あら、行っちゃった」

 

「う〜ん…桜咲さんは平気そうだけど、ネギくんと明日菜大丈夫かな?」

 

「ビーム弾いてたし大丈夫じゃないかな」

 

少し不安そうなまき絵に桜子は明るく答えた。周囲は能天気な発言だと思いつつ、その時のことを思い出す。

 

「てかどうやってビーム弾いたんだろ?」

 

「…気合い?」

 

「んなアホな」

 

「明日菜も急にハリセン出してたよね。夢の世界でもないのに」

 

「しかもハリセンであの影しばいてたし」

 

クラスメイトが思い出すように起こったことを口にすると、あやか達は真冬だというのに汗をかき始める。このまま黙っているのは良くない方向に話が進みそうな気がしてならない。

 

(ま、まずいですわ…)

 

(どないしよか…)

 

(流石のみんなもいよいよ勘繰り始めちゃったわね)

 

(これはフォローした方がいいんでしょうか⁉︎)

 

(いいんだろうけどなんてフォローするよ…)

 

色々と秘密を知るメンバーは小声で話すも良い案はすぐに浮かんできてはくれない。そうしている内にも会話は進んでいく。

 

「やっぱさ…ネギ君て魔法使いとかなんじゃない?」

 

美砂が放った一言はそれ程大きな声ではなかった。しかしクラスメイトは一瞬のうちに静まり返る。A組以外の学生達はその様子を不思議そうに見ていた。

 

「ま、まさかぁ…だってまだお子ちゃまだよ?」

 

「でも夢の世界ではちゃんと戦ってたでしょ。今回だって真っ先に先頭に立ってたし」

 

「なんて言うか…前から慣れてる感じはあったかも」

 

「仮にネギ君が魔法使いなら、色々と腑に落ちるとこはあるよね」

 

「いやいや、超能力者って線もあるよ」

 

「どっちでも大して変わらなくない?」

 

いよいよまずい状況になってしまった。魔法使いという存在が世に認知されている以上、祐の持つ秘密が知れ渡るのに比べれば軽傷かもしれない。しかしネギが周囲に魔法使いであると発覚して得をすることはそうない。隠しておいた方が何かと都合がいいからこそ、魔法使いは自ら進んで正体を明かさないのだ。

 

(くっ!策も何もありませんが…)

 

こうなれば強引にでもとあやかが話を逸らせようとした時、遠くから爆発音のようなものが聞こえてきた。音の正体は美琴が発した電撃なのだが、当然そのことを知るものはここにいない。

 

「今の大きな音って」

 

「遠くから聞こえてきたけど…さっきの放送で言ってた麻帆良ヶ丘公園からじゃないかな?」

 

「それはつまり…すごいもてるが戦ってるってこと⁉︎」

 

「それは分かんないけど…」

 

現在は周囲が静まり返っている影響で聞こえてきた大きな音に人々の意識は集中している。ネギ達に関して一旦は難を逃れたかと思われた矢先、別の方向から新たな問題が発生した。

 

「ねぇ、何が起こってるかめっちゃ気にならない?」

 

「うん、気になる」

 

好奇心の塊と言って差し支えない彼女達にとって、この状況に興味を惹かれるのは致し方ないことであった。近くで不可思議な事件が起こっているのなら詳細を知りたいと思うのも、ある意味若者特有の感性と言える。それに加え今年に入ってから様々な超常現象を体験したことも少なからず関係しているのだろう。

 

「まさか見に行くとか言わないわよね?」

 

「そうしたいのは山々だけど、流石に危ないのは分かってるって」

 

美砂が現場に突撃でもするのではないかと内心焦っていた円の心配は杞憂に終わった。何が起こっているのか知りたい気持ちは分かるが、実際見に行こうものなら引っ叩いてでも止めようと思っていたところだ。

 

「朝倉、自称記者なんだから見てきてよ」

 

「おい!都合がいい時だけ私を使おうとするな!あと自称ってどういう意味だ!」

 

「自称というのは自分のことを特定の」

 

「その意味を聞いたわけじゃないわ!」

 

風香の無茶振りに怒る和美の言葉を誤って受け取った茶々丸が自称を解説する。そこから普段のようにああでもないこうでもないと1年A組は会話を繰り広げ始めた。

 

「こ、こんな状況なのにみんな元気だね…」

 

「うちのクラスって良くも悪くも神経の図太い連中が多いからね。それにこんな感じのことも初めてじゃないし」

 

由紀香は少し困惑しながら同じ陸上部で交友関係のある美空に話しかけると、彼女からはあっけらかんとした返答がきた。

 

「えっ、前にも何かあったの?」

 

「あったねぇ…色んな意味で夢みたいな出来事が…」

 

「そ、そうなんだ…」

 

遠い目をしている美空に対し、これは深く聞いていいものなのか判断に困る。ただ話の内容は気になるが触れない方が無難ではありそうだ。

 

「なんかいい方法ないの?安全に麻帆良ヶ丘公園を観察する方法とか」

 

「ないでしょ」

 

「あるヨ」

 

『あるの⁉︎』

 

先程まで士郎とこっそり話していた超が会話に入ってくる。状況が気になっていたクラスメイト達は超に詰め寄った。何をするつもりなのか人並み以上に気にかかるあやかはそこでふとあることに気付く。茶々丸と共にララ達がA組に合流するまで付き添っていたエヴァとチャチャゼロの姿が既に見えなくなっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

「逃げるなぁ!」

 

「戦えー!」

 

「悔しいなら追いついてみなさい」

 

「キーーーー‼︎」

 

祐は一向に戦う素振りすら見せずに走り回っていた。ただし挑発はやめない辺り囮役はしっかりとこなしている。そんな影を撃ち抜いていく美琴はなんとも言えない顔をしていた。

 

「こっちを無視してる奴に攻撃するのはなんか気が乗らないわ…」

 

そんな独り言を呟いた時、祐が進む方向の対面から新たな人物が走ってくるのが見えた。距離が離れているのでよく分からないがどうやら二人組のようだ。

 

「おっ、ようやく来たか!」

 

祐もその存在に気が付く。麻帆良ヶ丘公園に到着した二人、ネギと明日菜も祐を発見した。

 

「あっ!祐さん!」

 

「うわ、早速引きつれてる」

 

祐の背後を必死に追いかける影の群れに明日菜がげんなりとした表情を浮かべた。祐もネギ達も双方足を止めずに互いの距離を縮めていく。

 

「明日菜!後ろの奴らに一発よろしく!」

 

それだけ伝えると祐は立ち止まって振り返り影を引きつける。先頭の影が憎き相手を捕まえようと手を伸ばした。すると祐は軽く地面を蹴って人一人を優に超える跳躍を見せる。祐が消えたことで影達が向けていた視線の先に現れたのはハリセン(ハマノツルギ)を大きく振りかぶった明日菜の姿だった。

 

「おりゃーーー‼︎」

 

威勢のいい声と共に明日菜は力強くハマノツルギを横に振るう。そうしたことで生まれた暴風は殺到する影をまとめて吹き飛ばした。

 

「ぶわああああ‼︎」

 

空高く飛んだ影は受け身も取れずに地面に激突する。大量に消滅していく影を見ながら明日菜はハマノツルギを肩に担いだ。そんな彼女の隣に祐が着地すると、明日菜から不満気な視線が飛んでくる。

 

「説明少なすぎ」

 

「ちゃんと汲み取ってくれたから問題ない、流石俺の幼馴染だ」

 

「調子いいんだから」

 

口ではこう言っているが内心満更でもない。あの一言だけで祐の動きに合わせられたことが何故か誇らしかった。

 

「明日菜さん、なんだかさっきより気合が入ってるような」

 

「まぁまぁ兄貴、気合充分ならそれに越したことはないじゃないっすか」

 

「う、うん。そうだね」

 

ネギの呟きにカモが軽く反応する。あまり深く考えることでもないかと意識を切り替え、一足遅れて祐の隣に立った。

 

「待ってたよネギ、来てくれてありがとね」

 

「いえ!とんでもないです!先生として僕も頑張りますから!」

 

「おお、なんかやる気に満ちてるな」

 

(兄貴も人のこと言えねぇぞ…)

 

こちらも先程より目に見えて気合が入ってる。そうは思っても口には出さないカモはよくできた使い魔であった。

 

「あの人、ハリセンで吹っ飛ばしたの…?」

 

「はぁ…また別の方が来てしまいましたわね」

 

呆気に取られる美琴に黒子が合流する。新たな問題児が到着してしまったかと目を向けると、その中の一人には見覚えがあった。

 

「あの少年、確か…」

 

「何よ黒子、知り合い?」

 

直接会うのは初めてだが彼の顔は知っている。そしてその肩書きも一度聞けば早々忘れないものだ。

 

「直接お会いしたことはありませんが、わたくしの記憶違いでなければ麻帆良学園で教師をなさっている方だったかと。お名前は…ネギ・スプリングフィールドさんでしたか」

 

「教師?ああ、てことはあれが噂の子供先生なわけね」

 

実のところネギはこの麻帆良学園都市に身を置く者なら一度は耳にしているであろう存在だ。話を聞いていったいどんな人物だろうと思っていたが、見た目は本当にただの少年だった。

 

「…ん⁉︎」

 

「急に何よ?」

 

美琴と同じようにまじまじとネギを見つめていた黒子の様子が一変する。何事かと聞いてきた美琴に顔を向けてネギを、正しくはネギの肩にいるカモを指さした。

 

「あ、あれはいつぞやの淫獣ではありませんか!」

 

「え?あっ、あの時の真っ白い子」

 

美琴はその能力故に動物からあまり好かれない体質であった。そんな中で避けられることなく触れ合えたカモは彼女にとって印象深い。しかしどうにもカモを毛嫌いしている黒子は身を挺して守るように両手を広げて美琴の前に立った。

 

「いけませんわお姉様!今すぐこの場から避難を!」

 

「あんた何言ってんの」

 

「まだお分かりにならないのですか!あれはお姉様に害を及ぼす存在なのです!」

 

「だから何言ってんの…」

 

何やら騒がしくなった二人に祐達の視線が向けられていた。二人のことを知らないネギと明日菜は状況が掴めず首を傾げているが、唯一心当たりのあるカモは冷や汗を流している。祐はそれに気が付いていた。

 

「お前何やった」

 

「……いや違うんすよ」

 

 

 

 

 

 

遠くから聞こえる音が激しさを増す中、麻耶と小萌は周囲の探索を続けていた。お互い麻帆良ヶ丘公園が気になって仕方がないが、今はこちらが優先だ。

 

「う〜む、これは場所を変えていいかもしれませんね」

 

「そうですね、それじゃ一旦」

 

麻耶が話している途中で足音が聞こえる。驚きながら二人は音が聞こえた先を注視する。暗くてよく見えないが少しずつ暗闇から人影が近づいてきていた。心臓が素早く脈打つのを感じながら、二人は無意識に手を繋いで相手を待ち構える。そうしてはっきりと見えた相手は警戒すべき人物ではなかった。

 

「おや、これは先生方。こんばんは」

 

「えっと、どうも」

 

挨拶をしてきたのはザジと千雨だ。人の多い場所を避けて移動していた結果、二人は偶然この場所に辿り着いたのだ。麻耶と小萌は再び顔を見合わせてから、緊張によって止めていた息を大きく吐いた。

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