Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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忘れられない事 忘れられないからこそ

早朝。祐は電車に揺られ、ある場所を目指していた。今日は平日の火曜日なので学校があるのだが、日曜日に近右衛門に直接お願いをして特別に休みをもらっている。担任である麻耶には家庭の事情という説明をした。

 

目指す場所は静岡県伊豆市。祐にとってすべてを失い、すべてが始まった場所でもある。

 

電車に揺られ田京駅に着いた祐はそこで電車を降りて、目的の場所へと歩みを進める。歩いて30分ほどの場所に目的の場所があった。そこには何もない更地に石碑が置かれている。

 

八年前の事件の中心地となった場所だ。当時は高い山があったものの、別次元同士の激しい戦闘の結果、今ではそれは見る影もなくなってしまっていた。街自体はあれから復興したものの、かつての風景を完全に取り戻すことはできない。

 

その戦闘に巻き込まれ亡くなった人々の為、この場所に事件の翌年に慰霊碑が建てられた。

 

祐がその場に着くと、既に何人かの人が慰霊碑の前で手を合わせている。祐もそこに並んで同じように手を合わせ、深く瞼を閉じた。

 

「ねぇ、あなたこの町の人?」

 

合掌を済ませ、慰霊碑から少し離れた場所で手を合わせる人々を見つめていると、後ろから声をかけられる。振り向いてみると若い女性がこちらを見ていた。

 

歳は同じくらいだろうか、服装は私服だが高校生のように見えた。

 

「いえ、僕はここ出身じゃありません。ここには昔来たことがあって」

 

「やっぱり。ここには最近決まった人しか来ないから珍しいなって。特に若い人はあまり来ないし」

 

「そうだったんですね。でも貴女も若いように見えますけど」

 

「まぁ、私は毎月一回はここに来てるから。あなたはいくつ?」

 

「16歳ですね」

 

「私も16。同い年ね」

 

少女は笑って言った。祐にはその表情がどこか儚げでもあったように見えた。

 

「一ヶ月に一回ですか。凄いですね」

 

「なんせ地元だから。家も結構近いからね」

 

二人は慰霊碑に視線を移した。しばらくお互い慰霊碑を眺めていると少女が口を開いた。

 

「私、あの事件で家族を亡くしたの」

 

少女に視線を移すと、少女はどこか遠くを見つめていた。

 

「いつも通りに起きて、いつも通りに友達と遊びに出かけて、そして事件が起きた」

 

「私以外の家族はね、家にいたの。そして戦いに巻き込まれて全員…」

 

少女はそこで黙ってしまう。祐は何も言わず慰霊碑を見つめる。

 

「私はたまたま助かったの。でも、みんないなくなっちゃった」

 

少女は自嘲気味に笑う。それは祐にとって見覚えのある表情だった。

 

「こんなこと言うとさ、罰当たりかもしれないけどずっと思ってたの。なんで私だけ助かっちゃったんだろうって。こんなに辛いなら私も一緒に連れてってほしかったって」

 

「僕もです」

 

少女は祐を見る。少し驚いたような表情だった。

 

「僕は家族でここに旅行に来ていたんです。僕が行ってみたいって言って」

 

「そしてここを通った時に、突然空からって感じで」

 

祐も少女に視線を向ける。

 

「僕だけ奇跡的に助かりました。その後は、貴女と同じです。自分をとにかく責めました」

 

「俺が行きたいなんて言わなければ、なんで俺だけが助かったんだって」

 

「そっか…君もなんだ」

 

そこで祐は少し笑った。

 

「家族を亡くして、散々幼馴染や友達、周りの人たちに心配や迷惑をかけました。でも、みんな見捨てずにずっとそばにいてくれたんです。おかげで今もみんなと楽しくやれています」

 

少女は祐の顔を見て同じように少し笑った。

 

「素敵な人達がたくさんいてくれたんだね」

 

「ええ、僕の宝物です」

 

少しずつ慰霊碑から人々が去っていく。気が付けば周りには祐と少女の二人しか残っていなかった。

 

「ねぇ、君はさ…事件のことを忘れられた?」

 

「いいえ、忘れられませんでした。今でもふと思い出しますよ。あの時の光景は」

 

普段は隠している本心を祐は少女に語った。きっと、彼女も同じだから。

 

「忘れられるわけがない。今でも目に焼き付いてます。忘れるつもりもないですけどね」

 

「うん、やっぱり…そうだよね」

 

少女は後ろで組んでいた手をほどき、前で手を組みなおした。

 

「この間のニュースは見た?」

 

「…トゥテラリィの事ですか?」

 

「うん」

 

少女は少し緊張しているように見える。

 

「君は、あの人達の事、どう思う?」

 

祐は視線を落とし、悩んでいるような表情をした。少女はそんな祐を見つめている。

 

「僕は…あの人達の気持ち、わかるような気がします」

 

「僕も前は別次元全部を憎んでましたから。全部、消してやりたいって思ってました」

 

「今は、違うの?」

 

祐は落としていた視線を少女に戻した。

 

「ここで戦闘を起こした別次元は、その後の侵略戦争で両方とも消滅しました」

 

「あの次元が消えたときに僕の中の何かが終わったんです。うまく言葉にできませんけど」

 

「きっと僕の復讐はあの時終わったんです。だから…僕にはもう、恨みをぶつける相手がいない」

 

視線だけでなく身体も少女に向けて、祐は聞いた。

 

「貴女には、まだいるんですか?その相手が」

 

少女は祐から一度視線を外した。その表情は辛そうにしている。

 

「いるよ。だって、今のままじゃきっと…前と同じことが起きる。また…同じことが」

 

「全部が憎いですか?僕たちの次元以外のすべてが…憎いですか?」

 

「憎いんじゃ…ない。怖いんだ私は。また同じ事が起きるのが」

 

祐は少女と同じぐらい悲しい顔をしていた。

 

「だから、別次元と生きていくことが認められない」

 

「うん、認められない。信用なんてできない。安心なんてできない。だって私の家族は別次元(それ)に殺されたんだから」

 

見つめあっている二人の瞳には、お互いに悲しい表情が映っていた。

 

「ごめんね、こんな話いきなりして。迷惑だったよね」

 

「そんなことないです。同じ境遇の人の気持ちが聞けて、良かったって思ってます」

 

少女は必死で笑顔を取り繕った。祐もそれに倣うが、うまく出来ている自信は、まったくなかった。

 

「私、そろそろ行かなくちゃ。話に付き合ってくれてありがとうね」

 

「いえ、こちらこそ」

 

少女は背を向けて歩き出した。しかし立ち止まり、祐の方に振り返る。

 

「ねぇ、良かったら…君の名前教えて?」

 

「逢襍佗、逢襍佗祐です」

 

「アマタユウくん。私はね、葛城碧(かつらぎあおい)。またねユウくん。また、来てね」

 

「はい、必ずまた来ます。碧さん」

 

碧は笑って小さく手を振ると、離れていった。その背中を見つめ続ける祐。

 

「信用なんて、簡単にできるはずがない。それが知らない相手なら尚更だ」

 

「だから、怖くなって相手を攻撃する。自分の大事なものを守る為に」

 

「碧さん、あの戦争もそうやって始まったんですよ」

 

祐の声は碧に届くことはなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

薄暗い地下室。そこには数人の若者が集まっていた。皆一様に表情は暗い。そんな部屋に女性が入ってくる。その女性に部屋の椅子に座っていた男性が声をかける。

 

「どこ行ってたんだ?」

 

「いつもの場所」

 

「ああ、そうか」

 

「何か新しいことはあった?」

 

その一言で納得したようにうなずいた男性。女性は周りに声をかける。

 

「いや、だけどこっちの準備はできてるよ。何時でも行ける」

 

「結局、あいつらは考えを改める気はなかったってことかよ。まぁ、わかってたけどな」

 

別の女性がそう言うと、壁に寄りかかっていた男性が苛立ちながらそうこぼした。

 

「だから私達がやる必要がある。またあんなことになる前に。それが生きている私達の役目なんだ」

 

「そうだな」

 

「ええ」

 

先ほど部屋に入ってきた女性の発言に周りにいた者たちが同意する。

 

「行こう、この世界の為に」

 

決意した表情でその女性、葛城碧はそう言った。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

別次元ミッドチルダ。高度な技術力を持つこの次元の最大の特徴は、魔法文化が広く浸透していることである。そんな次元の首都クラナガンに一隻の艦船が停船していた。

 

その名は『クラウディア』。この次元世界における司法機関、『時空管理局』が誇る次元空間航行艦船である。

 

そんなクラウディアの廊下にて、話し合う人物がいた。一人はこの艦の艦長である若い男性。もう一人は彼の持つ通信機の液晶モニターに映る美しい女性。どこか顔立ちが似ている二人は二日後に行われる別次元との会合についての話をしていた。

 

「そう、それじゃあ護衛として付くのはあなた達に正式に決まったのね」

 

「はい」

 

「随分納得がいってないようね」

 

「…そう見えますか?」

 

「ええ、顔に書いてあるわ」

 

言われた男性は恥ずかしさを感じつつ、いくつになってもやはり敵わないなと思った。

 

「正直、今会合を強行することに疑問を感じています。おそらく大規模な組織ではないとは言え、あの集団(トゥテラリィ)は危険です」

 

「確かに、彼らの行動は向こう見ずな部分が感じられるからこそ、巨大組織とはまた違った危うさを感じるわ」

 

頬に手を当て困り顔で女性はそう言った。

 

「だからこそあなた達を指名したのでしょうけど」

 

「もちろん任務には全力を尽くしますが、そこまで時機を焦る必要があるとは思えません」

 

「こちらの次元の政府がテロリストに屈さないという姿勢を別次元にアピールした事で、管理局としてはこちらが及び腰では面子が立たないといったところかしらね」

 

それを聞いた男性は思わずため息とともに額に手を当てた。

 

「戦争が終結した今、そんな意地の張り合いを次元同士でしている場合ではないというのに…」

 

「それについては同感ね。何時だって現場の危機感と言うものは上に伝わらない。悩ましい問題だわ」

 

今度は二人して改めてため息をついた。

 

「でも、何も悪いことばかりじゃないわ」

 

「と言うと?」

 

「不謹慎かもしれないけれど、今回の事があったからこそ久しぶりに直接顔を出してくれるんでしょう?」

 

そう言われた男性は困ったように頭を掻いた。

 

「それはそうですが…」

 

「正直に言うと、あなたに会えるのをエイミィもカレルとリエラも楽しみにしてるわ。もちろん私とアルフもね」

 

「はい、僕も楽しみにしています」

 

そう言われた男性は少し微笑んだ。

 

「それではこの辺で。何かあればまた連絡します」

 

「ええ、気を付けてねクロノ」

 

「はい、母さん」

 

そう言って通信を切り、艦のブリッジに足を進める。

 

クロノと呼ばれた男性は会合を行う政府の要人の護衛の為、愛する家族が住んでいる、そして少年期の頃から何かと縁のある別次元に存在する惑星・地球の島国『日本』へと向かう。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

用事を終え、麻帆良学園へと戻る祐。電車の窓から流れる景色を眺めながら、今日のことを思い出していた。

 

(関係の無い人達を巻き込んだあの行動が正しい事のはずがない)

 

あの爆破事件は、どんな理由があったところで許されるものではない。あの事件で亡くなった人、怪我を負った人はこの次元を脅かしたわけでもなければ、あの戦争の発端となった侵略軍に協力したわけでもない。何の罪も無い人達だ。

 

トゥテラリィを名乗ったあの集団を肯定する気など微塵もない。だが、未だあの事件を忘れられず別次元に恐怖を持ち続ける人達は間違っているのだろうか。

 

家族を、友人を失った者が、別次元と共に生きていく。簡単な事ではない。今いる別次元の存在はあの時とは無関係だと頭では理解していても、納得などそう出来るものでは無いはずだ。

 

(俺は、俺が出来る事…俺がやるべき事は…)

 

『憎いんじゃ…ない。怖いんだ私は』

 

彼女のその言葉が祐の頭から離れなかった。

一番好きな章は?

  • 序章・始まりの光
  • 幽霊と妖怪と幼馴染と
  • たとえ世界が変わっても
  • 消された一日
  • 悪魔よふたたび
  • 眠りの街
  • 旧友からの言葉
  • 漢の喧嘩
  • 生まれた繋がり
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