『桜子!誕生日おめでとー‼︎』
「イェーイ!みんなありがとー‼︎」
6月9日の放課後。A組は桜子の誕生日会を開いていた。皆食べ物や飲み物を持ち寄り、机を一つにまとめてそこに置いている。
「いや〜、こんな楽しいなら誕生日会毎回開く?」
「次誰だっけ?」
「確か委員長じゃない?」
「おっ、いいね!委員長の誕生日会なら豪華な食事できそう!」
「てことで委員長よろしくね〜!」
「なぜ自分の誕生日に皆さんに振る舞わなければならないんですか!」
ここのところ立て続けに事件が起きて学校生活も窮屈なものとなっていた。もともとお祭りごとが好きなA組だったが、その溜まった鬱憤を晴らすかのような盛り上がりを見せている。今回は珍しくA組全員が集まっていた。
「エヴァちゃんも千雨ちゃんも来てくれてありがとー!」
「ええい!抱きつくな暑苦しい!」
(来なきゃよかった…)
普段こういったことにあまり参加しないエヴァと千雨に桜子が抱きつく。二人ともたまには顔を出してやるかと気まぐれに思ったことを若干後悔していた。鬱陶しそうにされても桜子はどこ吹く風である。
「なんかやけにテンション高いわね」
「そうかな、いつもと変わらなくない?」
「普段はもうちょっとだけ大人しいやろ。たぶん…」
その姿を見ていた明日菜、まき絵、亜子がそれぞれ口にする。気づけば桜子は次の目標として刹那と真名に絡みに行った様だ。二人とも抱きつかれて苦笑いをしている。
「まぁ、誕生日ぐらい浮かれてもバチは当たらないか」
そんなことを思いながら明日菜は机に置かれたお菓子を取りに向かった。
ーーーーーーーーーーーー
都内某社。これから日本とミッドチルダの間で行われる会合の開催地であるビルは機動隊の厳重な警備で覆われ、緊張感で包まれていた。
そんな中、今回も出動を命じられた源八は警備を行う上でミッドチルダ側の警備責任者に挨拶に向かっていた。
「たく、別次元の話になったらとりあえず俺を出すのは何なんだ」
「それだけ信用されていると言うことですよ。何せ一番こういったことに経験がおありでしょう?それに、所属している部署が部署ですからね」
「ええ、まぁ…おっしゃる通りで…」
源八の横を歩くのは今回の件で魔法使い側の警備員として派遣されたタカミチだった。タカミチ以外にも彼が所属している団体のメンバーが数人参加している。
やがて二人は責任者がいるであろう部屋の前に着く。源八が服装を直してからドアをノックすると、男性の声が返ってきた。源八とタカミチはアイコンタクトを取ると、失礼しますと声をかけてから扉を開ける。部屋の中には同じ制服を着用した人物が数名いた。その中の一人だけ服装の違う男性がこちらに歩いてくる。
「はじめまして。あなた方がこちらの次元の防衛責任者の方達ということでよろしいでしょうか?」
「ええ、そう思っていただいて問題ないかと。警察庁超常犯罪対策部、太田源八警部であります」
「時空管理局提督、クロノ・ハラオウンです」
源八が敬礼しながら自己紹介をすると、クロノも敬礼を返した。時空管理局が何なのかはかじった程度にしか知らないが、提督という役職を聞いて源八は内心冷や汗をかいた。
「超常犯罪対策部ですか。この次元にもそういった部署が出来たんですね」
「ここ10年は何かとそっち関係が騒がしかったですからねぇ。えーと、ハラオウン提督はこちらの次元にお詳しいので?」
不思議に思い源八が尋ねると、クロノは懐かしむように言った。
「ええ、14の頃から何かとこの次元、もっと言えば日本には縁がありまして」
「なるほど…14…失礼ですが今おいくつで?」
「今年で29になります」
「29!?」
第一印象から若いなとは思っていたが、まさかの二十台だったことに思わず驚愕の声を上げてしまった。間違いない、この青年はエリートだ。時空管理局の提督がどれほど偉いのかは未だわからないが、それだけは確かだと源八は思った。そもそも見るからにエリートらしい見た目をしている。
「ず、随分とお若いのに貫禄がありますな…」
源八の態度にクロノが苦笑いを見せた。そしてクロノの視線は横に立っていたタカミチに向けられる。それに気づいたタカミチは一歩前に出た。
「申し遅れました。私は今回こちらの次元の魔法使いの団体組織である悠久の風から派遣された、高畑・T・タカミチと申します」
頭を下げるタカミチ。魔法使いと聞いてクロノの表情が変わった。
「なるほど。只者ではないと思っていましたが、こちらの次元の魔法使いの方でしたか。私も魔導師として、そちらの魔法には興味があります」
「私もです。ミッドチルダ発祥の魔法、実に興味深い」
二人は握手を交わす。共に戦場に身を置いてきた者同士、何か通ずるものがあったのだろう。握手の後、互いに見つめ合っている。そんな二人を見て一瞬あっけにとられていた源八は頭を搔いた。
「あの、お二人とも。申し訳ないんですがそろそろよろしいですかな…」
「おっと、これは失礼致しました」
源八からの声掛けに、クロノとタカミチは握手を解いた。
「高畑さん、ボウズの事は?」
「そうでしたね」
二人の会話にクロノが首をかしげると、タカミチが改めてクロノに話しかける。
「これから打ち合わせを行う前に、もう一人ご紹介したい人物がいるのですが」
「ええ、構いませんが」
「ありがとございます。実は」
時刻は17時を回り、いよいよ会合が始まった。会合が行われるビルの前には機動隊以外にも大勢の一般人、マスコミが集まっている。関係者以外はビルから大分離れたところまでしか行けないが、皆一様にビルに視線を集めている。
そんな中そのビルをめがけて一台の大型トラックが猛スピードで突き進んでくる。周りの人々はそれに気づくと一目散にその場から離れ始めた。トラックは勢いを落とすことなく柵やバリケードを薙ぎ倒しながらビルへと向かっていく。
機動隊は動揺しながらも入り口に集まる。しかしトラックはそれすらも意に介さずビルの入口へと進む。誰もが悲惨な光景を想像したとき、トラックの前に魔法陣が現れ、それに接触したトラックは壁に激突したかのようにフロントをへこませ、そのまま横転した。
騒然となる現場。機動隊の何人かがトラックに近づく。するとトラックの荷台を突き破り、十数人の黒いライダースジャケットとマスクをつけた集団トゥテラリィが飛び出してきた。
慌てて機動隊が押さえつけようとするが、トゥテラリィはその力で機動隊を投げ飛ばし始めた。
「提督!例の連中が来ました!現在ビルの入口付近で機動隊と交戦中です!」
「わかった。入口付近の第一部隊はそのまま機動隊の援護!魔法は非殺傷設定で行うことを忘れるな!」
『了解!』
会議室で待機していたクロノ達は急いで部隊を現場に向かわせた。同じ部屋で待機していた源八も立ち上がる。
「結局こうなるのか…やっぱり」
「源八さん、僕は指定の位置に向かいます」
「ええ、頼みますよ高畑さん」
「お任せを」
源八は現場へ、タカミチは自分の持ち場へと向かった。クロノは会議室で状況の確認を行う。
「会合に参加していた人物は既に別動隊が保護しています。現在避難中とのこと」
「よし、敵の別動隊が他ルートからの侵入を狙っている可能性もある。内部の部隊も警戒を怠るな」
ビルの入口付近ではトゥテラリィとクロノの部隊が戦闘を開始していた。超人血清により身体を強化しているトゥテラリィだったが、戦闘経験がほぼない事、そして初めて相対する魔法に対処しきれず劣勢となっていた。
「くそっ!こんなに魔法使いがいたのかよ!」
「あきらめんな!ここまで来たら後には引けねぇ!」
何とか戦意を失わない様己を含めて鼓舞するが、その戦力差は歴然であった。
「ここで全員捉えて、クロノ提督をさっさと家族の所に行かせるぞ!」
『了解‼』
クロノの部下たちがさらに勢いを増す。そこに源八が到着し、ビームやら何やらが飛び交う戦場となった現場を目撃した。
「これが現実だってんだから、時代は変わったな…ってんなこと言ってる場合じゃね!」
源八は自分と同じようにどこか遠い目をしていた機動隊達に声をかける。
「おら!犯人逮捕は俺達の仕事だ!倒れてるやつから確保しろ!」
源八を先頭に機動隊が倒れているトゥテラリィ達を拘束し始めた。
「ゲンさん!この光の輪っかが付いてるやつはどうしたらいい!?」
「と、とりあえず手錠掛けとけ!」
「やばい…こんなに一瞬で押されるなんて…」
「あれが魔法…あんなのずるいじゃん!」
少し離れたビルの屋上から戦場を見ていたトゥテラリィの別動隊が嘆くように言った。
超人血清を手に入れどこか舞い上がっていた。戦う力を手に入れ、今なら自分たちは世界を変えられるかもしれないと。しかし改めてこの光景を見せつけられ、頭に冷水をかけられた気分だった。そんな中、先頭に立っていた碧が声を上げる。
「だからって今更やめられない…ここまで来たんだ!今動かないでどうするの!?」
「碧…」
「こっちは元から玉砕覚悟で来てるんだ。最後までやってやる!」
そう言って歩みを進める碧。他の者達も何とか震える足を押さえつけそれに続いた。
「みんな、準備はいい?いくよ!」
碧の号令を合図に一斉に走り出す。常人のスピードではないそれは屋上の端ま行くと、思いきり跳躍した。そのまま隣のビルへと飛び移り、それを繰り返す。やがて隣に会合が行われていたビルが来ると、その屋上に向かって勢いよく飛び出した。
全員が目的のビルの屋上に着くと下の階へと続くドアを蹴破り、下の階へと向かってく。やがて碧達は広い廊下に出る。気が付くと少し先に数人の男性が立っているのが見えた。それに気づき全員足を止める。
「やぁ、はじめまして。トゥテラリィの皆さん…で、いいのかな?」
にこやかな笑みを浮かべ、タバコを吸うタカミチが彼らの前に出た。
ーーーーーーーーーーーー
「よーし!桜子の誕生日を祝して文字通り一肌脱いでやる!」
「いよっ!ハルナ太っ腹!あれ本当に太っ腹になった?」
「なってないわ!」
妙なテンションになったハルナが服を脱ぎはじめ、そのお腹を見て桜子が脇腹のあたりを摘みそう言うと、ハルナがその手をはたいた。
「ちょっとパル⁉︎ネギもいるのよ!」
明日菜がハルナの投げ捨てた服を持って着せようとする。件のネギは顔を真っ赤にして手で顔を覆っていた。
「何言ってんのよ明日菜!せっかくの誕生日会なんだから服の一枚や二枚脱がないでどうすんの!」
「私の知ってる誕生日会は服脱いだりしないんだけど⁉︎」
「ネギ君赤くなってる〜!かわい〜!」
「も、もう!揶揄わないでください!」
美砂がネギの頬を指でつつきながら揶揄うと、ネギはさらに顔を赤くした。
「ハルナさん!ネギ先生の前でなんと破廉恥な!許せませんわ!」
「なんだいいんちょ!やるか〜!お前も脱げ!」
「きゃー‼︎何をなさるんですか⁉︎」
ネギの危機に現れたあやかだったが、逆にハルナの餌食となってしまう。それを見て周りがさらに盛り上がった。
「いいぞーパルー!せっかくだから明日菜も脱がせちゃえ!」
「なんでよ⁉︎ちょっ、ふーちゃん!やめっ」
音頭を取った風香を先頭に悪ノリしたクラスメイト達があやかと明日菜を脱がしにかかった。まさに世紀末も真っ青な無法地帯である。
「むしろネギ君も脱がせるべきでは⁉︎」
「間違いない!」
「ひっ!や、やめてくださーい!」
逃げようとしたが時すでに遅し。囲まれ、退路を塞がれ、ネギすらもその毒牙にかかってしまった。
「あれ、超さん?どこか行かれるんですか?」
離れた箇所でそれを見ていた聡美が、スッと席を立った超に声をかける。
「ん?なに、ちょっとお手洗いネ」
超はふと教室の端の方に目をやる。そこではザジがどこからか取り出した帽子から鳩を出し、見ていたクラスメイトから拍手を送られていた。
女子トイレの個室に入り、便座に腰掛けた超は持っていた端末を起動すると空中に映像が浮かび上がる。そこには現在戦闘が行われているビルの映像が映し出されていた。
「さて、そろそろかネ。お手並み拝見といこうカ?」
不敵な笑み浮かべ、超は映像を眺め始めた。
ーーーーーーーーーーーー
「はぁ…はぁ…そんな…」
あれから数分、戦闘を開始したトゥテラリィとタカミチ達。全力で突破を試みたトゥテラリィだったが、一人また一人と拘束され、既に制圧は時間の問題となっていた。
なぜだ、自分達は常人が到達するであろう極限の身体能力を手に入れたはずだ。なのにそれがこんなにもあっさり。特にあの眼鏡をかけた白髪の男、あれは化け物だ。自分達がわからないだけで魔法を使っているのかもしれないが、体術のみでこちらを圧倒している様に見えた。
ポケットに手を入れてそこから拳を放っている様だが、今の自分達は動体視力も常人のものではないはずなのにそれでも目で追うのがやっとだった。理不尽だ。こっちは苦労してようやく力を手に入れたのに。こいつらはそれをなんてことない様に軽く捻り潰してくる。
これでは何も変わっていない、ただ見ていることしかできなかったあの時と…
碧がそう思っていると気がつけば立っているのは自分一人となっていた。新たなタバコに火を付け、タカミチが近づいてくる。
「もうこの辺にしないかい?君達の外の仲間も、おそらく既に拘束されているだろう」
碧はマスク越しにタカミチを睨みつける。
「そんな力があって、なんで別次元の味方をするの」
「別次元のすべてが敵ではないからね。少なくともミッドチルダは敵じゃない」
「そんなのわからない!本当は何を考えているかなんて!」
「だから、攻撃するのかい?相手の事を知ろうとする前に」
「そんな事をしてる間に奪われるぐらいなら!私達は…!」
タカミチはタバコを手に取って、息を吐いた。
「君達の気持ちが全く理解できないとは言わない。だけど賛同はできない。君達のやり方では無駄に敵を作るだけだ」
「お説教なんて今更聞きたくない…そもそもあんたみたいなのには分からない…大切な人が理不尽に殺されるのを見ていることしかできなかった人の気持ちなんて」
再びタバコを咥えてタカミチが碧を見る。
「これでも、誰よりもわかってるつもりだけどね」
碧はその言葉の意味を一瞬考えようとするがすぐに頭を振ってその考えを飛ばす。
「悪いけど、私達は途中で止めるつもりなんてない。私は!死ぬまで戦うって決めたんだ!いつか!この世界を別次元の脅威がない世界にする為に!」
「残念だよ」
タカミチの言葉を皮切りに、碧がタカミチ目掛けて走る。それに動じる事なくタカミチは待ち構えた。
二人の距離が間もなく人一人分の隙間程度になろうとしたその時、何かがガラスを突き破った。そして突如碧は虹色の光に包まれる。まるでその光は嵐の様に巻き起こると、碧を連れ去り外へと向かった。
それを見つめるタカミチ。制圧を終えた悠久の風のメンバーがタカミチに近寄る。
「タカミチさん」
「みんなは太田さんやハラオウン提督と連絡をとって状況を確認してほしい。僕は屋上に行く」
「わかりました」
メンバー達は一斉に動き始めた。タカミチはゆっくりと屋上を目指して歩き出す。
「提督、先程突如外から虹色の高エネルギー体がビルに接近。犯人の一人を連れて飛び立ち、今は屋上にいるとの事です」
隊員から送られてきた情報をオペレーターがクロノに伝える。それを聞いたクロノは顎に手を当てた。
「虹色の…例の彼か」
虹色の光は屋上へと向かうと連れていた碧をそこに下ろす。突然のことに理解が追いつかず碧はただ唖然とその光を目で追っていると、空中で一回転した後屋上へと降りた。やがて光が徐々に消え始め男性のシルエットが浮かび上がる。その人物はしゃがんだ状態から立ち上がると、葵に視線を向けた。碧は驚きのあまり思わず目を見開く。
「ユウ君…」
「こんばんわ。碧さん」
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