Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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始まりの光

「一昨日ぶり、ですね」

 

「ユウ君、なんで…」

 

ビルの屋上で二人は相対する。碧は何とか今の状況を把握しようとするが、すぐには冷静になれそうになかった。

 

「貴女を止めに来ました」

 

その言葉を聞いて戸惑っていた碧の意識は一瞬で強い怒りに支配された。立ち上がり祐に怒りの視線を向ける。

 

「君まで邪魔するんだ、私達と同じ目に遭ったのに」

 

「同じ目に遭ったから止めに来たんです」

 

碧は言葉に詰まる。次に言うつもりだった言葉も忘れてしまったが、鋭い視線だけは反らさずにいた。

 

「別動隊も既に捕まってます。地上と屋上の騒ぎに紛れて侵入しようとした連中も、今さっき制圧されました」

 

それを聞いて驚いた顔をしたが、少しずつその表情を険しくしていく。

 

「君がやったの…?」

 

「僕一人ではありませんでしたけど、そうですね」

 

視線を落とす碧。拳を強く握ると祐に向かって走り出した。そのまま右の拳を左胸に向かって突き出す。鈍い音を鳴らし、拳が当たったことを知らせる。しかし祐の姿勢は変わらず、表情もまた変わらなかった。

 

「うそ…」

 

まったくダメージを感じさせない祐に恐怖を感じつつも、それを無理やり振り払う様に再び拳を繰り出す。感情のこもった拳を何度も受け、さすがに祐の身体ものけぞりを起こす。

 

「なんで邪魔するの!私達は自分の世界を守りたいだけなのに!」

 

殴り続けられていた祐が碧の手首を掴む。振りほどこうとするが、いくら碧が力を入れてもその手を振りほどくことは出来なかった。

 

「このやり方は、作らなくていい敵を作るだけです」

 

「じゃあ何か別の方法があるの!?否定ばかりして代案も出さないで!結局世の中はいつだって何もせずに流れに身を任せてるだけだったじゃない!」

 

「私達が間違ってるって言うなら!何が正しいのか言ってみてよ!!」

 

世界を変えるにはこれしかないと思った。たとえどれだけ長く厳しい戦いであろうとも、いずれこの世界を平和に出来るならそれでいい。

 

あの事件以降、別次元の存在は危険だとずっと言い続けてきた。だから戦争が終わった今からでもこの世界から追い出すべきだと。しかし殆どの人は自分達に賛同してくれない。彼ら自身は侵略を行った者達とは関係無い。彼らは何もしていない。それは差別だと言われた。

 

なぜ信用できるのかわからなかった。何も相手の事などわからないのに。一瞬で大勢の命が奪われたあの光景を見たのなら、それを引き起こした者と同じ存在に恐怖や怒りを抱いて当然なはずだ。奴らは何もしていないのでは無い。『今は』何もしていないだけだ。

 

そもそもこの次元に来る必要がない。自分の次元で生きていけばいい。もともとこの世界で生まれ暮らし、大切なものを奪われた自分達は、別次元の為にいつまた侵略が始まるのか怯えて暮らし続けろと言うのか。

 

別次元の存在をこの次元から追い出す。平和のためにはそれが一番の筈だ。そうでないと言うのなら、どうすればいいのか教えてほしい。そう聞いても解決策は出さず、何もしない連中は否定だけをしてくる。

 

もう周りに期待するのはやめた。自分達が動かなければ。だから犠牲を払ってでも行動を起こすと決めた。すべてはこの世界に潜む異分子に怯える事の無い世界の為に。なのに行動を起こせば自分達以上に力を持つ者に妨害され、あまつさえ自分と同じ境遇の祐にさえ否定された。碧はもう何が正しく、何が間違いなのか分からなくなっていた。

 

「碧さん達の思想が長い目で見た時、間違ってるかどうかはわからない」

 

祐が碧の手首を離すと、碧の腕が力なく落ちる。

 

「貴女の言う通りです。俺に代案なんてない。どうすれば本当に世界が平和になるのか、俺はわからない」

 

「貴女達を納得させられる解決策を、俺は持ってない」

 

碧が思わず祐の胸ぐらを掴む。

 

「じゃあなんで邪魔するの!?私達はこれが正しいと思って動いてる!代わりの答えがないんなら…せめて私達の邪魔はしないで‼」

 

祐は少しの間瞼を閉じると、やがてゆっくり開ける。

 

「理由は二つあります。一つは同じような目に遭った者として、これ以上自棄になっている貴女達を見てられなかった。誰が死んでも、自分が死んでも構わないからって考えで起こす行動は、破滅しか呼ばない。そう言う人を見たことがあります」

 

「もう一つは、貴女達をそのままにしておけば俺の大事なものに、今危害が及ぶからです」

 

碧が祐を見つめる。

 

「碧さん達のやり方は間違いなく新しい敵を作る。それは俺の大事なものを壊すんです」

 

「だから…私達の邪魔をするの…?」

 

「俺は、全部は守れない。今の俺じゃ自分の大切なものを守るために動くので精一杯です」

 

碧が祐を突き飛ばし、自身もよろめきながら後ろに下がった。その視線は先程よりも激しい怒りを感じる。

 

「結局自分さえよければ良いって事…今さえよければ良いって事…」

 

その問いかけに祐は答えなかった。それがさらに碧の怒りの火に油を注いだ。

 

「うわああああ‼‼」

 

感情が爆発した碧が祐に向かって走り出す。ただ目の前の男を殴ることしか考えていない。そんながむしゃらな勢いだった。

 

瞬時に祐は碧に右手をかざす。すると碧は虹色の光の球体に包まれた。急に動きを封じられた碧は周囲を見渡す。正面に目を向けると、こちらに向かって跳躍し、光を纏った右手を振りかぶっている祐がその瞳に映った。

 

 

 

 

屋上の破壊されたドアからタカミチが出てくる。あたりを見渡すとそこには倒れている少女と、それを見て立ち尽くしている祐がいた。

 

タカミチはゆっくりとした足取りで祐の隣に進んだ。そして倒れている少女に視線を向ける。気を失っているようだが、命に別状はなさそうだった。

 

「終わったようだね」

 

「はい」

 

倒れた碧から視線をそらさない祐。タカミチはそんな祐の肩に手を置く。

 

「彼女を運ぼう、祐君」

 

祐はタカミチに小さくうなずいた。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

時刻は19時。騒ぎに騒いだ誕生日会が終わりそれぞれが寮へと帰宅した。散々いじられたネギをはじめ、明日菜と木乃香も帰宅と同時に力尽き、そのままリビングで眠ってしまった。

 

そんな中、明日菜が目を覚ます。辺りを見渡し同じように寝ていた木乃香とネギに毛布を掛けてやると、ふと用事の為誕生日会に来れなかった祐の事を思い出した。何と無しに今彼がどうしているのか気になった明日菜はラインを送ることにした。

 

[よっ。今何してる?]と送り画面から視線を外そうとした瞬間、着信音が鳴り響いた。

 

「うわっ!」

 

突然のことにスマホを放り投げてしまうも、なんとか空中でキャッチして画面を見る。画面には逢襍佗祐と出ていた。そのまま通話に出る。

 

『あ、どうも逢襍佗ですけれども』

 

「知ってるわよ…てか反応早すぎない?着信鳴ってびっくりしちゃったわ」

 

『あ~すまん、たまたまスマホ見てたから』

 

「まぁ、いいけど。それで?今何してんの?」

 

明日菜の問いに祐がしばらく黙ってしまう。不審に思った明日菜は改めて声をかけようとするが、それよりも先に祐が口を開いた。

 

『えーと、なぁ明日菜。今からちょっと外出れるか?』

 

「今から?別にいいけど、どうしたの?」

 

『話したいことがあるんだけど、出来れば直接会って話したいんだ。言葉だけだとうまく伝える自信がなくてさ。実際見てもらった方がわかりやすいと思うから』

 

どう言うことなのかよくわからなかったが、祐がこんなことを言うのも珍しいので素直に従うことにした。

 

「…わかった。どこに行けばいい?」

 

『10分後ぐらいに女子寮の前に来てくれ。俺がそっちに行くから』

 

「10分?結構近くにいるのね」

 

『まぁね、たぶんそれくらいには着けると思うから』

 

「うん、それじゃまた」

 

『おう、頼むな』

 

通話を切った明日菜は身だしなみを整える為洗面台に向かった。

 

 

 

 

先程の通話から10分ほど後、動きやすい部屋着に着替えた明日菜は女子寮の入口を出て辺りを見渡す。今日は雲もなく、空を見ると月が良く見えた。

 

「明日菜」

 

月を見ていると声をかけられたのでそちらに視線を向ける。そこには茂みの中から顔だけを出した祐がこちらを見ていた。

 

「あんた何やってんの…」

 

「ほら、こんな時間に女子寮の前にいるのが見つかったら良くないだろ?」

 

「いやまぁ、そうだけど」

 

「少し付き合ってくれ。あっちに座れるところがあったはずだから」

 

そう言うと祐は目的地へと歩き始めた。なんだか少しいつもと雰囲気が違うと感じながら、明日菜は後に続いた。

 

 

 

 

少し歩くと小さな広場に着いた。そこの木で出来た椅子に腰を下ろす祐。明日菜もそれに倣って祐の隣に座った。

 

「わざわざこんなとこまで来て話って何よ?しょうもない事じゃないでしょうね」

 

「いや、なかなか重要な事だ。それこそ人生の転換期になりうるぐらい」

 

「随分大きく出たわね」

 

明日菜は祐を横目で見る。よく見ると祐はどこか緊張した面持ちだった。それに気づくとなんだか明日菜の方まで緊張してきた。一度祐は大きく深呼吸すると明日菜の方を向いた。明日菜もつられて祐の方を向く。

 

「明日菜」

 

「な、なに?」

 

「まず初めに謝っとく。今まですみませんでした」

 

突然頭を下げて謝罪する祐に明日菜は面食らった。

 

「いや、なによ急に…」

 

「実は…俺ずっと明日菜達に隠してたことがあるんだ」

 

「隠してたこと?何を?」

 

もう一度祐は深呼吸をすると手首を回して掌を上に向け、明日菜に見せた。その意図がわからず明日菜は祐の顔を見てから掌へと視線を移す。すると祐の掌の上に虹色に輝く光が現れた。

 

「へ?なに…これ…」

 

祐は手を振って光を消すと、椅子から立ち上がり両手を広げた。すると今度は目の前にオーロラのような物が現れる。明日菜は目を見開いた。そのオーロラは大きさこそ違えど、あの日爆発が起こっていた場所で見た物と同じだったからだ。

 

「まさか、これって…」

 

明日菜は思わず祐を見ると、祐は両手を下ろし明日菜に向き直る。オーロラはすでに消えていた。

 

「さっきの虹の光は俺が出したもんだ。俺の、特殊能力ってやつだな」

 

「じゃあ、この間のやつは」

 

「俺がやった。爆破犯と戦った後に、起爆された爆弾を抑え込む為に」

 

「戦ったって…」

 

あまりの情報量に明日菜の脳はパンク寸前だった。いろいろと聞きたいことは出てくるがうまく言葉にできない。今はただ唖然とした表情で祐を見る事しかできそうになかった。

 

「8歳の頃、あの事件に巻き込まれた時にこの力が使えるようになった。なんで使えるようになったのかはわからないし、これが何なのかもよくわかってない」

 

あの時の祐は無理をしているのと同時にどこか影があった。明日菜達はきっと家族を失ったことが余程ショックだったのだろうと思っていた。それも理由の一つだが、自分によくわからない力が芽生えたこともきっと関係していたのであろうと今明日菜はどこか納得していた。

 

「この力のせいなのか、単に俺の運が悪いのか。どっちかはわからないけど、それからずっと厄介事の連続だったよ。まぁ、自分で首突っ込んだのもあるけど」

 

祐は苦笑いを見せた。

 

「今日まで黙ってたのは、下手に心配かけたくなかったから。今までそれで上手くやれてたから、この事はずっと隠しておこうと思ってた」

 

「そう、なんだ…」

 

人には隠しておきたい事の一つや二つはある。秘密にされていた事は寂しくはあるが、事が事だけにそれを責める気にはならなかった。彼の先ほどの緊張した様子を見るにかなり勇気が必要だったのだろう。考えてみれば祐の緊張した姿など初めて見たかもしれない。しかしなぜそれを今になって伝える気になったのか疑問に思った。

 

「気軽に話せる事じゃないだろうから、秘密にしてたことに関しては、まぁ大目に見てあげる。きっとあんたも悩んでただろうからさ。でも、何で今それを教えてくれたの?」

 

祐は視線を下に向け、少し考える様な表情になる。やがて答えが纏まったのか視線を明日菜へ戻した。

 

「この前の爆破事件の事、その後にあった事。色々考えさせられてさ。それで今までの考えを改めるべきだって思ったんだ。もう、この力の事を明日菜達に隠すのはやめようって」

 

祐は改めて明日菜の隣に座って、目を見つめる。

 

「明日菜。多分だけど、これからこの世界で沢山の事件が起きる。そう思う理由は俺の勘でしか無いけど、結構よく当たるんだ俺の勘。特に悪い事は」

 

「今まで以上に俺は厄介事に首を突っ込むし、巻き込まれることになると思う。心配してくれる皆んなには申し訳ないけど、俺はそういう生き方しかできない。じゃないと…耐えられないんだ、俺が」

 

祐は申し訳なさからなのか、それとも別の理由からなのか辛そうな表情をした。明日菜はその顔を見て自然と祐の手に自分の手を重ねていた。

 

「危ない事もするし、怪我もすると思う。心配も沢山かける。でも、これだけは約束する」

 

「どんなことがあっても、俺は絶対死なない。だから…だから明日菜達には信じて欲しい。何があっても大丈夫、必ず帰ってくるって」

 

祐は懇願している様に見えた。そしてどこか、許しを請う様にも。 

 

明日菜は迷っていた。出来ることなら祐には危険なことなどして欲しくはない。でもきっと、何もしないと言う選択肢を取る事は出来ないだろう。彼が言っていた様に、そうすれば祐自身が自分を責めてしまう。何もしなかった自分を。

 

 

 

きっとあの時、家族を失ってしまったその瞬間にそれは深く刻みつけられたのだろう。一種の呪いと言ってもいいかもしれない。どれだけ自分は悪くない、関係ないと思おうとしても、どこかから聞こえてくる。力があるのに何で何もしないんだと。何かできたんじゃないのかと。

 

だから祐は力以外のものを持っていなくても、動かずにはいられない。動いても動かなくても辛いのなら、動けば何かをいい方向に変えられるかもしれないから。そう自分に言い聞かせている。

 

 

 

 

祐がそう思っている事までは知らないが、見て見ぬ振りが出来ない何かを抱えている事には気づいた。明日菜は表情を引き締めると結構な力を込めた両手で祐の顔を挟み込んだ。

 

「ぶぃっ!」

 

予想すらしていなかった攻撃を受け、それに対応できず祐は口の中の空気を噴き出した。明日菜は祐の顔を挟んだまま、自分の方に向け、そこで固定した。

 

「本当は危ない事なんてして欲しくない。怪我も、辛い事も。でも、動かなかったら祐は苦しいんだよね?」

 

「ふぁい…(はい)」

 

挟まれた状態のまま何とか返事をする。

 

「今すぐその考えを変えろって言っても無理だと思う。出来るならもうとっくにやってるだろうし…それは追々治していくとして、信じてあげるには条件があるから」

 

祐は何も言わず明日菜を見る。明日菜は一度目を閉じると大きく息を吸う。十分空気を溜めると、目を開けて言った。

 

「ダメな時に『大丈夫』って言わない事!辛い時は辛いって言って!言っておくけど私達、祐の言う大丈夫は誰一人信用してないから!」

 

「えぇ…」

 

祐は少なからずショックを受けたが、そうなっても仕方ないと思う事に心当たりがありすぎるので黙っておく事にした。

 

「全部一人で何とかしようと思わない事!何でも一人で背負い込まない。祐の周りには頼りになる人達が沢山いるでしょ?」

 

それに対して祐は迷いなく頷いた。

 

「後これが最後。さっき自分でも言ってたけど、必ず帰ってくる事!少なくともこの三つは守るなら、あんたの事信じてあげる」

 

祐は顔を挟んでいた明日菜の両手に自分の手を重ねると、その手を優しく握り下に下ろす。

 

「わかった、必ず守る。絶対に。死んでも守る」

 

「死ぬなって言ってんのよ…」

 

呆れた視線を向けるが、ふっと笑って祐と視線を合わせる。

 

「約束だからね。どれか一つでも破ったら私達であんたをボコボコにしてやるんだから」

 

「最高の幼馴染を持てて幸せだよ」

 

二人は笑い合った。この約束は祐にとって最も重く、何としても守るべき物になった。

 

「でも、まさかあんたにそんな秘密があったなんてね。何で今まで気づかなかったのかしら?」

 

「これでも気を遣ってたんだよ。バレない様にって」

 

「まったく、変なとこは器用なんだから。ネギも見習って欲しいわ」

 

「と言うと?」

 

「ほら、あいつ魔法使いって事隠そうとしてるくせに、テンパっちゃうと口が滑るから」

 

「え?」

 

「え?」

 

二人は口を開けたままお互いを見つめる。暫くそうしていると明日菜が冷や汗をかき始める。先に我に帰った祐が慌てて声をあげた。

 

「お前ネギが魔法使いだって知ってたのか⁉︎」

 

「しまった!私が口滑らせた!…って!あんたも知ってたの⁉︎」

 

二人とも椅子から勢いよく立ち上がり向かい合う。

 

「知ってた。最初から」

 

「じゃあ…あんたも魔法使い?」

 

「いや違う。俺は魔法使いじゃない」

 

「じゃあ何なの?」

 

「……さぁ?」

 

「何でわかんないのよ!」

 

「しょうがないだろ!さっきも言ったけど、この力が何なのかわかんないんだから!とりあえずこれは魔法じゃ無いんだってさ。形式上は超能力者ってことになってる」

 

「……」

 

「……」

 

「「はぁ…」」

 

二人は同時にため息をつくと、力なく再び椅子に座り直した。

 

「いつから知ってたんだ?ネギが魔法使いだって」

 

「あいつが来た初日…偶然魔法使ってるとこを見たの」

 

「早すぎんだろ…」

 

自分の想像よりも遥かに早い段階で魔法バレを起こしていて、祐は何とも言えない気持ちになった。別にバレたらどうと言う事はないが、魔法使いというのは基本的には正体をあまり明かそうとはしない体質だ。そちらの方が都合のいい事もあるのだろうと、祐はあまりその辺りを詳しく考えた事はなかった。

 

「木乃香は?ネギのこと知ってるの?」

 

「ううん、木乃香は知らないわ。多分知ってるのはクラスで私だけだと思う」

 

「あ〜、そうか。なるほどね」

 

「なによ?」

 

「いや、ただ納得しただけ」

 

今の会話から察するに、知っているのはネギが魔法使いと言うことぐらいで、こちらの世界に足を踏み入れたわけではない様だ。でなければエヴァの名前は少なからず出てくるはずである。エヴァ以外にもそこそこ魔法関係者がA組にはいるのだが、本人達が言っていないのなら自分が言うべきではないと思い、それらしく誤魔化した。

 

「この事、木乃香にも伝えるの?」

 

「伝えたいとは思ってる。けど先に学園長に話通さないとな」

 

「なんでよ、保護者だから?」

 

「そんなところ」

 

祐は一息つくと、椅子から立ち上がり大きく伸びをする。

 

「まだ色々聞きたいことあるかもしれないけど、今日はここら辺にしとこう。あんまり遅くなっても悪いし」

 

「そうね、びっくりすることばっかで私も少し疲れたわ」

 

明日菜も立ち上がり腰に手を当てる。

 

「わざわざ呼び出して悪かった。寮の入口まで送ってくよ。行こう」

 

歩き出そうとするが明日菜が動く気配がないので、不思議に思い顔を覗く。

 

「どうした?」

 

「あっと、え〜と…」

 

何か言い淀んでいるが、何が言いたいのか全く予想がつかないので、祐は黙って見ている事にした。

 

「はいっ!」

 

「ん?」

 

右手を差し出す明日菜。祐はその右手を見て固まっている。

 

「握手ですか?」

 

「そうじゃなくて…ほら、送ってくれるんでしょ!だから…はい!」

 

さらに右手を突き出す。手を繋げという事だとは思うが、明日菜からこんな事をしてくるのは初等部の時以来だった為祐は困惑した。

 

「どうした急に」

 

「き、気分よ気分!今はなんかそういう気分なの!」

 

「そ、そうか…」

 

よくわからないがそういう気分ならばそうなのだろう。それ以上考えるのはやめて差し出された右手を左手で握る。

 

「言っとくけど!勘違いしないでよね!私には高畑先生っていう心に決めた相手が」

 

「わかったわかった、もうそれ散々聞いたよ。何年言ってんだそれ」

 

「いいでしょ別に!恋っていうのはゆっくり育んでいく物なのよ!」

 

「片腹いてぇな」

 

「うっさい!」

 

月明かりだけが二人を照らす。

二人は寮を目指し歩いていく。

お互いの体温をその手に感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

消された歴史 隠された真実

 

その果てに生まれたもの 混ざりあった世界

 

そこに生きる少年 光を放つ

 

その光 イリスの光

 

進め戦士 痛みを背負って

 

光が導く心のままに




これにてArco Irisの序章、プロローグは終了となります。
プロローグが終わったので活動報告を書かせていただきました。
宜しければご覧ください。

一番好きな章は?

  • 序章・始まりの光
  • 幽霊と妖怪と幼馴染と
  • たとえ世界が変わっても
  • 消された一日
  • 悪魔よふたたび
  • 眠りの街
  • 旧友からの言葉
  • 漢の喧嘩
  • 生まれた繋がり
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