Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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やって来た友人と影

「う~ん…」

 

放課後、今日は早めに仕事を終えたネギは明日菜と共に帰宅していた。木乃香は近右衛門から話があると言われ、学園長室に向かっている。

 

「まだ下着泥棒の事考えてんの?」

 

ネギは今日一日ずっと悩んでいた。その理由は朝に聞いた下着泥棒の件だった。

 

「はい、確かに人間ではない者の仕業と言うのも十分考えられますから」

 

「…ねぇ、あんたって妖怪とか見たことあるの?」

 

「いえ、妖怪は実際に見たことはないです。でも確かに存在しているのは間違いありません」

 

ネギにそう言われ明日菜も考える。朝の夕映ではないが、確かに今の世界は何が起こっても不思議ではない。何せ別の世界が存在し、空想上の存在であった生き物が姿を現し、何より目の前の同居人兼教師の子供は魔法使いで幼馴染は超能力者?だったのだ。妖怪や幽霊がいたとして何らおかしな事ではない。

 

日本に初めてドラゴンが現れた映像を明日菜も見たことがあるが、当時はどこか他人事のようにそれを見ていた。しかし、最近身近に超常現象が起こりそれを目撃する場面が増えた為、いよいよもって自分の中でも現実味を帯びてきていた。

 

「はぁ…わかってるつもりではいたけど本当にそんなのがいるのよね、今の世界って」

 

「そう考えてしまうのもしょうがないと思います。月日が経ったとはいえ、世界の形はあまりにも変わりすぎましたから」

 

そう話している中、明日菜はそう言えば先ほども話題に出た幼馴染の彼の事についてネギにはまだ聞いていなかったと思い出し、聞いてみる事にした。

 

「話は少し変わるんだけどいい?祐の事なんだけどさ」

 

「祐さんですか?」

 

「あんた、あいつの事どれくらい知ってるの?」

 

「へっ?どれくらいって…」

 

言葉の意味を考えているようなネギだったが、ハッとした顔をするとぎこちない笑みを浮かべた。

 

「あ、明日菜さん達の幼馴染で、優しい人だってことぐらいしか知りませんよ?あはは…」

 

「嘘下手すぎんでしょ…」

 

明らかに様子のおかしいネギに呆れた視線を向ける。ネギは冷や汗をかき始めた。

 

「嘘じゃないですよ!他に何かって言われても…」

 

「あ~、ごめん。さっきの聞き方は意地悪だったかも。私ちょっと前に祐から聞いたのよ。色々と」

 

「えっ、でも祐さん明日菜さん達には秘密にしてるって…。あっ」

 

急いで自分の口を手で押さえるネギ。明日菜はやっぱり知っていたかと思いつつも、嘘のつけないネギに笑った。

 

「大丈夫よ、色々聞いたのは本当だから。ネギも知ってたのね」

 

「…はい。赴任してから少しした後に学園長から紹介してもらったんです」

 

「なるほどね」

 

ネギが魔法使いだと知ったあの日、学園長も魔法関係者であることを明日菜は学園長本人から聞いた。そして木乃香には彼女の親の判断で魔法関係者とは話していない事も。木乃香に秘密を打ち明ける事に関して祐が学園長の名前を出したことからも、学園長は以前から祐の力の事を知っていたのだろうと思っている。

 

「でも、どうして祐さんは明日菜さん達に話す事にしたんでしょうか?」

 

「最近色々考えさせられる事があったからって言ってた。そこはまだ詳しく聞いてないけど、あいつの事だから本当に色々あったんでしょうね」

 

どこか遠くを見て話す明日菜の横顔をネギは黙って見つめた。

 

「そう言えばあいつは妖怪とか見たことあるのかな?」

 

「そこまでは僕にも」

 

「ふ~ん、後で聞いてみるか」

 

その後電車に揺られ、駅から女子寮を目指す二人。会話の中で明日菜は気になっている事がもう一つあった。

 

「そう言えばあんたと祐ってどの程度の知り合いなの」

 

「そうですね…。祐さん、会うといつも今日はどうだったとか、何か困ったことはないかって聞いてくれるんです。何もなくても声かけてくれって言ってくれたり」

 

ネギはどこか照れくさそうに話した。それを聞いて明日菜は納得する。

 

「あいつ、あんな見た目のわりに年下とかちっちゃい子に甘いところあるからね」

 

「あんな見た目って…確かに初めて会ったときはクールそうな見た目の人だなって思いましたけど」

 

ネギものどかと同じく祐の第一印象は怖そうな人だった。話してみれば印象とは真逆の人だとすぐにわかったが。自己紹介の後の第一声で「第一印象から決めてました。僕の弟になってください」と言われたときは、呆気にとられすぎて反応できなかった。

 

「あと、父さんと知り合いみたいです。僕は祐さんとはここに来てから初めて会いましたけど」

 

「ネギのお父さんと?なんでまた」

 

「ただ偶然知り合っただけって言ってました。父さんはいつも世界中を飛び回ってますから」

 

「お父さんも魔法使いなのよね?そう言えば聞いてなかったけど、どんな人なの?」

 

「何というか、台風みたいな人ですかね…」

 

「よくわかんないんだけど…」

 

ネギは困ったように頭を掻いた。

 

「説明するのは難しいんですよ…」

 

「でも、強くてかっこよくて。僕の憧れの人です」

 

誇らしげに話すネギを見て明日菜は微笑んだ。

 

「そっか…。素敵な人なのね」

 

「はい。父さんも母さんも僕の自慢の両親です」

 

「自慢の両親か…。お母さんはどんな人?」

 

「とても優しい人です。怒ると途轍もなく怖いですけど…。父さんも母さんだけには頭が上がらないみたいで」

 

二人の顔がどんな顔か明日菜が想像していると、ネギがこちらを見つめていた。

 

「なに?」

 

「いえ。今ふと思ったんですけど、なんか母さんと明日菜さんて雰囲気似てるなって…」

 

呆けた表情になった明日菜だったが、すぐに笑顔を見せた。

 

「いつか会ってみたいわ。ネギのお父さんとお母さんに」

 

「是非!明日菜さん達の事を話したら、父さんも母さんもきっと会いたがると思います!」

 

「うん、楽しみにしとく」

 

二人は笑いあった。その後も会話を続けていると寮に着く。自分達の部屋に入ると手洗いうがいを行い、明日菜はシャワーでも浴びようかと思い、着替えを出す為タンスを開けると目を見開いた。

 

「うぇっ!なんで!?」

 

「どうかしたんですか?」

 

「パンツが無くなってる…」

 

「ええっ!?」

 

いつも下着が入っている棚の中身がきれいに無くなっている。当然動かした記憶はない。まさか、いよいよ下着泥棒が室内に侵入してきたのだろうか。

 

「あ、明日菜さん…」

 

「な、なに?」

 

「あれ…」

 

ネギが指さした方に視線を向けると、別の押し入れの閉じたふすまに下着と思われる布が挟まっていた。ネギと明日菜は顔を青くする。

 

「も、もしかしてまだそこに…」

 

明日菜が一歩後ろに足を引くと、ネギが杖を取り出し前に出た。

 

「ネギ!?」

 

「大丈夫です!僕は魔法使いで先生なんですから!先生として、生徒の下着を盗む泥棒を見過ごすわけにはいきません!」

 

少しづつ押し入れに近づいていくネギ。明日菜はネギの肩に手を置きながら共に進んだ。

 

「あ、開けますよ?」

 

「うん…!」

 

呼吸を整えて、勢いよくふすまを開ける。ネギが素早く杖を突きだすと、そこには下着に包まった真っ白なオコジョがいた。突然扉を開けたことでオコジョも驚いたのか、こちらを唖然と見つめている。

 

お互いしばらく固まっていると、オコジョが右の前足をスッと上げた。

 

「どうも」

 

「しゃべった~~!!」

 

「カモ君!?」

 

「へっ?カモ君?」

 

ネギに振り向く明日菜。オコジョは下着の山から出てくるとネギに飛びついた。

 

「ネギの兄貴~!会いたかったぜ~!」

 

「カモ君!」

 

カモと呼ばれたオコジョを優しく抱きしめるネギ。明日菜は状況が掴めていない。

 

「ちょっとネギ!何なのよこいつ!?」

 

「おっと俺っちとしたことが申し遅れたな」

 

そう言ってネギの掌の上に座り、明日菜の方を向く。

 

「初めましてお嬢さん。俺っちはアルベール・カモミール。ネギの兄貴の舎弟にして、由緒正しきオコジョ妖精さ」

 

 

 

 

 

「つまり何?こいつは妖精で、昔助けてくれたネギに恩を返すためにわざわざ海を渡ってここに来たって事?」

 

「その通りでさぁ。いやぁ、日本まで遠かったぜ…」

 

「よく一人で来れたねカモ君。母さん達に言えば手配してくれたかもしれないのに」

 

「いや、いいんだよ兄貴。これは言ってしまえば兄貴に恩を返したい俺っちのわがまま…。兄貴のご両親の手を煩わせるわけにはいかねぇってもんよ」

 

「カ、カモ君…そこまでして僕の事…」

 

ネギは目に涙を浮かべながらカモを見る。カモはどこから取り出したのかタバコに火を点け吸い始めた。

 

「何言ってんだよ兄貴。あの日、兄貴が助けてくれたからこそ今の俺っちがあるんだ。これぐらいお安い御用さ」

 

「カモ君!」

 

「兄貴!」

 

抱き合う二人。ちなみに出したタバコは明日菜に速攻鎮火されていた。呆れ顔でネギ達を見る明日菜。

 

「感動の再開をしてるとこ悪いけど、あんたさっさとまきちゃんのパンツ返しなさいよ」

 

「まきちゃんのパンツ?(あね)さんのパンツの事ですかい?」

 

「違うわよ。昨日盗んだんでしょ?別の部屋から干してあったパンツを」

 

「おいおい待ってくれ。確かに俺っちは少し前から麻帆良に来ちゃいたが、下着泥棒なんてしちゃいねぇぜ」

 

「さっきしてたでしょうが…」

 

「あれはたった一人での長旅で人肌が恋しくなっちまってつい…とにかく、その下着泥棒とやらは俺っちじゃありやせんぜ姐さん」

 

「誰が姐さんよ…」

 

「カモ君、本当にやってないの?」

 

「兄貴まで…。信じてくだせぇ。このカモミール、森の妖精の名に誓ってこの地ではまだ下着泥棒は致しておりません」

 

「それじゃあ、いったい誰が…」

 

「今こいつ『この地では』とか『まだ』とか言ってなかった?」

 

明日菜の疑いの目を受けるカモ。そんな時ドアが開かれる。

 

「ただいま~。遅くなってもうた~」

 

「木乃香、お帰り」

 

「お帰りなさい木乃香さん」

 

「うん、ただいま~。二人ともお腹空いとるやろ?すぐにごはん作る…」

 

途中で木乃香の視線にカモが入った。暫く見つめあう木乃香とカモ。

 

「あ~木乃香、こいつは」

 

「や~ん!かわえ~!」

 

カモを優しく抱き上げると頬ずりをする木乃香。当のカモはどこか嬉しそうにそれを受け入れている。

 

「なぁなぁ、この子どうしたん?もしかしてネギ君のペット?」

 

「えっ!…は、はい!実はそうなんです!日本の親戚に預けてたんですけどついてきちゃったみたいで…」

 

「そうなんか。そっか、この子寂しかったんやね」

 

優しくカモを撫でる木乃香。カモは夢心地であった。

 

「ちょっとネギ、あんなこと言って言いわけ?」

 

「で、でも木乃香さんはまだ魔法のこと知らないし…」

 

木乃香に聞こえないよう小声で話す二人。木乃香はカモに夢中で気づいていない。

 

「そうやね、大切な人と離れ離れになるんは寂しいもんな…」

 

「木乃香?」

 

「ううん、なんでもあらへんよ。そうやネギ君、ウチの寮はペット問題無しやから一緒に暮らしてあげたらええんやないかな」

 

「本当ですか!?」

 

「え~、木乃香本気?」

 

ネギとしてはカモと一緒に暮らせるのならそれに越したことはない。皆優しいとはいえ、昔からの知り合いがタカミチ以外にいないネギにとってありがたい申し出だった。

 

「ええやないの明日菜。この子もその為にせっかく来たんやから」

 

ほら、と明日菜に抱いたカモを見せる木乃香。先ほど会話をしたからか、明日菜としてはどうもこのオコジョは信用ならなかった。しかしネギと友人だったというのは本当だろうし、さすがに追い出すのも気が引けた。

 

「はぁ、わかったわよ。面倒はしっかり見なさいよね」

 

「はい!ありがとうございます明日菜さん!木乃香さん!良かったねカモ君!」

 

カモは木乃香の腕からネギの肩に飛び移った。嬉しそうにするネギを見て木乃香は優しく微笑む。しかし、明日菜はその顔はどこか寂しそうにも見えた気がした。すぐにぱっと表情を明るくすると木乃香は胸の前で手を合わせた。

 

「ほんならせっかくやし、寮の皆にも紹介してげよっか!」

 

「はい!そうですね!」

 

「善は急げや!みんな~!ネギ君のペットがきたで~!」

 

足早に外へ飛び出した木乃香とネギ。二人の背中を見送ながら、明日菜は腕を組んだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「はひゃ~。一番風呂は最高だにゃ~」

 

「うん、たまには早く入るのも悪くないね」

 

裕奈とアキラが大浴場でくつろいでいる。いつもより早めに来たことにより、今は二人しかいない。

 

「今は誰もいないし、せっかくだから競争でもする?」

 

「裕奈、お風呂で泳ぐのはマナー違反」

 

「お堅いなぁアキラは~」

 

言いながらスーッとアキラに近寄ると、胸をつつきだした。

 

「こっちは柔らかいけど」

 

「こら」

 

ぺしっと優しくはたくアキラ。裕奈は悪びれずに笑った。

 

「ひゃっ!」

 

突然裕奈が声を上げた事で、アキラがそちらを見る。

 

「裕奈?」

 

「おのれ~、やったなアキラ~」

 

「何の話?」

 

「惚けようたってそうはいかな、きゃっ!」

 

一人で何をやっているんだろうといった視線を向けると裕奈が少し顔を赤くして近づいてきた。

 

「ちょっと!しゃべってる途中に攻撃するのは反則でしょ!」

 

「私何もしてないけど…」

 

「そんな訳な、ひゃん!…わかったよ、そっちがその気ならやってやろうじゃん!」

 

「えっ?ゆ、裕奈!?」

 

「おりゃー!」

 

アキラへと飛びかかる裕奈。そのまま二人は大浴場でくんずほぐれつを始めた。

 

「な、何やってんだあいつら…」

 

たまたま同じように早めに来ていた千雨が脱衣所のドアを開くとその光景を目撃する。喧嘩をしているわけではなさそうだが、離れたところから見ていると何というか乳繰り合っているようにしか見えなかった。

 

「これ、見ちゃいけない感じのやつか…?いやでもここ公共の場だし…」

 

「あらあら、これはお邪魔しちゃいけないわね」

 

「うおっ!」

 

「えっ、なになに?何かあったの?」

 

気が付くといつの間にか千鶴が横から同じようにその光景を見ていた。その後ろで夏美が飛び跳ねながら中を見ようとしている。

 

「千雨さん、この事は私達の心の中だけに留めておきましょう」

 

「お、おう…」

 

どこか輝いた眼で千雨の両手を包み、千鶴は言う。千雨はとりあえず頷いておくことにした。

 

そんなすれ違いが発生している中、大浴場から僅かに顔を出し、じゃれ合う二人を見つめる影がいたことに気づく者は誰もいなかった。

一番好きな章は?

  • 序章・始まりの光
  • 幽霊と妖怪と幼馴染と
  • たとえ世界が変わっても
  • 消された一日
  • 悪魔よふたたび
  • 眠りの街
  • 旧友からの言葉
  • 漢の喧嘩
  • 生まれた繋がり
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