Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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見えてきたモノ

「あんた妖怪って見た事ある?」

 

『どうした明日菜、大丈夫か?』

 

ネギと木乃香がカモをみんなに見せに行った事で手持ち無沙汰になった明日菜は、気になっていた事を聞く為祐に電話をした。

 

挨拶もそこそこにそう聞いた明日菜を色んな意味で心配する祐。流石にいきなり過ぎたかと思い、今日あった下着泥棒の話をした。

 

『下着泥棒とは、許せんな…。言っておくが俺じゃないぞ』

 

「疑ってないけどそれ言うと逆に怪しくなるわよ」

 

『まぁ、冗談は置いておいて。妖怪か、見た事あるぞ』

 

「うそっ!あるの⁉︎」

 

まさかとは思ったが本当に見た事があるとは。明日菜は思わず大きな声を出してしまった。

 

『見たどころか話した事もあるし、色々と世話になった事もある』

 

「あんた一体何したのよ…」

 

『ほら、あれだよ。厄介ごとには事欠かなかったってやつ。そのうちの一つだよ』

 

確かにあの時そう言っていたのは覚えている。自分が知らないたくさんの経験を祐がしている事を実感して、明日菜は自分でも気づかないレベルではあるがどこか寂しさを感じた。

 

「本当にいるのね妖怪って。ちなみにどんな妖怪を見たの?河童とかいた?」

 

『いたよ、河童』

 

「どんな奴だった?やらしい顔してたとか」

 

『やけにピンポイントに聞いてくるな。何だよやらしい顔って…』

 

そこで明日菜は夕映が言っていたエロ河童の事を祐に伝えた。

 

『そんな奴いんのか…少なくとも俺が会った河童はやらしい顔の奴では無かったな』

 

「そうなんだ」

 

『まぁ、一口に妖怪と言っても色んな奴がいるからね。エロ河童ってのもいるかもしれん。ちなみに俺の会った河童は見た目人間と変わらなかったよ』

 

「えっ、そうなの?頭にお皿が乗ってる緑色のやつじゃなくて?」

 

「いや全然、見た目は本当ただの人間だった。あと手先が器用だったなぁ」

 

言いながらその河童の事を思ってなのか、祐はしみじみといった感じだった。

 

「なんかだいぶイメージと違うのね」

 

『俺たちが想像してるタイプの妖怪もいれば、そうじゃないタイプの妖怪もいるってことだと思う。専門家ってわけじゃないから詳しい事はわからないけど』

 

「なるほどね」

 

『とりあえず、その下着泥棒が何もんなのか俺も少し調べてみる。なんかわかったら連絡するから、そっちも頼むね』

 

「心配しすぎじゃない?」

 

『今の世の中心配しすぎがちょうどいいってね』

 

「委員長と同じ事言ってるわよ」

 

『そうなのか。なんか恥ずかしいですわ』

 

「やめてよ気色悪い」

 

『ひでぇ。まぁ、こんなとこかな。他に何か聞きたい事ある?』

 

「ううん、ありがとう。助かったわ」

 

『お安い御用で。じゃ、また』

 

「うん、おやすみ」

 

通話を終えるとちょうどネギと木乃香が帰ってきた。カモは散々触られたのか若干毛並みがボサっとしている。

 

「顔見せは終わった?」

 

「はい!皆さんも快く受け入れてくれたみたいで良かったです!」

 

「よかったな~カモ君」

 

人差し指でカモの頭を撫でる木乃香。もともと可愛い物好きな木乃香だが、随分とカモの事が気に入ったようだった。

 

「あっ、夕飯の事忘れとったわ。すぐ作るから待っててな」

 

「私も手伝おうか?」

 

「明日菜さんはやめておいた方が…」

 

「どういう意味かしらね…」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

女子寮から少し離れた場所に一人の少女がいた。黒いセーラー服に真っ白な長髪の儚げな少女。一つ変わったところがあるとすれば、彼女の足元が透けているという事だろう。

 

彼女の名は相坂さよ。この麻帆良の地で六十数年地縛霊をしているれっきとした幽霊である。そして一年A組出席番号1番の生徒でもあった。

 

何を隠そう今朝あの机を動かしたのは他でもない彼女だった。和美と夏美に自分の存在を伝える為、緊張しつつも力を使って自分の机を揺らしたのだ。

 

一度動かした後にクラス中の視線が向けられた事にさらに緊張してしまい、縮こまってしまったのでその後は何もできなかったが。

 

幽霊の中でも特に存在感が薄く、長いこと誰にも気付かれる事はなかった。しかしどういう訳か最近彼女の存在感が強くなり始め、それと比例して幽霊としての力も増し始めていた。

 

「やりました!遂に…遂に女子寮の前にまで来れるようになりました!」

 

地縛霊故学校からそう遠くには出ることができなかったが、最近になってその活動範囲が広まり、ようやく本日晴れてクラスメイト達が住む寮へと辿り着く事が出来た。

 

「今までずっと夜にはコンビニの前に居ましたが、これからは皆さんと同じように登下校ができます!」

 

長年の夢が叶い、うれし涙を流す。幽霊ながら怖がりな彼女も、今の気分なら同じような気配を感じ、怖くて近づく事の出来なかった旧校舎にも笑顔で乗り込めるかもと思った。

 

そんな笑顔のさよだったが、ふと朝の事を思い出す。

 

「そう言えば、下着泥棒が出たって言ってたよね。うぅ…会っちゃったらどうしよう…」

 

しなくてもいいような心配をしつつ、念願の女子寮に逸る気持ちを抑えられず進む。まず中に入る前に周りを見回してみようと思い、一周回ることにした。

 

「は~、結構大きいんですねぇ。ん?」

 

女子寮の大きさに感心していると少し先に気配を感じた。薄暗かった為人影らしき事以外は今の距離ではよくわからず、恐怖心もあったが今はそれに勝る好奇心に任せて進んで行く。

 

近づいたことで人影の全貌がわかった。緑色の水気を感じる濡れた肌。頭の上に皿を乗せており、口元には黄色いくちばし。何よりも目に映るのはそのお手本のようないやらしい顔つきだった。さよはそれを目の当たりにして確信した。

 

「エ、エロ河童ですーーーーー!!!!」

 

何と其処に居たのは朝夕映が言っていたエロ河童そのものだった。初めて見た妖怪に驚きの声を上げる。それに気付き急いで自分の口を手で押さえる。しかしどうやら妖怪にもさよの声は届いていないようだった。妖怪にさえ気づかれない事に悲しめばいいのか喜んだ方がいいのかわからないさよ。そんなことを考えていると物音がしてエロ河童に視線を向ける。

 

エロ河童は顔を上に向け何かを見ていた。釣られて同じ方向に視線を向けるとそこには誰が干した洗濯物があった。跳躍する為なのか姿勢を低くする。さよは犯行の現場を目撃してしまい大いに焦った。

 

(ど、どうしよう!あの人絶対パンツ盗む気です!でも私何もできないし…)

 

悩んでいるとエロ河童がより重心を低くし、今にも飛び出そうとしている。それを見てさよは無駄だとしても黙っていることはできず、勇気を振り絞って声を出した。

 

「だっ、駄目ですーーー‼」

 

「っ!?何奴!?」

 

エロ河童がこちらに振り向く。声が届いたことに肩をビクッと震わせる。しかしその後河童はあたりを見渡す。

 

「気配も人影も見当たらぬ…確かに声がこちらから聞こえたはずだが」

 

こちらを見ているものの、さよの事は視界に映っていないようだ。すると勢いよく別の方向を向く。

 

「何者かがこちらに向かってきている…仕方ない、ここは一旦引くとしよう」

 

常人には到底出せないスピードで林の中へと消えていくエロ河童。さよは緊張が切れその場に座り込んだ。その数秒後、二つの人影がどこからか飛んできた。

 

(ひえっ!誰か来た!……あれ、刹那さんに真名さん?)

 

「…逃げたな」

 

「ふむ、一足遅かったか」

 

刹那は長い日本刀を、真名の方は小型の拳銃を両手に持っているという何とも物騒な出で立ちだった。

 

(な、なんでこんなもの持ってるんでしょう…)

 

「だが確かに妖気を感じた。間違いない、犯人は妖怪の類だ」

 

「妖怪ね、噂のあいつじゃないだろうな」

 

「まだあの妖怪だとは…真名、これを」

 

刹那に呼ばれ近づく真名。さよもそちらに近づく。そこにあったのは先ほどのエロ河童の足跡だった。

 

「水気がある、まだ新しいな。先ほどここにいた者の足跡と見て間違いないだろう」

 

「この足跡の形は」

 

「やれやれ、これは本格的に河童の線が出てきたな。まだ追えるか?」

 

「いや、ここに来た時から近くに妖気を感じられない。意図的に抑える事が出来るのかもしれん。足跡から見るに林の中へ向かったはずだ。探索してみよう」

 

「了解」

 

そう言うと二人は林の中へと消えて行く。先ほどの河童に勝るとも劣らないスピードだった。

 

「行っちゃった…刹那さんも真名さんも、何者なんでしょうか…」

 

暫く二人が消えて行った方向を見つめる。次第に先ほどの事を思い出しはっとする。

 

「私が唯一の目撃者ってことですよね…でも、皆さんにどうやって伝えれば…」

 

困った顔をするさよだったが、両手を胸の前で力強く握る。

 

「諦めちゃ駄目。せっかく存在感も力も強くなってきたんだから、ここで頑張らないと。皆さんにこの事を伝えなきゃ!もしかしたら皆さんとお友達になれるかもしれないし!」

 

気合を入れ直し、決意を固める。この日さよは勇気の一歩を踏み出すことに決めた。

 

「と、取り敢えず今は女子寮にお邪魔しましょう…」

 

本来こちらに来た目的を達成するため、さよは寮へと向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

普段より少し遅めの夕食を済ませ、明日菜と木乃香は大浴場へと向かった。ネギとカモはリビングで寛いでいる。

 

「いや~兄貴、何ともここは良いとこじゃないっすか」

 

「うん、皆優しいし僕もここが好きだよ」

 

ネギは心からの笑顔を見せた。カモも釣られて笑う。

 

「ところで兄貴、話は変わるんですがね?どうやらあっちの方は全然進んでないみたいじゃないっすか」

 

「あっちの方?」

 

「パートナー探しっすよパートナー探し!兄貴は立派な魔法使い(マギステル・マギ)を目指してるんすから、パートナーが必要になるでしょ?」

 

「パ、パートナー!?そんな、早すぎじゃないかな…」

 

ネギは困惑気味に言ったが、カモは尻尾を何度も床にたたきつけ熱を見せる。

 

「何言ってんすか兄貴!確かに兄貴はまだ若い。しかし!だからこそ当たって砕けろで色んな事にチャレンジできるんすよ!」

 

「それはそうかもしれないけど…」

 

「なに、いきなり本契約しろとは言わねぇさ。まずは仮契約して試してみるってのはどうです?」

 

「仮契約って確か…お試し期間みたいなものだったよね?」

 

「その通り。本契約ともなれば原則一人かつ一生分のもの。そんな大事なものを今すぐ決められないのは俺っちも重々承知でさぁ。だからこそ、仮契約があるんすよ」

 

どこから取り出したのかカモはホワイトボードと指し棒を使ってネギに説明する。

 

「本契約に比べて力の制限こそ付きますが、何人とでも出来るっていう利点がある。取り敢えず仮契約して、その中でいずれ将来の従者を決めればいいってわけよ」

 

「な、なるほど…」

 

ネギはカモの講義にふんふんと頷く。バレない様悪い笑みを浮かべたカモはもう一押しだなと思った。

 

「兄貴達が属している側の魔法使いは、従者がいて初めて本領を発揮できると言っていい。お隣さん側の『魔術師』や『真の魔法使い』ってんなら話は別だがね」

 

「それに今はこんなご時世だ。戦う力を持っておくってのも十分必要だと俺っちは思うぜ?」

 

「戦う力…」

 

ネギはそれを聞いて深く考え込んだ。確かにいつ何が起こるかわからないこの世界で、自分の大切なものを守る為の力は必要だ。ネギが目指している物の事も考えれば尚更。

 

あの冬の日、自分はただ見ている事しか出来なかった。ナギが助けに駆けつけてくれなければすべて奪われていたかもしれない。愛する母も、血の繋がらない姉も、村の人々も。

 

「戦う力…大切な物を守る為の力…」

 

ネギが立派な魔法使いを目指したきっかけ。大切な物を守れる人間になる事。そうなる為には何にも増して力が要求される。ネギは今一度、力を持つ意味を考え始めた。

 

しかしそれは、僅か10歳の少年が考えるには余りにも重すぎる問題でもあった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

大浴場で明日菜と木乃香は今日の事について話していた。

 

「学園長からの話って何だったの?」

 

「ま~たお見合い関係の話やったわ。おじーちゃんほんま懲りひんのやから」

 

「そりゃご愁傷様…」

 

木乃香の祖父である学園長、近右衛門は良く木乃香にお見合いの話を持ってくる。木乃香本人としてはまったくその気はない様だが。

 

「次の休みの日に新しいお見合い用の写真撮らされる事になりそうなんよ。あと、なんや祐君の事も聞かれたわ」

 

「祐の事?」

 

「うん、最近祐君とはどうかって。なんやったんやろ?」

 

明日菜は恐らく祐の力を木乃香に明かす事に関係しているであろうとは思ったが、今は知らないふりをしておくことにした。

 

「さぁ?私にもわかんないわ」

 

「そらそうか。う~ん…あっ!もしかして次のお見合い相手祐君だったり!」

 

「はぁ!?」

 

まさかの発言に明日菜が湯船から立ち上がる。

 

「あちゃ~参ったわ~。もしそうならウチどないしよ〜」

 

言葉とは裏腹にどこか嬉しそうに言う木乃香。顔が少しにやけている。

 

「い、いや!さすがにそんなわけないでしょ!」

 

「そうけ?今までの倍くらい歳離れてる人より、よっぽど現実的だと思わへん?」

 

「そりゃ…そうかもしれないけど…」

 

「木乃香!今の話本当⁉︎」

 

いつの間にか近くにいたハルナが木乃香に聞いてくる。気づけば夕映とのどかも近くに来ていた。

 

「もしかしたらの話やで。決まったわけちゃうよ」

 

「どへーーー!!マジっすか!?」

 

「何よどへーって…」

 

「どうしたの?」

 

「何の話?」

 

ハルナの大声に、周りにいたクラスメイト達が反応し近くに寄ってくる。

 

「木乃香さんのお見合いの話です」

 

「木乃香さん、またお見合いするんですね」

 

「今度はどんな人?年上?」

 

「イケメン?」

 

「お金持ち?」

 

夕映とのどかがそう言うと次から次へと質問が飛んでくる。多感な時期の彼女達にとって恋愛関係の話題は特に興味の対象だった。

 

「それがなんと!今回のお相手は祐君かもしれないんだって!」

 

『え〜〜‼︎』

 

それを聞いた全員が驚愕の声を漏らす。明日菜は面倒な事になったと頭を抱えたくなった。

 

「木乃香と逢襍佗君がお見合い⁉︎」

 

「木乃香!どうするの⁉︎」

 

「受けちゃう⁉︎」

 

「断っちゃう⁉︎」

 

「ちょっと明日菜さん!それは本当なんですか⁉︎私聞いてませんわよ!」

 

「私だって知らないっての!」

 

まさかのお見合い相手に色めき立つA組。ここの所一番の盛り上がりと言っても良かった。

 

「ま、まだ可能性の話やって」

 

「でもさ、もし本当にそうなったら木乃香はどうするの?」

 

「え〜と…ど、どないしよっか」

 

美砂の質問に困ったように木乃香が答えると、周りが一層歓声を上げる。

 

「おーっと!これは脈アリか⁉︎」

 

「キース!キース!キース!」

 

「ぬーげ!ぬーげ!ぬーげ!」

 

「色々すっ飛ばし過ぎでしょ…」

 

異様な盛り上がりに明日菜は若干引いていた。

 

「逢襍佗君か〜。一緒にいると毎日楽しそうだよね」

 

「たまに何言ってるかわからない事あるけどね」

 

「いいんじゃない?退屈しなそうだしさ」

 

「でも浮気されちゃうかもよ?色んな人に愛を持って接してるって言ってなかったっけ?」

 

「浮気はダメ。ゼッタイ」

 

「それキャッチコピーかなんか?」

 

チア部の三人がそう言うと周りも祐の事を話し始める。

 

「祐は子供っぽいとこあるからねぇ。まぁ、それはそれで可愛いんだけどさ」

 

(確か前に祐さんもお姉ちゃんに対して同じこと言ってた様な…)

 

「おや、風香はすっかり大人の女性でござるな」

 

「この前公園でちっちゃい子と一緒に遊んであげてたし、いいお父さんになるかもね」

 

「あ〜、あったなぁ。でもかけっこの時全力で走っとらんかった?」

 

「走ってた走ってた。すんごく早かったよね」

 

「大笑いしながら走っとったからめっちゃ怖かったわあれ」

 

「何してんのあいつ…」

 

公園で見かけた祐の話をまき絵と亜子がすると、明日菜が呆れる。しかし悲しいかな明日菜はその光景を容易に想像出来てしまった。

 

それからも暫くお見合いの話題は続いた。

一番好きな章は?

  • 序章・始まりの光
  • 幽霊と妖怪と幼馴染と
  • たとえ世界が変わっても
  • 消された一日
  • 悪魔よふたたび
  • 眠りの街
  • 旧友からの言葉
  • 漢の喧嘩
  • 生まれた繋がり
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